文学×演劇×料理の、美味なるコラボ企画<M-PAD2015>

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2015.11.12
 チラシの束の中で異彩を放つ、豪華な造りのパンフレット

チラシの束の中で異彩を放つ、豪華な造りのパンフレット

三重・津市の飲食店で、文学作品のリーディング公演を連日開催

美味しい料理と文学作品のリーディングを、劇場ではなく三重県津市内の飲食店で楽しませてくれる<M-PAD2015>が、今週末から始まる。「三重県文化会館」と「津あけぼの座」による共催アウトリーチ事業として2011年にスタートしたこの企画は、今年で5回目の開催に。発売から2週間で完売、と好調な滑り出しを見せた初年は4作品/4団体だったが、認知度や人気の高まりとともに年々作品数を増やし、今年は9作品/9団体が1日ずつ2週間に渡って上演。その間に、1日4団体の連続上演×2日の<まとめ見>やシンポジウムも行われるなど、過去最高に骨太な内容で展開される。

参加団体は毎回全国各地から集結し、今年は茨城、東京、石川、三重、大阪、岡山、長崎のカンパニーがラインナップ。なかなか観る機会のないエリアの作り手に出会えるのも魅力のひとつになっている。店は津が誇る老舗や名店など“味は保証つき”の人気店揃いで、各団体とも1回の定員は30~40名、ランチとディナーまたはティーとディナーの2公演ずつ行うというスタイルだ。今や晩秋の津の恒例行事となったこの企画が、どのように始まって毎年どんな風に進められているのかを、仕掛け人のお二人、「三重県文化会館」の松浦茂之氏と「津あけぼの座」の油田晃氏に伺った。

左から松浦茂之氏(三重県文化会館)と油田晃氏(津あけぼの座)

左から松浦茂之氏(三重県文化会館)と油田晃氏(津あけぼの座)


── この企画を立ち上げたきっかけは何だったのでしょう。

油田◆2011年に名古屋で開催された『日本のへそ演劇祭』に、「せんだい演劇工房10-BOX」の工房長・八巻さんがシンポジウムでお越しになって、ウチのスタッフが見に行っていたんですね。その頃、「ちょっと他の地域を見てこよう」という話をしていたので、八巻さんに「仙台を見学させてください」とお願いして伺ったんです。劇場の取り組みでちょうど『杜の都演劇祭』というのをやっていて、3ヶ月か4ヶ月ぐらい毎週末、仙台の街中の飲食店で仙台のカンパニーがリーディング公演を行っていたんですが、40公演ぐらい用意されていて、ちょうど僕らも土日で行ったので観られると思ったら、全部売り切れていたんですよ。まだ東日本大震災の前で、すごく盛り上がってましたね。先の公演のもほとんどなくて、これはすごいと「八巻さん、なんでこんなことを始めたんですか」と聞いたら、「劇団四季が来た時に、街を盛り上げようと思って始めた」と言うんです。チラシとかもいろいろ見せてもらって。我々は当時「あけぼの座」にカンパニーを呼んで、打ち上げなどで飲食店にお連れしていて津の街はご飯がそこそこ美味しいことがわかったので、津でもできるんじゃないかなと。それで帰ってすぐ松浦さんにお会いして、「これを津でやっても面白いと思うんですけどね」と話したら、「三重はカンパニーの数が少ないから、全国から呼ぶ形でやったらどうか」という話になって。そしたら翌週に企画書が出来てました(笑)。

松浦◆全国からカンパニーを呼ぶと交通費とか費用がいろいろかかるので、その分はウチが持って、企画と運営の骨格を「あけぼの座」に任せるという形での共催ですね。アーティスト選定は相談するということで、当館が呼んでるアーティストと「あけぼの座」が呼んでるアーティストを混ぜ合うような感じで。この話を聞いた時に、「これは全然違う客層と出会えるんじゃないか」ってピンときまして、アウトリーチとしてやってみようと。

