史上初!縄文の国宝6件が勢ぞろい 『縄文―1万年の美の鼓動』報道発表会より見どころをレポート
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今から約1万3千年前にはじまった縄文時代。それからおよそ1万年間続いたこの時代に目を向けた特別展『縄文―1万年の美の鼓動』が、この夏(2018年7月3日〜9月2日)、東京国立博物館 平成館で開催される。本展は「縄文の美」をテーマに、北は北海道、南は沖縄まで、日本各地の出土品を一堂に集め紹介する。
東京国立博物館・副館長の井上洋一氏によると、2009〜2010年にかけて同館で開催された『国宝 土偶展』以来、日本の考古学の展覧会を開催するのは久々とのこと。いま、世界的にも注目が高まる「縄文造形」の優れた土器や土偶を主体として、縄文文化を展覧する内容になるという。《火焔型土器》や《土偶 縄文のビーナス(展示期間:2018年7月31日〜9月2日)》など縄文時代の国宝6件すべてが集う展覧会の見どころを、東京国立博物館・主任研究員の品川欣也氏の解説を交えつつ紹介しよう。
国宝 火焔型土器 新潟県十日町市 笹山遺跡出土 新潟・十日町市蔵(十日町市博物館保管) 写真:小川忠博
国宝 土偶 縄文のビーナス 長野県茅野市 棚畑遺跡出土 長野・茅野市蔵(茅野市尖石縄文考古館保管) 展示期間:7月31日(火)~9月2日(日)
重要文化財 遮光器土偶 青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵
現代の生活の中でも縄文時代は感じられる
氷期が終わり、温暖化の進んだ縄文時代になると、海や川、山などの景観が整い、現代の日本の自然環境と基本的には同じ環境が出来上がった。春夏秋冬を感じられる四季もこの時代からあり、品川氏は「今の生活でも縄文時代を感じられている」と話す。
約1万年間という途方もない長さの縄文時代は、草創期・早期・前期・中期・後期・晩期の全6期に区分される。縄文人の暮らしを支えた道具は、土器や石器、木製品など、それぞれ特性を持つ素材で作られていた。食料の煮炊きや貯蔵のために用いた土器の表面に、縄を転がしてつけた文様=縄文が、「縄文時代」の名称にもなっている。このように、縄文時代の人々は生活道具に装飾を施すことで、暮らしの中に美をもたらしていたのだ。
重要文化財 尖頭器 長野県南箕輪村 神子柴遺跡出土 長野・伊那市創造館蔵
土器に強い思い入れのあった縄文人
草創期の土器《微隆起線文土器》には、土器の底部付近まで装飾が施されている。品川氏は、「よく見ると、上部には細い線で描かれた線が波打つように仕上げてあり、アクセントになっている」という点に着目した。その繊細な装飾について、以下のように考察している。
微隆起線文土器 青森県六ヶ所村 表館(1)遺跡出土 青森県立郷土館蔵
「縄文土器は時期が進むにつれてうまくなっていくのではなく、最初から造形的にも優れていた。縄文人は、縄文時代のはじまりから土器に強い思い入れがあったとわかるのではないでしょうか」
中期に作られた《木製編籠》からは、繰り返し編み込まれた手作業の丁寧さが伝わってくる。「縄文ポシェット」の愛称でも親しまれている編み籠に、品川氏は「暮らしの道具の中に、縄文人の強い思いや手仕事のあたたかみが隠れている」とコメントした。
重要文化財 木製編籠(縄文ポシェット) 青森市 三内丸山遺跡出土 青森県教育委員会蔵(縄文時遊館保管) 写真:小川忠博
おしゃれとステータスを兼ねた《土製耳飾》、
畏れと敬いを飾りに込めた《鹿角製腰飾り》
晩期の作品《土製耳飾》は、直径9.8センチ、重さ75グラムの、大人の握り拳ほどある大きさの耳飾り。赤い彩色と透かし彫りが施されているが、単なるおしゃれのためではなく「文様や大きさで出自や年齢、既婚か未婚なのかなど、社会的な役割を示すものでもあった」と品川氏は解説する。
重要文化財 土製耳飾 東京都調布市 下布田遺跡出土 江戸東京たてもの園蔵
さらに《鹿角製腰飾》には、一般的な鹿の角ではなく、奇形の鹿の角が用いられている。これについて、「おそらく縄文人は、奇形の角を生やす鹿に驚き、鹿や自然に対する畏れや敬いを素材に取り入れることで、そういった力を自分のお守りにしたり、飾りとして用いたりしたと考えられます」と推測する。
鹿角製腰飾 青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵
絶え間なく変化する縄文の美
縄文土器の製作時期を見比べることで、形や装飾など、造形美の移り変わりを感じることができる。前期の土器は全面に縄目が施され、品川氏は「形はシンプルだが、縄目に思い入れのある時期」と話すが、中期になると《火焔型土器》に代表されるような、立体的な装飾が見どころになる。晩期には器面に磨消(すりけし)縄文という手法を用いて、「縄目の部分と磨き上げた部分のコントラストが美しい、工芸品のような美しさ」が際立っているとのこと。
さらに本展では、中期に作られた《火焔型土器》と同時代に作られた世界の土器を比較展示することで、美の多様性を感じられるようになっている。
縄文の国宝土偶すべてが集結!
土偶とは、粘土で作られた人形の、基本的に女性像を象ったものを指す。縄文人は、土偶に安産や子孫繁栄、豊穣、怪我や病気の治療などあらゆる願いを込めたという。縄文時代の土偶がはじめて国宝に指定されたのは1995年と、比較的最近の出来ごとだ。本展では、全国各地に散らばる国宝土偶《縄文のビーナス》《中空土偶》《仮面の女神》《合掌土偶》《縄文の女神》5体すべてが揃う。なお、《縄文のビーナス》と《仮面の女神》の2体は、展示期間が会期後半の2018年7月31日〜9月2日となっているので注意しよう。
国宝 土偶 仮面の女神 長野県茅野市 中ッ原遺跡出土 長野・茅野市蔵(茅野市尖石縄文考古館保管) 展示期間:7月31日(火)~9月2日(日)
国宝 土偶 合掌土偶 青森県八戸市 風張1遺跡出土 青森・八戸市蔵(八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館保管)
ほかにも、写実的な造形表現が見られるイノシシを象った十腰内2遺跡出土の《猪形土製品》(弘前市立博物館蔵)や、子どもの手や足あとを型にした大石平遺跡出土の《手形・足形付土製品》(青森県立郷土館蔵)なども展示される。
重要文化財 ハート形土偶 群馬県東吾妻町郷原出土 個人蔵
土偶が国宝指定を受ける44年前、フランス帰りの芸術家・岡本太郎が東京国立博物館で縄文土器と出会い、『縄文土器論』と題する論文を1952年に発表した。近年は、SNSを通じて土器や土偶を「かわいい」「面白い」と発信する機会も増えているという。
品川氏は、「研究者でもなく作家でもない、一般の人によって新たな縄文の美を発見していただければ」と締めくくった。世界に誇る縄文時代の造形美を存分に満喫できるこの機会を、ぜひ逃さないでほしい。