上野の春はこれ! 『東京・春・音楽祭 ー東京のオペラの森 2018ー 』の概要が発表に~ 「ローエングリン」「スターバト・マーテル」など豪華絢爛プログラム

レポート
クラシック
2017.11.3
 (c) Naoko Nagasawa

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パンダの赤ちゃん香香(シャンシャン)も元気に成長し、熱い注目を集めている上野。桜咲く春の上野で毎年3月から4月にかけて開催されるクラシック音楽の祭典東京・春・音楽祭 ―東京のオペラの森 2018ー』の、来年の概要が発表された。

すでにオペラ・ファンの間で話題になっているワーグナー『ローエングリン』をはじめ、没後150年を迎え再評価が進んでいるロッシーニを『スターバト・マーテル』の上演など様々な側面から紹介する充実したラインナップで、文化の発信地、上野が音楽で盛り上がる春になりそうだ。

東京・春・音楽祭は来年で14回目を迎える国内最大級の音楽祭である。上野公園の各施設(東京文化会館、各美術館、博物館など)を使って、国内外の一流アーティストによるオペラ、オーケストラ、室内楽等の幅広い演奏会を行っている。音楽ホールだけではなく、上野駅、カフェ、レストラン、オフィスビルやお花見会場など、多彩な空間でコンサートが展開する。一ヶ月で約150のコンサートが予定されており、そのうち約100が無料コンサートである他、キッズ対象のコンサート、指揮者になってオーケストラの指揮ができる体験型イベント『指揮者はあなた!Conduct Us in 上野公園』など、音楽を楽しむための企画が目白押しだ。

東京文化会館内で行われた概要発表会で登壇したのは以下のメンバー。

鈴木幸一(東京・春・音楽祭実行委員会 実行委員長)
芦田尚子(東京・春・音楽祭実行委員会 事務局長)
二木忠男(上野観光連盟会長)
村上耿二(上野「文化の杜」新構想実行委員会 事務局長)
桑原浩(公益社団法人 日本オーケストラ連盟 常務理事・事務局長)

(c) Naoko Nagasawa

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実行委員長の鈴木幸一氏は、「長続きが一番重要だろうと続けて来たら14年目になってしまいました」と挨拶し、来年の中心となるいくつかの演目を紹介した。

「東京春祭ワーグナー・シリーズはずいぶん長く続いています。今回は2011年の震災の年に予定していてキャンセルになってしまった『ローエングリン』をやります。音楽祭で取りあげていないタイトルとして『さまよえるオランダ人』と『トリスタンとイゾルデ』がありますが、それぞれ2019年と20年ということで話をしています」

「他には東京春祭 合唱の芸術シリーズでは来年はロッシーニの『スターバト・マーテル』を予定しております。それからレオンスカヤ(ピアノ)さんに6回に亘ってシューベルトのピアノ・ソナタを演奏していただきます。少し変わっているのは、東京春祭ワーグナー・シリーズにたびたび出演して頂いているコニエチュニー(バス・バリトン)さんがポーランド出身で、その古都クラクフは文化的に深い地域であるとともにゲットーがあったことなど、非常に複雑で、不幸な歴史を持った街ですが、ウィーン・フィルをはじめ、たくさんのオーケストラに音楽家を輩出しています」「マーラーや、クラクフ出身で『広島の犠牲者に捧げる哀歌』などで有名なペンデレツキを取り上げ、クラクフ出身のオーケストラとコニエチュニーさんの歌で演奏会をやります」

「また、少し先の話になりますが、2019年から3年かけて指揮者のリッカルド・ムーティさんとイタリア・オペラ・アカデミーを開設しよう、という話がほぼまとまったということをご報告しておきます。アカデミーで教えるだけでなく、実際にヴェルディのオペラをやろうということで、2019年に『リゴレット』、20年に『マクベス』、21年に『仮面舞踏会』という演目でムーティさんの了解を得ました。詳細が決まるまではまだ時間がかかると思いますが、2019年は東京・春・音楽祭のちょうど15周年にあたるということで、色々な企画を考えております。20年はオリンピックの年ですから音楽祭もこの際、皆さんに一段と喜んで頂けるような形で、上野の様々な文化施設と幅広い交流を深めながら、上野全体を盛り上げていきたいと考えております」

