『コヤブソニック』にはなぜ豪華としか言いようのないメンツが揃うのか? プロデューサー・小籔千豊に訊く
小籔千豊 撮影=鈴木恵
9月15、16、17日、インテックス大阪にて開催される『コヤブソニック2018』。2008年に始まり、2014年にいったん終わり、2017年に再びスタートした、小籔千豊プロデュースの音楽と笑いのこのフェスティバルには、アーティストも芸人も常連もご新規も含め、今年も豪華としか言いようのないメンツが揃っている。今年の見どころについて……は、訊けなかったが(詳しくは以下)、それ以外のこと──このフェスのすばらしいポイントについて、このフェスの意義の変化について、ドラムとの出会いについてなど、みっちりと訊いた。小籔千豊の“フェスのプロデューサーとしてのスタンス”に留まらず、“人としてのスタンス”までうかがえるテキストになったのでは、と思う。
■よそのフェスに勝てるところは、いちばん優しい出演者が多く出てくれていること
──いわゆるプロモーショントークとして、「今年の『コヤブソニック』の見どころは?」と訊かれたらなんて答えます?
毎年記者さん泣かせなんですけど、いつも「ないです」って言うんです。というのも、毎年見どころを作っていったら、昨年より何か上回らなければいけなくなるので。僕らは手作りフェスですので、ほかのビッグフェスとは資金力とか規模感も全然違いますし。『コヤブソニック』なんて出ても経歴を汚すだけぐらいの、超一流のアーティストと芸人さんが毎回出てくれるんですけど、「おカネも安いけど、小籔が言うんやったら行ったろか」っていう、すごい優しい心意気を持った方々ばっかりに集まってもらってるので。どのフェスよりも、いちばん優しい人らが出てると思うんです。ほかのビッグフェスやったら、出ることでワンランクアップするとか、何万人も入っとるからPRできるとか、商業的な旨味があると思うんですけど、『コヤブソニック』に関しては、出演者の方々は商業的な旨味、まったくないと思うんですよ。そやのに出てくれてるというのは、優しさだけやと思うんです。よそのフェスに勝てるところは、いちばん優しい出演者が多く出てくれていることですかね。毎年あったかい雰囲気のフェスであることが、見どころというか、感じてもらいたいところかなと思います。
──『コヤブソニック』は、2014年に、ビッグポルノ(小籔とレイザーラモンのふたりによるヒップホップユニット)の解散と同時に、一度終わっていますよね。
そうです。『コヤブソニック』は、ビッグポルノというシモネタラップユニットを広めるためにやっていたので。
小籔千豊 撮影=鈴木恵
──吉本新喜劇ィズを結成して、2017年にまた『コヤブソニック』を始めるあたりの経緯を、教えていただけますか。
だから、『コヤブソニック』をやるために吉本新喜劇ィズを組んだんです。『SUMMER SONIC』に出られなくて悔しい思いをしたビッグポルノを広めるために、「自分たちでやるんで協力してもらっていいですか」って始めた『コヤブソニック』を、ビッグポルノがなくなるのに続けていくっていうのは、筋通ってないと思ったんですよ。でも、アーティストの方とかみんな「なんでやめんねん。やめんなやめんな」「いや、ビッグポルノなくなるんで筋通そうと思って」「そんな細かいこと誰も気にしてへんわ!」みたいな。でも、「なんやあいつ、ビッグポルノなくなったのに、やってる意味ないやん。何しとんねん」って人が、もしひとりでもおったら失礼やな、と僕は思ったから、筋通して一回やめたんですよ。でも「2017年には必ず復活させますんで」っていうのは、もう2014年の打ち上げで言ってたんです。で、復活させるためにはどうしたらいいか、ビッグポルノがなくなったんやったら、じゃあまた「××を広めるため」っていう理由を作れば筋通るな、またみんな出て来ていただけるな、と思って。っていう時に、僕、ドラムレッスンに行ってたんですけど、ミュージシャンのみんなに「もうバンド組め、レッスンだけ行ってても絶対うまならん。1回の本番は100回の練習よりもすごい」ってよう言われてたから。ちょうどいいわ、バンド組んだら「このバンドを広めるためなんです」っていう理由ができるな、と思って。で、『コヤソニ』1回目から10年経ったのが2017年なんで、10年目に復活しよう、2015年からバンドを組んで、1年間練習して、2016年から1年半活動して、舞台経験積んで根性つけて、『コヤブソニック』に向かおうと。なのでこの空いた期間いうのは、吉本新喜劇ィズを『コヤソニ』で披露する準備のためでした。
■チャットさんが音楽のお母さんというか、ひきずりこんでくれたんで。今振り返ると「ドラムをやりたい!」って強く思ったことは、1回もない
小籔千豊 撮影=鈴木恵
──小籔さんと音楽、小籔さんとフェス、あるいは小籔さんとドラムということの、そもそものところについても、うかがいたいんですけども。
