「キラキラした宝物のような作品」種﨑敦美 「これまで見えてこなかったものが見えてきた」東山奈央 劇場アニメ『リズと青い鳥』キャストインタビュー

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2018.4.17
左から東山奈央、種﨑敦美 撮影:大塚正明

左から東山奈央、種﨑敦美 撮影:大塚正明

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高校の吹奏楽部を舞台に、部員同士の友情やすれ違いが描かれ、時には等身大の本音も吐露しながら「青春」を描いた小説『響け!ユーフォニアム』シリーズ。その完全作品新作として4月21日に劇場公開される『リズと青い鳥』でも精緻な映像に負けない演技で繊細な感情のグラデーションが表現されている。主演を務めた鎧塚みぞれ役・種﨑敦美&傘木希美役・東山奈央に直撃取材し、作品やみぞれ&希美についての深い想いを語ってもらった。


語りたいことがありすぎて

――4月4日に行われた完成披露上映会の舞台挨拶でも作品についてお話されていましたが、かなり思い入れの深い作品になったようですね。

種﨑:東山さんも私も、語りたいことの3分の1も言えなかったというか。語りたいことがたくさんありすぎて……ね。

東山:ね。今回の劇場版は90分くらいの尺なんですけど、実際にアフレコにかけた時間も縮めれば1日くらいで、そのくらい短い時間しかかかわっていないはずなのに、思い入れや考えて込めたものがすごく多くて。舞台挨拶で壇上に立たせていただいて、どれほどのことが自分に言えるだろうって思ったんですけど、ぜんぜん時間が足りませんでした。言いたいことがいっぱいあって……でも、言葉にすると映画の美しさが陳腐なものに変わってしまう気がして、うまく伝えられないのがもどかしいんですけど。

種﨑:いちばん合っている言葉を見つけたいですね。(山田尚子)監督が「言葉にできないから映像にする」とおっしゃっていたみたいに、伝えたいことも、思いもたくさんあるんですけど、言葉にできないものが詰まりすぎていて。映画を見ていただいたら全部わかるとしか。

東山:私たちもお芝居に全部込めましたけど、画が目やしぐさで伝えてくれていて、それを音が後押しをしてくれるんです。『リズと青い鳥』は傍から見ると取り立てて大きなことが起きているわけではないはずなのに、当人たちにとってはひとつひとつの出来事や言葉が胸を支配してすごく乱されていて。

種﨑:静かで静謐な作品ではあるんですけど、心の中は耳をふさぎたくなるくらいすごくうるさいというか。いろいろなものがあふれていて、ざわざわしているような感じです。

――「取り立てて大きなことが起きていない」ものの、みぞれと希美という親友同士の二人の間にある様々な感情が端々ににじみ出ていて見逃せない。おそらく高校3年というこの時期だからこそ切り取られたひとつの青春だなと。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

東山:舞台挨拶で(リズ、少女役の)本田望結さんから「青春ってなんですか?」って聞かれて、「たしかに青春ってなんだ…?」ってなったんですけど(笑)。恋愛のことだけじゃなくて、希美たちみたいに部活のことや友だちのことで悩んで一生懸命になるということが青春だと思うから、大人になってからももちろん「青春」はあるとは思うんです。ただ、このころが独特なのは、自分の持っている社会がすごく狭いということで。この友情がうまくいかなくたって、この演奏がうまくいかなくたって、実は大人になって振り返ったら、もっと別の未来が拓けていて、交友関係も広がっていて、「いま手に取れるものがすべてじゃないよ」とも思うんですけど、このころは「いま手に取れるもの」にすべてが支配されるんですよね。だから、ひとつひとつがものすごく大きく感じられて。感受性がすごく満たされる感じになるのは、高校生ならではだなと。思い出すよね。

種﨑:このころは1年がとても長く感じていたのに、年々、1年が経つのが早くなっているみたいな(笑)。こんな風に過ごしていたら、それは長く感じるわって。今思えば1個1個が大きいんですよ。

高校3年生になったみぞれと希美

――みぞれと希美が高校3年生になったことでの変化はありますか?

