『がらくた』ツアーを観て改めて気づかされた、自由な地平に立つ桑田佳祐の現在とこれから
桑田佳祐
桑田佳祐『がらくたライブ』ディスクレビュー 文=兵庫慎司
2017年10月17・18日朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンターからスタートし、12月31日横浜アリーナで終了した(さらにその日は会場からの中継で『紅白歌合戦』にも出演した)『桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」』。
そのツアーの、11月11・12日の東京ドーム公演を中心に、12月16・17日の京セラドーム大阪の模様や、メイキング映像も加えて編集されたライブDVD&Blu-ray『がらくたライブ』が、4月4日にリリースされた。ボーナス映像の中に、紅白でも中継オンエアされた「若い広場」と、桑田も出演した『ひよっこ 紅白特別編』も収録されている。初回限定盤には桑田も出演した映画『茅ヶ崎物語 〜MY LITTLE HOMETOWN〜』が同梱されているという驚きの形態も相まって、ソロ・デビューから30周年にあたる2017年が、桑田佳祐にとってどんな年だったか、どんな活動っぷりだったかということがわかる、という意味で、資料価値の高い作品にもなっている。そんな本作はオリコンの週間音楽Blu-ray・DVDチャートで1位を獲得し、年明けに発売されたミュージックビデオ集『MVP』も1位を獲得していたことから、同年に2作品が1位を獲得というのはソロアーティスト史上初の快挙とのことだ。
僕はこのツアー、11月12日の東京ドームの2日目を観た。アンコールまで含めて全28曲。『がらくた』収録の15曲のうち、「春まだ遠く」を除く14曲を披露。他の13曲はソロ桑田佳祐歴代の代表曲からセレクト。日によって、KUWATA BANDの「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」がプレイされる日もあったようで、『がらくたライブ』のアンコールの1曲目はそれになっている。つまり、僕の観た日は違った、ということです。ボーナス映像に入っている「ダーリン」でした。
1曲目は、セカンド・ソロの『孤独の太陽』収録の楽曲「しゃアない節」でスタート。3曲目「MY LITTLE HOME TOWN」では「ラララ」の大合唱がドームを満たし、ビジョンに映し出された花火がそれを締めくくる。
「万全の状態でツアーに臨もうと思って2週間前に内視鏡検査をやりました。大丈夫でした!」というMCを経ての「愛のプレリュード」から、『がらくた』収録曲のゾーンに入る。「大河の一滴」で、画面に夜の街が映し出される、などの映像演出とともに、曲が続いていく。
9曲目「あなたの夢を見ています」ではこの日初めて4人のダンサーが登場。このあとも、人数が増えたり着ぐるみが加わったりしながら、何度もダンサーたちがステージを彩った。
「古の風吹く杜」「悲しみよこんにちは」「Dear Boys」「東京」と、30年の中でリリースされて来た名曲が並ぶブロックを経て、「Yin Yan(イヤン)」から再び『がらくた』ゾーンに入るところで、1982年に中村雅俊に提供して大ヒットした「恋人も濡れる街角」もちょっとだけ披露。8月6日の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』でトリを務めた時は、自己紹介&あいさつ的な替え歌バージョンだった。僕が観た11月12日の東京ドームでは、「東京は今、どんどん街が変わる、オリンピックが始まるんだなあ」というような歌詞で、しみじみと歌われた。で、この映像作品では、故・月亭可朝の「嘆きのボイン」と往年の昭和の深夜のお色気番組『11PM』(とその司会の大橋巨泉)にオマージュを捧げた内容になっている。大阪ではこうだったんですね。なお、今「故・月亭可朝」と書いたが、当然、このライブの時点ではご存命だったわけで、亡くなったことが4月9日に発表された時は、桑田さんも驚かれたと思います。
『がらくた』の中でトップクラスにストレートな感動を伝える「君への手紙」では、オーディエンス全員の制御型ライト「がらくたライト」の光が客席を覆う。歌い終わった桑田は、「こんな60を過ぎた歌い手のために、みなさんほんとありがとなー!」と感謝の気持ちを伝えた。
「私も60過ぎましたけど、まだまだひよっこ!」という言葉から始まった「若い広場」、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』の主題歌のこの曲で、ライブはこの日最大のピークを迎える。ステージ中央にはドラマの中の人気キャラクター「イチコ」が置かれ、昭和な衣装をまとったダンサーたちが踊り、華やかで、賑やかで、でもどこかほんのりとせつない空気に東京ドームが包まれる。
後半は、バンド・メンバーによるインストゥルメンタルから、『がらくた』の1曲目「過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)」と「オアシスと果樹園」、そして30年前にリリースされた最初のソロ・シングル「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」へ。曲に合わせて、30年前から現在までの桑田の歴代の写真がビジョンにどんどん映されていく。
さらに、2001年の大ヒット曲「波乗りジョニー」で、ドームに多幸感が満ち満ちた、と思ったら、本編ラストの「ヨシ子さん」で空気が一転。映像、巨大バルーン、スモーク、大量のダンサー、ヨシ子さん本人──ステージが、もはやどこを観ていればいいのかわからないくらいのカオス状態と化す。
