The Songbards「やるからには、しっかりと作品を残していきたい」少年時代を過ごした故郷、旅をして辿り着いたミニアルバム『The Places』

インタビュー
音楽
2018.11.16
The Songbards

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神戸発のバンド・The Songbardsが、2ndミニアルバム『The Places』を10月10日にリリースした。昨年春に本格的な活動を始めるやいなや、『SUMMER SONIC』への出場権をかけた「出れんのサマソニ」など、若手の登竜門ともいえる数々の夏フェスオーディションを総なめに。名実ともに磨きをかけ満を持してリリースされた今作は、ソングライティングを担うボーカル&ギターの上野 皓平と松原 有志の二人が、自己を見つめ直す旅に出たことを機に生まれた1枚。情景が浮かぶ歌詞と、彼らが訪れた場所で流れていた時間までも追体験させてくれるようなメロディーには、何十年先に聴いても胸を打つ普遍的なメッセージが込められていた。今回、2人に今作の制作過程やイギリスでのライブ経験についてインタビュー。11月16日からは、名古屋 CLUB ROCK'N'ROLLでのライブを皮切りに、リリースツアーも開催されるので、彼らがこの1年で掴むことができた自信とスキルを、直に味わってみてほしい。

The Songbards

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――今作の制作は、いつごろからスタートしたのですか?

松原:前のアルバム『Cages in the Room』が出来た時から、「次はミニアルバムかもね」という話はしていたんです。基本的には、僕たち二人で作詞作曲をやっているんですけど、今年の春にお互いが別々のところに行く機会があったんですね。彼がずっと憧れていたインドへ旅をして、僕は昔、住んでいた愛媛県へ。同時期に別々のところへ行って帰ってきて、この経験から曲を作れないかなというところから、今回の5曲を作ることになりました。

――それぞれ旅をされたことをキッカケに制作が始まったのですね。

松原:もちろん、それまでに考えていたことや思っていたこともあるので、このタイミングで一気に作ったという感じですね。なので、先ずはコンセプトを考えて、その後の2か月ぐらいかけて作っていきました。

――同時のタイミングで旅に出られたのは、お互いが前作のリリースを経てそういう思いになったから?

松原:リリースツアーのファイナルは地元・神戸で、ライブが無事にソールドアウトしてやり遂げて。バンド活動のスケジュールに余裕ができたので、彼はずっと行きたかったインドに行くというので、それに合わせて僕も昔住んでいた場所に行ってみることにしました。

――どうして昔住んでいた愛媛に?

松原:家族が転勤族だったから、引っ越しして小学校も三つ転校していたりするので、生まれた場所のことをよく知らないし、故郷がないと感じることがずっとコンプレックスだったんです。彼とかベースの柴田はずっと神戸で育ってきたし、そういう故郷があるというのが羨ましくって。今年の3月に大学を卒業したのもあって学生じゃなくなった何者でもないタイミングを機に小学生の頃に過ごしていた愛媛に帰ってみることにしました。

――アイデンティティを探しに。

松原:そうですね。そういう何かに困って苦しんでいて探しに行くとかではなくて、幼い頃になにを見ていたのか懐かしみたいなというか。久々にどうなっているんだろうって、なんとなく記憶の中にある部分の答え合わせみたいな感じで、ただ行ってみただけなんですよ。

――実際、帰られてみていかがでした?

松原:全然変わってないなとか、ここはすっかり変わっちゃったなとか懐かしかったですね。それよりも当時の自分の価値観とか、なりたかった憧れみたいなものを思い出せたのがよかったなと。当時から野球をやっていたので、プロ野球選手になりたかったなとか。そういうことを思い出してみると、今と昔の自分には価値観の違いがあって、そういうことを考えるキッカケにすごくなりましたね。

――このある種の里帰りを経て考えたことが、松原さん作詞の「ローズ」に。

松原:そうですね。自分が小学生の頃にいたところへ行って、そこで体験したことを書いたので、詩的に書くのは少し違うなと思って稚拙さを残して書きました。実はテーマがあって、僕がある人と出会う経験を書いているんですけど、そこはあまり前面には出していません。それよりも、昔の自分が住んでいるところに行ったけれど、当時のことをいっぱい忘れていたことに気付いた時に、記憶が無くなることとか、忘れること、いつか死ぬこととかっていう儚さとか悲しさを感じたこと。同時に、どんな経験でも人に伝えて、その人がまた誰かに伝えてくれたら、忘れたり消えてしまっても、それでいいんじゃないかなと思うようになったことをしっかりと曲にしたいなという気持ちで作りました。そういう意味では、音楽はそれに適した手段だと思うんです。

The Songbards

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――《何度でもあの話をして》と繰り返されるところがまさに。切なげな儚さが漂っているものの決してネガティブではなく、どこか前へと進んでいこうとする希望に満ちた楽曲ですよね。同時期に、上野さんはインドに行かれたということですが、初めてインドに?

