中村橋之助と南果歩が描く「オイディプス王」は、躍動感溢れる新たな切り口の物語!
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(右から)南果歩、中村橋之助
2018年12月12日(水)より、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場にて舞台『オイディプスREXXX』(オイディプスレックス)が上演される。本作は、父を殺し、自らを産んだ母と夫婦となった若き王が、破滅への道を転がり落ちるまでを描いたギリシャ悲劇の傑作。主人公オイディプス王役を演じるのは、現代劇初出演かつ初主演の中村橋之助。そしてオイディプス王の妻イオカステ役は約2年ぶりの舞台出演となる南果歩が務める。演出は、木ノ下歌舞伎『勧進帳』などを手掛け、強烈な個性を放っている演劇人の一人、杉原邦生だ。
取材当日はポスター撮影を行っていた橋之助と南。やや緊張の色を見せる橋之助をあたたかくフォローする南。そんな二人に本作について聞いてみた。
ーーお二人は今日が初めての顔合わせと聞きました。
橋之助:はい、初顔合わせどころかちゃんとお話するのがこの取材が初めてなんです。大先輩で大女優の南さんがお相手ですから……怖い人だったらどうしようと昨夜ビビッていまして。実際ご挨拶してみたらとても優しい方でホッとしました(笑)。
南:アハハ。良かった!
橋之助:昔、母(三田寛子)が南さんが出演された舞台『ガラスの仮面』を観に行った時、楽屋で挨拶してくださった事をすごく覚えていると話していました。
(右から)南果歩、中村橋之助
ーーぜひこのインタビューをきっかけにして、交流を深めていただければ。ということでまずは、この舞台のオファーをいただいた時のお気持ちから教えてください。
橋之助:昔から歌舞伎以外の舞台を観る機会が多かったです。小さい頃から父と母がよく連れていってくれたんです。僕は歌舞伎がいちばん好きなのですが、歌舞伎以外のお芝居にもすごく興味があって、以前から外部舞台に出てみたい、と父や先輩方に相談していたんです。映像作品よりは舞台に出てみたいって。そんななか、このお話をいただいたのでめちゃくちゃ嬉しかったです! ……その後に「僕がオイディプス王をやるの!?」と聞いてびっくりしましたけれど(笑)。
ーー確かにオイディプス王役は、これまでかなりベテランの方が演じてきたイメージがありますよね。
橋之助:(演出の)杉原さんがこだわる「若き」オイディプス王を、皆さんのお力をお借りしながら作っていきたいです。能動的にいろいろやってみたいなと思っています。
ーーそして南さんは約2年ぶりの舞台出演ですね。本作に何か縁があると耳にしたんですが……。
南:私が初めて『オイディプス王』を読んだのは、18歳の頃。演劇を始めて間もない時、当時通っていた学校で受けた座学の授業の題材が『オイディプス王』だったんです。石澤秀二さん(演出家・演芸評論家)に教わっていたんです。先日、たまたま学校の集まりで石澤先生にお会いした際に、「先生、私、『オイディプス王』に出るんです」って言ったら、先生はものすごく驚いて「お前がイオカステをやるのかー! そんな歳になったか!」と感慨深くおっしゃられて(笑)。
ーーそんなご縁がある本作に出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
南:時を経てこの作品に再会できるとは夢にも思っていなかったので、感慨深いです。ただ、当時読んで感じた印象と、今、台本を読んで受ける印象は大きく変わりましたね。人の運命や人生における自分の選択、そこに存在する意志、そういうものすべてが渦のように絡み合っていて、どれが自分の意志によるものなのか、あるいは何かに定められた運命なのか……18歳の頃はそこまで想いが及んでいなかったように思います。今はオイディプス王が「真実」を知った後の苦悩や、イオカステが愛した相手が実の息子だったなど、人の力ではどうにも抗えない宿命を感じています。私たちは自ら人生を選んでいるようで実はそうではなく、すべて神様が書いたシナリオがあって、その次のページをめくるまでは運命とは知らずに選ばされているのかも知れないとも感じますね。
南果歩
ーー演じる側が経験を重ねるとともに、物語の奥の深さをより感じる作品なのかもしれないですね。 ところで、昨今、橋之助さん初め、歌舞伎界の若手役者の方が次々と外部舞台に出演されていますね。
橋之助:確かにそうですね。歌舞伎界自体、昔は「歌舞伎がまだ出来ていない状態で外部舞台なんてとんでもない、まずは貴方がやるべきことをおやりなさい」と上の方々が言っていました。でもその後、父(中村芝翫)や(中村)勘三郎のおじさま、(坂東)三津五郎のおじさまのように、歌舞伎以外の場所で経験を積んできた人が、それまでの歌舞伎役者にはないアイディアや引き出しを作って歌舞伎界に還元してきたのを見て、いつしか「外で勉強して経験を積もう、(外部舞台は)やりたいときにやってみよう」という流れになってきたように感じます。
ーーお父様初め先輩方が歌舞伎界にもたらした影響の大きさを感じますね。さて、本作のオイディプス王とイオカステ。どのように役と向かい合っていこうとなさっていますか?
