ちばてつや氏の地元で、伝説作品の原画にKO! 連載開始50周年記念 『あしたのジョー展』は、東京ソラマチで5月6日まで

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2018.5.2
ちばてつや氏を中心に今期話題の『メガロボクス』で主人公ジョー/ジャンクドッグを演 じる細谷佳正氏(右)と、そのライバル・勇利を演じる安元洋貴氏(左)が並んだ

ちばてつや氏を中心に今期話題の『メガロボクス』で主人公ジョー/ジャンクドッグを演 じる細谷佳正氏(右)と、そのライバル・勇利を演じる安元洋貴氏(左)が並んだ

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1968年に週刊少年マガジンでの連載開始以来、50年に渡って愛され続けるボクシングマンガの名作『あしたのジョー』。単なる大ヒットというだけでなく、ライバル・力石が劇中で死んだ際には劇作家・寺山修司氏による葬儀が執り行われ、1970年に起きた日本発のハイジャック事件である「よど号ハイジャック」事件では、犯人グループが声明文で「われわれは明日のジョーである」と名乗るなど、社会現象をも巻き起こすほどの作品となった。

入り口ではジョーがお出迎え

入り口ではジョーがお出迎え

そんな50周年を祝って、作者・ちばてつや氏の地元であり『あしたのジョー』誕生の地ともいえる墨田区にそびえる東京スカイツリータウン・ソラマチ内の東京ソラマチ5階スペース634にて連載開始50周年記念『あしたのジョー展』が5月6日まで開催中だ。その内容とともに、開催前日の4月27日に行われた内覧会での、著者・ちばてつや氏の会見の様子をお送りしよう。

「最終回を描き上げたのがついこないだのように思えます」

はじめに連載開始から50年を迎えたことへの思いを聞かれたちばてつや氏は「色々な人にそれを言われますが『え? もう50年も経ったの?』という感じですね」と答え、あの有名なラストシーンを含めた最終回を描き上げた時を振り返った。

「ラストシーンがなかなか決まらなくて苦しんでいたのが、ついこないだのように覚えていますね。描き終えた後は私もジョーのように燃え尽きたような感じで、公園でボーッとしたこともあったんですけど、その公園もまだ当時のまま残っているんで、まだ何年も経っていないように思いますね」(ちばてつや氏・以下同)

50年前だが記憶は鮮明に残っているちばてつや氏が思い出をたっぷり語ってくれた。

50年前だが記憶は鮮明に残っているちばてつや氏が思い出をたっぷり語ってくれた。

今回の展覧会については「こんなに大きな規模で、自分の原画だけじゃなく梶原一騎さんの原稿にアニメのセル画や原画とか、私も初めて見る物が沢山あったので、できればもう一度じっくりと見に来たいですね」と語り、自分が生まれ育った場所でもある会場周辺についての思い出についてもふれた。

「ここ(東京スカイツリー)は昔は業平って言ってね、ここのすぐ近くの国民小学校に通っていたし、両国にある日大一中・一高(日本大学第一中等・高等学校)へ業平のガード下をくぐって都電に乗って通っていたので、すごく懐かしい場所なんですよね。そんな自分の故郷みたいな所で素晴らしい展覧会をやってくれて、とても私は嬉しいし、梶原一騎さんも喜んでくれていると思います」

無意識に投影していた終戦時の記憶

原画展のメインとなるのが、ちばてつや氏自らが厳選した名シーンを中心とした多数の生原画だ。それに関連して一番印象に残ったシーンを尋ねられ、当時の執筆時の思い出が語られた。

「どのページを見ても思い入れがあるので難しいんですけど、ドヤ街のおっさんやおばちゃんや子ども達がたむろしているところとかですね。あとジョーの戦っている時の眼を見て描いている時の気持ちを思い出したり、ジョーが打っては吐きを繰り返しているシーンを描いているうちに、私も入院してしまったことを思い出してちょっとつらくなったりもしました」

左はどや街の引きシーン。活気ある様子が描写されている

左はどや街の引きシーン。活気ある様子が描写されている

そしてジョーが減量に苦しんだ金竜飛戦あたりについては、太平洋戦争の終戦で命からがら満州から日本へと引き揚げてきた少年時代の記憶が反映されているという話に。

「ジョーが減量で苦しんでいた時に公園でみかんを見つけて食べようとするんだけど、それは皮だけだったというシーンがあって。描いていた時は意識していなかったんですけど、それは終戦で中国から日本に引き揚げてきた時の、いつもお腹を空かせていた子どもだった自分の思い出だったんです。私も雪の中で湯気を出している饅頭を見つけて思わず口にしてしまったんですけど、それは雪を被った馬糞だったんですよ。その時の記憶を僕はジョーの中でも描いていたんだなと思い出しました」

ジョーが減量中にみかんをみつけるシーン。話のあとだと馬糞にも見える!

