SHISHAMO 悔しさをバネに野音のステージで輝いた、3ヶ月ぶりのライブ

レポート
音楽
2018.9.28
SHISHAMO 撮影=岡田貴之

SHISHAMO 撮影=岡田貴之

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SHISHAMO NO YAON!!! 2018  2018.9.16  日比谷野外大音楽堂

野音に来ると、なぜか空を見上げたくなるのだが、この日はいつもにも増して何度も空を見上げて、天気を確認してしまった。かすかに薄い雲があるものの、頭上には青空が広がっていた。ステージの背後のバックドロックには“SHISHAMO NO YAON!!! ”という文字が書かれている。2015年から始まり、4年連続となる『SHISHAMO NO YAON!!! 2018』、今年も9月16日の日比谷野外大音楽堂と9月24日の大阪城音楽堂の2日間に渡っての開催となった。ここでは日比谷野外大音楽堂でのライブの模様をレポートしていこう。この日のステージ、等々力陸上競技場で開催される予定だった『SHISHAMO NO 夏MATSURI!!! 〜ただいま川崎2018〜』の台風による中止後、初のライブということになる。そもそもライブ自体が3か月ぶりだ。年間、複数のツアーをやり、フェスやイベントに数多く出演してきたSHISHAMOにとっては、これだけ間があいたのは珍しい。ライブへのハングリーな思いを晴らしていくようなパッションあふれるステージとなった。

オープニングSEが流れる中、ステージ下手に駐車していた赤と白のワーゲンバス(ライブ告知のイラストに登場しているのと同じ車種)の中から吉川美冴貴(Dr)、松岡彩(Ba)、宮崎朝子(Gt&Vo)が降りてきた。まるでピクニックに来たかのような登場の仕方だ。ステージ上に3人並んでお辞儀をすると、客席の間の通路を通り、観客と手でタッチしながら、センターステージに移動して、ライブがスタート。下手側から松岡、宮崎、吉川の順で並んで座っている。松岡の前の机にはグロッケンとピアニカが置いてあり、宮崎はアコギを抱えていて、吉川はカホンに座っている。アコースティック編成で始まったのは「あの子のバラード」だった。宮崎が息を吸い、アコギを弾きながら歌い始めた。憂いを帯びた歌声が野音の中に広がっていく。松岡のグロッケンがさりげなく入り、1コーラス終わったところから吉川のカホンが加わっていく。観客が身じろぎもせずに聴き入っていた。松岡のピアニカが加わり、さらに宮崎の歌に、松岡と吉川が声を重ねていく。野音の中にいる全員が繊細かつせつない歌の世界を共有している。静かなオープニングだが、バンドと観客とが集中して、お互いの気配を察知して、ライブ空間を堪能していた。松岡の明るいピアニカで始まったのは「推定移動距離」。この曲では観客が顔でリズムを取りながら聴いている。カントリータッチの曲調に、伸びやかな歌声が気持ち良く乗っかって、届いてきた。ピアニカ、カホン、コーラスがいい味付けになっている。

「近いですね。良かったね、いい具合に陽が沈んで。リハーサルの時はここ(頭のてっぺんあたり)に太陽があったけど、雨が降るよりいいですね。もう1曲だけ、ここでやらせていただきます」という宮崎の言葉に続いて、吉川のカホンで始まったのは「みんなのうた」だった。一切身じろぎしない「あの子のバラード」、顔でリズムを取っていた「推定移動距離」、体を揺らしハンドクラップしながら楽しんでいる「みんなのうた」と、観客の可動域が1曲ごとに広がっていく。アコースティックでありながら、宮崎の歌声が力強く響く。シンプルなアレンジによって、メンバーの体温までもがダイレクトに伝わってきた。会場内の全員が歌の世界を深く共有しているのがわかる。これはまさしく“みんなのうた”だ。センターステージでの演奏は3曲。久しぶりのステージということもあって、ライブならではの空気を味わいながらのオープニングとなった。

