鼓童 住吉佑太が初演出、『巡 -MEGURU-』で全国ツアー~太鼓のうねりとライトな旋律で新境地を目指す
鼓童 住吉佑太(右)・山脇千栄(左)
2018年11月より、太鼓芸能集団 鼓童の全国ツアー『巡 -MEGURU-』が始まる。鼓童は1981年に結成した太鼓芸能集団だ。佐渡島に拠点をおき、2018年現在で世界50か国6000回を超える公演を行ってきた。坂東玉三郎との共演や、初音ミクとのスペシャルライブなど活動の幅は広く、鼓童のパフォーマンスを知る方は多いだろう。しかし、新作公演のテーマ曲「巡」は、MVで観る限り今までのイメージが異なるものだった。新作公演『巡 -MEGURU-』の見どころを、本作が初演出作品となるメンバーの住吉佑太と、2018年より正団員となった山脇千栄に聞く。
固定概念を取り払い、次の時代へ
――2018年11月より、鼓童の全国ツアー『巡-MEGURU-』がはじまります。タイトルの由来をお聞かせください。
住吉佑太 演出のお話をいただいた時に、ちょうど作っていたのが『巡』という曲でした。そこから『巡』という言葉を公演全体のテーマに広げ、新作公演のタイトルを『巡 -MEGURU-』としました。この作品は、皆さんが景色を思い浮かべられる曲、心象風景が「巡る」音を意識して構成しています。
――『巡-MEGURU-』は、鼓童の中でどのような位置づけの公演となるのでしょうか?
住吉 これからの鼓童の活動における2本柱のうちの1本、その第1作目となります。話は少し遡りますが、鼓童は2012年より4年間、歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんを芸術監督にむかえ、多くのご指導をいただきました。この4年間は、鼓童の中にできていた固定概念に気づき、一度取り払い、集団としての表現の振り幅を広げる期間だったといえます。2016年に玉三郎さんの任期が終わられ、今は、鼓童が自分たちの足で次の一歩を踏み出していこうという時代に入っています。
2本柱のうちの1本は、鼓童にとって根幹となる舞台です。いわゆる鼓童らしい半纏、ハチマキとフンドシで演奏する作品で、6月にツアーのあった『道』という公演がこちらにあたります。もう1本の柱となるのが、表現の幅を広げることを目的にした新作公演です。11月より始まる『巡-MEGURU-』がその第1作目にあたります。
――玉三郎さん演出作品は、それまでの鼓童とはイメージの異なるものでした。在任時の玉三郎さんからは、どのような指導があったのでしょうか?
住吉 常におっしゃっていたのは、「振り幅」。太鼓しか叩けない人の太鼓と、ドラムも叩ける人の太鼓。民謡しか歌えない人の民謡と、ポップスや能の謡(うたい)もできる人の民謡。着物しか着れない人の着物姿と、ドレスも着こなせる人の着物姿。振り幅がある人とない人とでは、「表現の密度に差が出る。だから『〇〇しかできない』と言うことは辞めなさい」と。
そこで僕らは実際に、ドラムにも挑戦したんです。『混沌』という舞台でお客さまにも披露するというので、演者も必死で(笑)。元ザ・ブルーハーツの梶原徹也さんにゼロからご指導いただき、僕らも皆「ドラムを越えて、逆に太鼓の良さを伝えられるものを作ろう!」と死に物狂いで取り組みました。鼓童の振り幅を「扇」に例えるなら、玉三郎さんが、まず扇をめいっぱいまで広げてくださった。今僕たちは、扇の広がりをそのままに、扇の要の部分、鼓童の核となる部分をぎゅっと締め直そうとしているところです。
――『巡 -MEGURU-』舞台の見どころ、聞きどころを教えてください。
住吉 西洋音楽的アプローチでは辿りつけないグルーヴの深さや、ドラムとは違うビート感など、太鼓の音から生まれる“うねり”を感じていただきたいです。さらに楽曲「巡」では、そこにマリンバという“ニュートラルな楽器”が加わります。太鼓が好きな方が「ちゃんと太鼓を聞いた!」という満足感を得られつつ、鼓童を初めて聞く方にも、いい意味でライト・ポップな作品に仕上がったと思います。
――山脇さんは『巡 -MEGURU-』に、どのような感想を持ちましたか?
