チェコのマルチアーティスト『チャペック兄弟と子どもの世界』展レポート 優しさとユーモアあふれる展覧会

レポート
アート
2018.4.26
『チャペック兄弟と子どもの世界』展覧会入り口のポスター

『チャペック兄弟と子どもの世界』展覧会入り口のポスター

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20世紀初頭の中欧チェコで活躍した、マルチアーティストと呼ぶべきチャペック兄弟をご存じだろうか。兄のヨゼフ・チャペックは芸術家、弟のカレル・チャペックは文筆家として、ふたりで多くの子ども向けの物語や出版物を世に送り出した。そんなチャペック兄弟の作品と生涯を、約350点の油彩画や挿絵画、原稿、写真、出版物などで本格的に紹介する『チャペック兄弟と子どもの世界』展が、渋谷区立松濤美術館で開催されている(2018年4月7日から5月27日まで)。その優しさとユーモアあふれる展覧会をご紹介しよう。

マルチアーティスト、チャペック兄弟を知る

さて、チャペック兄弟とはどんな人物たちであったのか。兄ヨゼフ・チャペック(1887-1945)は1910年代に、当時のフランスやドイツで活動が盛んになっていたキュビスムに参加するとともに、原始的な魅力に迫るプリミティヴアートを研究し画家として活動。一方、弟カレル・チャペック(1890-1938)は、同時期に詩や散文、短編などを発表し、作家として活動をはじめた。

ヨゼフ・チャペック <水浴び> 1928年 油彩/カンヴァス 49.5×55.5cm 個人蔵、プラハ

ヨゼフ・チャペック <水浴び> 1928年 油彩/カンヴァス 49.5×55.5cm 個人蔵、プラハ

やがてふたりは「チャペック兄弟」として、戯曲や小説を発表するようになり、日本でも「ロボット」という言葉を生んだ戯曲『R.U.R.(ロボット)』が築地小劇場で上演された。また、ふたりとも初期から子どもの持つ純粋な世界観や表現力に強い関心を抱き、共作で子ども向けの童話や出版物、戯曲を多く発表する。晩年、第一次世界大戦下で亡くなるまで、子どもの心を忘れずに制作活動を続けた。

ヨゼフ・チャペック 《ちちんぷいぷい》 1932年 インク/紙 60.0×28.0cm 個人蔵、プラハ

ヨゼフ・チャペック 《ちちんぷいぷい》 1932年 インク/紙 60.0×28.0cm 個人蔵、プラハ

その表現方法は絵画、イラスト、写真、新聞記事、小説、戯曲とじつに幅広く、まさにマルチアーティストと呼ぶにふさわしい。本展は兄弟ふたりの作品を、「子どものモチーフ」、「おとぎ話」、「いぬとねこ」、「さまざまな仕事」、「子どもの視点」の5つのテーマで紹介する。

会場風景。作品は5つのテーマで紹介される。

会場風景。作品は5つのテーマで紹介される。

世界初公開の作品も! ヨゼフが描く多様な子どもの世界

画家の兄ヨゼフの作品は、初期から子どもが多く登場する。展覧会場で最初に出迎えるのは、30代の頃に描いたキュビスム的な作品。家族や子どもの姿を、線と形で捉える試みが繰り返されている。その後、様々な様式を取り入れて、柔らかで自由な線と色が躍動するヨゼフ独自の表現が確立されてくる。娘のアレンカが生まれてからは、より身近で直感的に子どもの世界を理解するようになる。アレンカ7歳の時に描かれた《スカーフを巻いた少女》は、世界初公開となる本展の目玉作品だ。

ヨゼフ・チャペック 《花を持つ少女》 1934年 油彩/カンヴァス 71.5×51.0cm 個人蔵、プラハ

ヨゼフ・チャペック 《花を持つ少女》 1934年 油彩/カンヴァス 71.5×51.0cm 個人蔵、プラハ

また、《村の子どもたち》をはじめとする子どもの多様な遊びや、そこから得られた造形により、描いた作品も豊かな表現にあふれている。ヨゼフは特定のモデルを描くよりも、「子ども」を人間のはじまりのプリミティヴな存在として捉え、その自由な表現方法に学びながら描いたのだ。

