『Visitors』で初めて名古屋公演をおこなった大阪の虚空旅団が、早くも「ナビロフト」に再登場

インタビュー
舞台
2018.4.26
 虚空旅団 第30回公演『アトリエのある背中』 2017年12月 「八尾市文化会館プリズムホール」初演より

虚空旅団 第30回公演『アトリエのある背中』 2017年12月 「八尾市文化会館プリズムホール」初演より


初の名古屋公演から半年…今度は恩師・北村想の書き下ろし新作で「ナビロフト」へ

昨秋から半年に渡って名古屋・天白の小劇場「ナビロフト」で開催された、〈伊丹想流私塾〉(北村想が塾長を務めた劇作家養成講座)卒塾生らによる連続公演企画『Visitors』(こちらの記事を参照)。参加団体のひとつであり、この企画のコーディネーターも務めた劇作家・演出家の高橋恵率いる虚空旅団が、〈Visitors特別公演〉として再び同劇場に登場! 今週末の4月28日(土)・29日(日)に公演を行う。

虚空旅団『アトリエのある背中』 チラシ表

虚空旅団『アトリエのある背中』 チラシ表

今回上演する『アトリエのある背中』は、〈伊丹想流私塾〉を卒塾後、2009年から昨年まで師範も務めた高橋に向けて北村想がプレゼントした戯曲なのだという。

画家の町田東麓は、アルバイトでモデルをしている日向早苗の背中ばかり描いている。ある日、早苗は画商の杉浦から、町田のもとを月に2、3度訪れる謎の女性の存在について聞かされる。杉浦は町田を心配し、興信所に謎の女の調査を依頼したというが、正体は不明のままだ。町田の自宅兼アトリエには妹夫婦も間借りして暮らしているが、新生活のため引越しが決まったこの夫婦にも、ある出来事が起こる。登場人物たちが語る話は、果たして現実か妄想か、そして謎の女の正体とは……?

関西では既に昨年の12月、「八尾市文化会館プリズムホール」で上演されているが、戯曲が高橋に贈られたのは2015年のこと。上演まで実に約3年の時間が経っている。「大事に上演したい、という思いがずっとありました。虚空旅団はプロデュース形式でやっている劇団ということもありまして、まずイメージの合うキャストを探すところから始めて準備に時間がかかり、やっと去年の12月に実現したんです」と、高橋。

そんな本作は、北村自身が「「ナビロフト」で上演したらどうか」と提案したという。北村がどのような思いでこの戯曲を書き、そう提案したのか、また戯曲を受け取った高橋はこの3年、どのように公演準備を進め、演出作業に取り組んできたのか、両者に本作誕生の経緯を尋ねた。

虚空旅団代表で演出を手掛ける高橋恵

虚空旅団代表で演出を手掛ける高橋恵

作者の北村想

作者の北村想

── この作品は最初から、“高橋さんへのギフト”として書かれたということなんですね。

北村 「この劇団ならこれ」とか「この役者ならこれ」と、当て書きするじゃないですか。高橋だったらこういうものがいいんじゃないかな、っていうことで演出家としての当て書きをしたわけですよ。

── 実際に上演をご覧になって、どんな感想を持たれましたか?

北村 これは「ナビロフト」で上演した方がいいと思いましたね。プロセニアムアーチの劇場じゃない方が何倍も面白いだろうと。舞台と客席があれだけ近いと会話劇のインパクトがね。どうしてもプロセの舞台だと遮断されちゃうから、ある種の心地よい緊張感みたいなものは「ナビロフト」の方が味わえるだろうと思いますよ。

── 高橋さんは、戯曲をいただいてから約3年の間、演出ついてかなり考えられたんですか?

