阿佐ヶ谷スパイダース新作『MAKOTO』に向けて~トークイベント&稽古場レポート

レポート
舞台
2018.7.31

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2017年、これまで演劇プロデュースユニットとして活動してきた阿佐ヶ谷スパイダースが、劇団化し組織体制を一新した。長塚圭史、中山祐一朗、伊達暁のメンバーに加え、俳優・スタッフの劇団員を多数擁する集団として再スタートする。8月9日から東京・吉祥寺シアターで新作『MAKOTO』が幕を開け、大阪、神奈川、新潟、松本でも上演される。本稿では、7月16日に下北沢・本屋B&Bで開催された『MAKOTO』上演記念トークイベントの要約(chapter01)と、同作の稽古場レポート(chapter02)の2部構成で掲載。自ら率いる阿佐ヶ谷スパイダースを「劇団化」した長塚圭史の思いに迫っていく――。なお、本稿は上記のトークイベントに登壇した筆者の文責で記載することを、あらかじめ付記しておきたい。

【chapter01/下北沢・本屋B&Bトークイベント】

◆良質な作品をつくる環境を

田中 冒頭から本日の主題ですみません。阿佐ヶ谷スパイダースを、演劇プロデュースユニットから劇団にした理由をお聞かせください。何年か前からそのようにお考えだったとは思いますが……。

長塚 阿佐ヶ谷スパイダースは2016年に上演した『はたらくおとこ』で20周年だったんですが、それより少し前のころは、いろんな面で行き詰まりを感じていた時期でした。そもそも阿佐ヶ谷スパイダースは僕と中山(祐一朗)と伊達(暁)の3人のメンバーで、あとは外部から役者さんを呼ぶプロデュース公演のスタイルでした。僕自身もいろんな仕事をするようになって、外部プロデュース公演はほかでもやっているわけですから、阿佐ヶ谷スパイダースを続けていくことの先が見えなくなってきた。

でも、2015年に木下順二さんの名作『蛙昇天』を上演したことが今につながるきっかけですね。仙台に住み込んで、地元の俳優さんたちと現地で芝居をつくる企画で、これには中山と伊達にも参加してもらいました。僕ら3人は共同生活をしながら仙台で制作したんです。演出助手やプロンプターもいないから稽古に関することはすべて僕が進めていて、毎日クタクタになりながら芝居をつくっていました。それでも共同生活の間は、夜中までずっと芝居のことについて話す時間がありました。僕がだんだん眠くなってくると、中山が「圭史、ザブンだけしなよ」とお風呂に促してくれるという(笑)。2人にはお弁当もつくってもらいましたね(笑)。震災を経て、自分たちに何かできないかと思って仙台に行ったのですけど、そこで合宿のように演劇に集中した時間を経験して、良質な作品をつくる環境をもっと整えていきたいと思うようになったんです。

田中 劇団化したことで、新たに設定したルールはありますか? たとえば、必ず圭史さんの作・演出で上演するとか……。

長塚 毎年、公演することですね。だから『MAKOTO』の次の公演も決まっています。劇団員にはスタッフさんもいるので、スタッフさんから発動する企画があるかもしれません。ゆるやかな集団だけれども、それぞれが責任をもって物事を進められるようにしたいから、僕らは劇団を一般社団法人にしたんです。すでに劇団員は25人以上いて、今後はもしかしたら別の演出家の方が入って上演するということがあってもいい。まだ具体的には決まっていませんが、先々のことも考えて、継続的な演劇活動ができるようにしたいんです。東京以外にメンバーがいて、地元の人とつくるようなそういうことができても面白いんじゃないかと思います。

