松下優也インタビュー~ミュージカル『Romale(ロマーレ)~ロマを生き抜いた女 カルメン~』でホセ役として新たな“カルメン”の世界観を目指す

インタビュー
舞台
2018.1.15
松下優也

松下優也


花總まりが妖しく魅力な女・カルメンを演じるミュージカル『Romale(ロマーレ)~ロマを生き抜いた女 カルメン~』が、2018年3、4月に東京・大阪にて上演される。燃えるようにカルメンを愛し、翻弄される男・ホセ役は、松下優也。音楽グループ「X4」のメンバーとしての活動のほか、ミュージカル『黒執事』やNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』など俳優としても活躍している。

ジプシーとも呼ばれる少数民族ロマの女性と、彼女に心奪われる白人兵士の物語。関西弁の柔らかな語り口の松下から、どんなホセが立ちあがるのか。世界的な名作オペラとしても親しまれている『カルメン』の新しい可能性に挑む、その心境を聞いた。

松下優也

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■テーマは“超えられない壁”

――出演が決まった時はどう思いましたか?

今までやってきた舞台とはタイプが違うので驚きました。僕はこれまでミュージカルでは2.5次元と呼ばれる舞台が多かったので、今回のような機会をいただくとは思っていなかったんです。とてもビックリしました。

――チラシの写真は、松下さんの少し悲しそうな表情が印象的です。

表情については演出の謝(珠栄)先生のリクエストです。ロマのカルメンと白人のホセには人種や民族の壁があり、二人のどうやっても報われない関係を表情で出して欲しいと仰っていました。謝先生はとてもパワフルな方です! 「私のことをおかんと思って」と言われました(笑)。謝先生は「この役者さんは踊れるな」と思うと踊らせてみたりとか、現場で作りながらやっていく方だそうです。もしかしたら僕も踊ることになるのかな。……どういう演出になるのかが楽しみです。

松下優也

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――キャッチコピーは“哀しいほど ひたむきな愛”。カルメンとホセの間に横たわる人種の違いがテーマの一つでもあるそうですね。

はい。この作品に取り組むにあたり、“超えられない人種の壁”というベースがすごく大事だと思っています。やはり僕らは日本人。人種のことを取り上げるのは難しい部分もある。僕はもともとアメリカのブラックミュージックといった黒人の文化が好きなのですが、黒人もずっと差別されてきました。ロマとは違うけれど、“超えられない人種の壁”という点は同じだと思うんです。僕たち日本人には馴染みがないけれど、そこにある人種間の隔たりを、お客様にわざわざ見せるというよりも、感じさせないといけないなと思っています。

――舞台はスペインで、カルメンはロマの女性。ラテン系の世界観の舞台になるのでしょうか?

僕が今まで関わってきた音楽はアメリカの文化のものが多く、フラメンコやラテンについては詳しくはないですが、ラテンのノリはすごく好きですね。とても興味があります。

――世界的に有名な『カルメン』に取り組むにあたり、意識していることはありますか?

映像でオペラを観ましたが、僕が思っている『Romale(ロマーレ)~ロマを生き抜いた女 カルメン~』の世界観とは少し違ったんです。せっかく自分がやらせていただくのなら、今までになく、これからもないだろう、という作品にしたい。そこが今回の自分のがんばりどころだと思います。もともと『カルメン』を知っている方や、今まで観たことのある方、すごく好きな方もとてもたくさんいらっしゃるでしょう。そんな方々が観て、これまでの『カルメン』と印象が変わったり、新たな発見がある作品になればいいなと思っています。

松下優也

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■ひとりの女性を狂おしく愛し、人生を狂わせる男

――松下さん演じるホセは、カルメンを狂おしく愛する男。松下さんはホセをどんな人だと思いますか?

僕が今のところ勝手にとらえているホセというのは、やっていることは悪いことだけれど、もともとは真面目な人なんじゃないかなと。本来は悪い人ではないと思います。そんな男がカルメンを愛したことで翻弄されていく……。そうではなかった人がそうなってしまった、というところがホセを演じる上では大事な部分なんじゃないかなと思います。

僕も、ホセほどには極端ではないけど、ひとりの女性を自分のものにしたいという独占欲はありますから、共感できる部分も多くある役です。人を殺めるということ以外はきっと誰にでもある感情だと思いますよ。みなさんも経験あるんじゃないかな。

――カルメン役の花總まりさんとは、チラシのビジュアル撮影で初めてお会いになったそうですね。

はい。それ以前には、ステージメイクをバッチリした花總さんのイメージが強かったのですが、今回メイク前に会った花總さんはすごく透明感のある方でした。そのギャップには驚きました。でも花總さんの相手役だと決まって、周りからはいろんなことを言われますよ。「ほんとにできるの?」「大丈夫?」ってプレッシャーをかけられることもあります。けれど、すごいことだと思い過ぎると思うように演じることができなくなることもあるので、僕はあまり考えないようにしています。

松下優也

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――過去に共演された方も数名いらっしゃいますね。

伊礼彼方さんは『パコと魔法の絵本』で共演しました。もっくん(太田基裕)は『黒執事』で一緒です。団時朗さんは『べっぴんさん』でご一緒したので、まさかミュージカルで共演するとは! 福井晶一さんは「X4」のメンバーが『私のホストちゃん』シリーズで共演していて、僕がそこにゲストとして登場させてもらった時に、福井さんがかなりふざけて接してくれた印象が強いです。きっと普段はそんなにふざける方じゃないんじゃないかな……。そんなことも含め、今回の稽古がどんな雰囲気になるのか楽しみですね。

――花總さん以外は男性ばかりなんですね!