基本的に、フェスも行ったことなかったですし、音楽もそこまで聴いて来なかったと思うんです。どっちかというと僕、お笑いばっか観てたんで。ドラムをやり始めたきっかけも、2012年の『コヤブソニック』に、チャットモンチーに出てもらう前、その年の2月に、アッコちゃんさんとえっちゃんさんと、大阪でごはん食べてたんですよ。「うち、今度ドラム抜けるんです。『コヤブソニック』はふたりで出るんです」「え、新しいドラムの人は?」「入れないです、ふたりでやります」「ええ、そうなんですか。じゃあドラムなしなんですね」「いや、ドラムは大事なので、私がドラム叩いてる時はこの人がギター、この人がドラムの時は私がベースなんです」みたいな話で。「ええーっ!? ……」って思って。
──あの時はみんなそう思いましたよね。
で、「シャングリラ」っていうあなた方のキラーチューン、ドラムのキックで始まってあなたのベースが入るのをお客さん聴きたいし、あなたのギターが入るのをお客さん聴きたいでしょ。どれか欠けたらお客さん「えっ?」ってなるんちゃいます? って言うたら「そうなんですよね。だからたぶん「シャングリラ」はやらないと思うんですよ」って言うんですよ。困ったな、お客さんたちは「シャングリラ」聴きたいやろな、でもこの人ら、やりたいけどでけへんと言ってる。「じゃあもし僕が、半年「シャングリラ」のドラムを練習して『コヤソニ』で3人でやったら、お客さん喜ぶんじゃないですか? 半年かけて練習していいですか?」って言うたんですよ。なら「いいですよ」って言うてくれて。そん時は「どうせ無理やろ」って思うてたらしいんですけど(笑)。でも仕事がバタバタしてて、練習せんまま6月末になったんですよ。こらヤバいな、今からやったら無理か、やめよ、いや、でも筋通すためにドラムレッスンだけは行っとこか、と思って、7月1日から行ったんです。ドラムの先生に「この曲をやりたいんです」って言うたら「どれくらいのレベルの難しさにしますか?」って。「シャングリラ」でも、音を抜いて簡単にしていけば叩ける、と。で、「いや、これはクミコちゃんさんとまったく同じにしてください」言うたら、先生、顔青ざめて。「そうですか……じゃあやりましょう」ってやったら、むっちゃくちゃ難しかったんですよ。
でも練習して、8月の中旬ぐらいに、曲の最後まで通して叩けるようになったんです、むちゃむちゃ下手ながら。それを動画に撮って、アッコちゃんさんに送ったら、「これでいいです! もう練習しないでいいですよ、やりましょう!」って言うてくれて。そっからまた練習して。僕たぶん人生で、あの2ヵ月半がいちばん努力したと思います。仕事以外のすべての時間をドラムに捧げて。あの本番の時の映像、Youtubeに上がってて、今観ても全然下手で、恥ずかしいんですけど。ただ、僕は9月で終わると思ってたからがんばったんですけど、出演者のみなさんがすごい「やめんなやめんな、続けろ続けろ」って。ほんなら趣味程度に続けよか思って、練習してたんですね。「次は何やります?」「チャットモンチーの曲で、ほかにもやりたいのあるんです、「LAST LOVE LETTER」を」って練習してたら、『コヤソニ』の4ヵ月後、ZEPP NAMBAでチャットモンチーのライブがあって、「アンコールで出て」って言うてもらって。「あ、今「LAST LOVE LETTER」もできるんです」って、2曲やらしてもらって。普通やったらコピバンとかじゃないですか。そやのに、いきなり本物と3人で『コヤソニ』でやって、その次ZEPP NAMBAでやるっていう、むちゃむちゃぜいたくな。なので、チャットさんが音楽のお母さんというか、ひきずりこんでくれたんで。今振り返ると「ドラムをやりたい!」って強く思ったことは、1回もない。
──(笑)。
でもほんと僕、人との出会い運だけすごくいいんですよ。チャットさんと出会ってることも、みんなが「やめんなやめんな」とか言ってくれたことも、全部よかったんかなと思います。今、半分楽しいです。半分苦しいですけど。
■お笑いも好き、音楽も好き、新喜劇も好き、地元も好き、ドラム上手くなりたい、みんなが喜んでくれたらうれしい、みたいなことが集まってるものかな
小籔千豊 撮影=鈴木恵
──フェスを続けたいというのは? オーガナイザーとしては。
最初はほんとにビッグポルノを広めるためやったんで、1回で終わるつもりやったんですけど。それもみんなに「やめんなやめんな」言ってもらって、「じゃあ来年もやったら出てくれます?」言うたら、みんな出てくれる言うから、続けてたんですけど。でも途中から、お客さんが喜んでくれてたりするのが……街歩いてたら「『コヤソニ』行きました! めっちゃよかったです!」とか「今年のラインナップ、私とまったく同じ趣味です! 小籔さん、めっちゃいい音楽のセンスしてますね!」とか、すごい熱を持って言って来てくれたりする中で、「ああ……」と思って、なんか意味合いが変わって来たというか。ビッグポルノが広まったらええだけのつもりやったのに、途中から「大阪を元気にしたいな」とか「地元を大切にする心も若者に伝わったらええな」とか、僕が好きなミュージシャンのファンの人が芸人のこと好きになってくれたり、芸人のファンの人が「こんなバンド知らんかったけど好きになったわ」とか言ってくれたりしたらいいな、とか、なんかすごいやりがいを感じて来たというか。