東山:希美的には、一度部活を離れて2年生のときに帰ってきたということもあって、コンクールに参加できるのはこれが最初で最後になるっていう意味ではとても大きな学年だって思います。そこでソロパートもあったりして。自分が本当に喉から手が出るほど欲しかった、演奏をしている充実した時間があるっていうのは大きいと思いますね。だからこ
そ、音楽にかける情熱が高いからこそ、みぞれにも特別な感情を向けてしまうっていうのが今回の映画にもやっぱりあるんじゃないかなって思います。

種﨑:今回、(剣崎)梨々花ちゃんっていう1年生の後輩がとても重要な役割になっているんです。(これまでは)2年生で、みぞれにも後輩がいなかったわけではないと思うんですけど、同じオーボエの後輩ができたので。(キャストの)みんなとも話していたんですけど「みぞれに後輩ができるってどうなるんだろうね?」みたいな。ちゃんと教えてあげられるのかな、あの子はコミュニケーションが取れるのかしら、みたいなことを話したりしていたんです。梨々花ちゃんはそのキャラクターもありまして、監督が「みぞれの中に新しい部屋を作る子だ」とおっしゃっていて。実際に、みぞれに対してズケズケ……と言うと少し違うんですけど。

東山:臆せず!

種﨑:臆せず。そう、果敢に。コミュニケーションをとるのが得意ではないみぞれに向かってきてくれて、そんな梨々花ちゃんにだからこそ、みぞれもそれまで見せたことがないような反応とかも見せたりしていて。でも、人生ってそういうのの連続だったかもしれない、みたいな(笑)。「それしかない」と思っていたのに、「こんな世界もあったんだ」がちょっとずつ大人になるにつれて増えていくような感じというか。狭い世界ではありますけど、みぞれの世界の中にも1個それが降ってきたような感覚と言いますか。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

――新しい後輩との関係もそうですし、みぞれと希美を中心にしつつ、新しく部長になった吉川優子や副部長の中川夏紀を含めた4人の関係であったり。2人と親しい人たちとの関係性も描かれています。

東山:そうですね。やっぱりこの映画『リズと青い鳥』って、優子と夏紀が部長と副部長になるっていうのは皆さんなかなか感慨深いものがあるんじゃないかなと思います。ただ、『リズと青い鳥』はスピンオフというよりも1本の映画として完成されている作品でもあるので、ここから入ってくださっている方々は、「この部長さんと副部長さんはよくで
きた方々ですね」って思われるだろうなって。でも、そう思った方は第1シーズンから観てみましょうかっていう(笑)。その奥行があるからこそ、観る方にとっては受け取れるものがいろいろあるんじゃないかなって思いますね。

――原作である「響け!ユーフォニアム」の文字が題名にないのは、関連作品としては珍しいですよね。演奏でもみぞれのオーボエと希美のフルートが中心で、あまりユーフォニアムにスポットが当たらないという面もあるかもしれませんが。

種﨑:そっか……そうですね(笑)。

本作のキーになるとリズとは?

本田望結演じるリズと青い鳥(二役) (C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

本田望結演じるリズと青い鳥(二役) (C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

――みぞれと希美はもちろん、優子と夏紀を含めた4人の関係性や距離感もリアリティがありますね。

東山:(舞台の北宇治高校は)共学なんですけど、女子にフォーカスが当てられることが多いじゃないですか。その辺を男性がどう感じられているのかはすごく気になるんですよね。

――グループになって会話に花を咲かせていたり、帰宅途中でどこに寄り道するかを話していたりするようなやり取りは、部活や教室で横目に見ていたものに近いですね。それを、もっと近い距離で覗いてしまっている感覚というか。意外と、思ってもないことを言っていたりするんだなとか。

東山:思ってもないこと(笑)。そうですね、言葉と気持ちが裏腹になっていることもいっぱいこの作品はありましたからね。

種﨑:それを、「リズと青い鳥」っていう童話の世界で本田望結ちゃん演じる素晴らしいリズと少女が合わせて表してくれていたりして、素晴らしかったぁ…。

――劇中劇のような形で描かれるリズと少女のお話が入ることも、本作の特徴ですよね。

種﨑:舞台挨拶で、本田望結さんが「色がついていない」と表現したときに、「おおお」って。透明だったものがちょっとずつ色が見えてくる感じっていうのが。すごい、その発想はなかったというか。衝撃でした。

