声優・津田健次郎インタビュー 音声ガイド初挑戦の『没後50年 藤田嗣治展』、激動の時代を生きた画家の魅力を語る
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津田健次郎
東京都美術館にて、この夏開催される『没後50年 藤田嗣治展』(2018年7月31日〜10月8日)。本展の音声ガイドを、声優・津田健次郎が担当することが決定した。今回は、音声ガイドの収録を終えたばかりの津田にインタビュー。収録を通じて発見した藤田嗣治の魅力や、本展の見どころをたっぷり語ってもらった。
初挑戦の音声ガイドは、キャッチーな言葉に注目
——まずは、音声ガイドの担当が決まった時の心境を教えてください。
音声ガイドの仕事をやらせてもらうのが初めてだったので、マネージャーから話を聞いた時は「そんなに素敵な仕事をやらせてもらえるんですか!」と、びっくりしました。とてもうれしかったです。
——初体験の音声ガイドを収録するにあたって、心がけたことはありますか?
仕事としては、僕がずっとやってきたことの延長線上にあるものだと思っていました。とはいえ僕は音声ガイド素人なので、音声ガイドとはなんぞやという思いで、ワクワクしながら収録に来ました。もちろん、ある程度イメージを膨らませていましたが、実際にどういうイメージにするかは、現場で作っていくことが一番の楽しみだったなと思います。
——藤田嗣治については元々ご存知でしたか?
有名な《カフェ》などは知っていました。「藤田嗣治」「レオナール・フジタ」と名前がふたつあることや、独特の風貌、オダギリジョーさんが演じた映画『FOUJITA』なども知っていましたね。ただ、もっと尖りまくった方だと思っていたので、音声ガイドを担当して、はじめて彼の静かな部分を発見できて興味深かったです。彼のある種劇的な部分や静かな部分を表現するのに、いろんな色があったほうが面白いのかなと考えていました。
——今回の音声ガイドは“藤田の言葉だけを読む”という珍しい構成ですが、台本を読んで、藤田という人物にどのような印象を抱きましたか?
これだけ多くの言葉が残っている画家というのはなかなか珍しいと思います。その中でも、音声ガイドには特にわかりやすい、キャッチーな部分が抽出されています。彼はちょっと尖ってるアーティストさんなので、面白い言葉も使われていました。たとえば、「世界人」なんてなかなか聞かない言葉ですよね。藤田はセルフプロデュースが上手なので、言葉も非常に巧みで面白かったです。
——藤田の人生に触れて、どのあたりに興味が湧きましたか?
パリに渡ってすぐの頃です。絵を描くにしても、誰も描かないものだけを集めてやろうみたいな、隙間をつくマーケティングをするところとか。その一方で、彼の苦しみも垣間見えます。パリでは完全に異端で、東洋の辺境の地からきた画家という自分……これは役者の癖なんですけど、苦しかったんじゃないかなと想像しちゃうんですよね。そうした不利な条件を、どうポジティブに捉えていくか。自分の揺れ動くアイデンティティをどう定めていくかといった、闘う姿勢が常に尖っていて面白いです。
——ご自身と藤田との共通点は何か感じられましたか?
変わった風貌の方ですし、ずいぶん前の時代に活躍されていたので、共通点というよりはすごく遠い存在だと思いました。ただ、雲の上の芸術家ということではなく、一個人として虎視眈々と画壇に食い込むぞ、という部分には親近感を感じました。彼は激動の時代を生きてきて、第一次世界大戦も第二次世界戦も全部体験しています。それで最後はパリに行って、フランス国籍を取得して、洗礼を受けて……といった人生の閉じ方をしている。その静かな感じにとっても憧れます。僕も、そういう静かなところに到達したいなと思います。
作品との出会いは一期一会
——津田さんは、普段からアートに触れる機会はありますか?