ジョーが減量中にみかんをみつけるシーン。話のあとだと馬糞にも見える!

「あと、梶原さんが考えてくれた朝鮮戦争の頃の金竜飛の子ども時代の話で「戦争で犠牲になるのは兵隊だけでなく庶民も苦しい思いをしているんだよ」っていうのを描いたんですけど、自分もそこに中国から引き揚げてくる時の自分を重ねて描いていたんだなと思いましたね」

そんな戦争体験もあってか、同日に行われた韓国と北朝鮮の首脳会談が平和裏に終わったことを「今日は北と南が握手しましたね。私はそれがとても嬉しいんです。戦争や悲劇を回避できたなと」と嬉しそうに語られていた。

展示された原画には、ちばてつや氏と原作者・高森朝雄氏(梶原一騎氏)の長男であるA・Tプロダクツ代表取締役 高森城氏が製作当時を振り返るコメントも添えられており、ファンには興味深い内容となっている。それもあって、名シーンを選ぶのは難しかったかという問いには、ちばてつや氏の考える作品・作者・読者の関係について語られた。

原画にはちばてつや氏だけでなく高森氏のコメントがついているものもある

原画にはちばてつや氏だけでなく高森氏のコメントがついているものもある

「描いている時は必死になって作りあげてきたけど、描き終わった後はもう作品は読者のものなんです。名シーンは読者が選んでくれるものだと思うし、作者が自分の思い出とかでそれを語ってしまうと、あとからそれを読んだ読者が『あのシーンはそんな意味だったの?』と違う感想になってしまうかも知れないから、私はどうしようかと思ったんですけど、梶原さんの息子さんの城くんも選んでくれているというので。あまりそこらへん(ちばてつや氏の解説コメント)は読まないでさらっと流してくれればと思います(笑)」

「梶原さんは『あしたのジョー』で文学を書きたかった」

続いて会見は質疑応答に移り、まずは『あしたのジョー』が50年経った今も愛され続けている理由をどう考えているかという質問が。

「時代が変わっても人間の心の葛藤や気持ちは変わらないと思うので、日本人のそういう部分を描いてきたからかなと」

「あと作っていただいたアニメーションがすごく面白かったんですよね。一度原作に追いついちゃったので終わらせて、その後また作っていただきましたし(※)。私の原作を読んでいないけど、アニメーションの『あしたのジョー』でファンになったという人もたくさんいると思うんですよ。「アニメが面白かったから原作読んでみたけどつまらなかった」とか言われたら困るんだけど(笑)、どちらも面白かったと言ってもらえてホッとしました。そんなアニメーションや出版社が色々なものを出してくれたおかげで、50年も続く人気が作られたんだろうなと思います」(ちば)

※1970~71年に虫プロダクション制作のテレビアニメが放映され、内容が原作に追いついたためにカーロス・リベラ戦を最後に放送終了。そして10年後の1980~81年に東京ムービー新社(現トムス・エンタテインメント)制作の『あしたのジョー2』が放映された。

ちばてつや氏自身が『あしたのジョー』をどのような作品と捉えているかについては「スポ根と思われているが、そう思って描いてはいなかった」と語り、原作を務めた梶原一騎氏とのエピソードが明かされた。

「あの頃は『巨人の星』もあったし、梶原さんが色々なスポ根作品を描いて活躍されていた時期だったんで、『あしたのジョー』もそうなのかなと思っていたんですが、私はスポ根ものだとはあまり考えたことはなかったんですよ。あとで聞いてみたら梶原さんは「『巨人の星』ではスポ根だが、『あしたのジョー』では俺は文学を描きたいと語っていた」と聞きました」

「梶原さんはずっと作家になりたかった人だったので、私のマンガを通じて文学を描きたかったのかなと。『巨人の星』が直木賞なら『あしたのジョー』は芥川賞を狙いたいぐらいの気持ちだったのかなと感じたことがあります。そんな梶原さんの気持ちが私に乗り移って、ただのスポ根ではなく人間の葛藤や生き様とかを描いたり、挫折したりお日様当たらないところでしか生きられない人もたくさん出てきますよね。そういう人達をたくさん書いてくれたんで、紀子とかドヤ街の人たちとか、明るい太陽の下を歩く人をもっともっと輝いて描けたんじゃないかと思います」

