東京バレエ団の宝物、珠玉の小品4作品で〈20世紀の傑作バレエ2〉
(左から)川島麻実子、柄本弾 (Photo:Shoko Matsuhashi)
東京バレエ団は2018年11月30日(金)~12月2日(日)に〈20世紀の傑作バレエ2〉を新国立劇場 中劇場で上演する。演目はジェローム・ロビンズ「イン・ザ・ナイト」、ジョン・ノイマイヤー「スプリング・アンド・フォール」、イリ・キリアン「小さな死」、そしてモーリス・ベジャール「ボレロ」の4作品だ。東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理が「東京バレエ団が持つ、宝石のような珠玉の小品」と語る、いずれも20世紀の巨匠たちによる名作である。
また、これらの小品は「白鳥の湖」に代表される古典バレエや「ロミオとジュリエット」などのドラマチックバレエとは違った、現代バレエの面白さや醍醐味を見せてくれるものだ。全幕物が長編小説だとすれば、今回の公演は、それぞれの作家が独特な世界を表現した、4編のショートストーリーのオムニバスといえよう。
上演作のひとつ、「スプリング・アンド・フォール」の公開リハーサルが先ごろ行われ、主演の柄本弾、川島麻実子らが作品を披露、その後の記者懇親会では斎藤監督とともに公演に向けての思いを語った。
(左から)柄本弾、川島麻実子、斎藤友佳理 (Photo:Shoko Matsuhashi)
■二重の意味合いと深みのある作品「スプリング・アンド・フォール」
「スプリング・アンド・フォール」は、「椿姫」「ニジンスキー」などの名作で知られるジョン・ノイマイヤーの小品で、10人の男性と7人の女性によるバレエだ。音楽はドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」で、タイトルには「春と秋」と「跳躍と落下」の二重の意味が込められている。新緑が萌え出でるようなみずみずしさと、どこか哀愁を帯びた秋のしっとりとした風情に、喜びやエネルギーが満ち溢れる跳躍、緊張感あふれる伸長からふっと力が抜ける緩急織り交ぜた動きが交錯する。
(Photo:Shoko Matsuhashi)
リハーサルは、まず第1楽章の柄本、杉山優一、次いで宮川新大によるゆったりとしたパートが踊られ、続く第2楽章は川島を筆頭とする女性ダンサーが踊る。そこに男性ダンサーが加わり、音楽に乗って優美に動きながらいつしか男女はペアとなり、新緑の木漏れ日のようなキラキラとした雰囲気を作り上げる。
柄本弾 (Photo:Shoko Matsuhashi)
(Photo:Shoko Matsuhashi)
第3楽章は男性10人の力強さと躍動感あふれる踊りに、川島が風のような味わいを添える。第4楽章では川島と柄本による哀愁に満ちたパ・ドゥ・ドゥを見せ、フィナーレとなる第5楽章はダンサー全員が登場して、エネルギッシュな盛り上がりで締めくくった。
(左から)川島麻実子、柄本弾 (Photo:Shoko Matsuhashi)
リハーサルは楽章の合間に斎藤監督が「もっと感情の動きを。感情が動けば空間が広がるから」「そこは力を抜いて、ふっと落ちるように」などアドバイスを入れる。斎藤は東京バレエ団がこの作品を初演した2000年に首藤康之とともにこの作品を踊り、自身も「大好きな作品」であるためか、指導にも熱が入る。また斎藤の言葉に熱心に耳を傾けるダンサーの表情には、この作品と公演に対する熱意が感じられ、バレエ団のモチベーションの高さが伝わってきた。
(中央)斎藤友佳理 芸術監督 (Photo:Shoko Matsuhashi)
(Photo:Shoko Matsuhashi)
■斎藤監督の3年目の集大成。個性の違う4作品を
斎藤は2015年の芸術監督就任時に「古典バレエだけでない、東京バレエ団が持つ20世紀バレエの魅力を広めたい」という柱を掲げ、2017年2月の公演で「イン・ザ・ナイト」を、同年9月の公演で「小さな死」を新たにレパートリーに加えた。今年の公演は〈20世紀の傑作バレエ2〉として、バレエ団が折にふれ上演してきたこれらの作品を「大きな舞台でしっかり上演したい。多様な角度から見ていただける作品を集めた、3年間の集大成となる」と述べる。
(Photo:Shoko Matsuhashi)
公開リハーサルで取り上げた「スプリング・アンド・フォール」について、斎藤は「ノイマイヤー氏のニュアンスを表現しようと苦労し、リハーサルを重ねる中でノイマイヤー氏を理解できた、非常に貴重な作品」と初演時の思い出を振り返る。そして今回踊った川島と柄本、さらに別キャストの沖、秋元らに対し「皆それぞれにこの作品と向き合い、踊ってきた」と期待を寄せている。
(左から)柄本弾、川島麻実子、斎藤友佳理 (Photo:Shoko Matsuhashi)
川島は「スプリング・アンド・フォール」について「入団以来、プリンシパルになる前にはじめてもらった大きな役。自分の年齢や立場によって作品との向き合い方も変わり、今回はどうやって向き合っていくか模索中だが、30歳を迎える今、この作品を踊れることはとても意義深い」と話す。またハンブルクバレエ団を訪れた際、アレクサンドル・リアブコをはじめとするダンサー達が「演じようとはせず、呼吸をするように自然に踊っている姿が印象に残っている」とも。
川島麻実子 (Photo:Shoko Matsuhashi)
柄本は「スプリング・アンド・フォール」のほか「ボレロ」のメロディも踊る。とくに「ボレロ」は12月1日のマチネ、ソワレに配されており「1日に2演目を踊るのは初めての挑戦で体力的にも厳しいものになると思うが、背中でみんなを引っ張っていけるようにがんばりたい」と意欲を語った。
柄本弾 (Photo:Shoko Matsuhashi)
「今回20世紀の巨人といわれる振付家の名作に、一気に携わることができて幸せだ」と斎藤が語るように、今回東京バレエ団が取り上げた作品はパリ・オペラ座やハンブルクバレエ団など、世界のバレエ団で取り上げられている名作揃いだ。リハーサルで披露した「スプリング・アンド・フォール」のほか、「ボレロ」はモーリス・ベジャールの名を不動のものとした世界的に有名な作品で、日本では東京バレエ団のみが上演を許可されている。「イン・ザ・ナイト」はショパンのノクターンに乗せて3組のカップルの静かなドラマを描いた作品で、ロマンティックな味わいが魅力。「小さな死」はモーツァルトのピアノ協奏曲に乗せて、男女の繊細な心模様が描かれる。いずれも現代バレエになじみのない人でもわかりやすい作品であるのも特徴だ。
またこれらはシノプスレスな作品ではあるが、その分ダンサーがそれぞれの感性によって世界を紡ぐので、キャストによって世界も醸す雰囲気も変わるのが、こうした作品の面白いところ。同時に「きまり」がないからこそ、見る側は見たままに、自由に物語を感じられるのが現代バレエの醍醐味でもある。公演のタイトル通り「傑作」が揃ったこの機会にぜひ足を運んでみてほしい。
取材・文=西原朋未
公演情報
■会場:新国立劇場 中劇場
■出演: