浦井健治「こんなに純粋なラブ・ストーリーに挑むのは初めて」ミュージカル『ゴースト』インタビュー

2018.6.29
インタビュー
舞台

浦井健治

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1990年に公開され、世界中で大ヒットした映画『ゴースト/ニューヨークの幻』のミュージカル版がついに日本初演される。2018年8月5日(日)から東京・日比谷シアタークリエにて上演されるミュージカル『ゴースト』にて、主人公サム役を演じる浦井健治。この数年、ミュージカル、ストレートプレイ問わず、多くの作品に出演し続けている浦井だが、この『ゴースト』という作品にはどう向かい合っていくのだろうか。

取材日当日、浦井は『生中継!第72回トニー賞授賞式』(WOWOW)にゲスト出演し、本作の主題歌「アンチェインド・メロディ」を披露したばかり。その興奮も交えてのインタビューとなった。

浦井健治

ーーさきほど生放送内で「アンチェインド・メロディ」を聴かせていただきました。心地よい歌声で癒されました。この曲は音域が広くて、歌うのが手強そうに感じたのですが、歌う側としてはいかがでしたか?

気持ちよく歌わせていただきました! 『ゴースト』の楽曲は、歌い甲斐のある粒ぞろいの素晴らしい楽曲がいっぱいなんです。

ーーこのほかの楽曲を聴ける日が待ち遠しいですね。ということで、早速『ゴースト』のお話を伺っていきたいと思います。

サムは普通の男性だからこそ感情移入出来る存在に

ーーまずは本作のオファーが来た時のお気持ちからお聞かせください。

まず「ろくろ……」って思いましたね(笑)。世界的に超メジャー級映画のミュージカル化ですし、それの日本初演で、さらに演出のダレン・ヤップさんとご一緒できるのが嬉しいです。「ダレン組」とも呼ばれ、一度彼と一緒にお仕事をすると皆が大好きになってしまうと聞いています。このお話を浦井に、と思っていただけた事が光栄であり、またプレッシャーも感じました。今この時期に自分がこの役を出来ることは「ギフト」だと感じていますので、きちんと消化していきたいです。

そして、実はこんなに純粋なラブ・ストーリーに挑むのは初めてなんです。

ーー確かに! 言われてみれば、純粋なラブ・ストーリーは、やっていそうで意外とやっていなかったんですね。

そのラブ・ストーリーの相手が咲妃みゆさんと秋元才加さん(Wキャスト)。(公式サイトに掲載されている)PV撮影の時、それぞれがまったく違う個性を持っていると感じました。そして二人ともマジメで真っ直ぐ、芯も強い一方で儚さもあって、きちんと支えていきたいと思いました。

浦井健治

ーーところでそのラブ・ストーリーですが、演じる立場としてはどこか気恥ずかしさがあるものですか?

そうでもないですよ。ここ最近「構わぬ!」などと上から言い放つ、王座に就いている人物(笑)をやっていたので、むしろそっちの方が恥ずかしいです。それよりは「愛しているんだ」と言葉で気持ちを伝えあえる役のほうが、お芝居としても自然かも。ダレンも「お互いの意見を言い合える男女関係こそが、本当に愛しあっている状態。ラブ・ストーリーという点だけでなく、人間味のあるサムとモリーになってほしい。それはカールにも言えることなんだけどね」と言っていましたし。

ーーサムはゴーストになって特別な人生を送る事になりましたが、そもそもはごく普通の男性ですしね。

そうですね。優しさもあり、負けず嫌いで、ちょっとダメな部分もあり、憎めない部分もある。嫉妬もするし友達も大切にする……ごく普通の存在であることが本作の肝だと思いますし、そんなサムだからこそ、お客様も感情移入がしやすい存在となるんじゃないかな。そんな彼が死に直面し、それでもモリーを愛している、その姿に人間の純粋で普遍的な愛の形や、人生でいちばん大切にしたいものが見えてくるんでしょうね。

重要なのはオダ・メイの存在

ーーゴーストになってしまったが故に、モリーをはじめ、生きている人たちに自分の想いを伝えたいのに伝わらない、サムのもどかしさを演じるのが難しい役では、と思うのですが。

演じるという点では、僕よりモリーやオダ・メイのほうがより難しいと思いますよ。オダ・メイはサムの言葉が聞こえているし、たぶん近くに「誰かがいる」と感じ半信半疑になっている。そこからサムの存在を本当に信じるまでの「過程」をも演じていかないとならない。それってなかなか難しいと思うんです、だって舞台上では目の前に浦井=サムがいるんだから、どうしてもダイレクトに台詞が聞こえるし見えていますからね。見えていない体、聞こえていない体で演じるのは相当難しいでしょうね。僕は一方的に「聞いてくれ!」と訴えることができますが、オダ・メイはそれを「感じている」演技をしなければならないですから。

ーーサムとオダ・メイは、ときに笑いを誘うコミカルな場面も作り上げていきますよね。

そういう楽しい場面でお客様にゲラゲラと思いっきり笑っていただき、最後には何故か涙が出てしまう……それを目標にして作っていきたいです。「泣き笑い」って究極の涙、すごく満たされた涙だと思っていて、人間は一生の間にその涙を何回流すことができるのかが重要だと思うんです。「涙」と「笑い」って表裏一体の感情なんじゃないか、って。

