押尾コータロー まばゆい出会いが詰まったニューアルバム『Encounter』が完成
押尾コータロー 撮影=田浦ボン
アコースティックギタリスト・押尾コータローが、ソロ名義としては2年3か月ぶりとなるオリジナルフルアルバム『Encounter』を2月20日にリリースした。今作にはそのタイトルどおり、さまざまな出会い(Encounter)から生まれた全14曲を収録。そこで、そんな楽曲たちの背景にある楽しいエピソードやグッとくる思い出についてたっぷりと語ってもらった。
――今作は久々のオリジナルフルアルバムですね。
昨年、DEPAPEPEとのユニット・DEPAPEKOでカバーアルバムを出したんです。彼らのことはデビューの時から知っていて15年ぐらいの付き合いになるんですけど、僕は2人がすごく好きで、言い方は失礼かもしれないけど本当に弟分みたいにかわいくて……。だからレコーディングも選曲もすごく楽しくてね。本当にいい作品が出せたっていう感じでした。でもこの作品を作っている時に、星野源さんの「恋」やSEKAI NO OWARI さんの「Dragon Night」とかのポップで印象に残るメロディが素晴らしいなと思って、カバーした曲たちの良さに嫉妬したというか……。で、オリジナル(アルバム)を作りたいっていう気持ちになったんですよね。
――そして今作はバラエティ豊かな14曲を収録。いくつか気になる曲のことを教えてください。まずはアップビートで押尾さんのスーパーテクニックが光るリード曲「Cyborg」から。
この曲は、ギター小僧目線で作りました。ギター小僧なら手元を見たいに違いない(笑)。タッピングハーモニクスという押尾コータローっぽいところ(テクニック)を見せてますね。ギターを弾く人が見るとすごいことやってるなってなるんですけど、弾いたことがない人だと、ギターって叩くんだっけ?と思うかもしれない。チューニングを変えてるのも、自分としてはイレギュラーなことだと思ってるんだけど、子どもたちには違和感がないかも。そう言えば、パパが僕のファンっていう子どもがいて、パパが僕をマネをしてバンバン叩いて弾くから、それを見て「パパのマネ」って言ってギターをバンバン叩くんですよね(笑)。
――子どももマネたくなるテクニックから生まれた曲なんですね(笑)。
ギターってオーガニックな楽器じゃないですか。そのギターで無機質なものを表現したいなって思ったんです。それでタッピングハーモニクスのテクニックを使ったらそれができるかなと……。ほらサイボーグ(「Cyborg」)ってすごく無機質な感じでしょ。人間と並んでどっちが本物かわからない感じの今のサイボーグじゃなくて、僕の言うサイボーグはもっと昭和のサイボーグで人間味のない感じだけど(笑)。でもその感じが(曲では)すごく新鮮な表現になったんですよね。
――無機質さを表現したとは言え、刺々し過ぎないところがいいですね。
生ギターでやるからそこまでにはならないですよね。ギターでやるからどうしてもヒューマンになる。でも、その感じをなるべく出さないように弾くのが新鮮でしたね。そういう点ではすごく実験的でいい曲ができたなと思います。
押尾コータロー 撮影=田浦ボン
――では次は「久音 -KUON- feat. 梁 邦彦 ~ジョンソンアリラン変奏曲~」について。これは平昌オリンピックの開・閉会式の音楽監督を務めた音楽家・梁 邦彦さんとのコラボレーションから生まれた平昌オリンピックの応援ソングですね。
そうです。平昌オリンピックがあったので、(朝鮮民謡である)アリランをいろんな風に聴いてもらおうというものでした。実はアリランにもいろんな種類があるんですよね。梁さんから送られてきたものは「ジョンソンアリラン」という楽曲でした。ジョンソンって外国の人かな?って思ったんですけど(笑)、それは旌善(チョンソンもしくはジョンソン)郡っていう場所だったんですよ。で、その旌善で歌われるアリランはメロディがマイナーなんですが、今回は変奏曲ということでメジャーキーの部分をオリジナルで足したんです。
――浮遊感がある部分ですね。ほかにもジャズっぽいところなどもあり、次々に展開していきますね。
ジャズなアレンジは梁さんがピアノで弾くから、ジャジーな4拍子にしようかなと思って。実はもともとアリランは西洋音楽的に言うと9/8拍子……実際には3拍子みたいな感じ。口伝えで歌い継がれている音楽だから言い表すのは難しいんですけど、分析すると正確には9/8拍子なんです。楽譜にすると9/8拍子でしか書けないんですよね。
――歴史のある音楽ならではですね。
でも、今の韓国の若い人たちはあまりアリランを聴かないらしいです。それで梁さんが若い人たちに聴いてもらえるように、韓国の若いロックバンドやアイドルのような人にアリランをカバーしてもらったんですよね。そこに「押尾くんにもジョンソンアリランを弾いてほしい」と言ってもらって。だから僕もどうしようかな?って考えて、押尾コータロー=ギターということで、韓国にもいるギターファンが唸るようなアレンジにしようと思ったんです。
――なるほど。ちなみに各国には独自の音楽文化があると思うのですが、ギターの弾き方にも影響しますか?
