展覧会『イケムラレイコ 土と星 Our Planet』、国立新美術館で開催 約210点の作品を16のインスタレーションで紹介
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イケムラレイコ 《頭から生えた木》 2015 テラコッタ、釉薬 30x37x24cm 個人蔵、ドイツ Courtesy Galerie Karsten Greve AG, St. Moritz
展覧会『イケムラレイコ 土と星 Our Planet』が、2019年1月18日(金)〜4月1日(月)まで、国立新美術館にて開催される。
イケムラレイコ 《始原》 2015 年 テンペラ/ジュート 190x290cm 作家蔵
イケムラレイコは、1970年代にスペインに渡り、その後スイスを経て、1980年代前半からはドイツを拠点に活躍してきた。絵画、彫刻、ドローイング、水彩、版画、写真など、イケムラが手掛けるメディアは多岐にわたる。それはイケムラが、何かが生まれる途上に潜在している、いまだはっきりとは見えない無限の可能性を表現するという独創的な芸術的課題に、多様なメディアをもって挑んできたことの証でもあるだろう。本展覧会では、そのような不可能にも思える目標に真摯に取り組んできたイケムラの創造の軌跡を、約210点の作品とともに紹介する。
イケムラレイコ 《ベルリン地平線I》 2012 年 テンペラ、油彩/ジュート 110x180cm 作家蔵
スイスで本格的に画家としての活動を開始したイケムラは、1983年にドイツに移った。当時の絵画を席巻していたのは、力強い色とかたちで、人間の生の感情を表出する新表現主義と呼ばれる動向だった。イケムラもまた、女性であること、そして異邦人であることの困難に抵抗するかのような荒々しい絵画や、多様な線で構成されたユーモラスで人間味あふれるドローイングなど、実験的な試みに没頭した。そうした制作を経て、1990年代以降に現われてきたのは、名もない小さな動物や無垢な少女たち、母と子、木々や山と一体化した人物、誕生と死を含みこむ神話的な原始の風景などだった。
イケムラレイコ 《母の情景》 2011/15 年 油彩/ジュート 90x180cm 作家蔵
人や自然をコントロールし、体系化することによって成り立つ今日の社会は、自然災害だけでなく、原発の事故など、人が作りだしたさまざまなひずみによって揺さぶられている。うつろな空間に漂うはかなげな少女や、現代美術で正面から取り上げられにくかった母と子の像、そして、幻想的な、自然と一体化した小さな生きものたちのすがたには、この世に生まれでた、あるいは、これから生まれいずるものたちの存在の多様性を、あるがままに受け入れようとする強靭な思想が感じられる。寡黙でささやかな、自らのうちに深く沈みこんでいく内省的な作品世界は、まさにこの点において、きわめて今日的な批評性に満ちている。それは、日本とヨーロッパという異なった土壌で鋭敏な感覚を磨いてきたイケムラだからこそ見出しえた、啓示に満ちた景色でもあるだろう。
イケムラレイコ 《オーシャンIII》 2000/01 年 油彩/ジュート 120x160cm ヒルティ美術財団
2011年に東京国立近代美術館と三重県立美術館で開催された『イケムラレイコ うつりゆくもの』展以降、イケムラは、社会に向き合う態度をより意識するようになったという。本展覧会は、独創的な創造活動により、破綻しかけた社会の構造にまで切り込もうとするイケムラの芸術をたどりなおし、多面的に追体験できるように、16のインスタレーションの集合として構成されている。展覧会のクライマックスには、近年の総合的な世界観を、神話的な空間に表出した大型の風景画の部屋が現われる。
1:これまでで最大規模の個展
イケムラレイコ 《ハルコI》 2017 年 テンペラ/ジュート 120x120cm 個人蔵、アメリカ Courtesy of Jim Murren, Chairman of MGM Resorts
2000平米の展示室と野外展示場も使い、約210点を紹介。展示される作品は、絵画、彫刻、ドローイング、水彩、版画、写真、映像、と、イケムラが手掛けてきたすべてのメディアを網羅する。また、文学にも豊かな資質を発揮しているイケムラの詩も、会場内にちりばめられる予定だ。
2:16のインスタレーション
イケムラレイコ 《花》 2009/18 年 ラムダプリント 作家蔵
展示会場は、イケムラが探求してきた16のテーマに基づく、16のインスタレーションで構成されている。観客には、これらのインスタレーションをめぐり歩く道しるべとなる地図を配布する予定だ。展示構成を手掛けたのは、これまでにイケムラと何度もコラボレーションしている建築家のフィリップ・フォン・マット。
3:初期のドローイングと絵画
1973年からスペインのセビリア大学美術学部で学んだイケムラは、1979年にスイスに移り、現代美術家としての活動を本格的に開始した。本展覧会には、作家にゆかりの地であるスイスから、初期のドローイング約40点や表現主義風の大型の絵画がやってくる。これらの作品群には、近作にいたるまでの変わらぬイケムラの関心を垣間見ることができる。
4:近年の新たな試み
イケムラレイコ 《うねりの春》 2018 年 顔料/ジュート 190x290cm 作家蔵
イケムラの絵画は、近年、ふたたび大型化している。山水画を思わせる幽玄の景色には、人や動物のすがたが溶け込んでいる。最新作《うねりの春》は、生命の高揚を感じさせる春のモティーフにふさわしく、明るく暖かい色彩をベースにしている。大きな空間いっぱいに広がる風景画と、身も心も一体化する体験を楽しもう。
5:イメージの連鎖
イケムラレイコ 《花嫁》 1990 年 テラコッタ、釉薬 97.5x45x31 cm 作家蔵
イケムラの作品では、人や動物、木々や山がかたちを変え、あるイメージからまた別のイメージへとつぎつぎに変化していく。イメージは、見る人の記憶や精神状態に呼応して、見え方を変える柔軟性をそなえている。本展覧会では、イケムラのヴィジョンを追体験するだけでなく、自分だけのイメージを紡ぎだすこともできるだろう。
なお、本展覧会は、スイスのバーゼル美術館との共同企画となっている。東京展を再構成した巡回展が、2019年春から夏にかけてバーゼル美術館で開催される予定だ。
イケムラレイコ 《母とミコ》 1995 年 テラコッタ、釉薬 55×55cm 個人蔵、ドイツ
イベント情報
会期:2019 年1月18日(金)– 4月1日(月)
休館日:毎週火曜日
開館時間: 10:00–18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E[東京・六本木]
美術館ホームページ:http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/Ikemura2019/