未体験はもったいない! 世界が知る唯一無二『が~まるちょば サイレントコメディー JAPAN TOUR 2018』インタビュー
サイレントコメディー・デュオ「が~まるちょば」が、7月12日に東京・新国立劇場で全国ツアー『が~まるちょば サイレントコメディー JAPAN TOUR 2018』をスタートさせる。今年で8回目となる本公演は、全国23か所で32ステージを予定している。4年ぶりの新作長編にファンの期待も高まる日本公演の見どころを、赤いモヒカンのケッチ!と黄色いモヒカンのHIRO-PONに伺った。
4年ぶりの新作長編
ーー今年はすでにロシア3都市と、マレーシア、シンガポール、韓国、タイでの単独公演を終えられ、いよいよジャパンツアーが始まります。開幕初日の会場である新国立劇場に、特別な思いはありますか?
ケッチ!:が~まるちょば結成10周年の記念公演はこの会場でした。ほぼ10年ぶりに帰ってきたことになりますね。
HIRO-PON:僕、あまのじゃくなところがありまして、「新国立劇場だから」「国立の由緒ある劇場だから」と構えたくないんです。新国立劇場は全国23か所で公演するうちの1つであり、今回のツアーでは新作長編を初めてやる場所と捉えています。
ーー全体の構成をお聞かせください。
HIRO-PON:前半と後半の2部構成で、全体で約2時間。前半はモヒカンにスーツ姿で2人が出るショーと、ショートスケッチ(短めの作品)をやります。後半は1時間弱の新作長編をやります。モヒカン姿は前半だけなんです。長編でも、言葉や舞台セットのない舞台ではありますが、衣装やかつらをとっかえひっかえしながら2人が色々なキャラクターを演じ、ひとつのストーリーを紡いでいきます。
ーーどのようなお話になるのでしょうか?
HIRO-PON:固定概念をもたずに観ていただきたいので、詳しい内容はあまりお知らせしません。たとえば「今度西部劇をやります」と聞いたら、「西部劇ってこんな感じだよね」と想像してしまう。そうではなく劇場で、ライブで、その時に見えたものを素直に心に刻んでいただきたいんです。
左からケッチ!、HIRO-PON。
ーーサイレント映画では、合間合間に字幕のカットが入るイメージがあります。そのような言葉による説明も、舞台セットも事前の説明もなく、しかも生でパントマイムをみせるのですね。
HIRO-PON:パントマイムは、お客様の想像力をお借りして成り立つ表現芸術です。お客さん一人ひとりが、今までに経験してきたことによって、見える物語が変わります。7歳のお子さんは7歳の経験の上で、僕らをみて背景や会話を想像する。80歳の方は人生経験が豊かな分、見えてくるものも変わってくる。男の人、女の人、恋をしている人、失恋をした人でも違う。観る人により違うものを感じられるのは、言葉やセットを使う他の表現作品にはない魅力です。
ハンカチの色は赤?黄色?
ーー作品に込めたメッセージが、想定外の受けとられ方をすることに不安はありませんか? お客さんの想像力を信頼しているということでしょうか?
HIRO-PON:不安はありません。メッセージがあるなら言葉を使った方がよくて、僕らは2時間をただただ楽しんでいただきたい。
ケッチ!:「信頼しているか」に関しては、僕らはもっと説明を減らしたパフォーマンスもできます。でも分かりにくいと感じる人が出ないように説明を足す判断もする。その点で100%信頼しているとは言えないかもしれない。でも僕らが面白いと考えてやっている芯の部分は、程度の差はあれ、どんなお客さんに対してもそれほどズレずに伝わっているんじゃないかな。
が~まるちょば ケッチ!
ケッチ!:劇場では、舞台の僕らのパントマイム一つひとつから、客席のお客さん一人ひとりが想像を膨らまして、物語を自分なりに解釈し、みんなと一緒に泣いたり笑ったりする。心に触れる部分は同じ。でも実は、観た後に一緒にいった誰かと話をしてみると、微妙に違う。「黄色いハンカチあったじゃん?」「赤いハンカチだったよ?」となったりする。でもそれは、どちらも正解なんです。僕ら二人の中に一応すべて設定はありますが、それぞれが想像したハンカチの色でいいんです。
HIRO-PON:以前ケッチ!の友だちに「台詞はどっちが考えているの?」と聞かれたときは、うれしかったですね。「台詞はないよ」「いやいや、○○って言っていたじゃん。……あ、そうか!」と(笑)。それくらい想像力を働かせて楽しんでいただけたら、他では体験できない有意義な時間になると思います。テレビのように分かりやすく説明された1Wayの情報だけで気持ちを動かすのではなく、自分から入り込んで想像力を働かせて、気持ちを動かす感覚は、他では経験できないものです。
言葉にせず、言葉以上を表現する
ーー世界的にみても唯一無二の舞台表現で、Newsweek日本版「世界が尊敬する日本人100」にも選出されたお二人ですが、今でもノンバーバルの舞台表現に不自由を感じることはありますか? パントマイムでの表現が難しいのはどんな時でしょうか?
