ウィーン少年合唱団 日本ツアー2018 音楽を通してさまざまなことを体験! 合唱団にインタビュー
5月から日本ツアーを行っているウィーン少年合唱団。このほど来日中のメンバーを代表して、ゲラルト・ヴィルト芸術監督とハイドン組のジツヒロ君、シュテファン君、ガブリエル君の3人に話を聞いた。芸術監督からはウィーン少年合唱団を率いる意義と喜び、そして子供たちは合唱団で経験を積みながら将来のことを考え、一方で日本での体験に胸を躍らせる思いを語ってくれた。
子供たちは「団員としてインタビューに出ている」という自覚があり、こちらの質問に応えようと時折意見を述べる。ヴィルト監督は終始それを遮ることなく「うんうん」と耳を傾け、最後まで彼らに語らせようとする。監督と子供たちの、互いを尊重する姿勢が感じられたひとときであった。
狭き門を潜り抜けて選ばれた24人の子供たち
ーーまず今回来日しているハイドン組の特徴を教えてください。
ヴィルト:音楽的には非常に量感(ボリューム)のある組です。指導の際は音楽的なメロディや繊細さを忘れないように、とよく言っています。社会性から見ると、とてもよく調和が取れていて仲がよいですね。それに関しては教育係の先生がとてもよくやってくれていると思います。
ゲラルト・ヴィルト芸術監督
ーーウィーン少年合唱団には「モーツァルト」「ハイドン」「シューベルト」「ブルックナー」の4つの組があり、それぞれ24人のメンバーがいます。その組分けはどのように決めるのでしょう。
ステファン:最初に入る時にどの組に入りたいかという希望が出せます。
ヴィルト:確かに希望は出せますが、希望を出した組に、本人に合ったパートの空きがあるかどうかが大事です。詳しく説明しますと、ウィーン少年合唱団に入る前に附属の小学校に入る子供たちがいます。皆、ウィーン少年合唱団に入るつもりで歌の勉強をしていますので、彼らが合唱団に入る前に、私たちはその子のパート、音楽性などの情報を得ることができます。
一方、私たち合唱団の方では変声期を迎えるなど、どの組のどのパートから何人抜けるかというのがわかっています。ですから、団員補充の際は附属小学校と私達の方でマッチングができるわけです。また兄弟や親戚の場合はなるべく同じ組にする。同じ国の同じ村から来ている子達も、ツアーに行く時などには里帰りができますから一緒にしてあげた方がいい。それから仲の良し悪しもあります。そういったさまざまな要素でグループ分けをします。
それ以外では、附属小学校に入っていない子たちは私たちが実際に実力を見て、グループ決めをします。ですから、組の希望は出せますが、なかなか通るものではないのです。
ジツヒロ:僕の場合は2週間のトライアル期間があって、入学できました。
ジツヒロ君
ヴィルト:附属小学校以外の子の場合は2週間で自身の適性や将来性などを見極めて、子供自身もやって行けると思い、私ども教師もOKとなった場合に、訓練学校に入ります。とはいえ、そこに入ったら、必ず全員が合唱団のメンバーになれわけではありません。小学校にしてもそう。入れるのはほんの一部です。
ーー狭き門を潜り抜け選ばれた子達なのですね。
さまざまな経験を経て子供たちは自分で将来を考えるように
ーーヴィルト監督が子供たちの才能伸ばす上で一番大事にしていることは何ですか。
ヴィルト:まず一般的なことを言うと、やはりそれぞれの音楽性です。声の響きや音質、音程、そういったことを一人ひとりにあったやり方で伸ばしていきます。ソリストに向いている子はその機会を与えたり。また楽器を弾いている子もいるので、その楽器演奏の才能を伸ばすことも大切です。コンサートで弾いたり、ときには伴奏をしたり。いろいろな音楽的要素において才能を伸ばしていくのは大切です。できるだけ良い芸術家に引き合わせるのも大切です。ズービン・メータなど、とくに良い指揮者にですね。また今回のようなツアーもすばらしく、彼らの才能を伸ばすことに繋がっています。サントリーホールで演奏するというのはすばらしい経験になると思います。
ーーいろいろな経験を積むことが、将来の役に立つということですね。(子供たちに)いろいろ経験をして、やはり将来は音楽家になりたいのですか?