M-PAD2011 江戸川乱歩『赤い部屋』 上演/このしたやみ  撮影:松原豊

M-PAD2011 江戸川乱歩『赤い部屋』 上演/このしたやみ  撮影:松原豊

会場のひとつ、老舗洋食店の「中津軒」  撮影:松原豊

会場のひとつ、老舗洋食店の「中津軒」  撮影:松原豊

── 仙台でが売り切れていたというのは、演劇ファンだけでなく一般の方も楽しまれていたということですよね。

油田◆そうだと思うんですけどね。各カンパニーの演出家さんがディレクターをやっているので、彼らももちろん宣伝していると思うんですが、店の人とも仲良くやっているようで。八巻さんに「これ、パクっていいですか?」とはっきり言ったら、「そんなん全然いいよ。広がればいいんだから、やれやれ」って。今年はシンポジウムでお呼びできるので、「無事に5年頑張りました」と報告できます。

── 文学作品はどのように決めているんでしょう?

油田◆各演出家の方に決めてもらうんですが原則、尺ですね。一応30分以内でお願いしてるんですけど、平気で60分とか(笑)。食事とリーディング含めて、だいたい1時間半くらいで終わるように想定してるんですけどね。

── 食べながら観るのではなくて、食事の後で観るんですね。

油田◆いろいろ意見はあるんですけど、先に食べてから観ていただいた方が満足されるんですね。お腹いっぱいになるんで、ニコニコと観ていただけるんですよ(笑)。

── カンパニーのセレクトについては?

松浦◆この演出家にしたいな、というのは最初の段階で油田さんと話し合って決めます。同じ演出家だとマンネリも出てきちゃうので、新しい演出家も入れたい…というのを相談して。

油田◆3年くらい出てもらったら、1回お休みしてもらった方がいいだろうと。若いカンパニーとか挑戦したいというカンパニーに入れ替えたり。売り込みも結構あるんですよ。どこかで噂を聞いたり、実際にお客様でいらっしゃったり。お話して面白そうだなと思ったら「やってみます?」と。今年でいうと、角さんがそうですね。

M-PAD2013 夏目漱石『夢十夜』 上演/百景社  撮影:松原豊

M-PAD2013 夏目漱石『夢十夜』 上演/百景社  撮影:松原豊

会場のひとつ、「塔世山 四天王寺」  撮影:松原豊

会場のひとつ、「塔世山 四天王寺」  撮影:松原豊

── 徐々に作り手の方にも広がっていってるんですね。

松浦◆ままごとも柴さんから「出たい」と仰って。我々も全国でいろいろ喋るようにしてますし、今回のように仙台からお呼びして交流したりね。広まるように努力していますし、予算も文化庁の助成をもらい出してから広報もしっかりやれるようになってきて。このパンフレットも結構お金がかかってるんですよ。

油田◆毎年よくこんなパンフレット作れるなと思いますからね、このご時世で。年々豪華になっていきますからね。

── 最初にパンフレットを拝見した時から、私も「行きたい!」と思いました。

松浦◆我々もかなりいろんな事業をやってますけど、美味しい料理で芸術を楽しむって、鉄板の組み合わせなんですよ。幸せですよね。かなり満足度があると思う。

油田◆料理とリーディングが、こんなに親和性があるとは思いませんでしたね。

── 初めて芝居を観る方でも、観やすいかもしれませんね。

油田◆そうなんですよ。ここから劇場にお越しになられる方もいるので、演劇の裾野を拡げるという意味ではすごく機能していると思いますね。お店もお客様も演じ手も喜ぶんですよね。

松浦◆それと仙台にはないんですが、三重のひと工夫として<まとめ見>があります。それによって火曜に上演したカンパニーも土曜日まで残るので、いろんな意味で良い効果になってますね。

油田◆お呼びしたカンパニーは「あけぼの座」で寝泊まりしてもらうんですよ。カンパニー同士がわりと交流したりして、その辺りも喜ばれていますね。

── 来年以降の予定や新たな展開などはありますか?