HIRO-PON:難しいことはいくらでもあります。
ケッチ!:言葉で説明できないので、常識的ではない展開を一気に伝えるのは難しいです。たとえば何かを飲む動きをして、「(コップを手にとり、口をつけるパントマイム)……これガソリンじゃんか!」って言えませんよね。
HIRO-PON:それを伝えるには、まず「車に乗り、ガソリンスタンドにきて、ガソリンを給油し、『そうだコップにも入れよう!』」という過程をみせないといけません。ガソリンまでは伝えたとしても、固有名詞は伝えられない。「それがエッソのガソリンで、こっちがモービルのガソリン」とは言えないし、「僕はHIRO-PONです」とさえ言えません。
が~まるちょば HIRO-PON
HIRO-PON:でも言葉にしないからこそ、言葉以上のものが伝わるともいえます。言葉で「バカ!」というと「バカ」になってしまう。けれどその中に、「愛してる」という気持ちが含まれていることがあるかもしれない。バカという中に含まれる「愛してる」のような、言葉にならないものもパントマイムは共有できる。それは観ている人が自分の許容範囲内で受け取るんです。言葉って本来は、付加や装飾、演出のために使われるものだと思っています。それを使わず、自分たちが感じるものを、そのままお客さんに感じてもらう。それがパントマイムの基本であり、が~まるちょばのパフォーマンスでもあります。
ーー今までパントマイムと聞くと、路上でみる「壁」とか「スタチュー」といった大道芸をイメージしていました。お二人のお話を伺ううちに、なにか別の物に感じられてきました。
ケッチ!:パントマイムのイメージは、世代や個人により差があるかもしれません。僕らより少し上の世代からはマルセル・マルソーさんやヨネヤマママコさんといったパフォーマーの活躍を見ているので、パントマイムと言えば劇場でみるものというイメージが強い。
HIRO-PON:あとは本物のパントマイムを観たことがないと、ストリートで観るパフォーマンスがパントマイムというイメージになるのかもしれませんね。路上では、パントマイムとジェスチャーの違いも理解せずにやっている人もいる。「壁がある」とみせたいだけならば、言葉で「壁がある」と言えばいいんです。本当のパントマイムは、壁を前にした人が壁の向こうに行きたいと思っているのか。壁を壊したいのか。その人が何を感じているのか(壁に手をあて、壁を見上げ、くるくる表情をかえてみせる)。それを言葉を使わずに伝えることで、言葉以上の表現になる。そういうパントマイムのすばらしさを、より多くの方に知っていただきたいと思っています。
左から、ケッチ!、HIRO-PON。
ーー最後に読者の方に、お誘いの一言をお願いします。
ケッチ!:海外を周ってきた勢いをそのままに、4年ぶりの新作長編をやります。観たことがある方には待望の新作、はじめて観る方には今までにない新しい体験になると思います。ライブでないと伝わらないものなので、「こんな世界があるんだ」と体感しにぜひお越しいただきたいです。
HIRO-PON:音楽でもCDで聞くのとライブに行って目の前の人に会うことがまったく違う体験であるように、僕らのライブにも生でないと得られない価値があります。舞台で生きている僕らがが~まるちょばなので、生きている僕らに会いにきてほしいです。ふたりでやり始めて19年、パントマイムでは25年。それでも、まだまだですね。もっと多くの人に知ってほしい。言葉を使わない表現なので、言葉では説明ができません。ぜひ劇場で体感いただけたらと思います。お待ちしています。
が~まるちょば よりコメント
取材・文・撮影=塚田史香
公演情報
演出・出演:が~まるちょば(ケッチ!/HIRO-PON)
主 催:吉本興業
企画・制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー