「大盛り幕内弁当みたいなツアー」~創立45周年を迎える「鼓童」三枝晴太と新山萌に聞く、『鼓童十二月公演2025』の見どころとは
(左から)新山萌、三枝晴太
2026年に創立45周年を迎える世界的な太鼓芸能集団「鼓童」が、節目を記念した第1弾ツアー『鼓童十二月公演2025』を2025年11月24日(月) に、拠点を置く新潟県佐渡市にある「アミューズメント佐渡 大ホール」からスタートする。公演は同年12月18日(木)~21(日)に、東京・文京シビックホール 大ホールで開催する最終公演まで、福岡や京都など全9カ所をめぐる。「鼓童の現在(いま)」を伝えるステージでは世界初演の曲も演奏。メンバーの三枝晴太と新山萌に見どころを聞いた。
【PV】鼓童十二月公演2025
ーー新潟・佐渡島を拠点に、50以上の国と地域で7500回以上の公演を展開している「鼓童」が来年創立45周年迎えます。11月から始まる記念ツアー第1弾は、近年の楽曲を主軸にしているそうですね。演奏曲などは決まられているのでしょうか。
三枝:はい。決まっております。ツアーの稽古も7月に始まりました。いま別のツアーの真っ最中なので、ツアーを終えて佐渡に戻ったら稽古を再開します。1度稽古をしてみての感想は、大盛り幕内弁当みたいな感じの舞台になりそうだなということ。どこをとってもメイン級の舞台。「鼓童」は最初、ローテンションから入っていって『ワーッ』と盛り上がって、クライマックスを迎えるのが一般的な流れなのですが、今回は演出の鶴見(龍馬)も言っていましたが、最初からクライマックス級の曲で始まります。なのでお祭りっぽさも感じていただけると思います。
ーー1曲目からクライマックス級。楽しみですね。
三枝:この12月公演そのものが、我々にとっても1年の締めくくりなので、その時点で僕らにとっては特別感が結構あります。稽古の時点でワクワクしています。
三枝晴太
ーー演奏曲は、近年の楽曲が中心になると聞きました。
三枝:はい。近年の公演の中で盛り上がったなと感じた曲を中心に、創設以来から演奏している楽曲が並ぶ予定です。あとは演出もお祭り的な要素が入るんです。例えば『大太鼓狂奏曲』なら通常だと2人で大太鼓を10分間くらい演奏するんですけど、今回は大人数で演奏してより、盛り上がるようになっています。
新山:私はこの公演で初めて曲を作っていて、それをやるんですけど。それが楽しみです。
ーー作曲! どんな曲なんですか?
新山:1981年に「鼓童」が創設した時のメンバーでもある小島千絵子が、女性奏者として立ち位置を確立した『花八丈』という演目があって、この曲のエッセンスを取り入れて作曲しました。まだタイトルは決まっていません。
鼓童 舞台写真 クレジット:岡本隆史
ーーなるほど。演奏方法などパフォーマンスはどのようなものになさるのですか?
新山:この曲では、普段着ている半纏じゃなくて着物で数人で演奏するんです。それがひとつ大きな挑戦なので、ぜひその姿を見てもらえたらなって思います。
三枝:「鼓童」が創立したばかりの頃は、日本の文化的な慣習もあって、太鼓は男性が叩くもの、とされていた時期もありました。そこに小島が自分の太鼓の表現を追求する中で『花八丈』という楽曲を作り上げて。女性でもかっこよく太鼓を打てるんだよっていうのを示したんです。小島が「鼓童」の中で自分の地位を確立していくことで、同じ女性たちも性別を超えて活躍できるようになった。45年経った今では、一幕のラストなど重要な場面でも男女関係なく、演奏をして見せ場を作ることができるようになりました。
ーー三枝さんの曲は、本拠地の佐渡で11月に行う公演で世界初演されますね。お祭りを盛り上げるために、ほかにはどのような見どころがありますか。
新山:「鼓童」って実は太鼓だけじゃなくて、歌とか踊り、笛、三味線といったものもあるんです。今回の公演ではそれがバランスよく取り入れられていると感じます。序盤は歌から始まって、三枝が三味線を演奏する曲もありますし、琴が出てきたりもします。
三枝:「鼓童」イコール太鼓。太鼓イコール「単色の楽器」と捉えてる方も多いと思うのですが、もっと総合的な和の音楽と楽しんでいただけたら良いなと思います。和の音楽の中に西洋的なリズムを取り入れたり、韓国の民族音楽のグルーヴやノリとかを勉強させていただく中で生まれてきたものもあります。世界に出て行って交流する中で得たグローバルな感覚を太鼓に落とし込んだっていう楽曲もたくさんあるのでそういう部分も楽しんでいただけたらうれしいです。
(左から)三枝晴太、新山萌
ーー本当に大盛りの幕の内弁当ですね!