橋之助:歌舞伎の場合、新作をやるときは、まずは役を自分に置き換えてみるところから始めますね。びっくりするような事や困難にぶつかったとき、自分だったらどのように反応するだろう、と。でも今回は歌舞伎ではないお芝居なので、自分が抱えている固定概念を捨て、まずは真っ白の状態で稽古に臨んでいこうと思っています。途中で困ったら違う方法を選んでまた試してみて……と。
中村橋之助
南:今回、ギリシャ劇ですが、杉原さんが演出するとなれば、通り一遍の作品にはならないと思います。私はそこに大きな期待をしています。ギリシャ劇は重く手強い、というようなものには絶対ならないと思うんです。橋之助くんという瑞々しい役者さんが軸になり、杉原さんの独特の感性でこの作品を紐解いていくことになるので、まったく新しい『オイディプス王』になるのは間違いないと考えています。それであれば、私もギリシャ劇という枠を取っ払って、自由に一人の女性として役にアプローチしていくほうがいいかもしれない、と思っています。イオカステは先の王の事を心から愛し、また新しい夫にも愛情深く接していく、彼女は「愛の人」だと思うんです。そんな想いが私の役作りの核となりそうです。
ーー今日はポスター撮影をなさっていたそうですが、撮影で「こんなポーズを、こんな表情を作って」といった指示が「つまり、自分が演じる役ってそういう人格か」と感じるヒントの一つになるのでは、と思います。そういう点で何かヒントをつかめましたか?
南:それがね……「静止して、こんなポーズを取って」というよくある撮影の仕方じゃなかったんです。ライブ感満載の音楽がガンガン流れる中、ジャンプしながら撮影されていたんです。躍動感、生きている実感が溢れていました。(橋之助を見て)結構、暴れていたよね(笑)?
橋之助:暴れてましたね(笑)! フリースタイルでね!
ーー(写真を見せられる)え! これはすごい! 想像していた『オイディプス王』と全く違いますね!
『オイディプスREXXX』ビジュアル写真
橋之助:僕も現場で衣裳の資料を見るまでは、身体に布を巻いた、いわゆる古代ギリシャ人のような姿をするんだと思っていたんです。
南:杉原さんは、生きている人間の苦悩や歓喜を表したいのかもね。
ーーそうなると、今回の舞台はこれまでのイメージとまったく異なる作品になりそうですね。固定概念を全部覆されそうです。
南:100%違うものになると思いますよ(笑)。本当に杉原さん独自の視点と独自の感性で作られる新しい作品になると思うので、全力でついていきたいですね。
ーーそんな杉原さんとは本作について何か話をされていますか?