松浦◆日程は決まっていて、毎年11月の3・4週目なんです。いずれは「あけぼの座」と「三重県文化会館」がそれぞれ劇場公演を週末に組んで、自然発生的に<演劇フェスティバル>と言っていいノリにできないかな、という野望は抱いてます。劇場に全ての作品を並べて上演するのではなくて、ベースに<M-PAD>があって、気づいたらフェスっぽくなっていた、みたいなことですね。名古屋でもやるべきだと思いますよ。

油田◆他の都市にもやって欲しいんですよね。むしろ提供したいぐらいです。

M-PAD2014 向田邦子『鮒』 上演/林英世  撮影:松原豊

M-PAD2014 向田邦子『鮒』 上演/林英世  撮影:松原豊

会場のひとつ、「磨洞温泉 涼風荘」  撮影:松原豊

会場のひとつ、「磨洞温泉 涼風荘」  撮影:松原豊


文学ファンや演劇好き、或いは美食目当てなど、興味を引く間口を広く設けたイベントだけに、意外な出会いも体験できそうなこの企画。作品や店によって客層が異なるというのも面白いポイントで、毎年コンプリートする観客も何人かいるのだとか。劇場とはまた違った贅沢な演劇の楽しみ方を、小旅行気分で味わってみるのはいかが?

 

【上演スケジュール】  ※詳細は公式HPで確認を。

11月14日(土) LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
太宰治『葉桜と魔笛』 演出/柴幸男 上演/ままごと(東京)
会場:塔世山 四天王寺(上演)、 喫茶tayu-tau(食事)

11月17日(火) TEA TIME 14:00/DINNER TIME 19:00
 海野十三『千年後の世界』 演出/油田晃 上演/劇団Hi!Position!!(三重) 
会場:古民家 Hibicore(食事)、Theatre de Belleville(上演)

11月18日(水)  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
宮澤賢治『よだかの星』 演出・出演/西本浩明(石川)
会場:中津軒

11月19日(木)  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
小川未明『うらしま太郎』  演出/角ひろみ(岡山) 出演/大谷朗(演劇集団円/東京)
 会場/うなぎ料理 はし家

11月20日(金)  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
佐野洋子『100万回生きたねこ』 演出/志賀亮史 上演/百景社(茨城)
 会場/Cafe Sanche(食事)、トイズファーム・スタジオ(上演)

11月24日(火)  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
芥川龍之介『藪の中』 演出・出演/林英世(大阪)
 会場/磨洞温泉 涼風荘

11月25日(水  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
世阿弥ほか『超訳 風姿花伝拾遺』 演出・構成/岩崎正裕 出演/坂口修一(大阪)
会場/VERITAS The Burger Hut

11月26日(木)  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
幸田露伴『太郎坊』 演出/福田修志 上演/F’s Company(長崎)
会場/Cafe Sanche(食事)、トイズファーム・スタジオ(上演)

11月27日(金)  LUNCH TIME 13:00/DINNER TIME 19:00
国木田独歩『春の鳥』 演出/島貴之 上演/aji(東京)
会場/塔世山 四天王寺(上演)、 喫茶tayu-tau(食事)

 
まとめ見1
11月21日(土)19:00~  会場/津あけぼの座スクエア 劇団Hi!Position!!/西本浩明/大谷朗×角ひろみ/百景社
まとめ見2
11月28日(土)19:00~  会場/津あけぼの座スクエア 林英世/坂口修一/F’s Company/aji

 
シンポジウム「街とリーディング その可能性」 ※事前申込制、入場無料
11月21日(土)15:00~17:00  会場/塔世山四天王寺 本堂
ゲスト:八巻寿文(せんだい演劇工房10-BOX 工房長)、鈴木拓(boxes Inc.代表) 司会:松浦茂之(三重県文化会館 事業課 課長)
 
 
イベント情報
M-PAD2015

■開催期間:11月14日(土)~28日(土)
■会場:三重県津市の飲食店、津あけぼの座スクエア、塔世山四天王寺 本堂
■料金:LUNCH TIME 公演 3,000円(料理+リーディング公演)、TEA TIME公演 2,000円(飲み物・お菓子+リーディング公演)、DINNER TIME 公演 3,000円(料理+リーディング公演) ※事前予約制  まとめ見1・2/前売・予約2,000円、当日2,500円
■問い合わせ:津あけぼの座・事務局 059-222-1101/三重県文化会館 059-233-1106
■公式サイト:http//m-pad.tumblr.com
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