新国立劇場『フィデリオ』新制作発表 演出家カタリーナ・ワーグナーが来日!

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2017.10.16
左からダニエル・ウェーバー、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド、飯守泰次郎 (撮影:宮川舞子 提供:新国立劇場)

左からダニエル・ウェーバー、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド、飯守泰次郎 (撮影:宮川舞子 提供:新国立劇場)


新国立劇場でベートーヴェン作曲のオペラ『フィデリオ』の制作発表がおこなわれた。来年2018年5月20日(日)に初日を迎えるニュー・プロダクションだ。演出家のカタリーナ・ワーグナーが来日して登壇、他には新国立劇場オペラ芸術監督でこの公演を指揮する飯守泰次郎、フロレスタン役を歌うテノールのステファン・グールド、そしてドラマツルグのダニエル・ウェーバーが顔を揃えた。

カタリーナ・ワーグナーはオペラの巨匠リヒャルト・ワーグナーのひ孫にあたり、ワーグナー上演の聖地であるバイロイト音楽祭総監督を務めるかたわら、オペラ演出家として活躍している。

左からダニエル・ウェーバー、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド、飯守泰次郎 (撮影:宮川舞子 提供:新国立劇場)

左からダニエル・ウェーバー、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド、飯守泰次郎 (撮影:宮川舞子 提供:新国立劇場)

新国立劇場開場20周年を飾るに相応しい『フィデリオ』公演

まずは指揮の飯守泰次郎がマイクを握った。『フィデリオ』は飯守の、芸術監督としての任期の最後を飾る演目となる。18世紀のスペインを舞台にした、政治犯として投獄された夫フロレスタンを男装した妻レオノーレ(フィデリオと名を変えている)が助ける救出オペラだ。

飯守「2017/18年シーズンの三本目の新制作である『フィデリオ』は、新国立劇場の開場20周年特別公演です。『フィデリオ』はベートーヴェン唯一のオペラですが、私はこのオペラの名前を聞いただけで身が引き締まる思いがいたします。ベートーヴェンの理想主義と、もっとも深い哲学が表現され、人の心に感動をもたらす特別な作品です」「まさに開場20周年に相応しい作品と言えるでしょう」

飯守「今回の『フィデリオ』はカタリーナ・ワーグナーさんに演出をお願いします」「カタリーナさんはドイツ各地の歌劇場でワーグナーをはじめとする様々なオペラを演出しておられますが、最近では特に2015年バイロイト音楽祭の『トリスタンとイゾルデ』で高い評価を集めています。世界のオペラの次世代をリードしていく特別な立場にある演出家です」

飯守泰次郎 (c) Naoko Nagasawa

飯守泰次郎 (c) Naoko Nagasawa

ドイツ・オペラ界をリードする演出家カタリーナ・ワーグナー

カタリーナ・ワーグナーは、1997年に新国立劇場の開場記念公演『ローエングリン』を演出したヴォルフガング・ワーグナーの実娘であり、当時は父親のアシスタントとして来日していた。

K・ワーグナー「こんにちは。今、マエストロがご紹介くださった通り、私は新国立劇場とは大変深い関係にあります」「20年前の開場の際にアシスタントとして仕事をしましたので、再びこの劇場を訪れて深い感動を覚えています。新国立劇場では、皆さんが大変にプロフェッショナルな姿勢で仕事に取り組んでいると同時に、喜びをもって仕事をされている、という印象を持っています」「これから来年に向けて、芸術を求める熱心さを持つ皆様と一緒に仕事をするのが大変楽しみです」

カタリーナ・ワーグナー (c) Naoko Nagasawa

カタリーナ・ワーグナー (c) Naoko Nagasawa

『フィデリオ』の構想については、

K・ワーグナー「コンセプトについて全てをお話しする事は出来ません。来年の楽しみが無くなってしまいますから(笑)。唯一言えるのは、『フィデリオ』に新しい視点を提供したいと考えていることです」

K・ワーグナー「全体のコンセプトの中でも大きなテーマになるのが、何をどの程度、どのように認識するかということです。レオノーラの場合、彼女は女性ですが男性として登場し、男性として人々に認識されます。登場人物だけでなく、例えば〈自由〉がどのように捉えられているかも問題です」「自分の周りの環境をどう認識するかは私たち一人一人違います。人々がレオノーレを男性として見ている、認識している、ということをもう少し幅広く考えてもいいのではないか、と私は思うのです」

カタリーナ・ワーグナー (c) Naoko Nagasawa

カタリーナ・ワーグナー (c) Naoko Nagasawa

ドラマツルグ(演劇やオペラの台本に関わる検証、アレンジ、執筆等をおこなう仕事)のウェーバーからも説明があった。

ウェーバー「私たち演出チームから見て『フィデリオ』に登場する人物は一元的に書かれているものが多いのです。これを演出で、新しい視点をそこに加えながら、登場人物の人間関係、例えば父娘の関係、ドン・ピツァロとフロレスタンの関係について、もう一度見直していきたいです」

