あなたの水曜日を送ると、誰かの水曜日が届く「水曜日郵便局」 【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.6 遠山昇司(映画監督)

コラム
アート
2017.11.14
 撮影:森賢一

撮影:森賢一

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美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、映画監督の遠山昇司さんが、ご自身がディレクターとして参加されている「鮫ヶ浦水曜日郵便局」について語ってくださっています。

水曜日にだけ開局する鮫ヶ浦水曜日郵便局に集まってくるのは、どこかの誰かの、とある水曜日の出来事が記された手紙。

「自分の水曜日の出来事」を手紙に書いて送ると、「誰かの水曜日」が代わりに届く、世界で唯一の“郵便局”。そんな不思議な郵便局が2017年12月6日(水曜日)に開局します。その名は、「鮫ヶ浦水曜日郵便局」。

宮城県東松島市宮戸島にある旧鮫ヶ浦漁港に、郵便局に見立てたポストを出現させ、水曜日の出来事が綴られた手紙を全国から募集します。

あなたの水曜日を送ると、誰かの水曜日が届きます。

目を覚ました時に聞こえてきた最初の音。
家を出て駅へと向かう道ですれ違った人々。
カーラジオから聞こえてきた外国の天気。
昼休みに見上げた空に浮かぶ雲の形。
ふと思い出したおばあちゃんの言葉。
いつもより長く感じる3限目の授業。
寝る前に思い切って電話をした相手。
夜中に目を覚ました時に頬を伝う涙。

とある水曜日には、きっとたくさんの物語が存在しています。それは、ありふれたものかもしれませんが、そこには驚くべきささやかな日常が広がっています。

あなたが書いた水曜日の物語が、鮫ヶ浦水曜日郵便局に届くと、無作為にシャッフルされてどこかの誰かに転送されます。そして、手紙を書いたあなたの元にも知らない誰かの水曜日の出来事が綴られた手紙が届くことになります。

あなたに届いた物語は、この世界であなたにだけに届く誰かの水曜日の物語です。同じように、あなたが書いた物語を、どこかの誰かがただ一人だけ受け取ります。

水曜日郵便局は、文通でありません。言うなれば、一度限りの見知らぬ誰かとの片道書簡。あなたと誰かを結ぶのは、刹那的な水曜日の出会いです。

水曜日郵便局が始まったのは、2013年6月19日(水曜日)。静かで優しい海が広がる小さな町で生まれました。熊本県津奈木町のつなぎ美術館が主体となり、海に浮かぶ旧赤崎小学校を舞台に赤崎水曜日郵便局として開局し、2016年3月30日(水曜日)に閉局するまでに、国内外から1万通近い手紙が届きました。

閉局後、私は、水曜日郵便局の次なる開催地を求めて全国を巡りました。その旅の中で、 宮城県東松島市宮戸島にひっそりと存在する、使われなくなった漁港「旧鮫ヶ浦漁港」に出会います。

赤崎水曜日郵便局の舞台となった旧赤崎小学校 撮影:森賢一

赤崎水曜日郵便局の舞台となった旧赤崎小学校 撮影:森賢一

トンネルをぬけると、そこには水曜日がありました。

旧鮫ヶ浦漁港に向かうには、大鮫隧道と呼ばれている素掘りのトンネルを通る必要があります。初めてトンネルの入り口に立った時に、とてもドキドキしたのを覚えています。トンネル内には電灯もなく、長細い暗闇が待ち構えていました。

ただ、怖くはありませんでした。海風がトンネルを通り抜けているのを感じました。真っ暗なトンネル内を進んでいくと、ゆっくりと光が近づいてきます。私は、その瞬間、言葉にできない何かを感じました。そして、トンネルを抜けた先の小道を下って行くと海が現れました。当たり前のことですが、この海は遠く離れた旧赤崎小学校の海と繋がっています。私は、トンネルをぬけた「その先」にささやかな希望とともに水曜日が届く場所を設定することにしました。

新たな水曜日郵便局。私と鮫ヶ浦水曜日郵便局の舞台となる場所との出会いです。

旧鮫ヶ浦漁港へ続くトンネル(大鮫隧道) 撮影:森賢一

旧鮫ヶ浦漁港へ続くトンネル(大鮫隧道) 撮影:森賢一

真っ暗なトンネルの中で出口の光が近づいてくる、その時に私は言葉にできない何かを感じました。

言葉にできない何かとは、何でしょうか。それは、たまたま入ったカフェに飾られていた絵を見た時に生まれるものかもしれませんし、実家の押入れの奥にしまっていた段ボールを開けた時に生まれるものかもしれません。日常のふとした瞬間にもその何かは確実に存在していて、気付いた時が出会いとなります。私は、その出会いの瞬間を大切にしたいと思いながら生きてきたような気がします。今回の鮫ヶ浦との出会いもそのひとつです。

私の知らない風景と今この瞬間に誰かがどこかで出会っています。誰かの目の前に広がっている風景が美しいと私が気付けること。水曜日郵便局は、手紙に文字で水曜日の出来事を綴るプロジェクトですが、言葉にできない何かが手書きで書かれた文字と文字の間にひっそりと存在しています。

イベント情報
鮫ヶ浦水曜日郵便局

 期間:2017年12月6日(水)〜2018年12月5日(水) ※予定 
 開催地:旧鮫ヶ浦漁港(宮城県東松島市宮戸)
 公式ウェブサイト:https://samegaura-wed-post.jp/
 (水曜日にだけオープン)
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