北欧のデザインを通じて、本当の豊かさとゆとりを味わう 『デンマーク・デザイン』展をレポート

レポート
アート
2017.11.24

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新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で、2017年11月23日(木・祝)~12月27日(水)の期間、日本・デンマーク国交樹立150周年記念『デンマーク・デザイン』展が開催される。本展は、長崎県美術館と横須賀美術館、静岡市美術館を経て巡回してきた展示で、約200点以上もの作品がずらりと並ぶ、非常に充実した内容だ。以下、すぐにでも生活に採り入れたくなる、素敵なデザインに満たされた展示空間をレポートする。

高いデザイン性と品質が保たれる理由

本展冒頭においては、ロイヤル コペンハーゲンに代表される高品質の磁器が紹介される。磁器は中国からヨーロッパに渡り、ドイツのマイセンを通じてヨーロッパの各所に入った。ロイヤル コペンハーゲンはデンマーク王室の援助を受けて御用達窯となり、現在も王冠のマークを使っている。

デンマークでは古くから王家があり、マイスター制度の下で高いデザイン性と高い品質を誇る制作スタイルが保たれてきた。それが現代に繋がる優れたデンマーク・デザインの下地となっている。

左より 皿(ブルーフルーテッド)、バターパット(ブルーフルーテッド)、コンポート(ブルーフルーテッド) いずれもロイヤル コペンハーゲン

左より 皿(ブルーフルーテッド)、バターパット(ブルーフルーテッド)、コンポート(ブルーフルーテッド) いずれもロイヤル コペンハーゲン

デンマーク・デザインの先駆けとなるデザイナーとしてはコーオ・クリントが挙げられる。クリントは人体のかたちにフィットしたデザインを重視しており、人間工学の祖でもある。伝統を大切にしつつ、時代のニーズに合う形や機能性を考えるクリントの姿勢は、現代のデンマークのデザイナーにもそのまま受け継がれている。

左より 椅子KK37580<レッドチェア>、ペンダント・ランプ(レ・クリント 101C)、テーブルランプ(レ・クリント 306) いずれもコーオ・クリント

左より 椅子KK37580<レッドチェア>、ペンダント・ランプ(レ・クリント 101C)、テーブルランプ(レ・クリント 306) いずれもコーオ・クリント

暮らしを重視するデンマークの人々の姿勢

本展は製品だけではなく、実生活におけるレイアウト例も併せて紹介している。会場は特に1950~70年代のデンマーク・デザインの黄金期の作品が充実しているが、過去の写真と共にレイアウトされているものも多く、当時どのように使われていたか想像しやすくなっている。それらは、2017年現在の一般家庭の生活空間に置かれても違和感がないだろう。無駄のないさっぱりとしたデザインであり、自然素材が多く用いられたデンマーク・デザインの家財は、時代を越えて成立しうるのだと実感させられる。

椅子 JH503(ラウンドチェア/ザ・チェア) ハンス・ヴィーイナ(ウェグナー)

椅子 JH503(ラウンドチェア/ザ・チェア) ハンス・ヴィーイナ(ウェグナー)

デンマーク・デザインの家具は魅力的なものばかりだが、とりわけ椅子が目をひく。デンマーク・デザインの御三家といわれるハンス・ヴィーイナ(ハンス・ウェグナー)やアーネ・ヤコプスン(アルネ・ヤコブセン)、フィン・ユールは、ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンがアメリカ大統領選挙戦の討論会の際に使った「ラウンドチェア/ザ・チェア」や、SASロイヤルホテルに置かれた「エッグチェア」「スワンチェア」、デンマーク王も腰かけた「チーフテンチェア」など、いずれもキャリアを代表する椅子を創っている。

左より 肘掛椅子(スワンチェア)、肘掛椅子(エッグチェア) いずれもアーネ・ヤコブスン(アルネ・ヤコブセン)

左より 肘掛椅子(スワンチェア)、肘掛椅子(エッグチェア) いずれもアーネ・ヤコブスン(アルネ・ヤコブセン)

椅子(チーフテンチェア) フィン・ユール ※中央

椅子(チーフテンチェア) フィン・ユール ※中央

他にも数々のデザイナーが素晴らしい椅子を生み出しており、それらはいずれも値が張る。しかしデンマークの人々は好きな椅子を買うために、せっせとお金を稼ぐそうだ。

椅子は一人で考え事をし、対面で話をし、複数人で仕事をする場を提供する。孤立ではない個人の時間を豊かにする椅子が重要視されている点は、デンマーク人たちの暮らしに対する姿勢を象徴しているように思う。

左より 椅子(パントンチェア)、椅子(パントンチェア)、椅子(ハートコーンチェア) いずれもヴぇアナ・パントン

左より 椅子(パントンチェア)、椅子(パントンチェア)、椅子(ハートコーンチェア) いずれもヴぇアナ・パントン

実際に座って感じる”居心地の良さ”

最後のコーナーには、実際に座ることができるハンス・ウィーイナ[ヴェグナー]がデザインした椅子が置かれており、写真撮影も可能だ。椅子はいずれもおしゃれでインテリアとしても優れているが、一度座ると立ち上がれなくなるほどの居心地の良さを提供するもののや、姿勢良く座ることができるもの、また座った姿が椅子を含めて美しく見えるものなど、座り心地や機能もそれぞれの特徴を持っている。デザイナーは、置かれる場所や使用者の生活スタイルなどに目配りして設計したのだろう。いずれも制作時のコンセプトや、裏にある深い哲学を感じさせた。

“本当のゆとり”を実感する

デンマークのデザインが魅力的なのは、冬の日照時間が短く、居住空間の整備を重視したことが理由の一つと言われている。日の光が少なければ、太陽に焦がれて照明を明るくしたり、家の中を充実させたければ、贅沢な装飾品を揃えたりするという方法も考えられるが、デンマーク・デザインの照明の光は柔らかく、家具はいずれもシンプルで華美な要素がない。恐らくデンマークの人々は、足りないものを数えて埋めるよりも、今あるものを活かすことに優れているのだと思う。

豊かさのイメージは人によって異なるだろう。しかし、デンマークの家財や日用品等に囲まれ、デザイナーたちが体現するコンセプトを享受できる生活は、この上なく豊かであるに違いない。それは金銭的な意味ではなく、精神的・感情的に満たされた状態であり、身近にあるものを愛おしむ暮らしである。寒い冬を迎え、日照時間が短くなり、年末の慌ただしさを迎えるこの季節、“本当のゆとり”を実感できる本展に、是非足を運んでいただきたい。

 
イベント情報
日本・デンマーク国交樹立150周年記念
デンマーク・デザイン​

会期:2017年11月23日(木・祝)~12月27日(水)
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
開館時間:午前10時-午後6時、金曜日は午後7時まで(入館は閉館30分前まで)
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