鈴木幸一(東京・春・音楽祭実行委員会 実行委員長) (c) Naoko Nagasawa

鈴木幸一(東京・春・音楽祭実行委員会 実行委員長) (c) Naoko Nagasawa

音楽祭の開催内容、プログラムの紹介、見所については事務局長の芦田尚子氏からの説明があった。以下、内容をまとめてお伝えする。

東京春祭ワーグナー・シリーズの『ローエングリン』の指揮は第一回目の『パルジファル』を指揮したウルフ・シルマー。今年の音楽祭のシューベルト『ミサ曲』の指揮も手がけた。現在はライプツィヒ歌劇場の音楽監督 兼 総監督を務める。ローエングリン役はすでに発表している通りクラウス・フロリアン・フォークト。オーケストラはNHK交響楽団。合唱は東京オペラシンガーズ。キャストはメインは海外から招聘し、その他に日本でオーディションをして一緒にやっていくという形。

東京文化会館大ホールでは、最終日に合唱の芸術シリーズ vol.5も予定。今回はロッシーニの没後150年ということもあり『スターバト・マーテル』をメインに取りあげる。今年の春のガラ・コンサートを指揮したイタリア人若手女性指揮者、スペランツァ・スカップッチがタクトをとる。オーケストラは東京都交響楽団、合唱は東京オペラ・シンガーズ、ソリストは海外から歌手を招く。エヴァ・メイ(ソプラノ)、マリアンナ・ピッツォラート(メゾ・ソプラノ)、マルコ・チャポーニ(テノール)、イルダール・アブドラザコフ(バス)が出演する。

次にもう一つ大きな演奏会が、円熟のピアニスト、エリーザベト・レオンスカヤのシューベルト・チクルス。シューベルトのピアノ・ソナタを6日間に亘って演奏する。レオンスカヤは東京・春・音楽祭が2015年にリヒテル生誕100年を記念して行ったシリーズの中で32年ぶりに日本でソロ・リサイタルを開き、それが非常に評判が良かった。彼女が2016年にウィーンで行ったシューベルト・チクルスを今回東京でも実現する。

3月の終りから4月頭にはピアノのコンスタンチン・リフシッツがバッハのコンチェルト全曲の弾き振りを行う。管弦楽はトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア。ピアノでの演奏で、本人の弾き振りで全コンチェルトを二日間で演奏する。

毎年続けているベルリン・フィルのメンバーによる室内楽は、来年はソロ・チェロ奏者のオラフ・マニンガーと、ベルリン・フィルの元第1コンサートマスターで室内楽の大家であるガイ・ブラウンシュタインをヴァイオリンに、ヴィオラには第1ソロ・ヴィオラ奏者のアミハイ・グロスを迎えた弦楽トリオを今回はお届けする。

文化会館の小ホールでは、日本人のアーティストを含めた多勢の方に出演頂く。主なものとしては、現在、読売日本交響楽団のコンサートマスターを務めている長原幸太を中心にした室内楽を例年通りお届けするが、来年はコルンゴルトの弦楽六重奏曲を取りあげる予定にしている。

今年の音楽祭からスタートしたヴァイオリンの郷古廉とピアノの加藤洋之によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの全曲演奏を3年で行っており、来年は2年目となる。今年の演奏会が大変に評判が良かったので来年の演奏も楽しみ。

東京・春・音楽祭にはすでに何度か出演して頂いているウェールズ弦楽四重奏団、来年も演奏会が予定されており、チェロが2本必要なシューベルトの弦楽五重奏曲では宮田大がゲストで参加する予定になっている。

この他にも日本の演奏家の方々には、ミュージアム・コンサートなどを中心に多数ご出演頂く。国立科学博物館における金子美香(メゾ・ソプラノ)の日本歌曲とドイツ歌曲のコンサート、東京国立博物館で続けている「東博でバッハ」シリーズへのNYフィルのチェロ奏者、工藤すみれの出演、また人気のサクソフォン奏者、上野耕平が開くバッハの無伴奏コンサートなどの予定がある。

来年の音楽祭の特徴は、歌が入ったコンサートが多いことである。音楽祭のオープニングを飾るのが、鈴木からも説明のあったトマス・コニエチュニーと彼の出身地ポーランドから招聘するシンフォニエッタ・クラコヴィアによる二日間のコンサート。。彼らの強い希望もあり、二日目はクラクフ市出身の作曲家ペンデレツキの生誕85年を記念したコンサートとして彼の曲も演奏する。