左から東山奈央・種﨑敦美・本田望結・山田尚子監督 撮影:大塚正明

左から東山奈央・種﨑敦美・本田望結・山田尚子監督 撮影:大塚正明

――そういう表現がパっと出てくるあたりさすがですよね。アフレコについてもお聞きしたいのですが、テレビシリーズではサブキャラクターだった二人が主人公になるということで、プレッシャーなどもあったのでしょうか。

種﨑:プレッシャーはありましたけど、やっぱりみぞれの一番大切なものは希美っていうところは変わっていなかったので、そこだけはなくさずにちゃんと意識してやればいいのかなと、みぞれ役の私は思いました。

東山:希美はですね、かなりテレビアニメのときとは印象が変わりまして。テレビのときは、本当に天真爛漫でまっすぐで、人が自然と集まってくる女の子という感じ。陰と陽でいえば、陽の部分をすごく持っている子だったんですけど、この映画では「やっぱり人間そうだよね」という感じで、陰の部分も持ちあわせていたんだなということがかなりはっきり見えてきて、それに最初はけっこう驚きました。「希美ってこういう子だったんだ」と思いました。

東山奈央 撮影:大塚正明

東山奈央 撮影:大塚正明

――戸惑いがあったんですね。

東山:監督が「テレビアニメは部活の物語で、今回は二人の物語」とお話されていて、あれだけの人数がいる部活で、かつ1話30分という制限があるなかで、そこまで焦点が当てられなかった(みぞれと希美)二人の物語の「解像度を上げていく」と表現されていました。だから、これまで見えてこなかったものが見えてきたっていうのがこの『リズと青い
鳥』ですね。私も皆さんも気づいていなかった希美の笑顔の裏側みたいなものが、音楽への情熱とともに見えてくるのがこの作品なんだなと思ったらすごく納得して。そのあとはスッと入っていけたんですけど、それまではディスカッションを重ねていった感じですね。

――「解像度を上げる」ためには映像やストーリーの作り方だけでなく、声の演技としても繊細な表現が必要だったと思いますが、難しかった部分などはありますか?

種﨑:こちらがさらに難しくなるみたいなことはなく、むしろ逆でした。アニメーションに声を当てているんですけど、画がそれだけお芝居をしてくださっていて、プラス、台本のなかのト書きがとても丁寧に書いてくださっていたので。私たちはそこに気持ちを乗せるだけというとあれなんですけど。画に当てている感じはないというか、自分がお芝居をしている感覚というか。声を当てるのもお芝居なんですけど(苦笑)。

東山:ふふ(笑)。でも、わかる。

――アフレコの時点で画はある程度できあがっていたんですか?

種﨑:ちゃんと表情もわかるようになっていました。究極、本当に画を見ていなくても、気持ちのままでお芝居をすれば画に合うように事前に準備をしてくださっていたので、『リズと青い鳥』に関しては、そのような難しいことはございませんでした。

東山:私も本当に同じ感じで、画が繊細な動きをしているからといって、こちらのやることが増えるということは本当になくて。たとえば、それがすごく自分が役に抱いている感情と違うものだったら、「なんでここでこういう動きをして、ここで目が泳いでいるんだろう」って感じると思うんですけど、非常に人間の生理にあった動きを画がしてくれているので、(声を)当てなくてもね。自分の感情で舞台のような感じで立ち回っているようにお芝居をすれば画と合うっていう。京都アニメーションさんの力たるやすごい! みたいな感じなんですけど。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

――繊細な感情の表現は、むしろ演じやすかったと。

東山:今回すごく、希美は感情を内にためておくのは上手な子ではないんだなと思ったんですよ。何かが起きるとキャパシティをオーバーして感情が揺れ動くので、それに合わせてすぐに目が泳いだり、足元を遊ばせたりとか、そういう仕草に出てきちゃうんだなと。そういうときに、自分がこうお芝居しようと思ったときに画がそう動いてくれていると、自分のやり方を後押ししてくれているような感じがして、すごくやりやすかったですね、私は。

種﨑:今回のアフレコは初めての経験が多かったというか。自然とそうやっちゃっていたんですけど、みぞれが下を向いたら自分も同じように目線を下げてみたりとかして。本当は画面を見ていないといけないんですけど、自分の心のままに(目線を)ふと上げてみたらみぞれも顔を上げているみたいなことがとても多かったというか、そういうことばかりだったというか。それが本当に贅沢というか。

――希美について、違う面が見えたというお話もありましたが、より好きになったか嫌いになったかでいうとどちらですか?