SHISHAMO・宮崎朝子

SHISHAMO・宮崎朝子

通常のステージに戻って始まったのは「好き好き!」だった。「日比谷!」と宮崎が声をかけると、「イエ~イ!」とレスポンスが返ってくる。じっくりSHISHAMOの歌の世界に浸るのもいいが、躍動感あふれる演奏に乗って、全身でバンドのグルーヴを感じながら盛り上がっていくのもいい。さらに「ドキドキ」へ。気のせいか、ギターもベースもドラムも野外で思う存分鳴らされるのが楽しげにイキイキとして響いてくる。溌剌とした演奏だ。「みなさん、タオルの用意はいいでしょうか。元気に回していただけたらと思います」という松岡の言葉に続いては、ライブ後半に演奏されることの多かった「タオル」。早くも6曲目での登場だ。数千の赤白タオルが回されて、野音の中に風を起こして、自然の風と人力の風が混ざり合っていく。夏の風というよりは、どこか秋の匂いのする風だ。

SHISHAMO・松岡彩

SHISHAMO・松岡彩

SHISHAMO・吉川美冴貴

SHISHAMO・吉川美冴貴

「ライブ、久しぶりなんだよね。本当は7月28日に地元・川崎でスタジアムライブをやる予定だったんですが、台風の影響で中止にしてしまいまして、今日ここにいるみなさんの中にも悲しい思いをした方がたくさんいるんじゃないかと思うんですけど、リベンジできるようにがんばっていきたいと思います」と宮崎。さらに「野音、4年目なんですよ。ドロップも4年目で、4年使うんだったら、もっとちゃんと描いたのにって、これを見るたびにズキッとくる」と宮崎が言うと、「いやいや、素敵よ」と吉川と松岡がフォロー。これから先も使い続けていくと、会場内の熱気や汗を吸い込み、野音の風にさらされて、どんどん年期が加わり、風格が出てくるかもしれない。継続していくかけがえのなさはドロップにも表れている。

SHISHAMO・宮崎朝子

SHISHAMO・宮崎朝子

「野音ということで、普段やってない曲を」というMCがあって、中盤では最近やってなかったレアな曲も何曲か披露された。変拍子も交えながら、起伏のある演奏を展開していった「彼女の日曜日」では3人の歌心あふれる演奏によって、主人公の少女の健気な恋心までもが伝わってくるようだった。「手のひらの宇宙」では3人が息を合わせて、リズミカルかつトリッキーなプレイを披露していく。3か月ぶりだが、3人の連携もしっかり取れている。「休日」はバンドのアンサンブルがスリリングだった。宮崎の生々しい歌声によって、主人公の抱えるむなしさや悲しみがリアルに伝わってきた。歌のテンションが高まるのにつれて、演奏も白熱化していく。後半は会場内も一緒にシンガロング&ハンドクラップ。松岡と吉川もコーラスで加わって、さらにスイッチが入っていく。ヒリヒリした歌声と演奏がクールだ。

「暮れるの、メッチャ早いね。いきなり真っ暗になっちゃった」と宮崎。確かに空はすでにブルーから深い群青色になって、ステージ背後のビルの灯りが輝いている。この野音は秋の訪れを告げるステージでもありそうだ。それぞれの夏休みを紹介するMCコーナーもあった。ちなみに宮崎は初めて客としてフェスに行ったとのこと。顔がそっくりと言われている姉と姉妹で川崎『BAYCAMP』に行って、「SHISHAMOの朝子さんですよね」と姉が声をかけられて、横に本物がいるのが発覚して、声をかけた人がパニックになったエピソードも紹介された。松岡による夏休みのエピソード紹介では、カラオケにひとりでピアニカの練習をしにいったら、SHISHAMOのメンバーであることがバレて、恥ずかしい思いをしたとのこと。吉川による“本当にあった○○な話”ではサッカーチーム時代の友人と遊びにいった話が紹介された。スカイツリー、海、鎌倉などに行ったのだが、友人たちが帰り道に口を揃えて言ったのは「紅白に出てるから、いろんな人から声をかけられるかと思ったら、全然そういうのないんだね」と、本人が密かに感じていたショックに追い打ちがかけられたとのこと。本当にあった悲しい話によって、会場内は笑いの渦に包まれた。

SHISHAMO・宮崎朝子

SHISHAMO・宮崎朝子

日が暮れる中で演奏されたのは「僕に彼女ができたんだ」。しばらくライブをやってなかった鬱憤を晴らすようなパワフルなバンドサウンドが気持ちいい。さらにたたみかけるようにして、宮崎のギターのリフで始まったのは野音ならではのレアな選曲となる「僕、実は」。吉川が作詞した曲だ。友達の彼女を横取りしてしまった主人公の罪の意識が描かれたダークな要素のある歌なのだが、主人公の胸の中で蠢くネガティブな感情を切れ味のいい炸裂する演奏によって見事に表現。赤いライトに照らされて、バンドの演奏も炎のようなメラメラとした熱気がほとばしっていった。続いてもレア曲「きみと話せないのは」。宮崎の歌とギターで始まり、すぐに観客のハンドクラップが加わっていく。メンバー3人にとって、ライブが久々であるのと同時に、レア曲にとってもライブで演奏されるのは久々だ。野外の空間の中に、これらの楽曲たちが“解き放たれていく”という表現を使いたくなった。