そうですね。例えばスペインだと速弾きがウワッ!ってなりますね。フラメンコのパッションの感じ。アメリカならカントリーですね。カントリーが弾けないと話しにならない。あとブルースの所もありますね。日本なら演歌……みたいな感じですね。
――では日本人の弾くギターはどこか演歌の匂いがするものですか?
しないですね。それは西洋音楽への憧れがあるからだと思います。でも、もう一つ先を見ている人は、そっち(日本的な音楽)を全面にしますね。例えば坂本龍一さんがそう。だから「世界の坂本」になる。いわゆる演歌の音階……(ギターを弾きながら)この五音音階でオシャレな曲……「戦場のメリークリスマス」を作る。やっぱり坂本さんは日本音階の魔術師なんですよ。でも西洋の楽器でやるとなかなか難しくてうまくやらないとダサくなっちゃう。喜多郎さんとか、日本の音階をわかっていてうまくできる人は世界で評価されるんですよね。だから本当はもっと日本の音楽を突き詰めていかないといけないんですよね。
――それには知識とセンスが必要なんですね。
あと、いろいろ聴いてみることが大切です。旅もして日本の良さを知らないといけない。それこそ今回の「久音 -KUON-」も、今聴いてアリランがカッコいいと思えるような曲で、普段から演奏したいなと思える曲にしないといけないなって。
押尾コータロー 撮影=田浦ボン
――さて、今作はタイトルが出会うという意味の「Encounter」だけあり、今話に出た梁 邦彦さんのほかにも、出会いから生まれた曲がたくさん。「Pushing Tail」は、ギタリスト・石田長生さんが押尾さんとのセッションのために書き下ろした曲ですね。
石やん(石田)は本当にやさしくてムードメーカーというか。よく覚えているのは、まだ僕がバナナホール(大阪のライブハウス)でバイトしている頃、ライブが終わって床掃除している時に「お疲れ様でした」って言ったら、僕の目を見て「お疲れ様」と言ってくれたんです。たいがいは顔を見ることなく「ハイ。お疲れ」くらいで帰る人が多いんですけど……。それで、この人すごいなと思って。そして石やんは、例えばジャズの「セント・トーマス」という曲を弾く時、普通は難しいアドリブで弾く人が多いところを、よしもと新喜劇のテーマを入れたりして、余裕でおもしろく弾くんですよ。その感じがカッコ良くてね。そんな石やんが「押尾、お前の曲書いてきたったで」と言って作ってくれたのが、この「Pushing Tail」。何、このタイトル?って思ってたら「お前のタイトル(押尾)や!」「お前、(ギターを)叩くやろ」と言われて……(笑)。ドアのノックみたいな感じの部分があるじゃないですか。あれはまんま、(曲ができた当時)セッションした時の再現なんですよね。石田さんとはもっと何回も(セッション)できたらいいなと思っていたんですけど、2015年に他界されてしまって……。最期の最期まで「押尾のライブに行きたいわ」と気にかけてくれてたんですよね。
――「Pushing Tail」は遊び心のある曲ですが、石田さん自身が遊び心のある方だったんですね。
ブルージーな始まりとかはちょっといなたい感じで、石やんが降りてきたような感じでね(笑)。弾いていたら石やんのことを思い出してちょっと寂しくなって……。今回、一発録りなんですよ。だから(演奏が)ちょっと感傷的になってますね。「何をしみたれた演奏してんねん!」って石やんに怒られるかも(笑)。
――石田さんとの思い出が詰まっているんですね。そして、「Harmonia」は逆に押尾さんが朴葵姫さんに書き下ろした曲のセルフカバー。
朴さんはかわいらしいのに、めちゃくちゃギターがうまくて、難しい曲も笑顔で弾くんですよ。そんな彼女が僕のファンということでオファーをいただいて……。僕も僕で、音楽雑誌で朴さんのことを知って音源も聴いて、すごいなって思っていたから、彼女は少々難しくても余裕で弾いてくれるはずって思って作ったんですけど、朴さんにどう?って聞いたら「曲はかわいいんですけど、奏法がかわいくないです(笑)」と言われました。
――当初からセルフカバーは念頭にあったんですか?
