中村芝翫、舞台復帰の兄と亡き父を想い「忘れられない日になった」～舞台『オセロー』開幕

2018年9月2日（日）、東京・新橋演舞場にて、舞台『オセロー』が初日を迎えた。本作は、シェイクスピア四大悲劇の一つであり、タイトルロールのオセローを演じる中村芝翫にとっては、襲名後初の翻訳劇挑戦となる舞台。芝翫のほか、デズデモーナ役を檀れい、イアーゴー役をジャニーズWESTの神山智洋、エミーリア役を前田亜季が演じる。演出は蜷川幸雄のもとで薫陶を受けた井上尊晶が務め、音楽を松任谷正隆が担当する。

初日終演後、同劇場にて会見が行われた。

初日が無事開き、今の気持ちを聴かれた芝翫は「とにかくほっとしています。やっとここまでたどり着いたという心境です」と安堵の表情を浮かべる。続けて「役者として生を受けたからには、シェイクスピア作品は一度は手掛けてみたいと思っていましたが、言葉が歌舞伎にも似ているところがあり難しく、台詞の量も多くなかなかすっと出てこない。その言葉が肉体と心を通して出ているようにならないと」と改めて作品の手強さを口にした。

神山も「台詞の量は今まででダントツでした。お風呂につかりながら（台詞を）ブツブツ、犬の散歩をしながらブツブツ…時々犬がフッとこっちを見るんですよ（笑）！」と稽古の日々を振り返る。初日明けの心境については「（無事初日が終わり）気持ちが溶けてしまったというか、カーテンコールではいつもの俺になってしまったというか…。こういう内容の作品なので、あまり自分を出したくなかったんですが、芝翫さんが（お客様に）『手ぇ振れ！、手ぇ振れ！』っていうので（笑）」と照れ笑いを浮かべていた。

檀は「無事に初日が開けましたが、いまだ私の心は興奮冷めやらず、といったところです。デスデモーナの気持ちを引きずってます。このお仕事のお話をいただいたとき、やっぱりお断りすればよかったって思っていました。緊張と不安と、何百年も前からいろいろな方が演じてきた大きな作品なので。でも顔合わせして、本読みをした時に頑張るしかない、と思いました」と微笑みを浮かべる。すると、芝翫は本作のポスター撮りの日を思い出し、これぞデスデモーナという檀の姿を目にして「僕のほうこそ、断ればよかった」と冗談を言うと全員が大爆笑。

前田は「こういったお芝居は初めてで、檀さんに動き方からメイクの仕方まで全部教えていただきました。つけまつげをしたり、普段しない濃さのメイクも『こうするといいよ』と。この舞台、女子が二人しかいないので、男性とは違うものを二人で力を合わせて出せたらいいね、と話していました」と言いつつ、檀と顔を見合わせていた。

芝翫は演出の井上が蜷川の下で学んできた人物である事に触れつつ「この芝居、蜷川さんの舞台に出演していた方もたくさん出ていて、楽屋に蜷川さんの写真をそれぞれが飾っていらっしゃるんですよ。それを見て、ああ、きっと蜷川さんもどこかで見守ってくださっているに違いないと思いましたね」と舞台裏を明かす。

芝翫は「私事ですが」と前置きをしつつ「父（七代目中村芝翫）が最後に演舞場に立ったのが9月1日、翌日から休演して入院、そのまま他界したんです。それを思うと9月2日という日は、ここで芝翫という魂が入れ替わった日のように思います。さらに今日は嬉しい事がありまして、兄が歌舞伎座で約5年ぶりに舞台復帰を果たしました！」と脳内出血で療養を続けていた実兄・中村福助の話に触れる。「幕間にニュースで（福助復帰の舞台で）割れんばかりの拍手をいただいたと知り、涙が止まらなくなりました。これからも兄貴といっぱい芝居をしたいです。この9月2日は本当に忘れられない日になりました」と目に涙をにじませた。

「（亡き）父も今日は歌舞伎座と新橋演舞場を行ったり来たりして大変だったと思います」と、最後はユーモアを忘れない芝翫だった。

取材・文・撮影＝こむらさき　　舞台写真＝オフィシャル提供