山脇千栄 今年正団員になった私にとって、『巡 -MEGURU-』はスタートラインとなるプロダクションです。鼓童が昔から演奏している「三宅」の要素が組み込まれた演目「祭宴」が登場する一方で、鼓童としては新しい曲調の「巡」は舞台に新鮮な風を吹き込みます。同時に「太鼓の音とマリンバの音はあうんだな」と感じます。どちらも木でできている楽器だからかもしれませんね。トラディショナルな太鼓の曲の魅力と、私たちの世代が好むビートの、両方を兼ね備えた作品だと思います。
音から創り出す、住吉佑太の舞台
――冒頭から繰り返されるマリンバのメロディは特に耳に残っています。主旋律にマリンバを選んだ経緯を教えてください。
住吉 「巡る」というテーマから、まず「反復」や「くり返し」という言葉が頭に浮かびました。それを音で表現するならば、気持ち良く「くり返す」旋律がほしい。でも太鼓ではリフ感が出ない。そこで音程を出せる楽器を使うことを考えました。
音程を出せる打楽器は、世界にも色々あります。たとえばバリ島のジェゴグという竹製の民族楽器。これを試したところ、ジェゴグの音がした瞬間にバリの風が吹いてしまう。この音を知る人が聞けば「バリだ!」と思われるでしょうし、バリの方が聞いたらより深い意味が出てしまう。
僕は『巡 -MEGURU-』という作品に、特定の地域性や意味を持たせたくなかった。色々な楽器を試した結果、マリンバの音ならばどの文化圏の人に対してもある程度等しく、その意味でニュートラルに響くのでは?と考えたんです。公演では、マリンバだけでなく様々な楽器を使います。皆さんが「和太鼓のライブ」と聞いて想像するよりずっと幅広い音色が聞こえてくるはずです。
――『巡 -MEGURU-』は、住吉さんにとって初演出作となります。鼓童で演出をされるメンバーの中で、住吉さんの演出にはどのような点が特徴だと思われますか?
住吉 演出には、景色(どんな舞台をみせたいか)、人物(どのプレイヤーを使いたいか)、音(どんな音を聞かせたいか)などの要素があり、どこから先行して作るかで、作品のイメージも変わります。これまでの鼓童の舞台は、景色や人が先行する作品が多かった。でも僕は音が先行して出てくるタイプです。まず出したい音があり、音を通してその先の景色を考える。そこが、演出における僕のカラーかなと思います。
衣装もプリミティブな雰囲気がありつつ、現代的な感覚で受けとめられる“ニュートラル”なデザイン。
鼓童の曲を、いい音にして届けたい
――『巡-MEGURU-』の開幕初日が、お二人の故郷・香川県三豊市なのですね。お二人は鼓童に入団する前から面識があったのですか?
住吉・山脇 ありました。
住吉 三豊市にある同じ太鼓チーム「和太鼓集団 響屋(おとや)」に入っていたんです。僕は小学2年生の頃から太鼓をやっていました。鼓童が交流公演で学校にきたことをきっかけに「かっこいい!」と衝撃を受け、18歳になるとすぐ、何の迷いもなく佐渡島に渡りました。
――山脇さんもその交流学校公演が、入団のきっかけとなったのでしょうか?
山脇 私の場合、鼓童がきた記憶はあるのですが、当時は「演奏してくれたな」という印象しかありませんでした(笑)。でも太鼓が好きで、人前に立つことも好きでした。看護学校にまで進学したものの、自分がこのまま太鼓から離れ、看護師として生きていく未来を想像できませんでした。自分に正直に、後悔のないように生きるなら?と考え、太鼓しかないと思ったんです。
――そして鼓童へ?
山脇 はい、住吉の背中を追いかけて佐渡島へ(笑)。
――全国ツアーに向けた意気込みをお聞かせください。
住吉 太鼓の音楽と聞き、お祭りの太鼓をイメージされる方も多いかもしれません。でも太鼓の表現は、お祭りで聞く「♪ドン、ドン、ドン、カラカッカ!」というものばかりではありません。『巡 -MEGURU-』では、メロディアスなもの、バラード調のもの、ジャズのような即興曲もありますし、「三宅」を発展させた新曲もあります。これまで応援してくださった方々にも好きになっていただけて、初めて聞く方にも楽しんでいただけて、皆さんの太鼓音楽の固定概念をごっそりと取り払える作品にしたいです。ぜひ観にきてください。
山脇 鼓童が受け継いできたこと、住吉をはじめ先輩方が玉三郎さんからご指導いただいたことを、“いい音”にして『巡 -MEGURU-』で皆様にお届けできるよう精進します。また個人的な思いとして、本作の開幕初日が、故郷・香川県三豊市での凱旋公演となります。地元には看護師の道に進みかけたところを飛び出し、それでも温かく送り出してくれた方々がいますので、感謝の気持ちを込め、成長した姿をおみせしたいです。
取材・文・撮影=塚田史香