いえ、全く考えてませんでした。朴さんの(普段する)クラシック奏法にないハーモニクスで、素敵な朴さんが弾くからいいわけで……「Harmonia=調和の女神」っていうね。僕みたいな男が弾いてもって思っていたんですけど「これは絶対セルフカバーですよ」とディレクターに言われて、マジっすか?って……(笑)。でも、鉄弦で弾く僕の「Harmonia」と朴さんの(ナイロン弦で)弾く「Harmonia」の違いを楽しんでもらえたらいいかなと思います。
――そしてアルバム最後を飾る「ナユタ feat. William Ackerman」はウィリアム・アッカーマンさんとのセッション。ウィリアム・アッカーマンさんは押尾さんの憧れの人なんですよね?
僕のスタイルに直接的な影響を与えたマイケル・ヘッジスというギタリストがいて、彼が所属したレーベル「Windham Hill Records」の創始者がウィリアム・アッカーマンさんなんです。「Windham Hill Records」には僕が好きなアーティストがほかにもたくさんいて、このレーベル自体が昔から好きなんですよね。レーベルが好きってなかなかないでしょ。アッカーマンさんはニューエイジ・ミュージックというジャンルを作り上げた方なんです。高校の時、ふわ~っと入ってくる……眠くなるかもしれない、あのリバーブ感にハマってずっと聴いてましたね。それで、ある時アッカーマンさんが奈良に奉納演奏に来るということで「一緒にライブできる人はいないか?」となって、ついに共演できたんです。、すごくうれしかったですね。若い頃に戻って緊張もしたんですけど、彼はおもしろいことを言ったり、服装もジーパンとTシャツとカジュアルだったりで、全然そう(緊張)させないすばらしい人でした。
――セッションの曲に「ナユタ」を選んだのはアッカーマンさんですね。
いろいろなミュージシャンを発掘しプロデュースしてきて、マイケル・ヘッジスも見出した人ですから、僕がマイケル・ヘッジスに影響されているのはもちろんバレてるわけで……(笑)。そんな彼が「「ナユタ」はいいな」と言ってくれたんですよね。それはやっぱり日本的なメロディを気に入ってくれたからなのかもしれません。この曲は僕が「遠野物語」発刊100周年記念の応援ソングとして作ったんです。「日本っていいよな」と思って、さっき出た五音音階も取り入れて作曲しました。アッカーマンさんとは東京と大阪でのライブで共演できたので本当にうれしかったです。
――レコーディングはやはり緊張しましたか?
そのライブは8公演あってプライベートでも一緒に遊びに行って仲良くもなったんで、レコーディングでは変な緊張感はなかったですね。アッカーマンさんも「いいチューニング思いついた!」とかって子どものような顔をして言うわけですよ。あと“自分はもうギターを弾いているより、トンカチを持ってる方が長い”って……(笑)。実は彼は家を建てるんですよ。事務所も自分で建てたそうで、僕みたいに爪を伸ばしてないんですよね。だから弾く時は鉄のフィンガーピックをつけていて、CDを聴くとカチカチッて鉄が当たる音がしますよ。それがアッカーマンさんの音色の特徴でもあるんですよね。
――アルバムを聴く方には注目して聴いてみてほしいですね。では最後に3月8日(金)から始まるツアーの見どころ・聴きどころをお願いします!
ギター1本ですが、見ても聴いても楽しめるコンサートです。ギターソロの演奏ってポツンと弾いているイメージがあると思うけど……ま、もちろんそれも好きなんですけど、僕の場合はもうちょっとエモーショナルな感じです。音響も素晴らしくて、ステージの照明も見ごたえがあります。前回のインタビューでも言いましたが、長く一緒にやっているスタッフがいて、お互い年も取ってきたけど現状に満足せず、それぞれの持ち場でこうしたい!って向上心があるから、相変わらず言い合ってますよね。それがいいんです。なので、今回もますますパワーアップしたステージを見てもらえると思います。ぜひ、いらしてください!
取材・文=服田昌子 撮影=田浦ボン
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久音 -KUON- feat. 梁 邦彦 ~ジョンソンアリラン変奏曲~
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ナユタ feat. William Ackerman