池内博之が不条理な生を謳い、叫ぶ!『赤道の下のマクベス』公開稽古レポート

レポート
舞台
2018.3.2
池内博之

池内博之

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3月6日(火)から新国立劇場 小劇場にて上演となる『赤道の下のマクベス』の公開稽古が2月19日(月)都内にて行われた。本作は劇作家・演出家の鄭義信による1950~1970年代の戦後の影の日本史を描いた三部作『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』『焼肉ドラゴン』に遡る第四弾。1947年の夏、シンガポールのチャンギ刑務所を舞台に死刑執行の日を待つBC級戦犯たちの交流と時代に翻弄される在日コリアンと日本人の姿が描かれる。尚、本作は2010年に韓国・ソウルにて現地の劇団のために鄭が書き下ろした戯曲で、今回大幅改訂して新国立劇場にて日本初演となる。出演には、中国映画『レイルロード・タイガー』でジャッキー・チェンと共演を果たすなど、アジアでの活躍もめざましい池内博之や日本屈指のバイプレイヤー平田満の他、浅野雅博尾上寛之丸山厚人木津誠之、チョウ ヨンホ、岩男海史、中西良介と実力派男優が揃う。

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

公開稽古では一幕までが披露された。また、稽古が始まるまで池内と平田は談笑を交えながら2人の出演場面を楽しそうに合わせていて、その様子から座組みの暖かな雰囲気を窺うことができた。

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

稽古場は庭らしき空間を囲むように仮組みされた独房が並び、舞台の中央奥の高い場所には死刑台が見下ろすように配されている。物語は蝉が鳴く声が響くや、そこはうなだれるような夏の陽気に様変わりして、BC級戦犯の死刑囚たちがそれぞれの独房から姿を表す。死刑囚たちは一様に朝から夜まで日陰のない中庭に放置され、いつ訪れるかもわからない死刑執行までの時間をだらだらと過ごしているのだった。

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

朝鮮人であり日本側の軍属だった南星(池内)は年配の日本人兵士の黒田(平田)と囲碁を打ちつつ、かつて出演した舞台『マクベス』の輝かしい瞬間を思い出しては実演して周りの人間を楽しませる。同じく朝鮮人で軍属だった小柄な青年の文平(尾上)は家族への手紙をこっそりしたため、戦時中は大尉として朝鮮出身の軍属をしごきたおしていたが、結果彼らと同じ獄に繋がれた山形(浅野)はただただ沈黙を貫く。また、その山形の部下にあたる小西(木津)はひたすら獄の壁に泰緬鉄道の路線図を書いている。
そんな彼らは悠久とも思える時間の中で、歌を唄い、自らの不条理な運命を呪いあい、配給されるビスケットに一喜一憂して、現実を楽観的に振る舞う。そんなある日、山形を恨む春吉(丸山)が収容され、復讐を企むのであった。

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

本作の見どころはまず鄭義信のリアルな人間描写だろう。死を待つ死刑囚といえど、闇雲に暗い訳ではない。池内演じる南星のように「湿っぽくなるから暗くなる話はやめようぜ」と明るく振る舞う人物もいれば、文平(尾上)のように迫りくる死の恐怖に怯え、パニックに陥りやすい者もいる。それぞれのキャラクターが人物の背景に立脚した形で“極限的待ち”の状態を共有し合うからこそ、それぞれの本質的な人間味が時間の経過とともに匂い立ってくるのである。そういった生々しい俳優の演技を引き出す鄭義信の戯曲と演出は必見の価値がある。また、南星演じる池内の喜劇的な立ち振る舞いから悲痛なまでの生への渇望の振り幅は見事であり、池内の叫びは全ての日本人が知るべき歴史的な断末魔の叫びであった。

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

『赤道の下のマクベス』

決して闇に葬られてはいけない歴史と不条理な人生の意味を問う人間のリアルな姿をその目で見届けてほしい。『赤道の下のマクベス』は、2018年3月6日(火)から3月25日(日)まで、東京・新国立劇場 小劇場にて上演される。


取材・文・撮影=大宮ガスト
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公演情報

『赤道の下のマクベス』

■作・演出:鄭義信
■出演:池内博之、浅野雅博、尾上寛之、丸山厚人、木津誠之、チョウヨンホ、岩男海史、中西良介、平田満
■公演サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_009660.html 

■会場:新国立劇場 小劇場

 【e+貸切公演】
2018年3月17日(土) 13:00開演
 


■日時:2018年3月6日(火)~3月25日(日)
■料金:A席=6,480円 B席=3,240円
 
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