アンコールでは、また「がらくたライト」の光がドームを埋めた「白い恋人達」などの5曲がオーディエンスに贈られる。ラストは「明日晴れるかな」。ライブが終わる寂しさを「明日」という始まりにつなげていく、感傷と同時にポジティヴィティを描くおなじみの名曲で、桑田はこの幸福な時間を終わらせた。
2010年代に入って以降の桑田は、サザンオールスターズもソロも含めて、「聴き手に何を届けるべきか」というところにシリアスに照準を絞って曲を書いてきたように、今になると感じる。
病による療養と休止、復帰、その直後の東日本大震災、無期限休止していたサザンの活動再開──というさまざまな出来事の中で、聴き手に真摯に向き合いたい、聴いてくれた人にいい作用を持つ歌を作りたい、もっと大きく言うと自分と聴き手が今のこの世の中を生きていくための歌を歌っていきたい、という気持ちが強くなっていったのではないだろうか。ゆえにメロディはどんどん親しみやすいものになり、歌詞はどんどんストレートなものになっていったように思う。
そんな切実な思いに満ちたものに楽曲がなっていったことで、もともとそれと共に桑田の音楽が持っていた、いい意味での猥雑さや、インモラル感は──つまり、カオスな部分は、前面に出なくなっていった、とも感じる。
その、前者のストレートなメッセージ性と同時に、後者のカオスな部分も表れた、つまり桑田のすべての武器が前面に出てきたのが、「ヨシ子さん」というリード・シングルに導かれた『がらくた』というアルバムだったのではないか。ということに、このツアーを観て、改めて気づかされた。
『がらくた』を作って、このツアーをやったことで、いろんな意味で言わば「次に何をやってもよくなった」、そんな自由な地平に立っているのが、今の桑田佳祐なのではないかと思う。
そういえば、2018年は早々にサザンオールスターズの名曲たちを使った三ツ矢サイダーのCMが流れている。このあとどんな展開があるのかは知らないが、「2018年はサザンでCM出ただけでした」という結果になることはあまり考えられないので、どう動くのか、楽しみに待ちたいと思う。
文=兵庫慎司
2018年4月4日(水)発売
●初回限定盤 <LIVE+CINEMA+BOOK>
完全生産限定 “ソロ30年目の衝動”メモリアルパッケージ ※三方背BOX仕様
[Blu-ray 初回限定盤] VIZL-1900 ¥9,800+税
[DVD 初回限定盤] VIZL-1901 ¥9,800+税
『がらくたライブ』 + 映画『茅ヶ崎物語 〜MY LITTLE HOMETOWN〜』(スペシャルジャケット仕様)
+ KUWATA KEISUKE 2017 BOOK
●通常盤 <LIVE>
[Blu-ray 通常盤]VIXL-1000 ¥6,800+税
[DVD 通常盤]VIBL-1500〜1501 ¥6,800+税
・しゃアない節
・男達の挽歌(エレジー)
・MY LITTLE HOMETOWN
・愛のプレリュード
・愛のささくれ~Nobody loves me
・大河の一滴
・簪 / かんざし
・百万本の赤い薔薇
・あなたの夢を見ています
・サイテーのワル
・古の風吹く杜
・悲しみよこんにちは
・Dear Boys
・東京
・Yin Yang(イヤン)
・君への手紙
・若い広場
・ほととぎす [杜鵑草]
・過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン)
・オアシスと果樹園
・悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
・波乗りジョニー
・ヨシ子さん
・スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)
・銀河の星屑
・白い恋人達
・祭りのあと
・明日晴れるかな
-BONUS-
・ダーリン
・明日へのマーチ
・ひよっこ 紅白特別編
・若い広場 (Live at YOKOHAMA ARENA -2017.12.31-)
■「がらくたライブ」スペシャルサイト
http://special.sas-fan.net/special/garakutalive/
2018年4月4日(水)発売
●Blu-ray ASBD-1207 ¥3,000+税
〇本編 〇英語字幕版本編(ボーナス映像) 〇予告編1 〇予告編2
●DVD ASBY-6111 ¥3,000+税
〇本編 〇予告編1 〇予告編2
【スタッフ】
監督: 熊坂出
制作プロダクション: スタジオブルー
【キャスト】
宮治淳一 中沢新一
加山雄三 萩原健太 小倉久寛
神木隆之介 野村周平 賀来賢人 須藤理彩 安田顕
桑田佳祐
☆第6回茅ヶ崎映画祭特別招待作品
☆第37回ハワイ国際映画祭賞、Spotlight on Japan正式上映作品
☆広島国際映画祭2017特別招待作品
発売元/販売元:アミューズソフト (C)2017 Tales of CHIGASAKI film committee
映画「茅ヶ崎物語~MY LITTLE HOMETOWN~」公式サイト:http://tales-of-chigasaki.com
製作:「茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~ 」実行委員会
■映画『茅ヶ崎物語 〜MY LITTLE HOME TOWN〜』
http://tales-of-chigasaki.com/