Nulbarich ライブも楽曲注目度も上昇する、ヒップホップやロックの新しいアプローチと共振するサウンド
Nulbarich/JQ 撮影=西槇太一
3月からのアルバムツアーが全てSold Outし、Nulbarichのライブに対する期待感の高さが伺える中、肝心の2ndアルバム『H.O.T(ホット)』がリリースされた。昨年(2017年)は数々のフェスやジャミロクワイのサポートアクトなども経験し、より彼ららしさを自ずと認識するタイミングとなり、結果、よりエモーションやドープな部分も反映したアルバムになった印象だ。敷居は低く、でも一旦入ると世界で同時進行しているヒップホップやロックの新しいアプローチと共振するサウンドに楽しい驚きがあるはず。また、バンドの軸であるライブも、東京での待望の再追加公演も決定。さらにはアネッサの新CM楽曲も提供と、ニュース続きのNulbarich。今回はキーマン・JQに、新作、そして2018年の方向性を訊いた。
このアルバムを引っさげて、ちゃんと2017年を超えていく、アップデートされたNulbarichを作っていくっていう気持ちが強かった。
――今回の2ndアルバムに向かう際に、顕著にバンドに起こった変化とか、実際にどう反映されたかを訊かせてください。
去年1年、ワンマンライブだったり、フェスにめちゃめちゃ出させてもらったり、ジャミロクワイのサポートをやらせてもらったり、最後には初めてのワンマンツアーもして、初めての経験ばっかりだったんですね。その中で、バンドが急に変えたアレンジから新たな曲のインスピレーションが生まれたり。たくさんの経験をしたからこそ、今回のアルバムもバラエティに富んだトラックリストになってるかなと思います。
――登場当時の、グルーヴィでアーバンなイメージから、だんだん今のロックバンド的なアプローチに変化してきたのかな?と。
去年一番インプットが多かったのがフェスだと思うんですが、その中でも、僕たちがもともとやっていたバックボーンっていうのは変わらず不変なものとして置きつつ、そこにいる人を楽しませるっていうところに、フェスは特化していくと思うんで。その時に感じたものとかが反映しているのかなと思います。
――それは洋楽・邦楽混交フェス的なものからの影響ですか?
世界的な流れとかっていうよりも、僕たちが経験した、僕たちから見える景色の中からの、ライブのアゲ方だったり。だから1stアルバムよりちょっと……よりエモさみたいなものも入っちゃってるというか(笑)。ま、でも、変わらずマイペースにいたいのは変わらないんですけど、よりロック色は強くなってるかもしれないですね。
――自然に出たものであると。
『Guess Who?』と『Who We Are』を引っさげてフェスを回ってた時期を経て、新たな自分たちを探しに行ってる感じが『Long Long Time Ago』から僕たちの中であったので。その一旦の集大成が今回のアルバムかなと思ってます。
――まず、イントロダクションが1stより長くなっていて、街の喧騒だったりとか、ポストダブステップ以降のビートもあって、アルバム全体のベクトルがなんとなく伺えますね。
今回、イントロやインタールードを、それを無しにして1回聴いた時に、全然まとまってなかったんです。なので前回同様、思ったようにまず曲を作って、そこから並べる、その作り方は相変わらずなんです。今回の作品は一個コンポーズするにあたって、自分の中でまとめるときにライブを想定して作ったというか、インタールードで一旦世界観をリセットする。で、2曲目のその一秒目のインパクトを作ってる。今回、インタールードが一番感情的になる(笑)、そういうポジションにあるんですよね。
――確かにそうかも。インタールードによって情景や温度が変わるからでしょうね。
おそらく、ライブだとMCとかちょっと軽いセッションが入る場所になるのかなって思いますね。
Nulbarich/JQ 撮影=西槇太一
――新曲はかなりドープな世界観で。「Handcuffed」って手錠って意味ですよね。