しかも、僕と僕の嫁はんからしたら、最高のラインナップなんですよ。渋谷系を聴いてきてた僕らがライブに行ったりCDを聴いたりしてた人らが集まってるから。だって、家にあったCDから飛び出て、自分のフェスで歌ってくれてるんですよ? 僕、カジヒデキさんに曲書いてもらうなんて思うてへんかったし、TOKYO No.1 SOULSETさんや田島貴男さんと飲みに行ったり、スチャダラパーさんとしゃべったりできると思ってなかったんすよ。それに加えて、新喜劇の座長として、新喜劇を広めなければならない、新喜劇を能動的に観たいと思ってない人に観せたい、と思うようになった時に、『コヤソニ』にサプライズで新喜劇を出そうと。それこそハナレグミのファンの方が1列目をキープしている、そこにサプライズで新喜劇をバーンて出したら、観たくないけど観なダメじゃないですか。新喜劇なんか一生観ぃひんかったであろう人に、強制的に観せられるんですよね(笑)。でも、そしたらみんな楽しんでくれて。そういうふうに、違うジャンルの人に刺せるっていうのは、いいことなんかな、と思ったりもします。
──自分でも思いもよらなかった、やることの意味が出て来た?
そうですね。だから、最初やってた意味合いと全然違って来ました。最初の“ビッグポルノを1000人以上の前でやりたい”っていうのは、1回目でかなったんで。僕、うっすら涙浮かべながらシモネタ歌ってたんですよ。感無量や、最高、ここまで来たな、ありがとうございました、って思ったのに、続けてたらだんだん規模も……大きくしたいと思ったことはないんですけど、出てほしい人が多くなって来たら、ステージ増やすか日にち増やすしかないじゃないですか。ステージ増やすと、同じ時間にやってる人に失礼があると僕は思うんで、日にちを増やしただけの話で。その中でドラムと出会って、ドラムもおもしろくなって来た、ほんで吉本新喜劇ィズやった、今に至る、という感じなんで。ほんとに、いろんな僕の、お笑いも好き、音楽も好き、新喜劇も好き、地元も好き、ドラム上手くなりたい、みんなが喜んでくれたらうれしい、みたいなことが集まってるものかなと思います。
■音楽を好きになる前に、音楽を浴びせられてた
小籔千豊 撮影=鈴木恵
──確かに全部が集まってますよね。
はい。あと僕、音楽好きじゃないと言うときながら、父親と母親はすごい音楽好きで。オカンはレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)とかレッド・ツェッペリンかけながら掃除機かけてたし、ひとりでマイケル・ジャクソン、ジェームズ・ブラウン、マドンナとかを大阪球場に観に行ったりしてたし。ほんで、憂歌団さんとか、石田長生さんとか、有山じゅんじさんとかと、親が知り合いで。その方々がたまる店に、僕、ほんまちっちゃい頃から行ってたんですよ。
──ええ! すごい英才教育じゃないですか。
ほんで母親に「隣の人、エレクトーンの先生やから習いに行け」って言われて、習わされたり。お祖母ちゃんに「英語と音楽はやっとくべきや、ファミコンのソフト買うたるからギター習いに行け」って言われて、習いに行ったり。だから僕は、音楽を好きになる前に、音楽を浴びせられてたから。ギターってみんな好きで始めるじゃないですか。好きでもないのに始めてたんですけど、でもやっぱり今、原体験に戻って行くというか。僕、振り返ったらそんなんばっかりなんですよ。ピザ好きなんも、ちっちゃい時から親の行きつけのピザ屋に行ってたからやし。お笑いもオカンやし、結果、親やお祖母ちゃんの影響でしか生きてないな、ってすごい思いますね。
もともと僕、新喜劇に入りたいと思ったこともないし、座長になりたいというのも、実際になる1年ぐらい前まで思ってなかったんです。僕は全部、自分で決めて来たかのように思ってたんですけど、ピンボールのようにバンバン弾かれて、気ぃついたらここに来てるんですよね。母親、お祖母ちゃん、解散するって言うた相方、今の嫁はん、スチャダラさん、チャットさん、そんな人らとの出会いで、トントントントン来て今ここにおるんで。僕からやりたい言うて始めたことって、だいたい続いてないんですよ。今まで、カメラとダーツとドラムが、人生でいちばんはまった趣味なんですけど。その3つは、やりたいと思って始めてないんです。僕が自分で「やろう!」って始めたやつは、だいたいダメですね。そのあとの出会いとか運命がないと、続かない感じはすごいします。
取材・文=兵庫慎司 撮影=鈴木 恵