三枝:はい。ベスト盤っぽい並びになってるので、各公演で盛り上がった楽曲詰め合わせセットみたいな、盛り上がらない瞬間がない感じになっています。僕としても早くお客さんに見せたいです。ちょっとコミカルなシーンもありまして、僕が担当させていただきます!
ーー「鼓童」とコミカル…。想像が難しいです。
三枝:漫才みたいに喋ったりはしないんですけど、見てて、クスッと笑える場面があると思います。後はバチをクロスさせて、遠くの太鼓を打ったりとか、超絶技巧っぽいことも取り入れます。手拍子で盛り上げていただきたいです!
ーー私たち観客側も、1曲目から盛り上がれるように準備をしておきたいと思います。
三枝:ぜひ! コンサートを見に行くっていうよりも、目撃するというか、全身で音を浴びる体験をしに来ていただきたい。サウナにでも行くみたいな感覚で来ていただきたいです。絶対整います!! 我々としては、皆さんの心の中に入っていきたいと思ってますし、劇場という舞台上と客席の垣根を超えて、エネルギーを交換し合うことを目指しているので、足を運んでいただければ、何もせずともそういった気持ちになっていただけるんじゃないかなと思います。
鼓童 舞台写真 クレジット:岡本隆史
ーー分かりました。いま手元にお持ちの「太鼓のバチ」は大きさや太さなど様々ありますが、叩く太鼓によって変えているのでしょうか。
三枝:決まりはないので、奏者が自分が鳴らしたいと思う音によって、木の質を柔らかめにする、または堅くするなど好みによって変えています。千差万別です。僕は手が大きいので、ちょっと人より太め、重めに作ることにこだわっています。材質も硬い木が結構好きで、自分では加工できないので職人さんにお願いして作ってもらってます。いま持っているのは、ホワイトアッシュで作ったバチです。実は僕ら研修所では、角材から自分で削ってバチを作るっていうところから習うんです。
新山:私はこの大人数いる男たちの真ん中で叩くことが多くて、力じゃ絶対に勝てないので、重いバチにすることがこだわりのひとつですね。今日は楓という種類の木で出来たものを持っています。手とバチの相性でも音が全然違うんですよ。
三枝:バチは2本あるので、木目の走り方などの個体差によって鳴り方も違うんです。木の音の高さをピッタリ合わせる。そこが伝わってしまう繊細な曲もあるんです。演奏してる時に『ちょっと音違うな』と思ったら、手の中でくるくるくるって回しながら音がピッタリ合うところで叩くようにしています。同じ1本でも、叩く面によって音が違ってくるんです。握りしめ具合でも変わりますし。前の方で見ている方は、分かりやすいと思います。
ーーそこまで分かると楽しいですね。今回のツアーは本拠地の佐渡から11月24日からスタートします。
三枝:佐渡は稽古場がある場所。自分たちが住んでいるリラックスできる場所でもありながら、やっぱり自己追求の場として独特な感じ。緊張とリラックスがどっちもある場所ですね。新曲については、佐渡でお客さんに受け入れていただけるかどうかという緊張もあります。
新山:私は佐渡で(自作曲の)初演を迎えられるのはすごいうれしいです。佐渡の人に見送られて、『行ってこい!』っていう気持ちにしてもらえるのが、佐渡の公演だと思うので、そこで自信をつけてまた本土の方に向かいたいです。
新山萌
ーー福岡や京都などをめぐって、12月18日(木)~21(日)の東京・文京シビックホール 大ホールでの公演が最終ですね。
三枝:文京シビックホールに着くと、『もう1年が締めくくられる!』っていう気合いが入ります。意気込み十分というか、もう残すもの何もないぜ! という感じが全員にみなぎっているのを感じます。各地をめぐった最後なので、かなりボルテージの高い状態でお届けできるのが毎年の思い出。1曲目から濃い時間を、一緒に過ごすことができると楽しみにしています。
新山:文京シビックホールは連続公演なので、あの会場でしか感じられないような、みんなのエネルギー感があります。最後に駆け上がっていく熱量は、私たちも文京でしか味わえないもの。見ているお客さんにも感じていただけると思います。ぜひ見に来てもらいたいです。