上野:そうですね。初海外です。

――初海外! どうしてインドへ?

上野:昔から興味があって、本を読んだりして前知識だけはあったんです。それで時間もできたので、このタイミングで行ってみようと。

――実際に訪れてみていかがでしたか?

上野:やっぱり、実際に経験しないと感じない事とか、知れないことがいっぱいありましたね。1週間インドで過ごしたんですけど、そのうち5日間ぐらいはずっとヨガと瞑想をしていました。空いた時間に街に出たり、ビートルズが訪れたことのあるアシュラムというヨガ道場に行ってみたり。そこで、インド人相手にビートルズを歌ってみたり。ガンジス川でも弾き語りをしてみたら、意外と人が集まってきて反応してくれたのも嬉しかったですね。あと、ヨガのパンツを買おうとしたら、目の前で値札を引きちぎってめっちゃ高い値段を言われたり(笑)。ぼったくりなんて、観光客は当たり前のようにされると聞いてはいたんですけど、実際に目の当たりにして……。日本ではありえないようなことが、平気で起こるので、日本で生きてきた中で形成されてきた価値観とか常識を見直す経験にもなりましたね。

――ヨガとか瞑想は日本にいるうちから?

上野:瞑想は、仏教の本を読む中で自分でやってみたりしたんですけど、ヨガはあんまりやってみたことがなかったので、この機会にやってみました。ヨガにはいろいろな種類があるんですけど、そもそもは瞑想をする時のポジションに身体がついた時に、それを維持して辛くない状態にするのがヨガの基本なんですよね。そういうことも、実際に体験することで初めて分かることができましたね。確かにヨガをした後に瞑想をすると、姿勢を意識できるので凄くやってみてよかったなと。

――そのインドでの経験を、上野さんは「斜陽」に。

上野:はい。インドで自分が感動した景色を、そのままギュッと曲にしました。

――僕はインドに行ったことがないんですけど、楽曲を聴けば、インドではこんなふうに時間が流れているのかなと、追体験させてくれるような情景の浮かぶメロディと歌詞でした。歌詞を書くに当たって、特に意識されたことは?

上野:ガンジス河でお祭りみたいに花束とロウソクを川に流して、みんなで何かに対して歌ってお祈りをしていたんですね。混沌としたインドの洗礼を受けた後にその姿を見て、すごく、純粋で美しいなと思って。川に花束が流れている様子が、いろいろなことが過ぎ去っていく恐怖とか、諸行無常ということをただただ認めているように感じて。その時の感覚を、そのまま楽曲にしたいなと思ったので、その時のことを頭に思い浮かべながら歌詞を作りました。

――最後に《何も恐れはしないよ/きっと変わってゆくこと/そして許されるということを》という言葉が、すごく静かなんですけど芯のある強さも感じられる言葉で印象的でした。他の曲もそうですが、それぞれが体験したことを元に作った曲だからこそ、リアルな情景が浮かんでくるんだなと。だけど歌詞はそれぞれが書くにしても、作曲は2人でされていますよね。となると、経験したことや見た景色を共有しながら曲にしていくのですか?

松原:そうですね。その辺は、大学で出会って、何でも話してきた付き合いなので、自然と普段からできているんだと思います。なんでもない話も良くしますし、「こういうことがあって、こう思ったんだけど」って話も、学生時代から継続して真剣にバンドをやっている今もそれをやってるので、曲も同じ意識を持ちながら作れているのかなと。

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――チャットモンチーや後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のレコーディングエンジニアを担当された古賀健一さんとの作業はいかがでしたか?