SHISHAMO・松岡彩

SHISHAMO・松岡彩

この季節のこの時間帯にぴったりだったのは「夏の恋人」。宮崎のアコギで始まり、深みのある松岡のベース、ニュアンス豊かな吉川のドラムが加わっていく。この曲の持っているせつなさがさらに際立っていた。スタジアムライブの中止を受けて公開された「夏の恋人」のリハーサル映像を見て、夏の恋の喪失感とライブ中止の喪失感とが重なるように思えて、胸が締め付けられるようだったのだが、この野音での演奏からもひとつひとつの音に思いを込めていくような演奏が素晴らしくて、深い余韻が残った。続いての「熱帯夜」もこの時期にぴったりな曲。秘めやかでせつない歌声と、そのボーカルと連動した密やかかつ軽やかな演奏がいい。演奏するたびに、曲の表情が変わっていく不思議な曲だ。

SHISHAMO・吉川美冴貴

SHISHAMO・吉川美冴貴

後半は「水色の日々」「ねぇ、」「BYE BYE」「君と夏フェス」と、ライブにおける超強力なナンバーが次から次へと繰り出されていく怒濤の展開となった。1曲演奏されるたびに熱気や興奮や高揚感が加速していく。ライブバンドとしての魅力が全開となったのは「BYE BYE」。疾走感と一体感とが気持ち良かったのは「君と夏フェス」。この曲ではハンドクラップもひときわ大きく鳴り響いてた。本編ラストに演奏された「恋する」では、ここまでの流れや勢いを引き継いでか、ステージ上も客席もテンションが高い。大団円と呼びたくなるような高揚感が会場内に充満していく。ソリッドなバンドサウンドが夜空を切り裂いていくような鮮やかなエンディングだった。

アンコールではまず「私の夜明け」が演奏された。『SHISHAMO 5』リリース時のインタビューで宮崎が「自分が普段思ってることを書いた曲」と語っていた歌だ。宮崎が<私の涙なんて見えないでしょう>と歌ったところで、ほんのかすかにブレイクするように切った歌い方をしているところで、グッと来てしまった。個人的な歌を松岡と吉川が共有して演奏し、そして会場内の観客が共有していく。パーソナルな歌だからこそ、ひとりひとりの胸の奥底にまで届いていく。悲しみや痛みを歌った歌であっても、聴き手を勇気づけたり、なぐさめたりすることができるのだということが、この日のこの「私の夜明け」を聴くと、よくわかる。曲の終わりでは松岡と吉川がコーラスし、観客もその歌声に一緒に加わり、温かな歌声が日比谷の森に響き渡って、メンバー3人の絆の深さ、バンドと観客とのつながりの深さも感じた。

メンバーそれぞれのMCも3か月ぶりということで、いろんな思いが込められたものになった。
「久々のライブだったので、緊張したんですが、みなさんが温かく迎えてくれたので、出てからはリラックスしてライブができました。ありがとうございました」(松岡)
「ライブをしていない間、みんな、忘れちゃうんじゃないかしら、どうしようって、夏休みを楽しむ一方、あせる自分がいたんですが、こうやって野音のステージに立った瞬間に、何も変わらず、みなさんが待っていてくれて、私たちの届ける曲を楽しんでくれて。そのことがうれしかったです。また頑張っていこうって、みなさんのおかげで思うことができました」(吉川)
「野音、すごく好きで、初年度はテンションがあがって。それを4年もやらせていただいているのは当たり前のことではなくて、本当にありがたいと思ってます。最近そう思うことが多いんですよ。みんなが来てくれるのも当たり前のことじゃないし、今日晴れたのも当たり前じゃない。晴れバンドだったから、今まで天気を気にしたことがなかったんだけど、等々力で悔しい思いをしたから、今日は晴れろって思ったし、私たちの思い、みんなの思いがあって、つかんだ今日の天気だと思うので、当たり前じゃないなって思ってます。感謝してます」(宮崎)

