熊川哲也 Kバレエ カンパニーのプリンシパル浅川紫織が引退を表明

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2018.3.15
浅川紫織

浅川紫織

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2018年3月14日、熊川哲也 Kバレエ カンパニーのプリンシパル浅川紫織が今秋の『ロミオとジュリエット』を最後に第一線を退くと発表された。2003年4月に17歳でKバレエに入団し、あらゆるレパートリーの中軸を務めてきた浅川は、昨秋の話題作『クレオパトラ』表題役でも好評を博し、先日の「New Pieces」における熊川の新作『死霊の恋』にも出演していたので突然の表明に誰もが驚いたはず。会見には芸術監督の熊川と浅川が出席した。

引退に至ったのは6年前に痛め持病となっていた股関節の怪我のため。熊川は浅川について「怪我に対してひたむきに打ち勝つ姿を見てきました。自分のなかでも細胞をえぐるような感情を巻き起こしてくれるダンサーでしたし、がんばってくれた同志です」と語り長年の労をねぎらう。

熊川哲也、浅川紫織

熊川哲也、浅川紫織

両者の出会いは浅川が17歳のとき。イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクール留学中に同校を視察で訪れた熊川の誘いを受けてKバレエに入団した。「容姿、素晴らしい脚、精神力といったバレリーナとして絶対不可欠な条件が10代の頃から揃っていました。Kバレエの生え抜きとしてコール・ド・バレエ(群舞)から始めトップバレリーナになってからの10年間は感謝もありつつ素晴らしい夢をいただけましたし、常に感動がありました。名バレリーナ、大バレリーナとして輝いてくれたことに感謝しつつ培ってきた知識・ノウハウを後輩に伝承してほしい」と熊川は愛弟子を思いやる。

浅川は「ディレクターの言葉を聞いたら感極まってしまって……」と涙ぐむ。引退をいつ決めたのか?と問われ「自分のなかでは6年前に大きな怪我したときから『いつ歩けなくなっても』『いつ踊れなくなっても』という覚悟で毎日を送ってきました。引退は大きなことですが、カンパニーの顔として、プリンシパルとして、いろいろな責任を伴うなかで自然な流れになったという感じです。自分が歩けなくなるまで踊ればいい、私だけが良ければいいという状況ではないので」と決断の理由を明かす。

浅川は忘れられない舞台として入団後初舞台となった熊川版『白鳥の湖』初演を挙げ「成功の拍手、その場に自分がいるという感動を忘れることは一生ないと思います」と懐かしむ。プロダンサー生活をKバレエ一筋で過ごしたが「バレエだけでなく精神面に関してもいろいろなことを学ばせていただき幸せとしか言いようがありません。私がすべてを注いできたKバレエで最後の舞台を終える、全うできるのは幸せです」と感謝を口にした。

熊川哲也、浅川紫織

熊川哲也、浅川紫織

後輩たちに贈る言葉は?と聞かれると「若い頃、27歳で大怪我を負うとは思っていませんでしたし、先輩方のようにずっとずっと舞台で踊っていくのだと思っていたのですが、予期せぬことは起こります。私は毎日全身全霊でバレエに打ち込んできたので復帰できず踊れなくても自分のすべてをやったと思えました。若い世代の子たちには『今をフルアウトしてやり切れ!』ということを伝えたい」と述べた。

引退を決意してからの心境の変化は?という質問に浅川は「今まではバレエを踊ること、Kバレエで過ごす時間がすべてだったのですが、年齢を重ねたり、いろいろなものを見たりして、バレエに対しての他の方面からの接し方、関わり方もあるし、舞台で踊らなくなってもバレエ人生が終わる訳ではないという考えが生まれてきました」と回答し、引退後には「今からでも学べることはたくさんあると思うので、人間としてしっかりしていけるようにさまざまなことを勉強していきたい。ポジティブな気持ちでいます」と前向き。熊川も「これから社会人としてどう成長していくか。ポジション的には考えていってあげたいなと思います」と新たな門出をバックアップすることを約束し温かいエールを送った。

『白鳥の湖』リハーサルの様子

『白鳥の湖』リハーサルの様子

浅川はきたる3月21日に開幕する『白鳥の湖』でオデット/オディールを踊る。会見に先立ち宮尾俊太郎(ジークフリード)、石橋奨也(ロットバルト)とのリハーサルの模様も披露。「大切に踊ってきた役柄なので、この時期に踊れて本当に幸せですし、自分のすべてを投じるにふさわしい作品とキャラクター。自分のできることをお見せして、お客様を感動させたい」と意欲を示した。

『白鳥の湖』リハーサルの様子

『白鳥の湖』リハーサルの様子


取材・文・撮影=高橋森彦(舞踊評論家)

公演情報

熊川哲也 Kバレエ カンパニー Spring Tour2018『白鳥の湖』

日程:2018年3月21日(水・祝)~3月25日(日)
会場:Bunkamura オーチャードホール 

<3月21日(水・祝)、3月23日(金)> 
浅川紫織/宮尾俊太郎/石橋奨也 
<3月22日(木)、3月24日(土)17:00> 
中村祥子/遅沢佑介/S・キャシディ 
<3月24日(土)12:30、3月25日(日)> 
矢内千夏/栗山廉/杉野慧 

【芸術監督】熊川哲也 
【演出/再振付】熊川哲也 
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 

【指揮】井田勝大 
【演奏】シアター オーケストラ トーキョー
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