『夢二繚乱』展レポート “美人画だけじゃない” 竹久夢二が描いた大正ロマンの世界を、500点以上の資料で辿る

レポート
アート
2018.5.28
第2章「可愛いもの、美しいもの」展示風景

第2章「可愛いもの、美しいもの」展示風景

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2018年5月19日(土)〜7月1日(日)まで東京駅・東京ステーションギャラリーで開催中の『夢二繚乱』展。開幕に先立って5月18日に本展の記者内覧会が開催され、主催者らによる展覧会解説も行われた。本展は、今回が初公開となる青年期の試作『揺籃(ようらん)』をはじめ、500点以上の展示で竹久夢二の生涯を追う大回顧展。解説で語られた内容も交えながら、本展の見どころをお伝えしよう。

コマ絵、絵画、絵葉書、ファッション……、多彩な活動で世を風靡した竹久夢二

明治17年(1884)に岡山県で生まれた竹久夢二。彼は独学で絵を学び、若き日は新聞や雑誌に挿絵や口絵を投稿。その後、明治42年(1909)に発表した『夢二画集 春の巻』で一躍有名になった。なかでも妻のたまきをモデルに描いた、大きな瞳で儚げな表情をした女性像は「夢二式美人」と呼ばれ一世を風靡。50年の生涯において、包装紙や便箋などのプロダクトデザイン、楽譜の表紙、絵葉書なども数多く手がけ、今でいうグラフィックデザイナーのような活躍も見せた。西洋美術にも精通していた彼の作品は、現代では「大正ロマン」と言われる世界観を色濃く映し出している。

挨拶に立った千代田区の石川雅己区長

挨拶に立った千代田区の石川雅己区長

今回の『夢二繚乱』展は、夢二の死後、彼の画集・詩集を出版し、再評価の牽引役となった龍星閣が、創業者・澤田伊四郎の収集した夢二コレクションを千代田区に寄贈したことを記念して企画されたもの。この日は、千代田区の石川雅己区長も挨拶に立ち、「東京ステーションギャラリーのレンガはほとんどが大正時代に造られたもので、竹久夢二の絵ともマッチングします。東京の象徴であり、顔でもある東京駅でこのような展覧会が開催されることを嬉しく思います」と述べた。

第3章「目で見る音楽」展示風景

第3章「目で見る音楽」展示風景

本展は、夢二の代表的な画業をテーマとした4章構成によって展開され、本展で初公開となる画文集『揺籃』、自伝小説『出帆』の挿絵原画をはじめ、展示点数は500点以上と膨大な数に及ぶ。各地に専門美術館がある夢二といえど、これだけの作品を一挙に観られるのは大変貴重な機会といえるだろう。

現存する肉筆作品では最古の画文集『揺籃』が初公開!

この日は、東京ステーションギャラリーの冨田章館長と日比谷図書文化館文化財事務室の井上海学芸員による展覧会解説が行われ、まずは井上氏が本展で初公開された『揺籃』について解説した。

25歳の時に出版された『夢二画集 春の巻』で広く世に認知された夢二だが、『揺籃』はそれより6年前の早稲田実業学校在学中に描かれた画文集。現存する肉筆作品では最も古い時代のもので、創作の詩や外国文学の翻案などと4点の挿絵が収められており、若き日の夢二を知る上で重要な資料だ。

『揺籃』を解説する日比谷図書文化館の井上海学芸員

『揺籃』を解説する日比谷図書文化館の井上海学芸員

井上氏は「中には紫色の線でとても丁寧な推敲が入っており、夢二はゆくゆくこの作品を出版したかったのではないか」と考察。また、夢二はマザーグースの翻訳をしていたことでも知られているが、本作の中には何名かの外国人作家の名前が書かれており、未だ謎の残る夢二の西洋文学への興味を読み解く上でも重要な資料であるという。

画文集『揺籃』 明治36年(1903) 千代田区教育委員会蔵

画文集『揺籃』 明治36年(1903) 千代田区教育委員会蔵

続いて、各展示室を移動しながら冨田氏と井上氏が主要な鑑賞ポイントを解説。その解説の一部を抜粋しながら、各章の概要を紹介していこう。

愛らしい美人画とモダニズムが交錯する夢二の作品に見惚れる

第1章「夢二のはじまり」には、夢二の活動初期にあたる明治期の作品が集められている。この頃、夢二は本や新聞の表紙や挿絵などを描いて活躍。そしてそれらをまとめ、自作の詩や散文とともに編集した『夢二画集 春の巻』を発表して脚光を浴びることになるのだが、本展では『夢二画集』の全8巻を揃って観ることができる。一方で、《月見》や《縫う女》といった女性像は、まだ未熟さを残しつつも文明開化当時の空気を今に伝えてくれる。

『夢二画集 秋の巻』 明治43年(1910) 千代田区教育委員会蔵

『夢二画集 秋の巻』 明治43年(1910) 千代田区教育委員会蔵

続く第2章「可愛いもの、美しいもの」では、大正時代に入り「夢二式美人」と呼ばれるスタイルが確立され、さらに多方面へと活躍の幅を広げていった夢二の作品が展示されている。《白木蓮と乙女》や《秋》など、夢二の真骨頂と言える美人画の数々ももちろん必見だが、ここでは千代紙や便箋、絵葉書といった夢二のプロダクトデザインにも注目してほしい。

第2章「可愛いもの、美しいもの」展示風景

第2章「可愛いもの、美しいもの」展示風景

これらの多くは、恋多き夢二が2年間だけ婚姻関係を結んだ元妻・たまきが主人だった港屋絵草紙店で販売されたもの。港屋は現在のブランドショップのような存在で、夢二デザインの文具や絵はがき、さらには着物の帯や浴衣などの服飾デザインも手がけていた。