最後に好きなキャラクターとその理由を問われ、意外なキャラクターへの思いが語られた。

「誰が好きと言ってもみんな(他のキャラクター達)が拗ねると思うんですよね(笑)。描いていて楽しかったのはドヤ街の子ども達ですね。あとマンモス西がうどん食べたりするシーンがあるけど、あれはジョーのようには生きられないだろうなという私自身を描いているんですよ。好きとか嫌いではなく、すごく親しみを持てるのは西やドヤ街の人達ですね。ジョーはこんな風に生きられたらいいだろうなとは思うけど、難しいだろうなと思いながら描いていました」

ドヤ街の人々やジョーの試合を見に来る観客達もジョーに思いを託していた

ドヤ街の人々やジョーの試合を見に来る観客達もジョーに思いを託していた

続いては『あしたのジョー』50周年記念作品として現在放送中のテレビアニメ『メガロボクス』で、主人公ジョー/ジャンクドッグを演じる細谷佳正と、そのライバル・勇利を演じる安元洋貴が登場。ちば氏は「毎週楽しみに見てますよ」と嬉しそうに二人を迎え、『あしたのジョー』や『メガロボクス』に対する熱い想いが語られ、会見は終了となった。

原作生原画&アニメ版の出早﨑「ハーモニー画」の迫力を間近で見るチャンス!

今回の展覧会の見所は何といっても原作の厳選された生原画を間近で見られることだ。カラー原画や伝説の「ジョーVS力石」戦の原画に加え、高森城・ちばてつや両氏がピックアップした15の名シーンの原画を一挙展示。力の入ったペンの生々しいタッチや、トーンや印刷の指示の書き込みにセリフ写植の糊の後など、50年の歴史と漫画制作のリアルな迫力が伝わってくるものばかりだ。さらに各シーンにまつわる高森・ちば両氏のコメントも添えられているので、ここで初めて明かされる秘密や裏話を楽しめる。

クライマックの名シーン。そこは空白だ!

クライマックの名シーン。そこは空白だ!

そしてアニメ版の展示では、コンテやセル原画に加え、監督を務めた名匠・出﨑統氏の代名詞ともいえる『あしたのジョー2』での迫力の止め絵演出「ハーモニー画」の原画も多数展示。そして最初のテレビシリーズ放映開始前に作られた幻のパイロットフィルムを観ることができるなど、こちらもめったにお目にかかれないお宝揃いだ。

アニメ版を手がけた出﨑氏の演出は止め絵の迫力で見せる「ハーモニー」。その絵は圧倒的迫力と説得力だ

アニメ版を手がけた出﨑氏の演出は止め絵の迫力で見せる「ハーモニー」。その絵は圧倒的迫力と説得力だ

他にも『あしたのジョー』のスピリッツを近未来を舞台に描くテレビアニメ『メガロボクス』の実際に触れられる原画を始めとする制作資料の数々や、漫画のビジュアルを使って制作された漫画動画、そして最終回のあのシーンを再現できるフォトスポットなど、ファンには嬉しい企画盛りだくさんの展覧会となっている。

『メガロボクス』コーナーの展示では絵コンテが舞う!

『メガロボクス』コーナーの展示では絵コンテが舞う!

動画等も展示されている

動画等も展示されている

展示されている名シーン原画からえらび抜かれた6点を使用した複製原画など、このイベントでしか手に入らない記念グッズも多数用意されているので、ゴールデンウィーク後半戦はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。そして、展示を見たあとは、ちばてつや氏の地元でもある近隣地区をめぐって、ジョーにつながる雰囲気が残る場所を見つけてほしい。

記念グッズが多数用意されている

記念グッズが多数用意されている

取材・文・写真=斉藤直樹

(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社
(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社・TMS
(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクスプロジェクト

イベント情報

連載開始50周年記念 『あしたのジョー展』
【開催日時】
4月28日~5月6日 午前10時~午後6時
【会場】
東京スカイツリータウン・ソラマチ® 東京ソラマチ 5F スペース634
【アクセス】
東武スカイツリーライン「とうきょうスカイツリー」駅
東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京成押上線「押上(東京スカイツリー前)」駅
東武バス・スカイツリーシャトル「東京スカイツリータウン」下車
【料金】
当日券:一般・大学生 1200円/高校・中学生 800円/小学生以下無料
【問い合わせ】
「あしたのジョー展」お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
【公式サイト】
http://joe-50th.com/exhibition/
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