絵は好きですね。実は、絵に対しての嫉妬がすごいんです。たとえば、演劇や映像作品などはストーリーを追って、やっとひとつの感動が生まれる。でも、美術館では作品を見て思わずハッと立ち止まるように、絵は一瞬で決まる。しかも、その一瞬が一生忘れられないものになる。それが悔しいと思う瞬間ですね。
それから、常設展と違って今回のような大規模展覧会は、一生に一回という思いで絵を見ます。海外巡回中の作品があると、その作品を所蔵する美術館に行っても貸し出し中で見られないということもあるので、作品との出会いは一期一会だなと思います。
——藤田といえば「裸婦像」ですが、これまで美術館で見てきた裸婦像と比較して、どのような違いを感じますか?
知識と技術の裏打ちの中からオリジナリティが生まれていて、どこか独特な雰囲気があって、なんとも言えない趣があると思います。裸婦を題材にした作品は世の中にたくさんあるのに、きっと見る人が見れば「藤田の裸婦」ってすぐわかるんでしょうね。基礎と技術だけで終わらずに、自分らしさを具体的に表現していくのは、役者としての理想形でもあります。
——裸婦像のほか、藤田の作品には「猫と女」の組み合わせを描いたものも度々登場しますよね。
猫と女性はずるいですよね(笑)。男の永遠の謎が女性、人類の永遠の謎が猫、みたいな。藤田さんはどちらも本当にお好きなんだろうなと、愛の深さを感じます。
——ちなみに、津田さんは犬と猫だったらどちらがお好きですか?
猫です! 食い気味に言っちゃいましたけど(笑)。血統書がついていないような、雑種が好きですね。
激しさと純粋さ、多面的な藤田の人生
——もし役者として藤田を演じる機会があったら、津田さんはどのように演じたいと思いますか?
まだ藤田という人物を演じられるほど十分に掘り下げられてはいないんですが、マーケティングを含めてのセルフプロデューサーとしての藤田と、絵描き小僧のまま成長した純粋な画家としての藤田。そのどちらも同居している部分が、非常に面白いなと思います。
彼は第二次世界大戦後に、戦争に加担したと言われてしまう部分も全部背負って、世界恐慌にもあたっている。相当激しいところに人生があたっていて、それでもやっぱり絵に全てを投げ込んでいく部分は、演じるのがすごく難しいと思います。それから、女性遍歴もなかなかなものなので(笑)、そこも面白い部分のひとつでしょうね。多面的で、本性はどこにあるのかという点も、演じる上で興味深いです。
——おかっぱ頭に丸メガネと、印象的な外見の藤田ですが、津田さんのトレードマークは何ですか?
僕のトレードマーク……、くしゃくしゃな頭ですかね(笑)。癖っ毛なので、特にこの時期はすぐボサボサになっちゃう。一時期までは、髪型もお芝居もきちっとしなきゃと思っていました。でも、ある時ラフでいいんじゃないかなと。力を抜いてお芝居するとか、力を抜いた状態で人と交際するとか、そのほうが豊かなものを拾えるのではないかと思ったターニングポイントがあってから、髪の毛もくしゃくしゃで良いかなって思いました。なるべく自然体でいたいなって。
——最後に、会場に足を運ぶ津田さんファンの中でも、あまり藤田を知らない方に向けてメッセージをお願いします。
僕の音声ガイドを聞きたいとか、どんな角度からでも良いので、とにかく美術館に足を運んでいただきたいです。彼はとんでもない時代の大スターですから、一度見ておいて損はないのではと。1920年代のパリの空気も含めて、味わいに来ていただけたらなと思います。豊かな時間になるように音声ガイドもがんばりましたので、それを体感して帰っていただけたらうれしいです。没後50年の大規模展覧会ですからね。これを逃すともう見られないかもしれませんよ? ぜひ足を運んでください。
※音声ガイド貸出価格520円(税込)
※なお本展は、2018年10月19日(金)〜12月16日(日)まで京都国立近代美術館に巡回する。
イベント情報
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、9月18日(火)、25日(火)
※ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開室
時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)金曜日は9:30〜20:00
特設WEBサイト:http://foujita2018.jp