高橋 どういう演出にするかというよりも、まずは俳優探しでしたね。主人公が50代、60代位に見える男性ということで、私がよく知らないだけなのかもしれないですけど、関西でこの人、というのがパッと思いつかなかったんですね。同じような年代の人が2人出てくるんですけど、誰にしよう、誰にしよう、とずっと思っていて。もしかしてもう少し若かったらハマるんじゃないかと思って、「はしぐち(しん)さんがいいかも」と思ったら、だいたいの線で決めることができました。

北村 大阪公演を観た感じでは、ぴったりハマってますよ。いいキャスティングだと思います。会話劇ですから、ポテンシャルエネルギーがないと出来ないんですよね。動いて見せるということじゃなくて、ずっと止まって語って、語り合って、ということで聞かせる話ですから、それなりの実力がないと出来ない。今回のキャストは実力のある方ばかりだから、その辺は盤石ですね。

── 画家の話を書こうと思われたのは、何か理由があったんですか?

北村 『アトリエのある背中』というタイトルですから、最初は背中の方から始めたんです。モデルの背中を見せる、っていうところからね。そんなに際どくはないんだけど、そういうモデルがいて、ということだったら画家は当然いるだろうと。順番としてはそうだった。

── モデルの背中をモチーフにされたというのは?

北村 それはね、戯曲を読むとわかるんです(笑)。なんで背中かっていうのは、一種の伏線だよね。

高橋 そうですね。モチーフでもあるし、そこから始まって引っ張って、という感じなので、タイトルどおり大事な要素ですね。

北村 最初はちょっと不思議なタイトルだったんだけど、チラシの写真を撮ったら「ああ、なるほどそうか」と。なんかフランス映画みたい。こういうタイトルって結構あるじゃない。内容も翻訳劇みたいになってます。そんなに古い翻訳劇じゃなくて、今の海外ドラマみたいな。1時間15分ですからね。どういう会話劇か、というのは演出家から(笑)。

高橋 まぁ、大人のミステリーです。

北村 大人の、っていうところがミソなんだけどね。

高橋 どうも特別なガールフレンドが画家にいるらしい、という話を聞いて、「それはどんな女性なんだろうか?」とか、「そもそも実在するんだろうか?」というところから始まるんですね。主軸のストーリーラインとしては、その女性を巡って、画家とその家族と画商の男性とで、「こうじゃないか」「ああじゃないか」という話がずっと続いていくんですけど、登場人物の5人が5人とも本当のことを言わないという。何か隠したり嘘をついていたりするんです。

じゃあ誰が言ってることが、誰のどの部分が本当なんだろう? ということを想像しながら、会話で自分なりに仮説をして読み解いていきながらお芝居を観ていただくという。推理がメインではないんですけど、「これはどういうことなんだろう?」とか、「この関係性は?」ということを考えるのがすごく面白いんですね。実際に出演者と、稽古が一区切りにした時に「この謎の女性について、そろそろ作品の方向性を決めるためにコンセンサスを取りましょう」と話し合いをしたんですけど、皆好き勝手に読んでるんですよね(笑)。

戯曲を読んで演じている役者さんでも発想がいろいろ拡がったということなので、きっと観ている人の中でも、もっとたくさんの仮説が生まれて膨らむんじゃないかな? と思いますし、「観る方にお任せします」という形のミステリーじゃなくて、一応答えを持ってやっていて、それも完全に伏せたままにはせず上演してますので、そこも組み取れればスッキリすると思います。

── 演出面で苦労された点などはなかったですか?

高橋 苦労といえば、やっぱり俳優を探すことで(笑)。稽古に入ってからは、特別苦労したことはなかったかな。役者が意図と違う理解やプランで来ているな、みたいなところの調節は、他の作品でもいつも普通にやっていくことなので。とにかく書かれていることをちゃんと立ち上げるように全員で向かえばいい、という感じでしたね。

── 舞台美術はどんな感じにされたんでしょう。

高橋 ヨーロッパの映画みたいなテイストなんですね、ホンの印象として。それで美術の人と打ち合わせをした時も、こちらからそういうリクエストをしたわけじゃないんですけど、見せてもらった絵が「やっぱりそういうビジュアルを想像するんだ」という感じだったので、思い切ってそっちにガッとシフトさせて、ちょっと気取ってみました(笑)。

── 海外の画家のアトリエみたいな?

