寺島しのぶの“心を動かす仕事” 「存在だけで表せるようなヘッダ・ガブラーになりたい」

インタビュー
舞台
2018.2.19

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〈寺島しのぶの『ヘッダ・ガブラー』〉という響きには、条件反射的に吸い寄せられてしまう強烈な磁力がある。『人形の家』で知られるイプセンのこの傑作が書かれたのは19世紀末。100年以上を経てなお色褪せない主人公ヘッダは気位の高い新妻だ。真面目だけが取り柄の夫には不満だらけで苛立ちを隠さない。そして過去に関わった男たちが何やら不穏な影を落としてくる──。ほら、もうザワザワと胸騒ぎがしてきた。

――『ヘッダ・ガブラー』の舞台は何かご覧になってますか?

以前、TPTの公演で観た佐藤オリエさんのヘッダが鮮烈でした。ベニサン・ピットの空間、デヴィッド・ルヴォーの演出も素晴らしかった。何よりオリエさんの立ち姿、存在感、すべてが「ヘッダ以外の何者でもない!」という感じで忘れられないですね。そうしたら去年、オリエさんと舞台で共演させていただく機会があって、「しのぶちゃん、そろそろヘッダやってみたら?」と薦めてくださったんですよ。「いや〜、私の中のヘッダのイメージはオリエさんですから!」なんて言っていたら、今回のお話をいただいたのでビックリ。今はできるだけ子供との時間を大切にしたいので、どうしても時間に限りがあるんです。だからこそ、自分が心を動かされる仕事をしたい。オリエさんとそんな話をしたのも何かの縁だろうし、これは挑戦してみようと思いました。

――演出の栗山民也さんとはトム・ストッパードの『アルカディア』(16年)以来ですね。

あの作品は過去と現在が複雑に入り組んだ群像劇で、まず全体像を把握するという稽古だったんですね。今回は人数も少ない会話劇だから、また違う稽古の面白さがあると思います。栗山さんが最近演出された『アンチゴーヌ』も素晴らしかったと聞いているので、ご一緒できるのがうれしいですね。

――ヘッダは常に苛立ちを抱えている女性で、周りの人間関係をかき乱しながら自分も破滅に近づいていきます。台本を読まれていかがでしたか。

私はイプセン作品の経験もないので特に先入観もないんですが、数回読んだ限りでは「……みんなバカだなぁ」って印象が強いですね(笑)。今の常識から考えると、誰ひとりとして正統な人間が出てこないんですよ。ヘッダが最後に取る行動も納得できないし、今は疑問だらけです(笑)。ヘッダは周りに対して相当ヒドいことをするんですが、それが嫉妬から来るのか、本物の悪女なのか。

台本には人物の内面が細かく書かれていないから、その余白は役者がきっちり埋めていかないと現代のお客さんには納得してもらえないんじゃないかと思っています。栗山さんがどんな価値観を持った女性像としてヘッダを創っていかれるのか、興味がありますね。

――年明けは唐十郎さんの『秘密の花園』で、ずぶ濡れになりながらまったく違う二役を演じていらっしゃいましたよね。一筋縄ではいかない役が続くのも寺島さんらしいような……。

楽屋に来てくださった方々に「また大変なものばっかりやって……」とよく言われます(笑)。読んですぐ理解はできなくても、人間が面白く描かれているとやってみたくなるんです。どんなに「バカだなぁ」と思う人物でも、自分なりに腹に落とせれば楽しくなるし、それが人間の面白さでもあるので。今回は究極を言えば、台詞がなくても存在だけで表せるようなヘッダ・ガブラーになりたい。ただ台本に「みんなに愛されるヘッダ」とか「その美貌が」とか書かれているのが困っちゃいますけど、そこはトータルで見ていただいて(笑)。「この女ならこうなるのも仕方ないな」という説得力を持たせられればと思います。

――ちなみに映画の方では今度アメリカのインディペンデント・スピリット賞の主演女優賞(平栁敦子監督『オー・ルーシー!』)にノミネートされたそうですね。しかもフランシス・マクドーマンド(『スリー・ビルボード』)たちと並んで! 3月3日の授賞式にも出席されるとか。

そうなんですよ、こんなに光栄なことってないですね。海外では無名女優がノミネートされるだけで奇跡に近いんです。それくらい価値ある賞なので本当にうれしい。

――映像も舞台も充実期ですね。まずは4月の『ヘッダ・ガブラー』、楽しみにしています。

ありがとうございます。栗山さんとじっくり創っていけそうなので、私も稽古が楽しみです。

インタビュー・文=市川安紀 撮影=園田昭彦

公演情報

シス・カンパニー公演『ヘッダ・ガブラー』

日程:2018年4月7日(土)~4月30日(月・祝)
会場:Bunkamura シアターコクーン


出演:寺島しのぶ/小日向文世/池田成志/水野美紀/佐藤直子/福井裕子/段田安則 

作:ヘンリック・イプセン 
翻訳:徐賀世子 
演出:栗山民也 
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