シュテファン:僕は俳優になりたい。だっていろいろなところに行けるし、イタリアに旅行して映画に出ることもできる。
ヴィルト:家族と会えないんじゃないかい?
シュテファン:でもテレビに僕が出れば、家族がテレビで僕に会えるよ。テレビを見て楽しんでくれればいいな。
シュテファン君
ーーこの日本ツアーも長いですが、ホームシックのようなことはないのですか。
シュテファン:はじめは少しホームシックになったことはあったけれど、だんだん経験を積んでいろいろなところに旅行していると、将来のことを考えるようになってきた。俳優になればいろんなことができる。演技のほか歌も歌えるしピアノも弾ける。ウィーン少年合唱団に入ったことは将来のためにすごく役に立つと思う。
ジツヒロ:僕はピアニストになりたい。ウィーンに来てからずっとピアノの練習をしていて、その時間が一番楽しくていいなと思っている。
ガブリエル:僕は何か音楽ではやっていきたいなと思っているけど、まだ具体的にはわからない。
ヴィルト:指揮者の方向で考えているんじゃない? ガブリエルはピアノが弾けるんだよ。
ガブリエル:今はチェロをやっているんだ。
ガブリエル君
ーーすごいですね。みんないろいろ経験しながら自分でしっかりと考えている。
世界に影響を与える子供たちは日本のマンガも大好き
ーーヴィルト芸術監督が子供たちの指導を通して遣り甲斐を感じるところは何でしょう。
ヴィルト:私の役割は芸術分野の育成とオーガナイズの面です。これはもちろん私1人だけではなく、カペルマイスターや発声練習の先生などさまざまな方々がいてできることです。そういう場の中で、私は「子供たちが音楽的にも人間的にも成長できればいいな」という、自分が考える姿や影響を自ら与えることができます。
また、子供たちは世界中をいろいろ回って、行った先で非常にポジティブな影響を与えたり、得ることができます。同時に彼らの音楽を聴くことで、世界中のこどもたちが影響を受け、それをさらにほかの人たちに伝えてくれる。私たちが世界を回ることで、そこに音楽や教育にいろいろな影響を与えることができます。
それはコンサートだけではありません。音楽教員養成や音楽家の卵に対するプロジェクト、対談、講義などもあります。時には政治的なことや平和活動を行っている組織と活動することもあり、さまざまなところでポジティブな影響を及ぼすことができます。
ーーそこに誇りを感じている。ポジティブな影響が、合唱団の存在を通して波紋のように広がっているわけですね。最後に皆さんにお伺いしますが、日本滞在中に「これをやりたい!」ということをそれぞれ教えてください。
ジツヒロ:僕は日本全国を回るから、日本の両親に日本の写真をたくさん撮って、見せてあげたい。そして自分の国をもっと知りたいです。
シュテファン:なんでもやってみたいです。日本のことはなんでも知りたい。いろんな場所に行ってみたいし、いろんな絵や写真を見てみたいし、アニメ制作の現場も見てみたい。お寿司も食べてみたい。
ガブリエル:僕も日本の伝統を色々知りたいし、アニメも好き。『名探偵コナン』(※1)がどうやって作られているのか、どんなカメラを使って撮られているのか見てみたい。キヤノンのすごいカメラをもらったけど(※2)、お母さんが日本の大ファンで、東京のスカイツリーや東京タワーを見てみたいって言っているんだ。写真をお母さんに見せながら、僕が自分の目で見たことを話して喜ばせてあげたいな。
(左から)ガブリエル君、シュテファン君、ジツヒロ君
一同 :(おおー!という声と共に)優しいなぁ!
ーーありがとうございました。
※1:ドイツ語吹き替えでオーストリアでも放送されているそう。「合唱団の子達もみんな大好き」とジツヒロ君。
※2:日本公演特別スポンサーのキヤノンマーケティングジャパン株式会社が、団員全員にプレゼントしたカメラ。
取材・文=西原朋未 撮影=岩間辰徳
公演情報
ウィーン少年合唱団 2018 日本公演