電子音楽とデジタルアートの祭典『MUTEK.JP 2017』 音楽を観て、アートを聴き、自分をアップデートさせる午後

レポート
アート
2017.11.20
 ©MUTEK.JP / Ryu Kasai

©MUTEK.JP / Ryu Kasai

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東京の片隅で、お金をかけなくても想像力とユーモアで楽しく生活していくことを目指す、森田シナモンによる連載企画『東京の片隅で、普通に、楽しく生きていく』。毎回、さまざまな「午後」を探しながら、東京カルチャーの現在を切り取っていきます。第11回は、11月3日、4日、5日に日本科学未来館で開催された、『MUTEK.JP 2017』の最終日をレポートいたします。『MUTEK』は、世界最前線のデジタル・アートと、エレクトロニック・ミュージックによる国際的なフェスティバル。最終日の5日に滑り込み、アートと音楽の新しい楽しみ方を体験して参りました。

会場1階のラウンジスペース ©MUTEK.JP / Ryu Kasai

会場1階のラウンジスペース ©MUTEK.JP / Ryu Kasai

“とにかく新しい体験を求めてきた”人々が集う

『MUTEK』は、2000年よりカナダ・モントリオールでスタート。デジタル・クリエイティビティや電子音楽、オーディオ・ビジュアルアートの創造性の開発、文化芸術活動の普及を目的とし、文化芸術に関わる才能豊かな人材の発掘・育成をサポートしています。現在、モントリオールのほかに、メキシコシティー、バルセロナ、ブエノスアイレス、ドバイで開催されており、昨年、日本でも初開催され、延べ3,000名を越える来場者を記録しました。

©MUTEK.JP / Ryu Kasai

©MUTEK.JP / Ryu Kasai

そして、今回レポートする最終日5日は、同期間に都内各所で様々なイベントを行う『Red Bull Music Festival』とコラボレーションし、『MUTEK.JP x Red Bull Music Festival』というタイトルのついた共同開催日です。音楽とアートそれぞれのカテゴリーを超え、“とにかく新しい体験を求めてきた”というような人々が集った夜となりました。どれも見逃せないコンテンツでしたが、印象に残った3つをご紹介いたします。

音と映像が一緒にうまれる瞬間に出会う
「Tetsuya Komuro & Akira Wakita」

「MUTEK.JPに小室さんが!?」ということで、出演者発表時からかなり注目を集めた作品の一つ、「Tetsuya Komuro & Akira Wakita」。日本を代表する音楽プロデューサーの小室哲哉と、慶應義塾大学教授の脇田玲によるオーディオビジュアルインスタレーションプロジェクトです。

(c)Suguru Saito / Red Bull Content Pool

(c)Suguru Saito / Red Bull Content Pool

これは、昨年9月にオーストリアで開催されたメディアアートの祭典『Ars Electronica Festival 2016』で披露されたプロジェクトのアップデート版といえる、本邦初公開のプログラム。脇田氏が、自身が開発したソフトウェアを使いライブで出力する映像に、小室氏がその場で音楽をのせていくという作品です。

脇田氏の作るデジタルアート作品に効果音がのっているというわけでも、小室氏が作るエレクトロミュージックにVJがのっているわけでもない作品でした。観ている・聞いている側としては、“音と映像が一緒にうまれる瞬間に出会える”作品というのでしょうか。例えば、「この音が生まれる時を映像化したら、きっとこういう状況だし、この映像が生まれる時って、きっとこんな音がするよね」といった想像が巡るような感覚。目と耳から同時に入ってきた情報が脳内でバチバチに対話するような、そんな新しい感覚を楽しむ作品でした。

かぶらないVRが生み出す没入感
Rez Infinite」

この作品は、通常プラネタリウムに利用されているドームシアターに100名が入り、代表の1名がVRシューティングゲーム『Rez Infinite』をプレイするというもの。その模様をシアターに投影し、100人が同時に体感する実験イベントです。ゲームのプロデューサー・水口哲也氏も参加し、全5回実施されました。

©MUTEK.JP / Ryu Kasai

©MUTEK.JP / Ryu Kasai

VRというと、あのヘッドセットをかぶるのに抵抗のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。ですが、水口氏の言葉を借りると、これは「かぶらないVR」。ゲームをプレイをしている人はもちろん、していない人もその場で同時に楽しめる、VRの新しい可能性を探る試みといえます。一緒に作品の中に入り、ゲームのプレイヤーをアシストすることも応援することもできるわけです。「かぶるVR」が没入感を楽しむのに長けているとすると、これはさらに、“一緒に”没入感を楽しむことができるのです。今回この作品を作るにあたり、360度のドームに投影するように映像を作り替えることがものすごく大変だったと水口氏はおっしゃっていましたが、この技術の進化によって、VRをヘッドセットなしでより気軽に楽しめるようになりそうですね。ゲームだけにとどまらず、アートの中にみんなで入り込む作品も体験できたら素敵だなと思いました。

野生に戻されるような感覚を味わう
「3D SOUND Installation by KATSUYUKI SETO」

日本が誇るサウンドプロデューサー(デザイナー)の瀬戸勝之氏。音の職人である彼が、ヒューマンビートボクサーのKAIRIとともに発表したのがこの作品です。

靴を脱ぐように指示されて入った会場は、極限まで落とされた照明、デコレーションされたグリーン、深く香るアロマ、そしてスモークが焚かれていました。最新のデジタルな世界にいたはずが、一気にどこかのジャングルの中に迷い込んだようです。

©MUTEK.JP / Yu Takahashi

©MUTEK.JP / Yu Takahashi

まず、ヒューマンビートボックスのパフォーマンスが始まります。それに瀬戸氏がエフェクトをかけ、音を空間に配置し、3Dサウンドに仕立てていく。実は3Dサウンド初体験の私には、何が起きているのかわからない状況で作品がスタートしました。しかし、次第に心を静めて、空間の湿度やアロマの香りを味わいながら耳を澄ますと、ここで何が起きているのかがわかり始めます。「後ろから、何かが近づいてくる」「何かが右から左に横切る」「上から何かが降り注ぐ」。瀬戸氏が配置した音がビジュアルを作り出し、オーディエンスは「目」以外の感覚を総動員させてこの空間を把握しようとします。また、KAIRIのマイク1本で勝負をしているという気迫が、瀬戸氏のデザインによってより強烈に伝わってきます。音を、耳からだけでなく五感で感じる。映像を、目を使わずに五感でとらえる。それだけでこんなに自由な感覚が取り戻せるとは思いませんでした。この野生に戻されるような感覚を、お台場の科学未来館で味わえるとは……と、圧倒されながらそこにいた数分間でした。

 

テクノロジーが、アートや音楽を進化させているのか。またはアートや音楽が、テクノロジーを牽引しているのか。正直理屈はわからなくとも、私たちを楽しませてくれるエンターテインメントは、確実に進化を続けていることがわかります。受け取る側の私たちも、常に自身のデバイスを最新にして、これからのアートを、音楽を楽しんでいきたい。そんなことを思う午後なのでした。

イベント情報
MUTEK.JP 2017

開催日:2017年11月3日(金)、4日(土)、5日(日)※終了
※5日(日)はRed Bull Music Festivalとの共同開催
時間:OPEN 17:30/CLOSE 23:30
会場:日本科学未来館
http://mutek.jp/
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