小林聡美にインタビュー “現代能楽集”シリーズに初参加! 日本最古の“物語”が現代に蘇る~現代能楽集Ⅸ『竹取』
小林聡美(撮影=山本れお)
日本人ならおそらく誰もが知る“かぐや姫”の物語。その日本最古の“物語”でもある『竹取物語』をモチーフにした作品を、世田谷パブリックシアターの人気シリーズ“現代能楽集”シリーズの第9弾として2018年10月に上演することになった。題して、現代能楽集Ⅸ『竹取』。構成・演出を手がけるのはフィジカルシアターの旗手、演出家でありパフォーマーでもある小野寺修二。キャストには小林聡美、貫地谷しほりという演技派女優2人に、ダンサーや能楽師等、様々なジャンルで活躍する面々が揃うという、異色のコラボレーションも話題だ。小野寺とは『あの大鴉、さえも』(2016年)以来、二度目の顔合わせとなる小林聡美に、今回の『竹取』が果たしてどのような舞台になりそうかを予想してもらいつつ、作品への想いを聞いた。
――前回、『あの大鴉、さえも』で小野寺修二さんの演出を受けられた時の印象はいかがでしたか。
前回はセリフだけに頼らない舞台ということで、頭と身体と両方をフル回転して全開で取り組んだのですが、なかなかない良い経験でした。毎回ものすごく疲れはしましたが、それがとても気持ちの良い疲れで。楽しみながら、いろいろな難しいことに挑戦させていただきました。
――それはまさに小野寺さんが、身体表現を演者のみなさんに求めるという形の演出だったからですよね。ということは、今回もきっとそういう流れのステージングが。
はい、期待できると思います。『竹取物語』という題材に小野寺さんが挑戦するということ自体、どんな風になるんだろうという、想像が難しい世界だからこそ、観る側の人たちの期待は膨らみますよね。その一方、演じる側はどんなことをやらされるんだろうという不安も多少ありますが(笑)。
――そもそも、最初に小野寺さんの演出で『竹取』をやると聞いた時は、どう思われましたか?
「えっ、『竹取』?『竹取』を?」って、二度聞きしました(笑)。でもこの現代能楽集シリーズの第9回目ということでしたので「なるほど、それでか」とも納得。日本の昔の作品に、小野寺さんが現代の風を吹き込むことでとても新しいものが産み出されそうだなと。個人的には、観客としても観たいなという気持ちがありました。
――小野寺さんが果たして『竹取』をどう表現するのか、とても興味深いです。
本当ですよね。キャスティングも、思うところあってこの面々を揃えたのか、なかなかのツワモノ揃いですし(笑)。まだ本格的な稽古前なので、小野寺さんからは詳しい話をあまり聞いていないんですよ。ただ、小野寺さんが演出されたお芝居を観に行った時に楽屋にご挨拶しに行ったら「セットがすごく面白くなりそうですよ」とだけ、教えていただきました。
――では今回の舞台での、小林さんの役どころについては。
今日の時点では、実はまだまったくわからないんです……(笑)。たぶん、というかこれは私の想像ですけど、“役”とか、あまりないんじゃないかな。みんなで稽古でいろいろな役を順番にやりながら、『竹取』の世界を表現してくのではないでしょうか。
――小林さんが想像するには、そういう舞台になるのでは、と。
そうです(笑)。ですから、いわゆる“かぐや姫”的な人はもしかしたら男性が演じるのかもしれないし、それも途中で変わるのかもしれないし。
――全員で演じるのかもしれないし?
ふふふ、そうですね(笑)。
――つい、誰が“かぐや姫”役になるのかな?と考えてしまいがちですが。
貫地谷さんなのかな?とかね。そうなると私は……翁かな?(笑)
――では、今のところは実際に具体的な話を聞くまでは、何もわからぬままの状態で。
はい、わからないまま、竹を見たり月を見たりしながら勝手にイメージを膨らませておきます(笑)。
――貫地谷さんとは今回が初共演だそうですが、どんな印象の女優さんでしょうか。
ヴィジュアル撮影の時に初めてお目にかかったんですけど。すごく元気で明るくて、一緒にお芝居を作ったりすることが楽しくできそうな、そんな第一印象でした。
――身長がまったく同じだったとか。
そうなんですよ。面白いですよねえ。そこも、わざと揃えて、狙いだったりするのかなあ?と思ったりして(笑)。
――『竹取物語』という今回のモチーフについて、このかぐや姫のお話に、小林さんは何か思い出、思い入れがあったりしますか。
もちろん、子供の時から知っている物語ではありますが、そのお話の構造というものには大人になるまで改めて考えたことはなかったんですけれど。でも実は私、大人になってから大学に行ったんですけど、その時にちょうど『竹取物語』についての授業を受けていて、レポートを書いたりしていたんです。
――それは、すごい偶然ですね! では、もしかしてカンパニーの誰よりも『竹取物語』に詳しいのかもしれない?