オダ・メイがこの物語で担っているのは感情表現の中でもいちばん繊細なパートではないでしょうか。自身が抱えている劣等感や悔しさ、また自分の中のエゴを捨て切って、サムとモリーのために動こうとするオダ・メイ。きっと彼女がすごく愛おしい存在として見えてくると思うんです。「人間ってそうありたい、そうしたいよね」という心の中にある希望の光をオダ・メイが作り、そしてサムにはその光を感じたり、映し出していく役割を果たすことが求められるでしょうね。

この作品において、いちばん重要なのはオダ・メイだと僕は思っています。モリクミ(森公美子)さんがこの役を演じてくださるのは本当にありがたいです。オダ・メイ役はウーピー・ゴールドバーグかモリクミさんしか出来る人がいないんじゃないか、って思うくらいですから。

浦井健治

二人のモリーへの想い

ーー先ほど、二人のモリーが全く違う個性を持っている、と話していらっしゃいましたが、具体的にどのような違いを感じられましたか?

先ほどの話題にも出てきたPV撮影の時、咲妃(みゆ)さんは、バックハグした瞬間に固まり、まるで産まれたての小鹿のように震えていたんです(笑)。それを見ていた秋元さんが「大丈夫、大丈夫だよ」って咲妃さんの緊張をほぐしてあげていて。一方、秋元さんは率先してラブシーンを「ここはこうやってみよう」とワークショップのように動いてみせていました……とはいえ、秋元さんもバックハグしたら耳が真っ赤になっていたんですが(笑)。でも撮影中に僕が「これはお芝居だから」と声をかけると「これはお芝居、お芝居……」とつぶやいていた咲妃さんが突如“モリーとして”動き出したんです。その瞬間に「この方は女優なんだ、女優としてその場でお仕事が出来る人なんだ」と改めて気付かされました。

咲妃さんにしても秋元さんにしても、「初めまして」からのいきなりバックハグですからお互い変な汗が出るんです(笑)。結構な密着度でしたしね。僕も緊張しつつお二人に失礼のないよう、やっていました。

ーー劇中では、サムがゴーストになる前、普通の恋人同士のシーンでかなりラブラブな姿を見せることになりますよね。

そこが本当に大事だと思うんです。どれだけ二人が愛し合っているか、を冒頭で見せることで、それだけ愛し合っていた二人だからこそ、最後にもっと超越した愛の形を見せる説得力が増すんだと思います。

ーーちなみにサムはモリーに対して「愛している」となかなか最後まで本音を言えないキャラクターですが、浦井さんご自身は思っていることを素直に口に出せますか?

はい。結構すぱっと言ってしまいますね。即答しすぎて「もっと考えてから発言して。反射神経で答えずに一度脳を通せ」って(井上)芳雄さんによく言われます(笑)。

浦井健治

ーー井上さんの声が聞こえてきますね(笑)。

日本版の『ゴースト』はより演劇的な作品に

ーー本作は「映画ではズームで見せていたことを舞台でどのように表現するか」もポイントになると思います。そのあたり、ダレンさんから何か説明はありましたか?

ダレンによると、ブロードウェイ版やウエストエンド版とはまったく違う演出が日本版にほどこされるようです。例えば電車の中でサムが別のゴーストにぶっ飛ばされる場面も人力で飛ぶことになるだろうし、舞台セットもプロジェクションマッピングなどの映像やLEDを使った海外版の真逆を行くものになる……。例えば黒子役が地獄からの使者となったり、全員がサムに化けるなど、お客様の想像の「余白」に任せる見せ方……日本版『ゴースト』はより演劇的なものとして、お客様に登場人物たちの心の揺れ動きを見せていくことに重心を置く作品になるだろう、と言っています。

ーーそんな『ゴースト』に浦井さんはどのように向かい合っていきたいですか?

この作品は非常に有名な作品であるからこそ、皆さんの期待値も高いです。ダレンがその期待に応えようとしているのが僕にも見えているので、自分が感動したことをお客様にも感じていただこうと、誠心誠意取り組んでいきたいですね。

浦井健治

取材・文・撮影=こむらさき

スタイリング=壽村太一
ヘアメイク=山下由花

公演情報

ミュージカル『ゴースト』
 
■日時:
【東京公演】2018年8月5日(日)~31日(金)日比谷シアタークリエ
【大阪公演】2018年9月8日(土)~10日(月)サンケイホールブリーゼ
【福岡公演】2018年9月15日(土) 16日 (日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【愛知公演】2018年9月22日(土) 23日(日)刈谷市総合文化センター アイリス
 
■脚本・歌詞:ブルース・ジョエル・ルービン 
■音楽・歌詞:デイヴ・スチュワート&グレン・バラード 
■演出:ダレン・ヤップ
■出演:
浦井健治、咲妃みゆ/秋元才加(Wキャスト)、平間壮一、森公美子 
松原凜子、松田岳、栗山絵美、ひのあらた 
大津裕哉、岡本悠紀、小川善太郎、木南清香、コリ伽路、島田彩、丹宗立峰、千葉直生、土倉有貴、西川大貴、湊陽奈

■公式サイト:http://www.tohostage.com/ghost/
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