音楽祭で続けている東京春祭 歌曲シリーズは来年はvol.22からvol.24までになる。『ローエングリン』に出演するテノールのクラウス・フロリアン・フォークトは二つの異なるプログラムで二晩コンサートを行う。一日目はいわゆるリーダーアーベントでドイツ歌曲を中心に。二日目はプログラムに少しバラエティーを持たせ、オペレッタやミュージカルなどの曲を含む内容。フォークトの奥様、ソプラノのシルヴィア・クルーガーと共演します。歌曲シリーズもう一人はやはり『ローエングリン』に出演のソプラノ歌手、ペトラ・ラング。ブラームス、マーラー、マルクス、Rシュトラウスなどの歌曲を予定。世界のワーグナー歌手ラングの日本初リサイタルとなる。

歌が入るコンサートとしては3月24日に東京文化会館小ホールで『2台のピアノによるワーグナー&R.シュトラウス』が開かれ、ここには同じく『ローエングリン』でエルザ役を務めるレジーネ・ハングラーがゲスト出演する。二台のピアノを弾くイェンドリック・シュプリンガートーマス・ラウスマンは、東京・春・音楽祭に欠かせないスタッフで、ワーグナーのオペラ公演をこれまでもずっとコレペティトゥアとして支えてくれている二人。ウィーン国立歌劇場、バイロイト音楽祭などのオペラの現場で仕事をしている方たち。オペラのことを非常に良く知っている二人に、彼らのピアノによるオペラの世界を、とオファーしてこの公演が実現した。

日本人の歌手で世界的にも活躍しているソプラノの中村恵理と、カウンターテナーの藤木大地のデュオ・コンサート『THE DUET』も予定している。中村恵理は英国ロイヤル・オペラからミュンヘンのバイエルン国立歌劇場のソリストとして専属契約するなど、世界的に活躍している。同じくカウンターテナーの藤木大地も今年の春、ウィーン国立歌劇場で日本人初のカウンターテナーとしてデビューした。その二人によるデュオ・コンサートを企画し、ピアノは指揮者の園田隆一郎が務める。

今回初めて使う会場として、東京キネマ倶楽部という場所でコンサートを行う。鴬谷にある昔のグランド・キャバレーを貸し館にしているところで、キャバレー・ソングの世界をシャンソン等も含めてこの会場で再現してみようという企画『Cabalet(キャバレー)を巡る物語』​。ソプラノの中嶋彰子が中心になって国内外の、ダンサーも含めた色々な方に関わって頂く。夜の9時半の開演なので、音楽祭の他の公演を聴いた方もその後で行って頂けるような、いままでにない番外編のような形で考えており、チラシに載っているコンサートは終電までに終わらせる、その後、夜中には彼らが第二部ということで違う出し物を考えて、一晩楽しめるような会を考えたいということで、今、色々相談している。

以上が歌手が出演する演奏会だが、その他にも音楽祭が続けている様々なシリーズがある。

*レジデント・オーケストラである東京春祭チェンバー・オーケストラによるモーツァルトとロッシーニ。堀正文ら名手たちと若き精鋭による編成。

*二回目になる『ベンジャミン・ブリテンの世界』シリーズ。ピアニストの加藤昌則を中心に企画している。次回は室内楽と歌が中心。5カ年計画で、次は声楽・合唱もの、オーケストラもの、そしてオペラまでいけたら、と考えている。

*東京春祭マラソン・コンサート vol.8はロッシーニがテーマの『ロッシーニとその時代』。一日に開かれる5つのコンサートで、ロッシーニを様々な面から取りあげる。ウィーン楽友協会の資料館から楽譜を探すなど、色々と協力を得ている企画。

*ミュージアムでのコンサートは音楽祭としても大事にしている。〈ナイトミュージアム〉コンサートはここ3年間国立科学博物館で開催しており、来年も前夜祭として3月15日に行う予定。

*毎年恒例の子どものための企画「東京春祭 for Kids」も予定している。音楽物語『ぞうのババール』は語りに俳優の別所哲也、ピアノは三浦友理枝。オペラ、オーケストラ公演の公開リハーサル、国立科学博物館での音楽ワークショップなどは引き続き行う。詳しくは1月に発表。

*約100公演ほど行っている無料コンサートは、台東区の小学校を訪ねるコンサートや、駅でのコンサート、そして上野公園で毎年行っている指揮者の体験ができるコンサート「指揮者はあなた!Conduct Us」などのイベントも続行する。また、2017年に引き続き東京藝術大学での演奏会も行う。