ヨゼフ・チャペック (左下)《村の子どもたち》 1933-35年 パステル/紙 33.0×44.0cm 8スミチュカ財団

ヨゼフ・チャペック (左下)《村の子どもたち》 1933-35年 パステル/紙 33.0×44.0cm 8スミチュカ財団

子どもにこそ良質な芸術を 兄弟で作った童話の数々

弟のカレルも、社会的な問題を捉えた大人向けの文章を発表しながら、子どものうちにたくさんの豊かな言葉に出会うべきだと考えていた。子どもにこそ良質な芸術を届けようという兄弟の熱い思いは、共作された数々の童話作品に存分に注がれた。

なかでも、『長い長いお医者さんの話』や『こいぬとこねこは愉快な仲間』は世界中で翻訳され、現在の日本でも親しまれている作品だ。いずれも、豊かでユーモラスな言語表現と、高いクオリティの挿絵で、真摯に子どもと向き合う制作姿勢が感じられる。

ヨゼフ・チャペック 《郵便屋さんの話(『長い長いお医者さんの話』より)》 1931年 インク、鉛筆/紙 30.0×22.0cm 個人蔵、プラハ

ヨゼフ・チャペック 《郵便屋さんの話(『長い長いお医者さんの話』より)》 1931年 インク、鉛筆/紙 30.0×22.0cm 個人蔵、プラハ

13カ国語に翻訳された『こいぬとこねこは愉快な仲間』の書籍

13カ国語に翻訳された『こいぬとこねこは愉快な仲間』の書籍

あふれる犬と猫への愛情から生まれた作品たち

チャペック兄弟の作品の中でも、多くのファンを持つのが犬と猫を描いた作品だろう。カレルの飼い犬ダーシェンカを、カレル自らの写真とイラストにより本にした『ダーシェンカ』は、世界ではじめての写真絵本としても有名だ。最初に飼った犬ミンダの世話に手をやくカレルの姿を、ヨゼフは面白おかしく描いた。

さまざまな装丁で出版された『ダーシェンカまたは子犬の生活』

さまざまな装丁で出版された『ダーシェンカまたは子犬の生活』

ヨゼフ・チャペック 《ミンダと散歩するカレル・チャペック》 1926-30年 鉛筆、インク/紙 22.5×30.0cm プラハ10区

ヨゼフ・チャペック 《ミンダと散歩するカレル・チャペック》 1926-30年 鉛筆、インク/紙 22.5×30.0cm プラハ10区

また、ヨゼフの飼い猫《ふしぎ猫プドレンカ》は、代々プドレンカの名を引き継ぐ猫たちを「死なない猫」として描いたシリーズ。ふたりの飼い猫、飼い犬への愛情が前述の『こいぬとこねこは愉快な仲間』を生み、世界中から愛される作品となったのだ。

ヨゼフ・チャペック (左上)《ふしぎ猫プドレンカ》 1929年 インク/紙 29.7×22.0cm 個人蔵、プラハ

ヨゼフ・チャペック (左上)《ふしぎ猫プドレンカ》 1929年 インク/紙 29.7×22.0cm 個人蔵、プラハ

子どもに向けた発信だけでなく、子どもの世界から美しさや表現方法を学んだチャペック兄弟の作品。本展で子どものころの懐かしい気持ちと、新たな気付きに出会えるのではないだろうか。

展覧会場には、ヨゼフ・チャペックがデザインした舞台デザインの前で撮影可能なエリアも。 ヨゼフ・チャペック バレエ《おもちゃ箱》舞台デザイン・衣装デザイン チェコ国立博物館

展覧会場には、ヨゼフ・チャペックがデザインした舞台デザインの前で撮影可能なエリアも。 ヨゼフ・チャペック バレエ《おもちゃ箱》舞台デザイン・衣装デザイン チェコ国立博物館

イベント情報

チャペック兄弟と子どもの世界 ~20世紀はじめ、チェコのマルチアーティスト
会期:2018年4月7日(土)〜2018年5月27日(日)
入館料:一般1000円(800円)、大学生800円(640円)、 高校生・60歳以上500円(400円)、小中学生100円(80円)  ※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料  ※土・日曜日、祝休日は小中学生無料  ※毎週金曜日は渋谷区民無料  ※障がい者及び付添の方1名は無料
休館日:4月16日(月)、23日(月)、5月7日(月)、14日(月)、21日(月)
主催:渋谷区立松濤美術館 
後援:チェコ共和国大使館、スロヴァキア共和国大使館、日本国際児童図書評議会 
協力:チェコ国立文学館、スロヴァキア国立美術館、プラハ10区、カレル・チャペック記念館、GASK、チェコセンター東京
企画協力:株式会社イデッフ
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