松原:いろいろな面で、大きく影響を受けました。正直音作りの面で、今までは手探りでやってきたところがあったんですよね。こうしたらこうなったけど、前と同じようにやったらならなかった……というようなことを、ライブでもレコーディングでもやっていたんです。でも、古賀さんは「何でそうなったかを、覚えておいた方がいいよ」って、知識と経験を惜しみなく与えてくれて。しかも質問もめちゃくちゃしやすいんですよ。「これはこうなってるんだけど、最終的に正解はないから君たちで考えてみて」というやり方で進めてくれて、今後のレコーディングとかライブで自分たちで考えるキッカケを与えてくれました。

――感覚的だったことに、理解が深まったと。

上野:今までのレコーディングでは、歌録りをしたらある程度のピッチ修正とかはしてくれていたんですけど、今回はレコーディングをする段階で「ピッチ修正はしないから」と言われていて。それを言われた時点で、歌に対する意識とかも変わってレコーディングに向けて準備したり。声を聞いただけで、のどで歌っているかお腹から歌ってるかが分かるので、「喉で歌っているから、力を抜いてお腹から出してみようか」と言う、ボーカルに対するアドバイスもちゃんとしてくれたので成長できた部分がたくさんありました。

松原:「バンドの地力というのが絶対に必要なんだ。レコーディングではごまかせるかもしれないけどね」って。

上野:レコーディングでは切り貼りしたりしていい音源になったとしても、実際にライブでやる時に実現ができないとなるとバンドにとってもよくないですからね。練習してできることを、最初からするというスタンスだったので、バンドにとって新しくて、一番イイやり方だなと、凄くためになりました。

――バンド自体の底力もついたからこその、明らかに次のステージへと向かっているエネルギーが楽曲からも伝わってきたのかと納得しました。先日、ライブを拝見させていただいたら、「Time or Money」は音源とはまた違った、ライブならではの迫りくるような熱量が乗ると映える曲で。「21」とかは、世代感がより出ている曲でグッときました。

松原:まさに、「21」は21世紀的な意味ですね。なんとなく抱えている漠然とした不安とか流行とか、いろいろな情報がめちゃくちゃ多いからこそ選択もできなくなってきてることに対しての叫びを込めました。歌詞をごちゃごちゃで書いてみたので、「21」は難しかったですね。

――とういうと?

松原:「Inner lights」は1番が晧平で、2番が僕だったりするんですけど、「21」は試みとして2人でごちゃごちゃに歌詞を。

――ごちゃごちゃに書くというのは、単語単位で?話し合いながら言葉を選び合ったり?

松原:先ずは、ブロックごとで書いてみました。同じブロックを二人で書いたとして、それを組み合わせて、センテンスごとぐらいにはバラバラにしながら作りました。で、一回、自分たちでできたかなというところで、古賀さんに見せたんですけど……。「二人の中ではテーマとかがあるかもしれないけど、聴いている人には分からないよ」と言われて。裏テーマとかつけてやったんですけど、そう言われて今のままでは確かに伝えるのが難しいなとガラッと切り替えて、テーマも変えて作り直しました。なので、最終的にはセンテンスごとにそれぞれの言葉を使っているところもあるし、サビのブロックが晧平だったり……と、2人で1回、2回じゃない何度も何度もやりとりした上で、いいなと思った単語を残していくような書き方になりました。

――時代性ともマッチした混沌としたニュアンスが、そういう書き方がより際立たせているのかもですね。

松原:勝手に混沌とした感じなんですけど(笑)。

上野:だけど、混沌とさせたい狙いはありましたね。曲のアレンジとかもめちゃくちゃ変わった感じにしたいなと思っていたんで、歌詞ともマッチして結果よかったなと。

――《もう何もしたくないなら/何もしなくてもいいから》という部分とか、「Inner Lights」は肯定してくれている感じが凄くいいなと。

松原:この曲は、彼がデモで1番のメロディーと歌詞を聴かせてくれて。それを受けて僕が2番を書けたのは、彼のメッセージに共感できたからなんですよね。最初に会った時のこととか、初めてみたことを忘れないということは大事だと思うなって。それで2番を書いて、Cメロを二人で作って、大サビは2人の歌詞を混ぜて。今までも二人で詩を書くことに何回も失敗しているんですけど、でもそれができたのはお互いが共感できるメッセージだったからだと思います。

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――どの曲も普遍性のあるメッセージが歌われていますよね。僕が20代で世代的に近いからリアルに感じるのかといえばそうでなく、きっとどの世代が聴いてもグッとくる楽曲ばかりだなと。きっと、何十年先に聴いてもしっくりくると思うんです。

松原:やっぱり僕たちがそういうバンドが好きなんです。最終的には憧れるバンドたちがやってきたように、やるなら作品をしっかりと残していきたいなと思っているので。どの時代でも、人間だから同じような気持ちを抱えるだろうし、そういう根っこの部分に響く曲が書けたらいいなと思っています。

――今年は、イギリスでライブもされたと思うのですが日本に比べていかがでしたか?

