MOROHA自主企画ライブ『怒濤』にクラムボン、ステージに大勢の人が鳴り止まない拍手を送った夜
MOROHA自主企画ライブ『怒涛』第十一回クラムボン
MOROHA自主企画ライブ『怒涛』第十一回 2017.11.7(Tue)恵比寿LIQUIDROOM
何人もの人が思わず「すげえ」と感嘆の声をもらしている。隣にいた男性が曲を聴きながら両手で顔を覆って泣いている。演奏が終わって、誰もいないステージに大勢の人が鳴り止まない拍手を送っている。決して大袈裟ではなく、あの日はそういうライブだった――。
2017年11月7日。恵比寿LIQUIDROOMにてMOROHAの自主企画『怒濤』がおこなわれた。対バンの相手はクラムボン。当然ながら、フロアはオーディエンスで満員。開演時間19時30分。青い照明だけが照らされるステージにクラムボンが登場。1曲目に演奏されたのは「Slight Slight」。この曲は2015年にクラムボンとMOROHAが初めて共演を果たした『tour triology』ファイナル公演でアンコールのラストに初披露された楽曲。『怒濤』の1発目に演奏したのは、MOROHAへ向けてクラムボンなりに感謝の意を表しているように感じられた。
クラムボン 撮影=稲垣謙一
そして、原田郁子が「MOROHAという、めちゃくちゃカッコイイ2人組に呼んでもらいましたクラムボンです!」と話し、ミトの「カモン、郁子!」と呼びかけで披露されたのは代表曲「シカゴ」。3人の演奏に応えるように、観客も両手を空高く広げて手拍子をする。会場の最後列から見ると、まるで大きな波が打ち寄せているようなキレイな光景だった。ステージでこの上なく気持ちよさそうに演奏する原田、ミト、伊藤大助はまるで海の中を泳ぐ魚のようだ。
クラムボン 撮影=稲垣謙一
2曲目の演奏が終わり、ミトが「私たちは2年前に『triology』というアルバムを出させていただき、その中でMOROHAの2人に参加してもらって。<中略>(MOROHAの音楽は)最初に聴いた時から絶対、みんなに届くものだと思っていたので。今、こうやってリキッドを埋められるアーティストになっていることが嬉しいし、それを追いかけてくれるファンの人にも「ありがとう」って言いたくなるほど、私たちは大好きです」とMOROHAへの愛を伝えた。
スタイルの異なる2組がどうして親交を結んでいるのか、それは良い音楽というシンプルな答えに尽きるのだと思う。
クラムボンが演奏を続けている最中、周りを見渡してみれば、沈んでく夕日を眺めるような恍惚の表情を浮かべている人々。何気ない日常に確かに存在する幸せを気づかせてくれる。これまでにZAZEN BOYS、フラワーカンパニーズ、9mm Parabellum Bulletなどが出演してきた『怒濤』で、こんなに穏やかで温かい空気が漂っていたことがあっただろうか……。
クラムボン 撮影=稲垣謙一
原田が「恵比寿から六本木へ行こう、っていう歌だから」と言って、演奏したのは岡村靖幸の「カルアミルク」。一音一音を噛み締めるように音が紡がれていく。オリジナルだろうが、カバーだろうが関係なくクラムボンでしかなしえないサウンド。これこそが唯一無二の存在として、デビューから18年もの間、多くの人に愛されてきた実力なのか、と思い知らされる。
終盤、ミトが「多分、MOROHAのチームだとリリックを聴くだけになっちゃうと思うんです。心の中で歌うくらいはあるかもしれないんだけど。折角なので、私たちは皆さんに歌ってもらおうと思います」と、small circle of friendsの「波よせて」をクラムボンの演奏に合わせて、オーディエンスが合唱した。原田もメインボーカルというよりは、コーラスに徹してあくまで会場の一体感を望んだ。最高に贅沢とも言える時間。自分で「波よせて」を歌うことで、こんなにも気持ちの良い曲か、と再認識させられる。自分がどこにいるのか、分からなくなるほどの心地よさがあった。
クラムボン 撮影=稲垣謙一
最後は最新作「モメント e.p. 2」に収録されている「タイムライン」。<いつもの公園 ちょうど5時の時報 鳴り渡る空は 真っ赤な夕暮れどき>出だしの歌詞と寄り添うように、オレンジ色の照明がステージの3人を包み込む。<家々 公団 町の灯がともり 鳥たちも 人も 家路へ向かい出す>まるで……、映画のような美しい光景が脳裏に浮かぶ。<あのひとつひとつに 日常があって わたしの知らない 物語があって>そう言えば、小学生の頃は夕方5時のチャイムが鳴ったら、友達とバイバイをして家に帰る途中「今日の夕食はなんだろう」なんて胸を躍らせながら帰ったっけ。僕は曲を聴きながら、とうに忘れていた日常の風景を思い出していた。<歌がきこえてる それぞれのタイムライン>最後のフレーズを歌い終えて3人がステージを後にする。メンバーが去っても、スピーカーからはチャイムの音だけが絶えず鳴っていた……。
MOROHA 撮影=稲垣謙一
クラムボンから最高のバトンを渡されて、登場したMOROHA。2人がステージに姿を現わすと、会場から「アフロー!」、「UK―!」と男性から力のこもった呼びかけが飛び交う。1曲目に披露したのは「RED」。先ほどの和やかなムードをぶん殴るように<感情の爆発を 俺たちの爆発を>と歌い上げる姿を見て、さっきまで眠っていた闘志を呼び起こされた気がした。