東山:私は、初めて彼女の人間味の部分に触れて、うれしくなったというか。たとえば、「私、ぜんぜんダメでしたよね?」「そんなことないよ」「え、そうですか?」みたいな感じのやりとりがあるじゃないですか(笑)。自分のダメなところを「そんなことないよ」と相手から否定してほしくて、その言葉を相引き出したくてあえて言う、みたいな部
分が見えて希美ってけっこうズルい子だったんだなと思って。そこに親近感がわいたというか。そうしたくなるいっぱいいっぱいさ加減もわかるし、共感ができたという感じですかね。より希美を深く知れたし、好きになれたと思います。

種﨑敦美 撮影:大塚正明

種﨑敦美 撮影:大塚正明

――種﨑さんは、みぞれに関しては?

種﨑:私は、みぞれに関しては、まったく同じ経験をしたわけじゃないですけど、昔の自分を見ているようで。キャラクターとして、このみぞれという存在が宝物のようというか、大好きで変わらないです。

――希美についてはどうですか?

種﨑:これまでは「こんな子いる?」っていうくらいに希美がキラキラして見えていたんです。だけど、この『リズと青い鳥』で最初に台本を読んだときに、希美にとても共感ができて。自分と真逆だと思っていた希美と同じ部分を私も知っているというか。みぞれに対する嫉妬のような、何とも言えない気持ち、私も抱いたことがあるというか、「けっこう日常茶飯事だぞこの感情?」って。そこをアニメで表してくれるのかと思いました。本当に、なんでもないところで心をわしづかみにされるシーンがとても多いというか。知っている、自分の中にもある。まったく同じではないかもしれないけど自分にもある。そういうものを観た瞬間に、いろいろあふれて泣きそう…みたいな。なので、私はもう本当に、その瞬間を、一面を見せてくれた希美のことが大好きになりました。この映画で。人間ってそうだよね! っていう。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

――実際に自分の周りに希美やみぞれがいたら仲良くなれそうだと思いますか?

東山:めっちゃ友だちになれると思います。

種﨑:私たちは映画を見ていて二人を見守っている状態だから希美の違った一面が見えましたけど、そうじゃなくてその場にいたら、その一面は見えていないんじゃないかなって。キラキラした希美に見えていると思うので、希美にはもしかしたら近づかないようにするかもしれないです。

東山:あー…。実際、この二人って分かり合えたのか。お互いに察する部分は多かれども、本当の意味で腹を割って、「私は本当はお前にこう思ってたんだよ!」みたいに河原で殴り合ったわけではないから(笑)。当事者ってわからないものが多そうな感じがしますもんね。

――それだけ奥行のある作品だと伝わってきました。最後にお聞きしたいのですが、この『リズと青い鳥』は二人にとってどういう作品でしょうか。

種﨑:もう戻れないあの時じゃないですけど、まさにこの二人の、この時にしか感じることができない瞬間、感情だらけで。もう自分にとってもそうなったというか。なんでしょう。そのままです、映画のそのまま。この『リズと青い鳥』自体が、もう二度と戻れないキラキラした宝物のような作品になったと思います。もしかしたら、何年か後にはさらにキラキラしたものになっているかもしれません。今でもこんなに大切なのに、この先はもっと大きなものになっているかもしれないって思います。

東山:今こうやって『リズと青い鳥』に一生懸命取り組んで、作品のことを熱く語っている私たちも青春の一部なんだろうなと思います。私は本当にこの映画は劇場に向いているなと思っていて。やっぱり大きなスクリーンで見るんだったら熱いバトルアクション!とか愛憎渦巻くサスペンスみたいなものを最初は思い浮かべると思うんです。この映画は本当に静かで、だけれどもそこに充実したものがすごく詰まっていて。だから、いずれパッケージになるとしても、まずは日常の喧騒から離れて、スクリーンとあなただけの体験をしていただきたいって思います。道路をバイクが通る音とか、食洗器が回る音とか、家族が途中で話しかけてくるような、そんな空間じゃなくて。やはり音楽がとても大事ですし、とても良いんです。ぜひ劇場で『リズと青い鳥』の世界に浸ってもらいたいなって思います。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

取材・文=藤村秀二

(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

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