美術館を擬人化してみた~「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」編~【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.38 とに~(アートテラー)
美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、アートを発信する「アートテラー」のとに~さんによる『【美男化プロジェクト】Mr.ミュージアム』第7弾です。
軍艦、刀剣、城、お米……さまざまなモノが擬人化されている昨今。本企画は、日本全国の美術館・ミュージアムを擬人化していく『【美男化プロジェクト】Mr.ミュージアム』です。毎回イケメン男子の姿となったミュージアムたちが、自己紹介をしながらその館の魅力や展示をお伝えします。今回は「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」編です。
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イラスト=yukimone
あのー。もしかして、道に迷ってます? 良かったら、僕が案内しますよ。
えっ? 違いますよ! ここが新宿だからって、僕はキャッチじゃないですよ!
で、お姉さんは、どこに行こうとしてたんです? 東郷青児なんとか美術館? アハハ。うろ覚えですね。正しくは、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館ですよ。東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館。
ん? 何でそんな長い名前をスラスラ言えるのかって? 僕が、その東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館なんです。うん。じゃあ、美術館の入り口まで僕が案内しますよ。さぁ、一緒に行きましょ♪
そうそう。僕の名前ですけど、やっぱり長いですよね……。2014年に名前を変えたんですけど、その前は「損保ジャパン東郷青児美術館」だったんですよ。で、その前が、「安田火災東郷青児美術館」。さらに、その前が、「東郷青児美術館」。なんか変えるたびに、名前が長くなってますよねー。アハハ。でも、変えても、東郷青児さんの名前は必ず入ってるんです♪
僕はもともと、損保ジャパン日本興亜の前身会社のひとつ、安田火災が開設した美術館だったんです。「社会貢献の一環として芸術鑑賞の場を一般のお客様に提供したい」っていう安田火災の願いに共鳴してくれたのが、東郷青児さん。なんと自分の作品156点とコレクションしていた作品189点を無償で貸してくれたんですよ。太っ腹ですよね♪
東郷青児《超現実派の散歩》1929年 油彩・キャンヴァス (C)Sompo' Museum of Art, 18025 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
で、1976年に東郷青児美術館がオープンしたんですけど、残念ながら、開館から2年後に東郷さんは急逝してしまったんです。でも、東郷さんの遺志を汲んで、遺族のみなさんが、コレクションを寄贈してくれたんですよ。本当に東郷青児さんには、足を向けて寝られないなぁ。
あれっ、もしかして、そのピアスって、ヒマワリですか? お姉さんに似合ってますね♪ ヒマワリって言えば、僕のところにもありますよ。ゴッホの《ひまわり》! 1987年に創業100周年を記念して、安田火災が購入したんですよ。落札価格は、確か、約53億円だったかなぁ。
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
それで、当時はかなり話題になって、《ひまわり》を一目見ようと、それまでの約10倍のお客さんが僕のところに押し寄せたんですよ。いやー、あの時はスゴかったなぁ。
お姉さんは、今日は休みですか? 休みに美術鑑賞なんてステキですね♪
僕ですか? 僕は展示替え期間中は、次の展覧会を準備してますし、休館日の月曜は大体、新宿区立の小中学生を招いて、「対話による美術鑑賞会」をしてますよ。
だから、ほとんど休みはないですね。アハハ。まぁ、でも、子供たちにも美術を気軽に楽しんで欲しいですからね。
そうだ! 子供向けといえば、展覧会ごとに図録とは別に、ジュニア版ブックレットも作ってるんですよ。子供向けに作ってるはずなんですが、大人にもなぜか好評で。よかったら、美術館で手に取ってみてくださいね♪
あ、僕のあるビルが見えてきましたよ。あそこに見える末広がりのビルです! その42階にありますよ。えっ、知らなかったんですか?
今でこそ森美術館君とかあべのハルカス美術館君とか、高層階にある美術館は珍しくないけど、僕が誕生したときは、かなり珍しかったんですよ。美術品はもちろんだけど、高層からの景色も楽しんでくださいね。東京タワーや東京スカイツリー、建設中の国立競技場なんかも一望できますよ。
あと、不定期ですが、19時まで開館延長している日もあるんで、夜景もオススメです♪ でも、この景色が楽しめるのも、2020年3月まで。実は、2020年に、このビルの足元に新しい美術館が誕生する予定なんですよ。高層からの景色は楽しめなくなっちゃいますが、その分、僕のことは見つけやすくなりますね。
さぁ、あとは、このエレベーターを乗るだけです。せっかくだから、上まで案内しますよ。そうだ! 42階に着いたら、展示室手前の廊下にも注目してみてください。他館さんの展覧会ポスターを、いっぱい貼ったコーナーがあるんです。
たぶん僕ほど展覧会ポスターを貼ってる美術館はないんじゃないかなぁ。
そういえば、昔、アルタってビルで収録されてた生放送番組で、ゲストの人が持ってきたポスターを貼るって定番の流れがあったけど、新宿ってそういう街なのかな。いや、関係ないですよね。
とか何とか言ってるうちに、42階に到着です。
たっぷりと楽しんできてくださいね♪
ふー。やっぱり42階からの眺めは最高だなー。
あれっ? あそこに落ちてるのは……ヒマワリのピアス! さっきのお姉さんのだ! 取りにいかなきゃ!
文=とに〜 イラスト=yukimone 協力=損保ジャパン日本興亜美術館
イベント情報
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階)
足立源一郎、有島生馬、池口史子、石井柏亭、伊藤継郎、井上護、猪熊弦一郎、梅原龍三郎、岡鹿之助、岡本太郎、荻太郎、笠井誠一、加山又造、熊谷守一、小磯良平、小絲源太郎、鴻池朋子、國領經郎、小杉小二郎、佐伯米子、鈴木信太郎、須田国太郎、田崎廣助、田村孝之介、寺内萬治郎、中村研一、難波田龍起、林武、福井江太郎、舟越桂、前田常作、三岸節子、宮永岳彦、宮本三郎、山口薫、山下清、山本鼎、山本文彦、吉原治良、脇田和ほか、計100余名。
http://www.sjnk-museum.org/