ーー創立45年の節目となる、2026年はどんな1年にしたいですか。
三枝:来年は1月の中旬頃からヨーロッパツアーに出て、4月頃に帰ってきます。そこからスタートするのが来年ですね。節目の年だからこう変えようという気はなくて、いままで培ってきたことを、来年もぶらさずにやることを大事にしたいです。やはり新しいことに目移りしてしまいがちですし、やりたくなるんですけど、同じことをやり続けることの先に行こうともがくのが常々。いまでもそうなんですけど。それを常に考え続けて行く必要があるし、それをし続けることで、また新しい何かに気づけると思っています。
鼓童 舞台写真 クレジット:岡本隆史
ーー三枝さんは、2015年に研修所に入られて、ことしは個人として10年目の節目でもありましたね。その思いに気づけたのが何かきっかけがありましたか。
三枝:自分の足りないところっていうのは誰に言われずとも自分が1番分かってるんですけど、それをどうやったら解消できるかっていうのはなかなか分からなかったりするんですよね。ずっと舞台と向き合っていく中で、たくさんの先輩と話をして、おそらくこれが必要なんじゃないかなというものがなんとなく分かってきたんです。10年経ってようやく。で、それを少しずつ自分の中でまたトライしていかないといけない。それはもう、太鼓を叩くとか舞台に立つということ以外の部分で、人間として成長していく必要がやっぱりまだまだ必要だなって。それが最終的に舞台や、演奏に現れれると気がつきました。なのでいつまでかかるか分からないですけど、磨き続けていきたいです。
ーー新山さんは来年はどのような年にしたいですか。
新山:12月公演では、着物で太鼓を叩くっていう挑戦をするんですけど、それはある意味自分の表現の幅を広げるものだと思っています。この経験を次の作品ではどのように生かせるのか。自分でもまだ想像ができないのですが、来年はまた新しい方向で表現していけたらいいなって思ってます。
ーー最後に公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
三枝:日常生活では感じることのできない大きな音の振動を感じていただける機会だと思ってます。なので、何も考えずに身を委ねていただければなと思ってます。そしてその大きな振動を出す人間のエネルギーも音に乗っかって皆さんのところに届けられるので、ぜひ、年の納めに音を浴びに、整いに来て下さい!
新山:太鼓を見たことがない人でも、この公演を見終わった後には、『太鼓を見たな』っていう気持ちになれるような曲ばかりです。見終わった後にスカッとしてもらえたらいいなって思っているので、ぜひ会場にお越しください!
取材・文=翡翠
公演情報
『鼓童十二月公演2025』
※出演者は変更になる場合がございます
2025年11月24日(月)13:30 新潟県佐渡市 アミューズメント佐渡 大ホール
2025年11月30日(日)14:00 新潟県新潟市 新潟県民会館 大ホール
2025年12月2日(火)18:30 福岡県福岡市 福岡市民ホール 中ホール
2025年12月6日(土)~12月7日(日)13:00 京都府京都市 京都芸術劇場 春秋座
2025年12月9日(火)18:30 愛知県名古屋市 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
2025年12月11日(木)18:30 神奈川県厚木市 厚木市文化会館
2025年12月13日(土)14:00 千葉県君津市 君津市民文化ホール
2025年12月14日(日)16:00 埼玉県所沢市 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール(中ホール)
2025年12月18日(木)~12月21日(日)14:00 東京都文京区 文京シビックホール 大ホール