男同士のノリは楽しいだろうなと思いますよ。まだ稽古が始まる前なので、すべてはこれからですね。僕は、稽古は本番の準備をする場所だと思っているので、稽古場で楽しみながらいろいろ考えていきたい。作品を完成させるのは初日に間に合えばいい。そうでないといろんなおもしろいことができなくなってしまうんです。だから、とにかく稽古が楽しみですよ。

松下優也

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■ふだんの自分が“役”に近づいてしまう

――ホセはカルメンを愛したことにより、人生が大きく変わっていきます。松下さんご自身は、なにかを狂おしく思い、執着することはありますか?

ホセがあまりに極端なので、比べてしまうと思いつかない(笑)。でも歌うことや音楽については自分の譲れない部分だし、ずっとそこに執着してやってきたと言えるかも。あと僕は“黒”が好きで、着るものは黒い服ばかりだし、黒人の文化やブラックミュージックも好き。黒に対してはだいぶ執着してるかもしれませんね(笑)。

また、これは自分では無自覚なんですが……演じる役柄には執着しているかもしれない。僕はその役をやっている期間は、その役に引っ張られがちなんです。あまり自覚症状はないんですけれどね。でも、ひとつのことに集中すると他に手がつけられなくなったりする不器用なところがあるんです。暗い役柄の時期は、帰り道に下を向いていたり、気持ちが暗くなっているねと言われることはあります。一度ものすごく暗い役をやった時に、親に「大丈夫?」と言われたこともあります。

集中すると自然と、テクニックでどうこうするより、実際に役の気持ちになって素直にやらないと演じられなかったりする。上辺だけでなんとなくやるのは自分でも気持ち悪いから、集中すると自然とその役に引っ張られますね。言葉が荒々しい役だと、普段の言葉遣いもちょっと口が悪くなったりしているみたいです。舞台『花より男子』で道明寺司役をやらせてもらった時には、彼は口が悪いんですけど、僕も荒々しくなった。自分思考がその役の思考に染まってしまうんでしょうね。これもある意味執着なんでしょう。今回のホセはまだ稽古が始まってないから、どういう自分が引っ張り出されるのだろうかと思いますね。

――役と自分とが近くなってしまうんですね。

もちろん素の自分には戻るんですけどね。だから舞台のカーテンコールってどうしたらいいかわからないんですよ。芝居の間は「松下優也」は存在しないようにしているので、カーテンコールでは戸惑います。役の衣装のままだけど中身は自分だし、どういたらいいんだろう……って。よくファンの方がカーテンコールを見て「疲れてるのかな」とか心配してくださるんですけれど、自分がどうしていいかわからなくなっているんです(笑)。

――役と、自分とを切り替えることは難しいですか?

いえ、自分では切り替えようとしてはいるんですよ。本番が始まると、毎日同じことをする日々になる。家と劇場を行き来して、ごはんを食べて、ストレッチするというルーティンになって、何時に何をするかが決まってくる。そういった時間の中で、役と自分を客観視して切り替えるようにしています。

今作は​精一杯ホセとして生き、人種は違えどリアルさを持って演じたいと思っています。

松下優也

松下優也

演じる為に緊張や集中力を高めた俳優が、稽古や、日常や、舞台裏で積み重ねた先の光景を共有できるのは、劇場に足を運んだものだけの特権である。1980年代のスペインが、松下を通して現代と新たにつながる瞬間が楽しみだ。

取材・文・撮影=河野桃子
ヘアメイク/Coomie(ビーサイド)
スタイリスト/鹿野巧真
衣裳協力/LAD MUSICIAN   PADRONE

公演情報
ミュージカル『Romale(ロマーレ)~ロマを生き抜いた女 カルメン~』
 
■出演:
花總まり/松下優也/伊礼彼方/KENTARO/太田基裕/福井晶一/団時朗
一洸/神谷直樹/千田真司/中塚皓平/宮垣祐也 
■演出・振付:謝珠栄 
■台本・作詞:高橋知伽江 
■原作:小手伸也 
■音楽監督・作曲:玉麻尚一 
■作曲:斉藤恒芳
■公式サイト:http://www.umegei.com/schedule/666/

 
<東京公演>
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
■日時:2018/3/23(金)~2018/4/8(日)
■アフタートークショー
・3月29日(木))13:30公演終了後 登壇者/花總まり 松下優也 
・3月30日(金)13:30公演終了後 登壇者/松下優也 伊礼彼方 KENTARO 太田基裕

 
<大阪公演>
■会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
■日時:2018/4/11(水)~2018/4/21(土)
■アフタートークショー
・4月12日(木)13:00公演終了後 登壇者/松下優也 伊礼彼方 KENTARO 太田基裕
・4月13日(金)13:00公演終了後 登壇者/花總まり 松下優也

 
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