官能のロダン大理石彫刻が日本初公開! 横浜美術館で開催中の『ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより』展レポート
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オーギュスト・ロダン『接吻』1901-4年 (C) Tate, London
横浜美術館で『ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより』が、2018年3月24日(土)〜6月24日(日)まで開催されている。この展覧会は、1790年代から現代までの約200年の間に、西洋美術における裸体表現がどう移り変わってきたかを紹介するもの。英国テートのコレクションより、初来日したロダンの大理石彫刻《接吻》、ビクトリア朝を代表する画家レイトンからナビ派のボナール、フランシス・ベーコン、芸術か猥褻か物議をかもしたメイプルソープらの作品まで、絵画、彫刻、版画、写真など134点が展示される。開幕前日に行われた23日のプレス向け内覧会より、見どころをレポートする。
物語の裸体表現で追及した理想の美
全8章で構成される展覧会は、時代の流れに沿って美術におけるヌードの歴史をたどっていく。最初の作品は、フレデリック・レイトンの《プシュケの水浴》。
「古代の神話に登場するプシュケを主題に描いています。作者のレイトンは実際の人物モデルを複数名集め、それぞれの理想的な部分を複合させて、理想の人体像を作り上げました」
ギャラリートークで横浜美術館学芸員の長谷川氏は、倫理的な観点から基本的にはヌードを描くことが許されていなかった19世紀ビクトリア朝時代にも、物語や歴史を主題にすることでヌードを描く道が残されていたと説明した。
フレデリック・レイトン『プシュケの水浴』1890年発表 (C) Tate, London
壁にレタリングされていたのは、レイトンの言葉。
「もっとも高貴なる創造が生んだ威厳と美―それが人体」
近寄りがたいほど美しく艶めかしい、しかし不思議といやらしさのないプシュケを前にすると、この言葉には頷くよりほかない。続く各章にも、そのセクションのテーマを集約するようなアーティストの言葉が紹介されている。
(手前)ハモ・ソーニクロフト『テウクロス』1881年
身近な仕草、身近な人物へ
“親密な眼差し”と題されたチャプターでは、ボナール、ドガ、ルノアールらと、それに影響を受けたイギリス人画家たちの作品が紹介される。
「20世紀に入り、物語に由来しないヌードが描かれるようになります。身近な仕草に美を見出した画家たちが身近な人物を描くようになりました」
縦長のカンバスを縦に分断するようにバスタブが描かれている。ピエール・ボナール『浴室の裸婦 』1925年
ピエール・ボナールの《浴室の裸婦》は、入浴する妻マルトを見下ろすような視点で描いている。ボナールがマルトに向けた“親密な眼差し”に視線を重ねてみてほしい。
ボナールの妻・マルトは心身の不調により1日の大半を浴槽で過ごしていたという。(手前)ピエール・ボナール『浴室』1925年
官能的な一瞬をとらえたロダンの《接吻》
第4章のみ時代ではなく「エロティック・ヌード」というテーマでくくられ、ピカソやデイヴィッド・ホックニー、風景画で知られるターナーらが描いたヌードも鑑賞できる。ロダンの大理石彫刻《接吻》があるのもこの展示室だ。
《接吻》は、ブロンズ製のものは300体あまり存在するというが、大理石彫刻はわずか3体のみ。
「古代ギリシア彫刻のコレクターであり、大理石に造詣のある人物が注文したものでした。そのため使用されている大理石の質が特に良いと言われています。しかし、20世紀初頭に初めて展示された時は、若者には刺激が強すぎるという理由から、布で覆い隠される事件も起きています」
オーギュスト・ロダン『接吻』(1901-4)
モチーフは、ダンテ『神曲 -地獄篇-』に登場する、フランチェスカと義理の弟・パオロの悲恋の物語。2人は標準的な人間よりもひと回り大きなスケールで作られている。作品のまわりを1周すると、陰影の変化から2人の表情も変わってみえる。《接吻》はしがみつくように絡み合う姿にも、柔らかく求めあう姿にもみえた。『神曲』ではこのキスの後、2人に悲劇が訪れる。
一般公開期間中も、この1点は撮影が許可されている。オーギュスト・ロダン『接吻』1901-4年
デイヴィッド・ホックニー『23、4歳のふたりの男子「C.P.カヴァフィスの14編の詩」のための挿絵より』1966年
「肉体を捉える筆触」と題された章では、カンバスに残された絵筆の跡から表出するリズムや強弱を生かし、人物の物質性、内面性を表現することに挑んだ作品が結集。フランシス・ベーコンの大型作品2点は、国立近代美術館と富山県立美術館から特別出品されたもの。
フランシス・ベーコン『横たわる人物』1977年│富山県美術館、『スフィンクスミュリエル・ベルチャーの肖像』1979年│東京国立近代美術館
ルシアン・フロイド『布切れの側に佇む』1988–89年
裸体表現と社会へのメッセージ
1970年代になると、美術における裸体表現が政治的な主張に用いられるようになったという。たとえばフェミニズムの画家シルヴィア・スレイは、多くの女性モデルが描かれてきた伝統的な裸体のポーズを、構図はそのままモデルを男性に変えて描くことで、「見るもの、見られるもの」の逆転に挑んでいる。
横浜美術館『ヌード』展 展示風景
メイプルソープの《リサ・ライオン》、バークレー・ヘンドリックスの《ファミリー・ジュールス:NNN》などメッセージ性の強い作品が、展覧会全体のスパイスとなっていた。
被写体は女性ボディビルダー。ロバート・メイプルソープ『リサ・ライオン』1981年
バークレー・L・ヘンドリックス『ファミリー・ジュールス:NNN(No Naked Niggahs[裸の黒人は存在しない]) 』1974年
「儚き身体」と題された最後の展示室。コプランズの《セルフ・ポートレート(フリーズno.2)》という、自らの老いていく体を被写体とした作品と、ダイクストラによる3人の女性と新生児をおさめた作品が対面して展示されている。「誰もが裸で生まれ老いていく」という、人類共通の儚さと美しさを示唆したところで『ヌード』展は締めくくられた。
展示風景
リネケ・ダイクストラ『ジュリー、デン・ハーグ、オランダ、1994年2月29日』『テクラ、アムステルダム、オランダ、1994年5月16日 』『サスキア、ハルデルウェイク、オランダ、1994年3月16日 』1994年
『ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより』は、2018年3月24日(土)〜6月24日(日)まで横浜美術館にて開催される。
実際のモデルを前に、視覚から得た情報を言葉にした(ディスクリプションした)作品。フィオナ・バナー『吐き出されたヌード』2007年
特設ショップには、ロダン『接吻』にちなんだ“キスする前”のミントキャンディ(380円税込)も。
イベント情報
会期:2018年3月24日(土)~6月24日(日)
休館日:木曜日、5月7日(月)*5月3日は開館
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)*5月11日、6月8日は20:30まで
会場:横浜美術館
展覧会公式サイト:https://artexhibition.jp/nude2018/outline/