『百段階段展 〜荘厳なる日本美術の空間へ〜』レポート 目黒駅から3分、エレベーターの先の別世界

2018.12.5
レポート
アート

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JR目黒駅西口から徒歩3分。ホテル雅叙園東京のエントランスを入り、すぐ左手にあるエレベーターが百段階段の入口だ。

百段階段は、1935(昭和10)年に建てられた同館(当時、目黒雅叙園)の3号館にあたる建物の別称。目黒雅叙園は、1931年にはじまり増築を重ね、1943年におよそ現在の形になったという。1988年から1991年には全面的な改装工事が行われたが、百段階段は、木造建築のまま残された。

近年では、各部屋の趣きを活かし、雛人形や生け花、アートの企画展を行い、多くの来場者を集めている。2018年11月29日(木)~12月24日(月・祝)に開催される『百段階段展 ~荘厳なる日本美術の空間へ~』は、創業90周年を記念したイベント。あえて展示物を置かず、百段階段自体の魅力に触れてもらおうという待ち望んでいた試みだ。

エレベーターで百段階段入口へ

受付をすませ、エレベーターに乗り込むと、まずエレベーター内の絢爛な光景に驚かされる。唐獅子と牡丹の模様の螺鈿細工が施されていた。1991年の改装の際に設置されたのだそう。

百段階段へのエレベーター

靴をスリッパに履き替えて、百段階段へ。階段が奥まで続く光景は、非日常的な体験を予感させる。ケヤキ板の階段を、軽く軋ませながら上がっていけば、全7部屋を巡ることができる。かつて宴会場として使われていた部屋だ。室内の装飾は、部屋ごとに異なる作家が担当をした。ひとつとして同じ部屋はなく、一室ごとに新鮮な驚きがあり、いまでいうコンセプト・ルームのように楽しむことができるはずだ。

階段の右手に、7つの部屋。天井にも扇の絵が描かれている。

個性の違う、7つの部屋

最初は、「十畝(じっぽ)の間」。格天井には、日本画家・荒木十畝による花鳥画。部屋の随所には、黒漆塗の螺鈿細工があしらわれている。

百段階段の中にあって、一際個性を放つのが「漁樵の間」。ヒノキの柱に極彩色の彫刻があしらわれ、室内は純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられている。天井の原図は、菊池華秋。欄間の原図は、尾竹竹坡(おたけちくは)。柱も天井もレリーフのように浮き彫りにされ、飲み込まれるような迫力とサイケデリックな魅力がある。

右の柱が漁師、左の柱が樵(きこり)。

7部屋(装飾が施されているのは実質6部屋)のうち5部屋は、その部屋の装飾を担当した者の名前が冠されている。しかし「漁樵の間」の「漁樵」は、漁師と樵(きこり)のこと。晩年の尾竹竹坡が着手し、菊池華秋が引き継いだため、人名ではなく装飾のテーマから名前が付けられた。

部屋を巡り、四季を感じる

「草丘の間」は、礒部草丘の四季草花絵や松原の風景が描かれている。欄間にぐるりと描かれた山里は、礒部の心象風景でもあるという。

橋本清水が担当した「静水の間」は、控えの間、本間、それぞれの天井に、大きく4面の扇子が描かれている。欄間には、小山大月の金箔押地秋草が描かれている。風にそよぐ秋草は、季節のうつろいを感じる。

※修復中のため、作品がシールとなっている

板倉星光による四季の草花が溢れているのが、「星光の間」。本間の天井には花籠。欄間には、魚やタケノコなど季節のおいしいものが描かれており、星光の遊び心を感じられる空間だ。

さらに階段をあがった先は、「清方の間」。美人画の大家、鏑木清方が絵筆をふるった一室だ。娘道成寺(春)や蛍狩り(夏)など、清方が描く四季の美人風俗画が、奥の間の欄間を華やかに彩る。

目黒駅から3分の異世界へ

「百段階段」の段数は、実は99段。中国において100という数字は、完璧なものや、王などを象徴したことから、あえて1を引くことで、謙虚な姿勢を示したのだそう。99という数字が、演技の良い数字であるからだという説もある。「頂上の間」では、同館を舞台にしたショートムービーが上映されていた。

各部屋には、モーショングラフィックスを用いた解説パネルが置かれている。モノトーンが基調の現代的な映像は、一見すると対照的な、豪華絢爛な和風の空間と引き立てあい、鑑賞の理解だけでなくビジュアル的にも一役かっていた。開催期間中は、金曜日・土曜日にナイトミュージアムが実施される。

『百段階段展 ~荘厳なる日本美術の空間へ~』の会期は、2018年11月29日(木)~12月24日(月・祝)。クリスマス・イルミネーションとは一味ちがう、ゴージャスな異世界に足を踏みいれてみてはいかがだろうか。

イベント情報

創業90周年特別企画『百段階段展 〜荘厳なる日本美術の空間へ〜』
開催期間:2018年11月29日(木)〜12月24日(月・祝))※会期中無休
開催時間:日〜木曜日 10:00〜17:00(最終入館 16:15)
金・土曜日 10:00〜20:00(最終入館 19:15)
※全時間帯写真撮影可能(三脚・フラッシュ撮影・商業撮影・頂上の間の映画撮影 NG)
入場料:当日1,500円、前売1,200円、学生800円※要学生証呈示、
小学生以下無料、ナイトミュージアム限定1ドリンク付きをプレゼント ※ディナー利用で使用
可能。カフェラウンジ パンドラとステーキハウス ハマを除く
会場 : ホテル雅叙園東京
  • イープラス
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