『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』が開幕 井上芳雄「本物は迫力があります!」

2018.2.21
レポート
アート

井上芳雄

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国立新美術館にて、『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』(2018年2月14日〜5月7日)が開幕した。本展では、スイスの大実業家エミール・ゲオルク・ビュールレによる、印象派・ポスト印象派を中心とした珠玉のコレクションを紹介。64点の出展のうち、33点は日本初公開で、過去に盗難被害にあったセザンヌの《赤いチョッキの少年》や、スイス国外で初のお披露目となるモネの《睡蓮の池、緑の反映》など、貴重な作品も含まれる。

2020年には、全作品がチューリヒ美術館に移管されることが決まっているビュールレ・コレクション。熱心なアート・コレクターでもあったビュールレによる、洗練された作品群をまとめて鑑賞できるのはこれが最後の機会だ。一般公開に先立ち催された内覧会より、本展の見どころを紹介しよう。

左:E.G.ビュールレ・コレクション財団 理事長クリスチャン・ビュールレ氏 右:E.G.ビュールレ・コレクション財団 館長ルーカス・グルーア氏

ビュールレ個人の美術史を究極の形で表現

E.G.ビュールレ・コレクション財団館長のルーカス・グルーア氏は、印象派・ポスト印象派への強い関心が反映されているコレクションに、印象派以前のオールド・マスター(18世紀以前に活動していたヨーロッパの優れた画家)や、20世紀前半の前衛的な画家の作品が加えられたことで、「印象派の傑作に歴史的なコンテキストを与えている」と説明する。その中には、ドラクロワ、アングル、コロー、マネ、ピカソ、ブラックなど、名だたる巨匠の作品が含まれている。

ルーカス氏は、ビュールレ・コレクションの特徴について「西洋美術史全体からビュールレ自身の個人的な美術史を選んで、収集作品で自らの美術史を究極の形で表現したのです」と語る。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 《アングル夫人の肖像》 1814年頃

18世紀に活躍した巨匠、ドミニク・アングルの描いた肖像画《アングル夫人の肖像》では、緻密な描写が特徴的なアングルの様式とは異なり、夫人の身体は荒いタッチで描かれている珍しい一品だ。

アントーニオ・カナール(カナレット) 《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア》 1738-42年頃

ポール・シニャック 《ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝(サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂)》 1905年

また、同じ聖堂というモチーフを描いた作品でも、景観図を得意としたイタリアの画家アントーニオ・カナール(カナレット)とポスト印象派の画家ポール・シニャックの作品を比較すると、およそ170年の間に美術の様式が多様化したことが実感できる。このように、19世紀以前から20世紀はじめに至る、絵画史の変遷を意識しながら鑑賞するのも面白そうだ。

カミーユ・コロー 《読書する少女》 1845-50年

印象派コレクションの宝庫

セザンヌ、ルノワール、モネ、ドガ、ファン・ゴッホ、ゴーギャン……。そんな有名画家たちの作品が一度に見られる本展は、印象派好きにはたまらない空間だろう。印象派に影響を与えた19世紀の画家マネや、印象派の父として若い画家たちと共に活躍したピサロの作品も紹介されている。

エドゥアール・マネ 《燕》 1873年

カミーユ・ピサロ 《会話、ルーヴシエンヌ》 1870年

光の移ろいをキャンバスに留め、明るい色彩で画面を彩ったモネやルノワール。素早いデッサンで人物の動きを描くドガ。西洋文明から逃れて、鮮やかな色彩をタヒチで追求したゴーギャン。充実した印象派コレクションを、心ゆくまで堪能しよう。

クロード・モネ 《ジヴェルニーのモネの庭》 1895年

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《泉》 1906年

エドガー・ドガ 《リュドヴィック・ルピック伯爵とその娘たち》 1871年頃

エドガー・ドガ 《14歳の小さな踊り子》1880-81年(ワックスによる原作)/1932-36年(ブロンズによる鋳造)

ポール・ゴーギャン 《贈りもの》 1902年

フィンセント・ファン・ゴッホ 《花咲くマロニエの枝》 1890年

過去に盗難被害にもあった、セザンヌの《赤いチョッキの少年》

今から10年前の2008年2月10日、武装集団によって、ビュールレ・コレクションの4作品が盗まれる事件が起こった。その後作品は無事返還され、今回の展覧会ではそれら4点の作品すべてを鑑賞できる。その中には、ビュールレ自身が「自分のコレクションの中心であり、誇りである」と語る、セザンヌの《赤いチョッキの少年》も含まれている。

ポール・セザンヌ 《赤いチョッキの少年》 1888-90年

本展には、セザンヌとファン・ゴッホの作品が6点ずつ出展され、画家の作風の変化を辿ることができる。それについてルーカス・グルーア氏は、「個人の生涯に渡って作品を集めることで、その画家が自己を模索していた初期の頃から、いかにして自己表現を見つけるに至ったかを見ることができる」と解説する。

ポール・セザンヌ 《パレットを持つ自画像》1890年頃

ルノワールの描いた《可愛いイレーヌ》と、モネの巨大な《睡蓮の池》

銀行家の伯爵令嬢で、当時8歳の愛らしい少女を描いたルノワールの肖像画《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》は、ビュールレが老年のイレーヌ本人から直接購入した作品だ。背景に茂る緑と、少女の栗毛が溶け合うように一体となり、桃色の唇や肌の白さが際立っている。睫毛の一本一本が丁寧に描かれたさまは、かつて陶器の絵付けをしていたルノワールの技術も感じられる。子猫のように丸まった、小さな手も可愛らしい。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》 1880年

モネが過ごしたフランス郊外の街・ジヴェルニーの庭にある睡蓮を描いた、幅4メートルを超える大作《睡蓮の池、緑の反映》。ルーカス・グルーア氏によると、本作は元々、フランス政府に提供するために制作したのだという。ところが、モネは必要以上に作品を作ってしまい、余ったものを息子・ミシェルが相続。ビュールレが購入した作品は、その内の一点だそうだ。スイス国外で公開されるのは本展が初の試みで、この後しばらく来日する予定はないとのこと。貴重な機会を、ぜひ逃さないようにしよう。

クロード・モネ 《睡蓮の池、緑の反映》 1920-26年

井上芳雄「色彩や筆の動きがリアルに伝わってくる」

本展の音声ガイドを担当するのは、ミュージカル俳優であり、近年は大河ドラマでの活躍も著しい井上芳雄だ。プレス取材では、初体験となる音声ガイドの感想を語った。

「ナレーションだけでなく、ガイドには画家の台詞もたくさん出てくるので、人物を演じるのが楽しかった。ファン・ゴッホの声を聞いたこともないので、僕なりのイメージで声をあてました。(ガイドに登場する)画家や絵のイメージを膨らませながら、声色を変えています」

また、モネの作品《睡蓮の池、緑の反映》を前にして、「こんな緑、こんな青は見たことない……。何色とも言えない色が画面いっぱいに広がっていて、色彩や筆の動きがリアルに伝わってきます。本物は迫力があります!」と、感動を噛み締めている様子だった。

会場エントランス

『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』は2018年5月7日まで。印象派をはじめ、近代絵画の傑作が集う空間に、足を運んでみてはいかがだろうか。

イベント情報

至上の印象派展 ビュールレ・コレクション
会期:2018年2月14日(水)~5月7日(月)
開館時間:午前10時~午後6時
(毎週金・土曜日、4月28日(土)~5月6日(日)は午後8時まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日(ただし5月1日(火)は除く)
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区六本木7-22-2)
観覧料:当日一般1,600円(1,400円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生800円(600円)中学生以下無料。
・( )内は20名以上の団体料金。
・障がい者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は無料
展覧会ホームページ:http://www.buehrle2018.jp/
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