橋之助:お芝居の話はまだあまりしていないんです。今日も真面目な話「以外」の話をたくさんしていました(笑)。実際に稽古が始まった時には一方通行ではなく、自分からも意見を出してディスカッションしながら稽古ができれば、と思っています。
中村橋之助
ーーちなみに、マジメ「以外」の話の内容が気になるですが……(笑)。
橋之助:僕が出演する「第二回 日本舞踊 未来座 裁-SAI-「カルメン2018」』(2018年6月上演)の話をしていまして。僕はカルメンに惚れてしまうホセの役をやるんですが……女優さんとの共演もはじめてなので、芝居の中でカルメンや許嫁のミカエラと滅茶苦茶くっついて芝居をすると、演じている人を本当に好きになってしまったらどうしよう、って話を(笑)。
南:いやーかわいい(笑)!!
ーーそうでした! 「女性」とお芝居をする事自体が初めてなんですよね。
橋之助:カルメンはホセを翻弄する立場なのでまだいいとしても、ミカエラとはホセがカルメンに巡り合う前のラブラブな時代がある訳です。稽古当初は特に何も考えずに稽古をしていたんですが、最近はどうもドキドキするようになってしまって……。だから『オイディプスREXXX』の稽古が始まった時に、僕が傷心していたら、いろいろ察して慰めてください……って、そんな話を杉原さんとしていたんです(笑)。
南:本当にかわいい(笑)!
ーーそんな南さんは杉原さんとどのような話をされていたんですか?
南:杉原さんが通っていた大学の話をしていました。実は杉原さんの大学時代の恩師が、私のデビュー作である映画『伽耶子のために』の脚本を手掛けていた太田省吾さんだったんです。(※監督の小栗康平と共同制作)それを知ってびっくりしちゃって!
南果歩
ーーこの『オイディプス王』の話とは趣が異なりますが、知らないところで人と人は何かの縁で繋がっているんですね。ところで、この『オイディプスREXXX』で描かれる運命とか人生における選択、というテーマをお二人の日常生活でも感じることはありますか?
南:この作品で描かれる大きな「真実」ほどの事は実生活ではないと思いますが(笑)、人生って二者択一の連続ですよね。そこで自分が選んだり、自分の意志と反してやむなくもう一方を選択せざるを得ない場合もある。しかし何が正しかったのかは、すぐには分からない。時を経て初めて、己を知ることになる。そう思うと人生は短いし、答えは一代では出ないのかもしれませんね。橋之助くんもあの名家に生まれ「中村橋之助」という名前を名乗る……これも運命だったのかもしれませんし。
橋之助:襲名した時に感じましたね。父も母も「歌舞伎をやりたくないならしなくてもいいよ」って考えで僕らを育ててきましたが、僕自身がものすごく歌舞伎が好きだったので、中学生の頃から舞台に出ていました。一方、弟は学校の方がおもしろいから、と舞台には出ていませんでした。まさに「今やりたいことをやる」でした。僕は20歳で襲名をしましたが、こんな人生で一番大きいチャンスに巡り合えたのも、この家に生まれてきたことも僕が持っていた「運」だと思っています。だからこそ、しっかり生きていかないと、この運をくれた神様にも失礼だと思うんです。この家に生まれ、この年齢で襲名させていただき、この年齢で『オイディプス王』をやらせていただける。そのありがたさに気が付いた1、2年でしたね。
(右から)南果歩、中村橋之助
取材・文=こむらさき 撮影=山本れお
公演情報
『オイディプスREXXX』
テーバイの都に突如襲いかかってきた疫病の原因が、先王ライオス殺害の汚れにあるとアポロンの神託によって知らされたオイディプス王は、早速犯人糾明に取りかかる。その犯人が実は自分であり、しかも産みの母と交わって子を儲けていたことを知ると、自ら目を潰し、王位を退く。
■日時:2018年12月12日(水)~2018年12月24日(月)
■会場:KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
■作:ソポクレス
■翻訳:河合祥一郎(「オイディプス王」光文社古典新訳文庫)
■演出:杉原邦生
■出演:中村橋之助/南果歩/宮崎吐夢
大久保祥太郎/山口航太/箱田暁史/新名基浩/山森大輔/立和名真大