田中 広がりを生む集団にしつつも、規模の拡大は目指していない。

長塚 興行としての成功をあまりに夢見てしまうと、同じことの繰り返しが生じると思います。だから、良質な作品を毎年提供できる集団であり、なおかつ、いろんなところに自由に羽を伸ばせる集団であるほうが継続的な演劇ができるだろうし、お客さんとも密接になれると思う。理想はあるけれど、急いではいません。その都度考えて、できることをやっていけばいいですし、一度広げたものを、また小さくしたっていいかもしれない。最初から何もかも揃えることはできないですしね。

◆演劇活動の原点に立ち返る

田中 7、8年前、圭史さんに取材したとき「上演の目的がなくても稽古場に集まれるような環境が理想」とおっしゃっていました。

長塚 それは今も変わらないです。劇団員で演出助手の山田(美紀)とも、そんなことを話しています。時間があるときに次の芝居のアイデアを練るとか、古い戯曲を読んでみるとか、そういうことができるのが劇団なのではないかと思うんです。もちろん、作品の上演を目的に集まることもいいのですが、それは別に、自分たちのために糧になることはいろいろやればいいと思う。たとえば、僕が外でワークショップの仕事をやるとき、劇団員も一緒に参加するなどですね。

田中 阿佐ヶ谷スパイダースを劇団にしたのは、演劇活動の原点に立ち返りたいという気持ちがあったのかと思うんです。

長塚 僕らも若いころは劇場で大道具を仕込んだりする作業がありました。でも集団や公演の規模が大きくなると、だんだん手が離れていく。スタッフさんたちも「やらなくていいよ」と帰してくれるんですが、阿佐ヶ谷スパイダースは地方公演も多いので、僕と伊達と中山は、少なくともバラシには立ち会っていました。そこまで関わることが大切だし、気づきもある。

もちろん分担制度はあるんですけど、どうやって芝居が出来上がるかを全員で意識する集団があったほうがいいとあらためて思うようになった。ウチに入った若い俳優たちも、そうやって芝居づくりに参加すれば、一緒に働いている人の顔が近くで見えますし、視野も広がると思いますね。

田中 2008年9月から1年間、文化庁・新進芸術家海外留学制度で英国留学した前後に、圭史さんの作品は大きくチェンジしました。あのころも、阿佐ヶ谷スパイダースにとって大きなターニングだったのでは?

長塚 20代の半ばから、あらゆるところで演劇の仕事をいただけるようになって、そこからは延々と芝居づくりを繰り返していました。面白い話をどんどん書くこと、それから怖いストーリーをどんどんと考えること、それに追われているような気持ちはありましたね。演劇と向き合う時間もないし、向き合い方も分からないまま仕事をしてきて、気が付いたら30歳を過ぎていた。その悶々とした時期と、1年間の留学のタイミングが重なったんです。

作品についても、血の出るような怖いエピソードを盛り込むばかりが最大の関心事ではなくなっていきました。自分のつくる芝居の根幹を考えていくなかで、ウェルメイドでなく、演劇という表現でできる別のリアリティーを追求したいという気持ちが、作風に舵を切った経緯ですね。

◆アーサー・ミラー『セールスマンの死』を演出

田中 今年11月は、アーサー・ミラーの代表作『セールスマンの死』をKAATで演出しますね。

長塚 『セールスマンの死』という戯曲は、まだ自分に演出できる作品じゃないと思っていました。観客の想像を裏切る作品で、時系列もバラバラ。けれども現代に通じる普遍的な要素のある、優れた戯曲です。自分が演出することを考えると身震いするくらいの、ものすごい戯曲なんですよ。主人公のウイリーは、これまでもお世話になった風間杜夫さんにお願いして、オファーを受けてくださって……。

田中 ウイリーの妻・リンダ役は、片平なぎささんが演じられます。

長塚 これまで映像や舞台も拝見して、片平さんとご一緒したくてお願いしました。結果的に『スチュワーデス物語』のおふたりになったわけですが(会場爆笑)。

田中 創作の話題とは少し離れてしまいますが、今日のプレイベントやアフタートークなど、さらに演劇の強度を深める場があればと思います。劇場側もいろいろ方策を練っていますが、もっと有機的な作り手と観客の関係性が立ち上げられないか。「本番を観て終わり」ではないより豊かな演劇のあり方について、どんなことを考えておられますか?

