英国ロイヤル・オペラによる全く新しい『カルメン』が映画館公開へ
Anna Goryachov as Carmen (C)ROH.Photo by Bill Cooper
映画、ミュージカル好きも楽しめる演出満載、『カルメン』の初稿版が現代に蘇る
世界屈指の名門歌劇場、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの人気公演の舞台映像が、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18』と題され、TOHOシネマズ系列を中心とした全国の映画館で今年も順次上映中だ。5月11日(金)からは、今シーズン8作目、ロイヤル・オペラ『カルメン』が5月11日(金)より全国順次公開となる。ビゼー作曲によるクラッシックなフランスのオペラが、オーストラリア出身の人気演出家バリー・コスキーによりスリリングでまったく新しい『カルメン』として生まれ変わる。
この、人気演出家バリー・コスキーが新しく息を吹き込んだオペラ『カルメン』の見どころを、クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成・石川了氏の解説とともに紹介する。
Anna Goryachova as Carmen, Kostas Smoriginas as Escamillo (C)ROH.Photo by Bill Cooper
19世紀のフランスの作曲家・ジョルジュ・ビゼーが、オペラ・コミック座から作曲を依頼されて題材に選んだ『カルメン』。歌手たちの反発や劇場の野蛮な物語に対する不平不満で作曲は難航し、作曲家自身が何度も書き換えては楽曲を取捨選択するなど、相当の紆余曲折を経て完成に至った。1875年に由緒あるオペラ・コミック座で初演されると、ロマの女性に翻弄される脱走兵の嫉妬と殺人のドラマという、あまりにふしだらで、あまりに野蛮な物語に、良家の子女で埋め尽くされた観客の反応は、氷のような冷たい沈黙という散々な結果だった。しかし、ビゼーの死後に友人の作曲家エルネスト・ギローが台詞をレチタティーヴォ(旋律付き台詞)に改訂したグランド・オペラ版がウィーンで大ヒット。その後、フランス・オペラの代表作として決定的な評価を勝ち得て、現代ではオペラ人気ベスト3に数えられる演目となった。
今回英国ロイヤル・オペラで新制作された『カルメン』では、これまで上演されてきた数々の改訂や削除、改ざんを元に戻し、1875年初演以前の、ビゼーが最初に完成させたという1874年初稿版を復活させた。
これまで多くの『カルメン』を観てきたという石川了氏も、「第1幕では通常にない伍長モラレスのアリアが登場。<ハバネラ>は途中から全く別の曲になってしまいます。ラストも通常の幕切れの音楽とは別物。多くの『カルメン』を観てきましたが、ここまで音楽が異なる上演は初めて!」と、その斬新さを解説する。
Carmen (C) ROH.Photo by Bill Cooper
演出を手掛けたのは、ベルリン・コーミッシェオーパー芸術監督のバリー・コスキー。この『カルメン』では、本来の芝居部分の台詞を、原作とオペラ台本を基に、コスキー自身が脚色したフランス語のナレーションに再構成。原作にあってオペラには描かれていない、物語の背景や裏事情をナレーションで解説している。そして石川氏がもう1つ演出のポイントとしてあげているのが、大階段しかない舞台装置。大階段が支配するモノトーンの世界で、出演者はキャバレーやレビューショーのように歌って踊る。カルメン役のアンナ・ゴリャチョーヴァは、フラスキータやメルセデスと踊る「ロマの踊り」や盗賊の五重唱での見事な振付で、舞踊でも見応え十分。さらに、エスカミーリョ役のコスタス・スモリギナスが「闘牛士の歌」で披露するユニークな振付や、ハンガリーのバリトン、ギュラ・ナジがシルクハットとステッキ片手に歌い踊るモラレスのアリアなども必見だ。石川氏はコスキーのこれらの演出について、「1874年初稿版を演出する上で、スペイン風の装飾や雰囲気を排除した、無機質な階段でのレビュースタイルを取ることによって、ビゼーの当初の意図と、最初に完成させた音楽の魅力を浮かび上がらせようとしているのかもしれません」と考察する。
1930年代ハリウッド・ミュージカルやボブ・フォシーの『オール・ザット・ジャズ』などの影も感じられるというコスキー演出版の『カルメン』。オーソドックスではないものの、映画やミュージカル好きにはきっと楽しいオペラ体験になることだろう。
▼石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)『カルメン』解説全文はコチラ
【動画】ロイヤル・オペラ『カルメン』予告編
上映情報
ロイヤル・オペラ『カルメン』
■作曲:ジョルジュ・ビゼー
■演出:バリー・コスキー
■指揮:ヤクブ・フルシャ
■出演:
アンナ・ゴリャチョーヴァ(カルメン)、フランチェスコ・メリ(ドン・ホセ)、
コスタス・スモリギナス(エスカミーリョ)、クリスティナ・ムヒタリアン(ミカエラ)
(C) ROH.Photo by Bill Cooper
■公開:
※ディノスシネマズ札幌劇場、フォーラム仙台、中洲大洋映画劇場でも公開いたしますが、公開日が異なります。詳しくは公式サイトをご確認ください。
■上映時間:3時間52分(休憩1回含む)
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
■配給:東宝東和