秋ツアーでは『SHISHAMO 5』の曲をたっぷりやる予定であること、台北、上海での初の海外公演が行われることなども告知された。アンコールラストは銀テープが発射されて、ステージの左右のミラーボールの光が輝く中での「明日も」だった。会場内のすべての人にエールを送るような、ヒューマンな演奏だ。バンドが困難を乗り越えるたびに、歌と演奏の説得力が増して、歌が大きくなっていると感じた。最後はマイクを通さず、生声で3人が「ありがとうございました」と挨拶。彼女たちはスタジアムライブ中止の悔しさもバネにして、バンドに磨きをかけている。2018年の夏を越えて、SHISHAMOはまたひとつ大きく成長していた。この夏、ハイライトを迎えるはずだった物語はまだ完結していない。さらに大きな物語へ。SHISHAMOは力強い第1歩を刻んだ。


取材・文=長谷川誠  撮影=岡田貴之

セットリスト

SHISHAMO NO YAON!!! 2018 EAST  2018.9.16  日比谷野外大音楽堂
1. あの子のバラード
2. 推定移動距離
3. みんなのうた
4. 好き好き!
5. ドキドキ
6. タオル
7. 彼女の日曜日
8. 手のひらの宇宙
9. 休日
10. 僕に彼女ができたんだ
11. 僕、実は
12. きみと話せないのは
13. 夏の恋人
14. 熱帯夜
15. 水色の日々
16. ねぇ、
17. BYE BYE
18. 君と夏フェス
19. 恋する
[ENCORE]
20. 私の夜明け
21. 明日も
  
SHISHAMO NO YAON!!! 2018 WEST  2018.9.24  大阪城音楽堂
1. 生きるガール
2. ドキドキ
3. タオル
4. 手のひらの宇宙
5. 休日
6. サブギターの歌
7. 好き好き!
8. 僕に彼女ができたんだ
9. 僕、実は
10. がたんごとん
11. 推定移動距離
12. みんなのうた
13. 夏の恋人
14. 熱帯夜
15. 水色の日々
16. ねぇ、
17. BYE BYE
18. 君と夏フェス
19. 恋する
[ENCORE]
20. 私の夜明け
21. 明日も

ツアー情報

SHISHAMO ワンマンツアー2018-2019
「ねぇ、あなたとあの娘は夢でしか逢えない間柄なのにどうして夜明けにキスしてたの?」
SHISHAMO ワンマンツアー2018-2019

SHISHAMO ワンマンツアー2018-2019

11月2日(金) 台北 Legacy TAIPEI
18:30 OPEN / 19:30 START
11月4日(日) 上海 BANDAI NAMCO SHANGHAI BASE DREAM HALL
18:30 OPEN / 19:30 START
11月9日(金) 東京 Zepp DiverCity(TOKYO)
18:00 OPEN / 19:00 START
11月10日(土) 東京 Zepp DiverCity(TOKYO)  
17:00 OPEN / 18:00 START
11月17日(土) 大阪 Zepp Osaka Bayside
17:00 OPEN / 18:00 START
11月18日(日) 大阪 Zepp Osaka Bayside
16:00 OPEN / 17:00 START
11月24日(土) 愛知 Zepp Nagoya
17:00 OPEN / 18:00 START
11月25日(日) 愛知 Zepp Nagoya
16:00 OPEN / 17:00 START
11月30日(金) 北海道 Zepp Sapporo
18:00 OPEN / 19:00 START
12月1日(土) 北海道 Zepp Sapporo
17:00 OPEN / 18:00 START
12月8日(土) 宮城 仙台PIT
17:00 OPEN / 18:00 START
12月9日(日) 宮城 仙台PIT
16:00 OPEN / 17:00 START
12月14日(金) 東京 Zepp Tokyo
18:00 OPEN / 19:00 START
12月15日(土) 東京 Zepp Tokyo
17:00 OPEN / 18:00 START
1月11日(金) 福岡 Zepp Fukuoka
18:00 OPEN / 19:00 START
1月12日(土) 福岡 Zepp Fukuoka
17:00 OPEN / 18:00 START

代:券種
1Fスタンディング 前売¥5,000-(税込)
2F指定席 前売¥5,000-(税込)
※ドリンク代別途必要
※3歳以上必要
※仙台公演は2F指定席なし
一般発売日:9月30日(日) 10:00〜
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