アフロが「ライブ! ……ではなくて、根性を見せにやってきました」と発し、「言いたいことはただ一つ……」MOROHAが「俺のがヤバイ」を歌う前に必ず放つ言葉。だけど、この日は違う。「言いたいことはただ一つ……そう言えば、クラムボンはさっきのライブで「MOROHAは一緒に歌ったり出来ないと思うから」って言ってたんですけど、その通りだと思います。お前には一切歌わせない。こっから60分間は俺たちの歌だ」そう言って、始めた「俺のがヤバイ」。彼らは人生に迷っている人の背中を押すわけでもなく、弱っている人に向けてエールを送るわけでもない。自分の存在を、自分の言葉で表明している、ただそれだけだ。サビの<俺のがヤバイ 俺のがヤバイ 俺のがヤバイ>はアイツよりも、クラムボンよりも、ステージを観ているお前よりも……そう言われている気がしてヒリヒリした。
MOROHA 撮影=稲垣謙一
前半の雰囲気とはガラリと変わって、4曲目はUKの優しく、綺麗で、儚さのあるギターで始まる「ハダ色の日々」へ。若い恋人が大人になって、夫婦になって、子供ができて、そんな恋から愛へと変わる様を想像させるバラード。<「死ぬまで二人でいような」その約束もともに破ろうな いつか三人になって 畳の上に並ぶ川のせせらぎ 手と手の間に我が子挟み 通勤 残業 さえ平気 定期の中 忍ばせた写真 疲れた時の秘密平気>その歌詞に胸を撫でられた。クラムボンが最後に演奏した「タイムライン」で少年時代を思い出して、「ハダ色の日々」で大人になった自分が大切な人と家庭を築く……まるでアンサーソングのように聴こえる。どちらも共通しているのが、“なんでもない日々が尊い”そんなことを教えてくれた気がした。
MOROHA 撮影=稲垣謙一
中盤のMCでは、クラムボンとの思い出を振り返る。元々、アフロが浅草の雷5656会館へクラムボンのライブを観に行き、受付の人に「俺も音楽をやっていまして、メンバーにこのCDを渡してほしい」と頼んだら、本当にCDがメンバーの手に渡ったのが交流のきっかけだったそう。その後、ミトがMOROHAのCDを聴いて、雑誌の連載コーナーで紹介したことから両者の関係はグッと深まっていった。ドラマのような展開だ。「そのあと、「Scene 3」っていう曲で『triology』に参加させてもらって。その曲をクラムボンと武道館でやらせてもらったんですけど、それを経ての今日なんですよ」と、思い出を噛み締めながら話した。
そして、後半戦で披露されたのは「上京タワー」。生まれ育った田舎に嫌気がさして、故郷を捨てて、東京で勝負することを選んだ18歳のアフロとUKの歌。
MOROHA 撮影=稲垣謙一
次の曲へ行く前にアフロが「一度だけ、たった一度だけ、あの町に帰ろうと思ったことがある。いつだって電話越しに「早く帰ってきなさい」、と言っていた母が、今年30になる俺に、初めて「悔いがないように頑張りなさい」と言ったとき、皮肉にも母の元へ帰りたいと思いました……」そう言って歌われた「遠郷タワー」は、18歳で長野の田舎を飛び出して、30歳になった2人の今を描いている。<本当に良かった 故郷を捨てて あの町を捨てて しがみつく手を振り切って良かった と言えるように>UKの温かいギターの音色とアフロの優しい声が、観客の涙腺をノックする。曲を聴きながら隣の人も、その隣の人も泣いていた。そうか、このライブハウスにいるほとんどの人が田舎を捨てて、ここ(東京)にいるんだよな。そう思うと鳥肌が止まらなくなった。
MOROHA 撮影=稲垣謙一
最後は<お願いします どうか聴いてください お願いします>そう言って始まった「四文銭」。歌詞のように、アフロが観客に向かって深く頭を下げている。18歳の頃に田舎を捨てた2人の少年は、21歳でMOROHAを結成して9年が経ち、今リキッドルームで敬愛するクラムボンと共演している。「何かが起こるって信じてる」2人はいつだって、そう思いながら音楽と向き合ってきたのだろう。曲の終盤でUKがギターをかき鳴らす中、アフロが話す。「あの日、雷5656会館でスタッフの女性に渡したCDがメンバーの手に届かなかったとしても、今日という日は訪れたと思います。必ず訪れたと思います。なんでかって、俺は、俺たちは諦めない男だから。人生はいつだって告白の連続だ」そんな最高の演奏で締めくくられた60分間だった。
MOROHA×クラムボン 撮影=稲垣謙一
MOROHAがステージから降りたあとも、拍手は鳴り止まない。そのままアンコールへ突入して、クラムボンとMOROHAが登場。特別ゲストとして、チェリストの徳澤青弦も呼び込まれる。3組によるスペシャルな編成で演奏された1曲目は「Scene 3」。ダイナミズムでエモーショナルなパフォーマンスに心を奪われた。最後はMOROHAとクラムボンの2組による「革命」。僕はこの時、普段ではありえない光景を目撃した。MOROHAの曲に観客が手を叩いて応えている。MCでミトが言ったように、MOROHAのライブで観客が一緒に歌ったり、手拍子をするなんて考えられないことなのだ。<革命を起こす 幕開けの夜>歌詞の通り、この日は革命が起きている。演奏が終わり、笑顔で抱き合うアフロ、UK、原田郁子、ミト、伊藤大助に再び盛大な拍手が送られた。
……と、ここまで書いて、気づいたら4000字も打ち込んでいた。もっと短くまとめたいと思ったけど出来なかった。だって、あの日のライブは全てがハイライトだったから。
セットリスト