森の奥で響き渡ったMay'nの力強い歌唱が明日を照らした 『Songful days』ライブレポート
撮影:高田梓
May'n、茅原実里、Kalafinaという三組の実力派アニソンアーティストが、「アコースティック」という表現でひとつの「世界」を作り出す……そんな他に類を見ないコンセプトのコンサート『Songful days -次元ヲ紡グ歌ノ記憶-』が、3月3日(土)・両国国技館で開催された。本稿ではそのオープニングを務めたMay'nのパートをレポートしよう。
国技館に生まれた静謐の森…そこに銀河の歌姫が舞い降りる
開演前の会場内に入ると、そこにはドライアイスの薄いもやが立ちこめ、ステージでは緑の照明が森の中のような美術を浮かび上がらせている。そして場内には鈴虫の鳴く声が静かに響き渡る……このコンサートのコンセプトは「何処とも知れぬ森を彷徨う旅人(観客)が、その奥で密かに開かれている音楽会に辿り着く」というもの。アニソンライブでは定番のペンライトやサイリウムなども使用禁止にして、入場時から観客が異世界に迷い込んだような雰囲気作りに取り組んでいるのだ。
アリーナ席には国技館ならではのマス席も用意され、そちらでは靴を脱いでくつろぎながらライブを楽しめる趣向となっていることもあり、観客もまったりした雰囲気にひたりながら、開演の時間を待っていた。
撮影:風間大洋
開演直前に箏曲演奏家・吉永真奈によるパフォーマンスが行われ、琴とピアノのアンサンブルによる『君の知らない物語』(『化物語』エンディングテーマ)『渡月橋』(オリジナル)の美しい調べが、観客をライブの世界観へと誘い、そしていよいよ森の音楽会の幕が開いた。
「ここはとある時代、とある国のどこかにある鬱蒼とした森…すでにこの森に迷い込んで一昼夜、あなたはどこともなく出口を探し彷徨い続けている…木々は日の光を遮るように高く、雨季でもないのにしとしとと雨が降り続け、視界も霧によって遮られ、いま自分がどちらの方角に進んでいるのかもわからない…意識が朦朧としてくる…もうダメかもしれない…そう思った瞬間、森が開けた」
「気がつけば降り続けた雨も止み、夜の帳が降りた空に満天の星…その瞬きに心を奪われていたら、誰ともなく声が貴方に語りかけてくる…ようこそ、音楽会へ」
「音がどこからか響き出す…そうだ、この音楽を聴く為に森を彷徨っていたのだ…空の星々が輝きを増す…流れる流星とともに、銀河から一人の歌姫が舞い降りる…さあ、ここだけの音楽が始まる…深く深呼吸をして、あとは楽しむだけ…」
声優・園崎未恵の幻想的なナレーションでいよいよライブがスタート。「銀河から舞い降りた歌姫」とは当然、May'nがボーカルを担当した『マクロスF』シリーズのシェリル・ノームをイメージしてのものだろう。そして暗い青の照明で染まったステージに一条の光が差し、そこに純白の衣装に身を包んだMay'nが浮かび上がる。そして重厚なギターとバイオリン、チェロ、ビオラの調べに澄んだビアノの音色が重なり「もしも君が願うのなら」(『戦場のヴァルキュリア3』主題歌)でライブ……いや、音楽会が始まった。
二曲目は力強いギターソロから始まる「Re:REMEMBER」(『M3~ソノ黒キ鋼~』主題歌)。照明は一転して刺すように明るい緑とオレンジで彩られる。このコンサート全編を通して言えることだが、特筆すべきは凝りに凝った光の演出の数々だ。曲の雰囲気や楽曲の構成に合わせて様々な光がステージだけでなく客席までも彩る様は、観客を音と視覚の両方で「森の音楽会」という異世界へ誘うかのようだ。
撮影:高田梓
「アコースティックだからこその違いが面白い」というMay'nのアプローチ
最初の二曲を終えて、ステージでは最初のMCパートが始まった。
「国技館は初めてだけど、広いのにみんなが凄く近いね! ちゃんと見えてるよ、特にマス席(笑)」と、普通のライブとは異なる客席との距離感に驚くMay'n。
「アリーナ! イエー……いいんだよ、『イエー!』って言っても」と、勝手の違うコンサートにかしこまる観客の緊張を解きほぐそうとMay'nがハッパを掛け、仕切り直しのコールでは、「アリーナ!(客「イエー!」) スタンド!(客「イエー!」) マス席ー!(客「イエー!」) マス席なんて言うことないよー! なんかうれしいです!」とご満悦。
共演する茅原実里、Kalafinaと同じステージに立つのは数年ぶりというMay'nは、ステージ袖でトップバッターを務めることに緊張していた彼女のもとに、二組が「がんばってね」と激励にきてくれたことを「この2組とのステージでよかった」と安心できたと嬉しそうに明かし、このコンサートを「特別な時間です」と意気込みを語った。
