尾道・福山を旅して巡るアートスポット 猫でおなじみ「尾道市立美術館」、五感で体験する「禅と庭のミュージアム」【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.35 遠山昇司(映画監督)
美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、映画監督の遠山昇司さんが「尾道・福山を旅しながら巡るアートスポット」について語ってくださっています。
遠くへ行ってみたい時がある。そんな時は、知らない場所の風景を想像してみる。ぼんやりと見えてくる風景を確かめに、まだ知らない街へ向かうことにしよう。そこには、どんな発見と驚きがあるだろうか。そして、どんな夢を見ることができるだろうか。さて、旅を始めてみよう。
路地と猫を巡る「尾道物語」
電車は、海に沿って走っている。島々と船が目の前を流れていく。しばらくすると尾道駅に到着。駅の近くを歩いていると「尾道シネマ」という映画館を見つけた。
尾道は映画のロケ地としても有名だ。大林宣彦監督の『転校生』や『時をかける少女』、そして小津安二郎監督の『東京物語』など数々の名作が尾道で生まれている。
尾道駅近くから東へ伸びる尾道本通り商店街を歩きながら、裏路地へ入ってみる。賑やかな商店街とは打って変わって生活の匂いと情緒が細長く続いている。商店街に戻り、歩いていると不思議な店を見つけた。
「本と音楽 紙片」。商店街沿いにあるゲストハウス「あなごのねどこ」の奥にひっそりと佇むお店。
小さなサーカス小屋の様な入り口から中に入ると、新書・古本や写真集、そしてCDが美しくも不思議な空間の中で販売されている。初めて訪れる街でまず向かうのは本屋だったりする。そこで出会った本と旅をする。
再び路地を歩いていると、トコトコトコと音が聞こえてくる。その音に誘われるように向かうと海が現れた。ポンポン船の音だ。
船の音を聞きながら海沿いを東へ歩いていくと「浄土寺」に到着。
浄土寺は、小津安二郎監督の『東京物語』のロケ地になった場所。映画の中で周吉(笠智衆)は、妻とみ(東山千栄子)が息を引き取ったあと、燈篭の傍で尾道水道を眺めながらひとり佇む。そこへ紀子(原節子)が現れる。尾道水道を眺める二人の姿と「綺麗な夜明けじゃった。今日も暑うなるぞ」という周吉の言葉が蘇ってくる。
浄土寺から尾道市立美術館へ。途中、千光寺山ロープウェイを利用すると、尾道が一望できる。
ロープウェイの山頂駅から歩いてすぐに尾道市立美術館があり、入り口で巨大な猫が出迎えてくれた。
尾道市立美術館では、猫と美術館の警備員との攻防が繰り広げられており、ネット上でも話題になっている。美術館へ侵入を試みる猫とそれを阻止しようとする警備員の姿がコミカルでもあり愛らしい。
朝の開館準備の際、入り口あたりから視線を感じ、振り返ると黒猫!
— 尾道市立美術館 (@bijutsu1) 2017年2月16日
開館前から並んでいただきましたが、泣く泣くお帰りいただきした。 pic.twitter.com/aD9jjzwVMJ
五感で体験する「禅と庭のミュージアム」
翌日、尾道を後にして隣町の福山へ。福山の山間に位置する天心山神勝寺の「禅と庭のミュージアム」へ向かった。
「禅と庭のミュージアム」は、禅画、建築、アート、庭の鑑賞と共に現代における新しい禅体験ができる場所だ。門をくぐって最初に現れるのは、建築家・藤森照信氏の設計による寺務所「松堂」。
「松堂」でを購入したら、大な敷地内に広がる禅庭の散策へ。様々な庭と風景を見ながら、時より休み、ゆっくりと歩く時間。抹茶が飲める茶席「秀路軒」、太く長い雲水箸で食べる「神勝寺うどん」、竹林を眺めながら湯に浸かる「浴室」が敷地内に点在しており、楽しみながら禅の世界を体験することができる。
そして、注目すべきは、境内に建つアートパビリオン「洸庭(こうてい)」。木々の間から、巨大な宇宙船の様な物体が見えてくる。
クリエイティブ・プラットフォーム「SANDWICH」によって設計された建物の中には、彫刻家・名和晃平氏とヴィジュアルデザインスタジオ・WOWによるインスタレーションが展開されている。
建物の小さな入り口へ続くスロープを上がり、中へと入ると暗闇が広がっている。静かな空間の中で微かに波音がしてくる。次第に暗闇に目が慣れてくる。目の間の暗がりに広がっているのは海原だ。時折、波間に光が反射する。まるで月が照らす真夜中の海のようであり、朝日が昇る寸前の水平線のようでもある。時を忘れてしまうようで、時を見つけてしまうような体験。
「観光」とは、文字どおり「光を観る」と書く。日常生活を一旦離れて別の土地へ移動する中で、旅人は様々な光と出会う。その光に驚き、感動する。そして、家に帰り着いたベッドの中、旅先で観た光を思い返しながら夢を見る。
施設情報
公式サイト:http://cinemaonomichi.com/
公式サイト:http://trokkisk.wixsite.com/teraokakeisuke
公式サイト:http://www.ermjp.com/j/temple/
公式サイト:https://www.onomichi-museum.jp/
公式サイト:https://szmg.jp/