上野:ライブでのお客さんの反応が顕著でしたね。それだけでなく、日本との文化の違いを感じたることもいっぱいありました。例えば、芸術作品に対するスタンスや向き合い方が、全然違うなと。博物館とか劇とか、レコードショップも見てきたんですけど、そういうアナログ的な娯楽に対して、老若男女問わず興味を持って足を運んでいるんです。その考え方がライブにも通じていて、自分が好きなアーティストを調べて観に行くというよりかは、パブとかでやっている場所にとりあえず行って、知っていても知っていなくてもとりあえず観て、よかったら盛り上がる。っていう、そういう楽しみ方に関しては日本との違いを感じましたね。

――カルチャーに対してよりピュアな感じですね。流行旬とか関係なく、いいものはいい。古くても残っているものは、いいものだ、みたいな。

松原:もちろん日本と同じようにネットで楽しんでいる人もいっぱいいると思うんですけど、実際に街で触れたのは、足を運んで楽しむ人たちが多いという印象でしたね。カフェでも、パブでもライブハウスでも、どの場所に行ってもいろんな年齢層の人がいるんです。パブでもライブハウスでも、おじいちゃんとかおばあちゃんがいる。クラブの入り口とかもバーッて開いてるから、オープンな感じで入りやすいんです。日本なら居酒屋とかカフェで話そうかとなると思うんですけど、イギリスでは公園の芝生にそのまんま座って、対面で話していたりする。そういうのを見て、ラフでいいなぁと思いましたね。

――イギリスでの経験で、帰ってきてからのライブで反映されたこととかありますか?

松原:お客さんがこうやったらこうなる、という反応を実際に12本のライブで体感できた経験は生かしていますね。向こうのお客さんはダメだと思ったら目の前で平気で帰っていくんですよ。一番前を陣取って見ていても、ダメだったら帰る。だけど良かったら良いって反応を、必ずしてくれるんです。例えば、セットリストの中でこういう風にリズムを取って、演奏を丁寧にしたらノッてくるなとか。これはありきたりな話ですけど、ソロパートの時に前に出て弾いたら反応してくれるとか。それは日本の人もイギリスの人も、感情の変化はきっと似てると思うんですよ。なかなか日本ではライブハウスに来てもじっとしている人もいるので、「どう思っているんだろう」というのはあったんですけど、じーっと観ていたとしても心の中ではイギリスの人と同じように盛り上がってくれているんだろうなと思えるようになりました。イギリスのお客さんみたいに盛り上がっていなくても、「自分たちはこうするんだ」と自信を持てた。他のバンドマンはとっくにできてることかもしれないですけど(笑)。

上野:ライブに関しては本当にそうなんですよね。お客さんのライブを俯瞰して見るということが意識づいてきました。こんな時はこうした方がいいなというのが、前より見えるようになったと思いますね。お客さんがノッてないからといって、こっちが落ち込んだり怯んだりするんじゃなく、絶対に自分たちのパフォーマンスをすれば大丈夫なんだと。僕らは盛り上がる曲よりしっかり聴いてもらう曲が今は多いので、ちゃんと自信を持ってパフォーマンスできるようになりました。

松原:僕らが楽しみながらいいライブをして、それの反応が返ってきたら、バンドはより一層力を発揮できるんです。だからこそ、自分たちが周りを気にせず、もっと自由に楽しんでお客さんにも楽しんでもらえるようなライブをしたいなと思います。

――バンドの底力も上がり、イギリスで自信を得てメキメキとパワーアップしたライブを観れるのが楽しみです。リリースツアーは、対バンも世代の近い良いバンドばかりですね。

上野:僕らがホンマに好きで、ライブを観て好きになったアーティストを誘ってます。なので僕たち自身もツアーで一緒にできて彼らのライブを観れるのがすごい楽しみです!

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取材・文=大西健斗 撮影=渡邉一生

イベント情報

The Places Release Tour
11月16日(金)名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL w/ ドミコ / The Fax
11月18日(日)大阪 Live House Pangea w/ KOTORI / ムノーノ・モーゼス
11月22日(木)東京 TSUTAYA O-nest w/ Ryu Matsuyama / Gi Gi Giraffe
12月6日(木)福岡 Queblick w/ The Wisely Brothers / The Cheserasera / The Folkees
12月7日(金)岡山 CRAZYMAMA 2ndRoom w/ The Wisely Brothers / The Cheserasera / THE HELLO WATER
12月12日(水)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd w/ キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / Sentimental boys / Radicalism
12月21日(金)神戸 VARIT. w/ キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / Easycome
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前売 ¥2,800 / 当日 ¥3,000(+1drink)
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