ダニエル・ウェーバー (c) Naoko Nagasawa

ダニエル・ウェーバー (c) Naoko Nagasawa

後半、記者の一人から質問があり、「『フィデリオ』の台本には弱い所がある。フロレスタンがドン・ピツァロから解放されたのも、愛の力というよりは最後に登場する大臣のお陰。ウィーン体制下の作品であり結局は権力や王権を肯定しているのではないか。そこのところをどう演出するのか?時代の読み替え等はありますか?」。

K・ワーグナー「政治的な権威があり、片方がもう片方を倒す。最終的にどちらが勝ったのか、最後には権力がどこにあるのかが見えにくい部分は確かにあると思います。ドン・ピツァロとフロレスタンの関係もはっきりしない。私たちもまさにそこに注目し、それを取りあげて私なりに解釈しました。来年、皆さんはご覧になって驚くかもしれません」「アーティストはあまり政治に足を踏み入れるべきではないと思っているので、衣裳も舞台装置も、どの時代とはっきりとは決めず普遍的な部分を持たせています」「世界の誰が見ても通じる視覚的な言語を選んで表現します」

カタリーナ・ワーグナー (c) Naoko Nagasawa

カタリーナ・ワーグナー (c) Naoko Nagasawa

グールドを始めとする最高峰のキャスト

フロレスタン役を歌うステファン・グールドは前日ワーグナー『神々の黄昏』でジークフリート役を熱唱した。その疲れも見せず笑顔でのスピーチ。

グールド「『フィデリオ』は『魔弾の射手』と同様、ワーグナー以前に世界に大きな影響を与えたドイツ・オペラであり、このオペラに出演するのは私にとって特別に名誉なことです」「私は2006年に新国立劇場でフロレスタン役を歌っており、その時は伝統的な舞台でしたが素晴らしいプロダクションでした」「新国立劇場ではこれが8つめの出演作品となります。今度のプロダクションは心理的に掘り下げたものになるであろう事が特に楽しみです。一つの役を時間をおいてまた歌うというのは、時とともに発展していく変化が自分にとって興味深いです」

グールド「私がフロレスタン役を歌うのもそろそろ最後だと思いますので、ここ新国立劇場で歌えるのが嬉しいです。演出のワーグナーさんとは長い間一緒に仕事をしてきた仲です。以心伝心の彼女とはダイナミックな舞台が作れると思います。他のキャストの方もとても良く、素晴らしい公演になるでしょう」

ステファン・グールド (c) Naoko Nagasawa

ステファン・グールド (c) Naoko Nagasawa

タイトルロールのレオノーレ(男装しているときの名はフィデリオ)はこの役を得意としているリカルダ・メルベート、悪役ドン・ピツァロはミヒャエル・クプファー=ラデツキー、ロッコは妻屋秀和、ドン・フェルナンドは黒田博が演ずる。舞台に華やぎを与える若い二人、マルツェリーネは石橋栄実、ジャキーノは鈴木准。名場面として知られる囚人たちの合唱では新国立劇場合唱団の活躍も期待される。管弦楽は東京交響楽団。注目の公演である。

左からダニエル・ウェーバー、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド、飯守泰次郎 (c) Naoko Nagasawa

左からダニエル・ウェーバー、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド、飯守泰次郎 (c) Naoko Nagasawa

取材・文=井内美香

公演情報
2017/2018シーズン
新国立劇場 開場20周年記念特別公演
オペラ『フィデリオ』/ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
全2幕〈ドイツ語上演/字幕付〉

 
■会場:新国立劇場オペラパレス 
■公演日程
2018年5月20日(日)14:00
2018年5月24日(木)14:00
2018年5月27日(日)14:00
2018年5月30日(水)19:00
2018年6月02日(土)14:00
■予定上演時間:約2時間45分(休憩含む)
*大幅に変更になる場合は、後日あらためてご案内いたします。正式な上演時間は開幕直前の表示をご確認ください。
*開場は開演の45分前です。開演後のご入場は制限させていただきます。

 
■指揮:飯守泰次郎
■演出:カタリーナ・ワーグナー
■ドラマツルグ:ダニエル・ウェーバー
■美術:マルク・レーラー
■衣裳:トーマス・カイザー
■照明:クリスティアン・ケメトミュラー

 
■キャスト
ドン・フェルナンド:黒田 博
ドン・ピツァロ:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
フロレスタン:ステファン・グールド
レオノーレ:リカルダ・メルベート
ロッコ:妻屋秀和
マルツェリーネ:石橋栄実
ジャキーノ:鈴木 准
囚人1:片寄純也
囚人2:大沼 徹
■合唱:新国立劇場合唱団
■管弦楽:東京交響楽団
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