「日本人を演じる」作品がグランプリに 日本のアートを世界へ飛翔させる『日産アートアワード2017』をレポート

2017.10.20
レポート
アート

「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」 会場外観 撮影:木奥惠三

画像を全て表示(7件)

BankART Studio NYKで開催中の『日産アートアワード2017』(会期:2017年9月16日(土)~11月5日(日))ではグランプリ受賞者も発表され、盛り上がりを見せている。国内では『ASIAN ART AWARD』が初開催されるなど、アートアワードというもの自体が注目されつつある。そんな中、絵画、写真、映像、インスタレーションなど多様な手法の力作が集まった本アワードの様子をレポートする。

歴史ある日本企業によるアーティスト支援

『日産アートアワード』は、日産自動車株式会社が日本人アーティストが国外のアートシーンでプレゼンスを高めていくための支援を目的とし、隔年で開催されている現代美術のアワードである。

今年は国内のアーティストの活動をよく知るキュレーターや研究者ら10名によって25名のアーティストがノミネートされた後、日本、韓国、フランス、アメリカからなる5名の国際審査委員会によってファイナリスト5名が選出された。最終選考では、ファイナリストによる新作展のために制作された作品を、実際に国際審査委員が見たうえで議論を重ね、藤井光がグランプリに選ばれた。

過去2回の開催でグランプリのみならずファイナリストに選ばれたアーティストたちはその後、アートフェスティバルや国際展への参加など国内外のアートシーンにおいて高い評価を受け、活躍している。国際的な活躍を見据えたアワードであることはもちろん、国内におけるアートの社会的な普及という点においても、長い歴史を持つ日本企業が取り組む本アワードは重要な活動だと言えるだろう。

多様な表現が選出

過去2回の開催ではインスタレーション作品が多い印象であったが、今年は初となる絵画作品の出展もあり、多様な手法を用いる5名のファイナリストが選出された。

沖縄を拠点に活動する写真家の石川竜一は、自身が暮らす沖縄の家から見える風景をポートレート的な写真で捉える。日常的な部屋の写真と並んで窓の外を飛ぶ軍用機が写されるなど、4面の壁を部屋に見立てるように構成される本作からは、日本が抱えるあらゆる社会状況が読み取れる。

石川竜一 「日産アートアワード2017」展示風景《home work》 2017 撮影:木奥惠三

生活の中にひっそりと存在する些細な物をモチーフに静物画を描く横山奈美の作品は、絵画の問題に留まることなく多様な価値観を提示する。本作で描かれているうっすらと光る文字や記号のネオン管は実際に制作されたものであり、それらがどこか物悲しさをふくむ画面を通すことで、さらに意味が重層化していく。その過程は、豊かな絵画の奥行きを見せてくれるようだ。横山は本展において鑑賞者の投票によるオーディエンス賞を受賞した。

横山奈美 「日産アートアワード2017」展示風景 撮影:木奥惠三

題府基之が撮影する食品、雑誌、日用品などが所狭しと並ぶ写真作品は、大胆な構図や色彩から圧倒的な視覚体験をもたらしてくれる。写真という手法を疑うよう撮影されたこれらの作品には、鑑賞者が共感できる日常的なリアリティとともに非日常的な世界観が同居している。

題府基之 「日産アートアワード2017」展示風景 撮影:木奥惠三

田村友一郎は、ひとつのテーマに対しサンプリングの手法を用いることで時代や空間を超えて様々な物語を創発する。出品作では、日産自動車のセダン「グロリア」を起点に新たな物語の連鎖を見せてくれる。本作において、実際の自動車だけでなくイメージや言葉によって破壊と再生を繰り返すグロリアは、一定のイメージに固着することなく詩的な存在として立ち現れる。

田村友一郎 「日産アートアワード2017」展示風景 《栄光と終焉、もしくはその終演》 2017 撮影:木奥惠三

映像作家・藤井光がグランプリに
「日本人を演じる」ことで歴史観を問い直す

そして注目のグランプリを受賞したのは映像メディアを用いて歴史や記憶を再解釈し、未来へ向けて新たな展望を示す藤井光だ。

藤井はこれまでも計画が凍結された東京平和祈念館をテーマに、実現することが無かった事象を可視化した《爆撃の記録》や、日本の帝国主義下での教育をワークショップを通して擬似的に体験させる《帝国の教育制度》など、社会的な事象に向き合い制作を続けてきた。

藤井光 《帝国の教育制度》 2016年

本作《日本人を演じる》は、1903年に開催された第5回内国勧業博覧会における「学術人類館」にまつわる資料や、ワークショップの記録映像によって構成されるインスタレーション。ワークショップでは日本人の男女が劇場空間で「日本人を演じる」ことで私たちを既定する歴史観を問い直すものとなった。

藤井は俯瞰したカットやクローズアップなどの撮影技術によって過度に感情移入することがない映像をつくり出し、複雑なテーマであっても鑑賞者に明瞭な見通しを与えてくれる。

藤井光 「日産アートアワード2017」展示風景 《日本人を演じる》 2017 撮影:木奥惠三

私たちは何によって日本人であると確信を持っているのか。または日本人として見られることにどのように自覚的であるのか。主体の在処が交差する本作は、さらに複雑化する社会を生きる現代の私たちのアイデンティティを再考するきっかけを与えてくれるだろう。

「アートアワード」を知る

グランプリを受賞した藤井光には賞金とトロフィーに加えて、ニューヨークにあるインターナショナル・スタジオ&キュラトリアルプログラム(ISCP)に3ヶ月間滞在する機会が提供される。このように『日産アートアワード』ではレジデンスプログラムによる長期的な支援を実現することで、アワードが短期的な催事となることなく企業やアーティストが継続的な関係を築くことが可能となっているのだ。出展作品はもちろん、アートアワードという重要な取り組みを知るうえでも是非足を運んでもらいたい展覧会である。

本展は現在横浜で開催されている国際展『ヨコハマトリエンナーレ2017』と同じく11月5日まで開催。今年のファイナリストたちの今後の活躍も期待される。

イベント情報
日産アートアワード2017

日 時:2017年9月16日(土)~11月5日(日)
時 間:10:00~19:00
休館日:第2・第4木曜日(10月26日)
会 場:BankART Studio NYK
    〒231-0002 横浜市中区海岸通3-9
料 金:無料
出展者:題府基之、藤井光、石川竜一、田村友一郎、横山奈美
http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/
  • イープラス
  • 美術館/博物館
  • 「日本人を演じる」作品がグランプリに 日本のアートを世界へ飛翔させる『日産アートアワード2017』をレポート