うーん、でもどんな内容のレポートだったのか、すっかり忘れています(笑)。今回、その時の授業の先生にも観に来てほしいなと思っているんですけど、でもなんだかお声がけするのも逆に申し訳なくて。先生がたまたま気づいて、来てくださらないかなと思っているところです(笑)。だけど本当にこの作品って、昔の人の想像力の豊かさというか、とても不思議な点がたくさんあるんですよ。そういう不思議な物語だから、語り継がれて残ってきているものなんでしょうけれども。時間の流れとか空間の描き方が、すごく斬新なんですよね。
――SFというか、確かにかなり不思議な物語ですよね。
月からお迎えが来る場面にしても、今の時代に、たとえばスピルバーグとかが映画化したとしたら、ものすごいシーンになりそうじゃないですか。
――昔の人々は、それこそスピルバーグの映画を観るような気分で、ワクワクしながらこのお話を聞いていたのかもしれないですね。
そうですよ。今とは違うのどかな景色の中で、当時の人たちはどういう風に想像しながら読んでいたのかなと思うと、ますます興味深い。そのお話を今、まさに時空を超えてやろうというところもまた、面白い作品になりそうだなと思います。
――映像とは違う、こういう舞台作品ならでは感じる面白さとは。
やはり生身の全身をさらけ出して、上演時間の間ずっと舞台上に立ち続けているということですよね。始まったら終われないというスリリングさもありますし。それはすごく怖いんですよ。怖いんですけど、怖いことって楽しかったりもするじゃないですか。吊り橋、怖ーい、でも楽しーい、みたいな(笑)。そして、同じ物語を何回も繰り返して演じているはずなのに、まったく気が抜けないというか。毎回、違った何かがモグラ叩きのようにこっちから出てきたりあっちから出てきたりということがあるので、何とも言えない緊張感があるのも舞台ならではの魅力かと思います。
――竹や月を眺めておくこと以外で(笑)、何か準備をしておこうと思われていることはありますか?
小野寺さんが演出される舞台ですから、身体を動かすことは間違いなく要求されると思うんです。でも、だからといって無茶をして、始まる前からケガをしても困りますからね。最低限の柔軟やスクワットなど、基本的なことはみなさんに迷惑をかけないくらいには、やっているつもりです。だけどストレッチをやり過ぎて膝を傷めたり、なんてことも前回の舞台の時にはあったので。先日、今回の舞台でも共演させていただく崎山(莉奈)さんに「事前に何か、やっておいたほうがいいことはないですかね?」と聞いてみたところ「何もやらないでください」と言われました(笑)。とはいえ一応、お風呂上がりにストレッチをしたりとか、その程度の地味な身体づくりはやっています。月を見ながらね(笑)。
――では最後に、小林さんからこの作品へのいざないの言葉をいただけますか?
今の時代を生きている方には、小野寺修二さんという人の演出を観られるチャンスがあるわけですから、せっかくなのでまずは観ていただきたいと思います。それも、お芝居を観ようと構えるのではなく、頭で考えずに感じてみてほしい。そういう体験をしてみていただきたいですね。とにかく観ないことには何も始まらない。見逃すなんてとてももったいないと思います。みなさん、ぜひ観ましょう!!(笑)
取材・文=田中里津子 写真撮影=山本れお
公演情報
■脚本:平田俊子
■音楽:阿部海太郎
■企画・監修:野村萬斎
■出演:
小林聡美 貫地谷しほり
小田直哉(大駱駝艦) 崎山莉奈 藤田桃子 古川玄一郎(打楽器奏者) 佐野登(能楽師 宝生流シテ方)
■会場:シアタートラム
■企画制作:世田谷パブリックシアター
■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201810taketori.html
滋賀公演 10/21(日) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
兵庫公演 10/23(火)・24(水) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
福岡公演 10/27(土)・28(日) 福岡市立東市民センター なみきホール
熊本公演 11/2(金) 熊本県立劇場 演劇ホール