芦田尚子(東京・春・音楽祭実行委員会 事務局長) (c) Naoko Nagasawa

芦田尚子(東京・春・音楽祭実行委員会 事務局長) (c) Naoko Nagasawa

上野観光連盟の二木忠男氏は上野の街と東京・春・音楽祭との関わりについて述べた。

二木「世界の文化が集積する上野と14年目を迎えた東京・春・音楽祭との融合を目指しています」「2020年に向けて、上野の街は日本の様々な文化発信の中心地になると思っています」「マスコミを連日賑わしているパンダの赤ちゃん、香香(シャンシャン)。中国語の辞書で調べますと「人気者」という意味がございまして、東京・春・音楽祭も上野という地域で開催されているということで、この地域の人気に拍車をかけてもらえればと思っております」

二木忠男(上野観光連盟会長) (c) Naoko Nagasawa

二木忠男(上野観光連盟会長) (c) Naoko Nagasawa

上野「文化の杜」新構想実行委員会の村上耿二氏からはこの委員会の説明があった。

村上「上野『文化の杜』はまだ出来て二年目の実行委員会です。2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、世界からお客様を呼ぼう、文化と観光が一体となって、上野を世界に広げよう、という構想が前文化庁長官青柳正規さん、それから現文化庁長官の宮田亮平さんが発起人となって生まれ、我々はその実行部隊です」「東京・春・音楽祭と共同で今年の三月には東京国立博物館、東京都美術館、東京文化会館で夜のコンサートを開催しました」「来年は一月に演奏会を予定しており、この三つの会場にさらに国立科学博物館、国立西洋美術館にも加わって頂こうということになっています。こうした各館の連携を通して、上野をこれまで以上に世界から注目される文化芸術の発信地にする活動をしてまいります」

村上耿二(上野「文化の杜」新構想実行委員会 事務局長) (c) Naoko Nagasawa

村上耿二(上野「文化の杜」新構想実行委員会 事務局長) (c) Naoko Nagasawa

最後には、日本オーケストラ連盟の桑原浩氏より3月31日に東京文化会館で行われる『オーケストラの日』についての話があった。

桑原「私どものオーケストラ連盟は、日本のプロフェッショナルなオーケストラが加盟している公益社団法人で、今年の春に入った東京藝術大学の藝大フィルハーモニア管弦楽団と岡山フィルハーモニック管弦楽団を加えて36団体が加盟しています」「『オーケストラの日』というのは全国のオーケストラが毎年3月31日(ミミイチバン!)に、全国で様々な活動をしてオーケストラに親しんでもらおうというもので、首都圏では2007年から首都圏合同オーケストラの演奏会を開催しています」「今回はこの『オーケストラの日』を音楽祭の全体の中で演奏させて頂く、ということになりました。東京文化会館で演奏出来る、ということでもワクワクしています。大ホールではオーケストラのコンサートがあり、ゲネプロも皆さんに公開する他、ロビーでは各オーケストラの出店がオーケストラについて宣伝し、色々な部屋でのリサイタル、0歳児のお子さんが入ってもらえるコンサートも計画しています」「来年の3月31日は土曜日で、大変な人ごみが予想されるそうです。ワクワクを通り越してドキドキしていますが(笑)、そんな中で出来るだけ良いコンサートをして、そこで親御さんと一緒にクラシックを聴いた人の中から将来、ワーグナーの長いオペラを楽しんで聴いて頂けるような人が一人でも出てくれるようにと願っております」

桑原浩(公益社団法人 日本オーケストラ連盟 常務理事・事務局長) (c) Naoko Nagasawa

桑原浩(公益社団法人 日本オーケストラ連盟 常務理事・事務局長) (c) Naoko Nagasawa

東京・春・音楽祭の理想の形は鈴木氏によれば「東京という街に素晴らしい音楽祭があるんだよ、ということを出来るだけ多くの方に感じて頂けるようなイベントにしたい」ということである。2018年もますます意欲的な、音楽祭の姿勢が浮き彫りになった会見であった。

取材・文=井内美香  撮影=Naoko Nagasawa

公演情報
東京・春・音楽祭 -東京のオペラの森2018-
■期間:2018年3月16日(金)~4月15日(日)
■会場:東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、上野学園 石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館、東京キネマ倶楽部、他
■主催 東京・春・音楽祭実行委員会
■助成 公益社団法人企業メセナ協議会 2021 芸術・文化による社会創造ファンド
■公式サイト:http://www.tokyo-harusai.com/
 
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