長塚 ロンドン留学のときに、劇場にパブが隣接していて、そこに出演した俳優が飲んでいたりするんです。そこで観客と俳優が話すこともできる。つまり開けた環境があるんです。行政上の制限があるかもしれませんけど、日本の劇場ももっとそういった場があればいいと思いますね。

先日、『ハングマン』をさいたま芸術劇場で上演したんです。片付けをしたあとの帰りの電車でお客さんに声をかけられました。与野本町から新宿方面に帰る電車で一緒になって、「この人どこで降りるんだろう」と思ったけど(笑)。電車のなかで話をしながら、その人は2駅くらいで降りていきました。感想を話してくれて、僕もそれを聞けてよかった。新宿まで一緒だったらどうしようと、一瞬考えはしましたけど(笑)、それは冗談としても、イギリスのパブのような空間が機能すれば、作り手と観客の距離は近づきますよね。劇団の活動範囲でも上演前のリーディング公演を開催するなど、お客さんとの相互関係によって作品を見つめる時間はつくれると思います。

田中 新作の『MAKOTO』がどのような作品になるのか、また、劇団化によって圭史さんの今後やりたいことがどうなっていくのか、楽しみにしています。

長塚 劇団を始めて、今は創作するための場所のない村をつくるような気持ちでいるんですよ。それぞれが責任を持ちながら、ゆるやかに少しずつでも継続されていき、創作活動ができたら理想ですね。でも、「こういう劇団にしたいんだ」という固まったものはなくて、いろんな可能性を探りながら、失敗もしながら、それがどんなものになるのかを楽しみたい。そうして出来上がる『MAKOTO』を、みなさんには遊びに来るような感覚で来ていただけたらうれしいです。

【chapter02/『MAKOTO』稽古場レポート】

◆立体的に「作品」がつくられていく

前出のトークイベントから数日を経て、阿佐ヶ谷スパイダースの新作『MAKOTO』の稽古場を訪問した。連日の猛暑を忘れさせるような快適な空間で、これなら動き回る俳優陣も苦労することはあるまいと、勝手に安堵した(以降、敬称略)。

稽古開始は午前10時30分。午後開始の現場が多いなか、早い時間から稽古開始する理由のひとつには、キャストやスタッフに子育て中の人がいることも含まれている。長塚圭史はトークイベントでこう話していた。

「朝から稽古して、夕方には終わるようにしています。なるべく夜に子どもと親が一緒にいられるように。子どものいる稽古場は大変かもしれないと思っていましたけど、実際にはまったく気にならない。子どもを稽古場に連れて来られないとなれば、子育て中の役者はその時期、演劇に関われないじゃないですか。それはもったいない。生活と演劇がもう少しそばにある状況がないものかと思うんです」

実際、稽古終了までその場に立ち会ったが、休憩時間に子どもたちが走り回る光景は目にしたものの、稽古中は別室で遊んでいたようだ。そういうところからして、長塚が「継続的」という言葉を繰り返していたことの実践的な形が、そこにあるような気がした。

稽古開始と同時に俳優たちが揃ってウォーミングアップ。「007」という一種のゲームで、詳細は割愛するが、俳優陣が円をつくり、声をかけ合い、指名しながら一定のルールに従って動きを表すものだ。そこから複雑なボール回し、名前を呼び合ってタッチしていく鬼ごっこなどが45分ほど続いた。稽古場で見学していた筆者も、どういうわけかそれらのウォーミングアップに参加することとなり、ただただヘトヘトになるばかりの醜態をあらわにしてしまった。しかし、なかなかいい汗をかいた。ウォーミングアップの目的が身体をならすだけでなく、自然体のコミュニケーションそのものであることがよくわかる。さらには、言葉を使いながら動くという一連の動作で、自分の身体と頭がうまく連動していないことに気づくのだった。

稽古は、とあるシーンの動きの確認から始まった。キャストが一列に並んでおり、帽子をかぶった者がどうやらタクシー運転手だ。台本を読むだけでは想像できない幾何学的な動きで、空間を立ち上げていく。

『MAKOTO』の大まかなプロットは、医療事故で妻を失った自称漫画家の水谷(中村まこと)が、東京の街をさまよいながら、悲しみに満ちた暴走を繰り返していく失意のドラマ、というもの。水谷を演じる中村まことは、稽古開始から2週間程度のこの日、台本を手にすることはなかった。

ネタバレ防止のためにもあまり内容を明かすことはできないが、登場人物それぞれのダイアローグが際立っている。それでいて、キャスト全員がモブのように機能するシーンもあり、それが重層的に東京の都市を彩っているようにも見える。不思議な匂いが佇む物語。この一瞬を見るだけで、作品について長塚が「ウェルメイドではない」と語った意味がわかる。

ある程度のシーンまで進み、稽古が止まると、全員が円を描く。いわゆる円陣のような形で、長塚の言葉に耳を傾ける。

◆悲しき男の「暴走劇」

食事休憩をはさみ、「じゃあやるよー」と、長塚のかけ声で午後の稽古が開始された。

午前中に進めた続きのところから、第1場の終わりまで。水谷をめぐって因果関係のある人物らの間に、何やら不穏めいたものを感じさせるシーンが続く。稽古中に特徴的だったのは、長塚がほとんど芝居を止めることなく、その様子をじっくり観ながら、演出助手の山田美紀と細かく確認していたことだ。まずは見ることを大切にしているようだ。そこから、各キャストの役の捕え方の部分で、どうするべきか、的確なコメントを加えていく。その役がどういう人物なのか、役の魅力をどう捉えればいいのか、丁寧に伝える。細かいセリフ回しも、現場で入れ替えている。

稽古中、終始一貫して水谷はエキセントリックだった。いや、どこかで狂気のスイッチが入っているのかもしれない。悲しき男の暴走劇の萌芽が、稽古場にしっかりと横たわっていた。

10時30分に始まった稽古は、17時30分ごろに終了。当初は昼過ぎくらいにこっそりとあとにするつもりだったが、疾走するストーリーのエネルギーにあてられて、終了時間まで居座ってしまった。長塚圭史が目指す「創作の場」は、着実に、ゆっくりと、その形を成そうしている。

文/田中大介

公演情報

阿佐ヶ谷スパイダース『MAKOTO』
 
■作・演出:長塚圭史
■出演:中村まこと、大久保祥太郎、木村美月、坂本慶介、志甫真弓子、伊達暁、ちすん、長塚圭史、中山祐一朗、藤間爽子、森一生、李千鶴

 
■日時&会場
2018年8月09日(木)~20日(月)◎<東京>吉祥寺シアター
2018年8月25日(土)~26日(日)◎<大阪>近鉄アート館
2018年9月07日(金)~09日(日)◎<神奈川>KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2018年9月01日(土)◎<新潟>りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
2018年9月29日(土)~30日(日)◎<松本>まつもと市民芸術館 実験劇場

 
■チケット料金
東京/(一般)前売5,000円 当日5,500円 (バルコニー席)前売・当日共3,000円
大阪/前売5,500円 当日5,800円
神奈川/前売5,000円 当日5,500円
(以上、全席指定・税込)
新潟公演は、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(https://www.ryutopia.or.jp/
松本公演は、まつもと市民芸術館(https://www.mpac.jp/)を参照
※松本公演のみ、藤間爽子は出演しません
■阿佐ヶ谷スパイダース公式サイト:http://asagayaspiders.com/
■下北沢・本屋B&B公式サイト:http://bookandbeer.com/
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