港屋絵草紙店と夢二の関係について解説する東京ステーションギャラリーの冨田章館長

港屋絵草紙店と夢二の関係について解説する東京ステーションギャラリーの冨田章館長

店の一角には夢二が若手芸術家らとグループ展を行ったコーナーもあり、冨田氏は「夢二は欧米の新しい美術道具を勉強し、それらを取り入れて絵やデザインを描いた。それが前衛的な芸術家を惹きつける理由になった」と解説。さらに「夢二式美人だけではなく、彼のモダンアートへの理解も併せて知ることで、夢二の全体像が見えてくる」と語った。

第2章「可愛いもの、美しいもの」展示風景

第2章「可愛いもの、美しいもの」展示風景

花や植物などをモチーフにしたデザインは今でも古びて感じられない秀逸さ。また、当時の絵はがきブームに乗って数多く発表された絵はがきには、西洋を題材にしたような絵や男性像も見られ、美人画だけで語られることの多い夢二の別の側面が見られる。

手前/「月刊夢二エハガキ 第一〇集 『川柳(一)』」 明治45(1912)年 千代田区教育委員会蔵

手前/「月刊夢二エハガキ 第一〇集 『川柳(一)』」 明治45(1912)年 千代田区教育委員会蔵

第2章の展示は階段を降りた2階展示室まで続き、2階では夢二が装丁を手がけた本を見ることができる。夢二は57の著作の装丁を自ら手がけ、他者の著作でも300作近い作品の装丁を担った。

手前/『山へよする』 大正8(1919)年 千代田区教育委員会蔵

手前/『山へよする』 大正8(1919)年 千代田区教育委員会蔵

ここでは同じ作品でも複数の本を展示して立体的に見比べられるようになっており、本ごとに異なる色遣いや全体バランスを考えた構成の美しさなど、夢二の装丁デザインへのこだわりを窺い知ることができる。

3点並べられた『春の鳥』。左は表紙、右は見返し 大正6(1917)年 千代田区教育委員会蔵

3点並べられた『春の鳥』。左は表紙、右は見返し 大正6(1917)年 千代田区教育委員会蔵

赤レンガの展示室を、大正ロマンの世界観あふれる作品が埋め尽くす

第3章「目で見る音楽」は、夢二が装丁を手がけた楽譜の中でも代表的なセノオ楽譜の表紙画を中心とした展示になっている。赤レンガが敷き詰められた展示室では、100点以上の表紙画で埋め尽くされた青い展示壁面が圧巻だ。

第3章「目で見る音楽」。セノオ楽譜表紙画の展示風景

第3章「目で見る音楽」。セノオ楽譜表紙画の展示風景

当時これだけの楽譜が出版された背景には音楽の西洋化があったと井上氏は説明し、「セノオ楽譜は世の東西を問わず世界各地の音楽を紹介したもので、夢二はアールヌーヴォーや前衛的なデザイン、あるいは和装の美人など様々な工夫を施して、見る人に楽曲のイメージが伝わるようにしていた」と解く。なお、同じ室内には夢二が描いた童謡の楽譜の表紙画も展示され、子供向け雑誌の挿絵も多く残した彼の優しいまなざしを感じることができる。

左/金の星童話曲譜第六集『子守唄』 大正13(1924)年 右/金の星童話曲譜第八集『ペンペン鳥』 大正13(1924)年 千代田区教育委員会蔵

左/金の星童話曲譜第六集『子守唄』 大正13(1924)年 右/金の星童話曲譜第八集『ペンペン鳥』 大正13(1924)年 千代田区教育委員会蔵

終盤の第4章「出帆」は、昭和2年(1927)に都新聞(現在の東京新聞の前身)で連載された夢二の自伝小説「出帆」の挿絵134点が展示されている。これらの挿絵は今回が初公開となり、夢二の年譜と挿絵とを対照して見ていくというユニークな展示方法がとられている。

第4章「出帆」の展示風景

第4章「出帆」の展示風景

40代前半に書かれた自伝には、奔放で知られた女性関係などスキャンダラスな出来事も赤裸々に語られており、夢二の生涯を最後に改めて通覧できる内容だ。

年譜の出来事とその時を表す挿絵を並べて展示

年譜の出来事とその時を表す挿絵を並べて展示

女子心をくすぐる、かわいい展示会限定アイテムにも注目!

ミュージアムショップでは、本展の図録やオリジナルグッズを販売。ソフトカバーの図録は本の装丁にもこだわった夢二らしさが伝わるような装いで、A5サイズの大きさは女性の両手にも馴染みやすい。一方で、夢二の美人画やデザインをあしらった付箋やポストカードも可愛いらしいものばかりで、こちらも女子からの人気を集めそうだ。

左/夢二繚乱展ブックマーク(各110円) 右上/夢二繚乱展図録(2592円) 右下/夢二繚乱展ロール付箋(各400円)

左/夢二繚乱展ブックマーク(各110円) 右上/夢二繚乱展図録(2592円) 右下/夢二繚乱展ロール付箋(各400円)

何しろ「繚乱」のタイトルにふさわしい500点以上の膨大な展示数だけに、ここで全てをお伝えするのは難しい。ぜひ、明治・大正時代にハイカラの象徴だった東京駅のギャラリーで、夢二の描く大正ロマンの世界にどっぷりと浸ってみてはいかがだろう。

イベント情報

千代田区×東京ステーションギャラリー 夢二繚乱​
日時:2018年5月19日(土)〜7月1日(日)
会場:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
開館時間:10:00〜18:00(金曜は〜20:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし6月25日は開館)
入館料:一般900円、高校・大学生600円
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201805_yumeji.html
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