撮影:風間大洋
アコースティックコンサートであることについて「演者とともにテーマをその場で決められるし、観客の皆さん一人一人を感じながらライブを作っていきたい」とコメント。そして「アコースティックだからこそ原曲との違いが面白いことのひとつ」と捉えていることを語りながら披露した三曲目は「今日に恋色」(『いなり、こんこん、恋いろは。』OPテーマ)。
恋の歌らしい柔らかな桃色の照明演出とともに披露されたアコースティックバージョンは、アップテンポな原曲とは対照的にスローにしっとりと歌い上げるアレンジに。さらに間奏ではMay'n自身もトイピアノで演奏に参加するサプライズも。
続く四曲目は「ノーザンクロス」(『マクロスF』挿入歌)。冒頭にサビの部分をスローテンポで力強い独唱で歌い上げる導入から、激しいギター演奏をメインにしたアップテンポに転調していくという、まさにアコースティックならではの「原曲との違い」を楽しめる一曲となっていた。
撮影:高田梓
五曲目も『マクロスF』からの曲で「ダイアモンド クレバス」(『マクロスF』EDテーマ)。こちらは原曲のイメージに忠実なアコースティックバージョンといった趣。ギターとピアノのみでしっとりと聴かせていきながら、クライマックスには弦楽器も加わって壮大に盛り上げていく構成で聴く者を魅了していった。
クライマックスを飾るのは「ここにいるみんなが自分のことを愛せるように」贈る歌
ステージは再びMCパートに入り、今回のコンサートに挑む際に思ったことや、自分にとっての音楽について語りかけるMay'n。
「今回は初めてのイベントということで、すごくドキドキしていました。どういうステージにしようかという、ワンマンライブとは違う緊張感を味わっていました。でも今回は、つきあいの長い二組と御一緒させてもらえるということで、いつもの自分らしいライブでぶつかっていこうと決めました」
「毎日たくさんの人とか物とか場所とかと出会っていく中で、本当の自分というものを貫き通すというのはけっして簡単なことじゃないと思います。それでも私は、この大好きなステージでは絶対に嘘はつかないと思って、いつも音楽しています。自分を信じる強さを、私は大好きな音楽で、大好きな仲間がいつも教えてくれています」
撮影:風間大洋
そして「ここにいる一人一人のみんなが、少しでも今よりももっと自分のことを愛してもらえるように、一人一人に届くようにこの曲を歌わせて下さい」というメッセージとともに紡がれた六曲目の歌は「You」(『魔法使いの嫁』主題歌)。テンポ自体は原曲に近いものながらも、力強いギターをメインにしたアレンジで自分らしく生きようとする人達を励ます力強いメッセージを強調するような構成に。特に終盤のサビの部分はマイクを介さない生声によるアカペラで歌い上げるなど、曲のテーマを訴えかけてくる迫力に満ちたものとなっていた。
そして最後の曲に入る前に、前奏と共にMay'nの叩くタンバリンに合わせて客席も手拍子で応える。そんな中でMay'nからの最後を飾るメッセージが。
「3月になったということで、お別れの季節でもあり、そしてこれから始まりの季節へと変わっていきます。新学期を迎える人も新生活を迎える人もいると思うし、何か大きいことじゃなくても新しいことを始めようと思っている人もいるかもしれません。毎日精一杯がんばってるみんなが、明日からも思いっきり楽しめる様に、私はいつでも音楽をみんなと一緒に楽しめる様にステージで待っています。本当に皆さんと、一緒に音楽ができることを楽しみにしています。本当にありがとうございました!」
撮影:高田梓
観客の手拍子が続く中で始まった最後の曲は、最新アルバム『PEACE of SMILE』に収録のオリジナルナンバー「Shine A Light」。アコースティックならではの手拍子に合わせたゆったりしたテンポで歌い上げられる「新たな旅立ちの季節を励ます歌」で会場が一体になりながらMay'nのパートは大団円の中で終了。『Songful days 次元ヲ紡グ歌ノ記憶』の目指す形を観客に鮮烈に刻み込んで、次のアーティスト・茅原実里へとバトンを繋いだ。
取材・文:斉藤直樹 撮影:風間大洋・高田梓
セットリスト
2018.3.3(SAT) SPICE (powered by e+) presents Songful days -次元ヲ紡グ歌ノ記憶-
両国国技館 オープニングアクト~May'n