高橋 日本人なんですが(笑)、ちょっとよそ行きな感じですね。人の出入りが多少あるアトリエ、仕事場の雰囲気もあるセミパブリックの場所だからこそ、そこで交わされる会話も何かを隠したり、ちょっと嘘をついたり、体面を取り繕ってみたり、逆に本音が出たり…。それも時間によって変わって、プライベートな時間帯の夜だったりするとまた本音が出たり、言うつもりじゃなかったけれども言ってしまったり…という、その辺りが面白いなぁと。

舞台美術としては、置き道具がほとんどです。初演は間口6間(約11m)ぐらいある広いところだったので、全部を壁作って建て込んで、みたいなことは出来なくて。あと、違う事情でそうはしなかったというのがあって。なので特徴的な置き道具を配置して、またそれが違って見えるようにしたりシーンが変わったりもするので、うまく切り取り使い回す、みたいなことはしてます。

── ワンシチュエーションではないんですね。

高橋 大半はアトリエの中なんですが、喫茶店になったり、屋外にもなりますね。

── 昨年、初めて名古屋で公演されてみて、どんな印象でしたか?

高橋 お客さんがすごく集中して観てくれはったな、という感じがします。反応が良かったですね。「「ナビロフト」で公演があるし、観たことがない劇団が来るけれども行ってみようか」と、宣伝してくださる人たちの言葉を信じて観てくださるところがやっぱりあるなぁと。結構、「どうしよう、受け入れてもらえるだろうか?」という不安もありながら来たんですけど、すごく居心地が良かった、というのが正直なところです。いまだに出演者にやんわり責められるんですけど、千秋楽でちょっと拍手が長くて、「これはダブルコールか…?」みたいなハテナがつくような微妙な長さだったんですよ。何も準備してなかったんでそのまま終わっちゃって、後で皆に責められて(笑)。そっか、そういうこともあるんだなぁと。あれは嬉しかったです、かなり。

── 今回は、初演の大阪から名古屋公演に向けて、特に変えたりすることはない感じですか?

高橋 そうですね。戯曲のこういうところを見せたいとか、このセリフはこうだ、みたいな解釈の部分は変えないでいこうと思っていますが、見え方の絵としては、空間が違うのでやっぱり調節は絶対必要だろうなと。そんなに変えるつもりはないんですが、客席の視線の向きが少し違うので、その調整をして。大きく変わるのはそこぐらいですね。


「キャスティングをしたところで7割ぐらいは成功している感じ。演技の実力もある人たちだから、まさにその人たちに当て書きしたのか、という感じになってるね」と、作者の北村自身もお墨付きの本作。“謎の女”の正体について、また何が現実でどれが妄想なのか、自分なりの推理や解釈を脳内で巡らせながら観劇を楽しんでみては? 尚、全2回公演の両日ともアフタートークが開催されるので、創り手側それぞれの見解に触れてみるのも。

【アフタートーク登壇者】
28日(土) 高橋恵、出演者
29日(日) 北村想、高橋恵

公演情報

Visitors特別公演
虚空旅団 第30回公演『アトリエのある背中』

■作:北村想
■演出:高橋恵
■出演:はしぐちしん(コンブリ団)、高橋映美子、得田晃子、三澤健太郎、森崎正弘(MousePiece-ree)

■日時:2018年4月28日(土)19:00、29日(日)14:00
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-902)
■料金:前売2,500円 当日2,800円 18歳以下2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、1番出口から徒歩8分
■問い合わせ:虚空旅団 090-3922-1204(高橋)
■公式サイト:
http://www.ac.cyberhome.jp/~koku-ryodan/
http://naviloft1994.wixsite.com/navi-loft/atelier-noaru-senaka
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