そうです。歌詞の中に入ってるんですけど、<My Heart is Handcuffed>っていう、自分の心が……ちょっと失恋に近いんですけど、<君の元を離れてから僕の心は手錠にかかったみたいに苦しい>っていうフレーズがあって。「Zero Gravity」も含めてですけど、結構、ワードチョイスも1stでは使ってこなかったワードを使って、より表現の幅は広がっていってるのかなと思いますね。
――それにマイナーチューンが多いですね。
今回は、超キャッチーにしたいというよりは、気持ちいいとこに落としたいっていうイメージでしたね。
――「Spellbound」もなかなか重みのある曲ですね。
そうですね。この曲って、陰と陽、動と静というか、ヴァース部分ではすごく落ち着いているけど、サビの部分で急にエモくなる、みたいな。こういう言葉が合ってるのかわからないですけど、魔法にかかってる状態。サビで急にぐわーってなる感じも、ライブから得た感情というか。結構、曲の最後の方でバンドが厚みを増して演奏している時のイメージが、曲に落とし込まれているんですよね。
――EP(『Long Long Time Ago』)にも収録されていましたけど、今回の曲順で聴くと、改めてアルバム全体に厚みがあるなと感じました。
確かに。アルバムになると、曲順とか、出てくるタイミングとかでほんとに表情が変わるので、「Spellbound」はどうしても入れたかったんですよね。
――子供の声のサンプルも入っていて、胸を締め付けられる情景も浮かびます。
そうですね。一個の思いっていうのを……この曲に関してはそのまんまというか。歌詞にある<立ち尽くす雨の中で>っていうのも、救い出したい気持ちやいろんな思いが重なった曲なので。まぁでも、それぞれの感じで聴いてもらえたらなと。
――“そのままでいいんだ、なるようになるよ”だけじゃない。
日々いろんなことを感じて、痛みを感じたり、いろんな経験をした上で“そのままでいいよ”って言いたいっていう思いがそこに現れてると思うし。今のままでもいいし、自分のペースでやればいいし、好きにしていいよっていうのは言い続けたい。何を経験してもそれを言い続けたいというか、その言葉に重みを増していきたいなとは思うんです。
――それがより、今回のアルバムを記名的なものにしているんじゃないでしょうか。
そうですね。やっぱり、去年はバンドメンバーと一緒に何かを感じることが多かったので。みんなのマインドセットというか、向かってる先とかも割と一緒というか。好きなものは違えど、歩む道は一緒だったりとか。より仲良くなったかなって気はします。
Nulbarich/JQ 撮影=西槇太一
一年ぐらい東京のワンマンが手に入らない状態だったので、いよいよ飽きられるぞって。お待たせしましたというか、助けに来てください(笑)。
――そして「ain’t on the map yet」はミュージックビデオも可愛らしいですね。
もともとミュージックビデオは監督さんの作品だと思っていて、そのBGMが僕たち、っていう印象というか。僕たちの楽曲を渡して、ある程度、質問とかがあって、コンセプトがまとまった時に監督さんが“スクールもの”っていうのを提示してきてくれたんです。その発想は僕には全くなくて、なんか斬新すぎて。しかも、本当に伝えたい部分はすごく理解されていて。そこ(本当に伝えたい部分)は一緒なのに、表現の仕方が違うだけでこんなに面白くなるんだ?って、コンテを見た時に思いました。自分たちらしさとか、そんなの関係なしに“その作品見たい!”っていう思いになったんです。そこから“Nulbarichらしさ”っていうところも含めていろいろ話はさせてもらったんですけど、一番最初の“スクールもの”、生徒が先生に恋をするじゃないですけど、ベタに表現されて、意外とケミストリーが起きたんじゃないかと思ってます。
――生徒と先生は、好きなもので繋がったわけじゃないですか? 最後に一緒に踊ってるし(笑)。
そうですね。ほんとにあの表現方法というか、あの世界観は僕たちにとっても勉強になったし、ハマったと思えたので。やっぱり興味の湧くものじゃないと面白くないというか。ある意味ベタなのかもしれないですけど。“あ、なんか面白いな”と思った、いい意味でサプライズができるのかな?って思えたんです。
――では、その“本当に伝えたいこと”って?
感情の部分としては、無邪気な、根拠のない自信っていうのがこの曲のテーマになっていて。なんていうのかな……小さい男の子が “僕がお母さんを守るんだ”みたいな(笑)、根拠のない自信と、それに対してお母さんが微笑ましくしている感じというか。実際<離さないでhang on tight>って歌ってるんですけど、掴まる方は“乗ってあげてる”ぐらいのテンションで。でもこっちは無邪気に愛を伝え続けていて、いずれそれがちゃんと繋がればいいなぐらいの。伝わらないことの美しさというか、子供の頃の無邪気な思いみたいなものがこの曲のテーマだったりして。筋が通ってないとか、言ってることは馬鹿げてるけど、“あ、ちょっと面白いかも”みたいな感じですね。
――あのMVを見て、このアルバムを聴いた人はまた印象が違うでしょうね。
そうでしょうね。でもミュージックビデオって力があるので、伝えたい根本の部分は作品と絶対に合ってないと誤解されちゃうと思うんですけど、あの曲に関しては、真ん中の軸は何も間違っていない。むしろ一番伝えたいことを言っているので。
――そして前作のEPからだと思うんですが、大きな意味でバンドとしてヒップホップ的なアプローチが顕著ですね。
そうですね。ヒップホップっていうのは常に僕のベーシックにはあるので、そこから取り入れられる音色とかは、日々触れている中でナチュラルに入ってくるので。サウンドも、今後も自然に変わり続けるだろうし。むしろ変わっていきたいというか。アップデートされてないと意味ないなと思うんですよ。まぁ自分たちらしさっていうのは、おそらく自分たちが決めることではないというか、出ちゃってるものがあると思うので、ブレることを恐れずちゃんと変化していきたいなと思いますね。
――特に一昨年、去年ぐらいからヒップホップのアーティストが出している音が知的だし、興味を惹かれますよね。
そうですね。やっぱりヒップホップって歌詞の世界観も含めて深いというか、リリックじゃないですか? メロディに乗せるよりは直接的で、その感情的な部分も直接、楽曲に入っているので。それこそチャンス・ザ・ラッパーとか、言葉の届け方も含めて、時に鋭く時に優しくっていうところでは、ヒップホップが動かす感情は影響はされているのかもしれないです。
――JQさんの歌詞は英語と日本語がミックスされていたりとか、英語だけだったりもするけど、メロディというより独自の発明っていう感じがします。
確かにメロよりは……流れはあると思うんですけど、言葉を置きに行ってるイメージはあるかもです。全然聴き流してもらってもいいけど、“ちゃんと言ってんぞ”っていう思いもあります(笑)。なんでもいい言葉は並べてないので。
――そしてアルバムタイトルは“H.O.T”でホットと読むんですね。
はい。“熱い”と“イケてるぜ”って意味と、「Hang On Tight」の略で、“しっかり掴まっててね”っていうのを混ぜて。自分たちがこの先に進むっていうか、このアルバムを引っさげて、今年ちゃんと2017年を超えていく、アップデートされたNulbarichを作っていくっていう気持ちが強かったので。“先に行くよ”っていう意味じゃなくて、“俺たちちゃんと次に行くから、一緒に行こうね”って。……というか、みんなの力がないとどっちにしろ無理なので、掴まってくれたら僕たちが責任持って引っ張って行くよ、っていう。できるかどうかはわからないけど、思いだけはあるな、と(笑)。
――(笑)。そしてリリースの一週間後からツアーがスタートしますが、全会場完売ですね。
それがですね、4月25日(水)に東京・Zepp Divercity Tokyoで、最後の最後の追加公演をやることになったので是非来てください(笑)。さすがにこのタイミングでZeppは……ちょっと頑張らないと(苦笑)。3月の新木場STUDIO COASTのが完売したのがすごく前なんですよ。で、丸一年ぐらい、東京のワンマンのが手に入らない状態だったので、ちょっといよいよ飽きられるぞってことで(笑)。
――“もう東京公演ないかな”と諦めてた人はぜひ!ですね。
そうですね。もともとツアーにするつもりもなかったんですけど、それがツアーになって、“ツアーになりました”って出した瞬間に東京だけ2公演Sold Outしちゃってる状態で発表してるんで、“いや、ないんかい! なんのツアーやねん!”と(笑)。
――(笑)、逆に“なんかあるんちゃうん?”と思ってた人もいるでしょうね。
“実はファイナルがあるんじゃないの?”て、まず親に言われました。
――ははは!
預言者なのかなっていう(笑)。
――(笑)。東京の皆さん、お待たせしました、ということで。
お待たせしましたというか、是非是非、助けに来てください(笑)。
取材・文=石角友香 撮影=西槇太一
Nulbarich/JQ 撮影=西槇太一
リリース情報
2018年3月7日発売
【初回限定盤】(2CD)VIZL-1331 ¥3,500+税
初回盤
通常盤
<収録曲>
1. H.O.T (Intro)
2. It's Who We Are
3. Almost There
4. Zero Gravity
5. Handcuffed
6. In Your Pocket
7. See You Later (Interlude)
8. Supernova
9. ain't on the map yet
10. Follow Me
11. Spellbound
12. Construction (Interlude)
13. Heart Like a Pool
<初回限定盤付属Bonus CD>
初のワンマンツアー【Nulbarich 1st ONE MAN Tour】のファイナル、東京 LIQUIDROOM(12/13)よりライブ音源8曲収録。
1. It's Who We Are
2. Lipstick
3. Everybody knows
4. Spread Butter On My Bread
5. On and On
6. Ordinary
7. NEW ERA
8. Follow Me