麻生久美子×中村倫也、タフな二人の芝居から目が離せない! 『クラッシャー女中』初日レポート
『クラッシャー女中』左:中村倫也、中央:趣里、右:麻生久美子 撮影:宮川舞子
2019年3月22日(金)、東京・本多劇場にて舞台『クラッシャー女中』が初日を迎えた。
本作は2017年2月に本多劇場で上演され、連日立ち見が出る盛況のうちに幕を閉じた、『皆、シンデレラがやりたい。』に続く、根本宗子×M&Oplays本多劇場公演の第2弾。
若手脚本家&演出家の注目株・根本が手綱を取り、2年ぶりの舞台出演となる麻生久美子と、同じく2年ぶりの舞台となる中村倫也が両輪となって進めていく物語だ。
世界的な画家であり、大富豪の小笠原義一の息子・義則(中村)は、大人気のデザイナーとして、成功を手にしていた。屋敷の主人・義一はこの世になく、今ここには、彼の母親・和紗(西田尚美)と二人の女中(佐藤真弓、根本宗子)、また彼の幼馴染で孤児の華鹿男(かかお)(田村健太郎)という男の子も養子として住んでいた。
義則は、彼の好みの女性・静香(趣里)を婚約者としてこの屋敷に迎える。彼女はゆみ子(麻生)という女中を伴っていた。
この二人の女がこの屋敷に現れたことで、隠された真実が次々とあらわになり、彼女たちの仕組んだ罠が、義則の底知れぬ欲望と、悲しい過去が、思わぬ事態を招いてゆく……。ある屋敷を舞台に繰り広げられる女と男の対決の物語。
本作の初日の模様をレポートする。
『クラッシャー女中』左:根本宗子、右:中村倫也 撮影:宮川舞子
ステージには10を超える様々な椅子が無作為に置かれている。ソファあり、踏み台型の椅子あり、大きな脚立も場所を取っている。その間を縫うように登場人物がコミカルに動き回り時には時系列をも飛び越える。佐藤がストーリーテラーとして話が進むかと思いきや、麻生がその役目を意図的にかっさらう。「ある一方からの見方だけでは真実を掴む事ができないから」と。やがてその役割はそれぞれのキャストに吸収されていった。
『クラッシャー女中』手前:趣里、奥:中村倫也 撮影:宮川舞子
前半は個性が強すぎる登場人物たちの自由気ままな言動に何度も笑いが起きていたが、その笑い声は徐々に鳴りをひそめ、後半は水を打ったかのように静まり返り、物語の行方をかたずをのんで皆で見守っていたのが印象的だった。
『クラッシャー女中』麻生久美子 撮影:宮川舞子
前半はさほど口を開かず、本筋を俯瞰で眺めるようにどこか距離を置き、サブキャラのようにふるまう存在だったゆみ子。時には静香が場の中心となっているような錯覚を抱くくらいだ。だがそれはもっと大きな嵐が訪れる前のつむじ風だったとすべてが終わったときに気づかされるのだ。ゆみ子役を演じる麻生が、美しい笑顔のままで放つ高濃度の猛毒は、恐怖以外の何物でもなく、また凄まじく魅力的だった。
クラッシャー女中』左:趣里、中央:麻生久美子、奥:田村健太郎 撮影:宮川舞子
『クラッシャー女中』中村倫也 撮影:宮川舞子
そして義則役を演じる中村は、お金持ちの家に生まれた王子様として、浮世離れした純粋さを見せ、愛するものにはとことん尽くす一方で、時にサディスティックな歪みを見せる。最近は映像作品への出演が非常に多かった中村だったが、彼がその力を最大限に発揮する場所はやはり「舞台」ではないか、と改めて感じさせる「圧」がそこにあった。
『クラッシャー女中』手前:中村倫也、奥:西田尚美 撮影:宮川舞子
ゆみ子が撒いた様々な種が発芽し、義則を包み込んで(あるいは追い込んで)いくのだが、終盤でゆみ子と義則が見せる台詞の応酬は圧巻の一言。麻生と中村というタフな二人だからこそ実現できた名場面。改めて本作を手掛けた根本に拍手を送りたい。
さて、すったもんだの果てにたどり着いた結末は、果たして「終わり」なのか「始まり」なのか。タイトルにあるように、何が壊されたのか、それとも何が壊れたのか。その答えを確認したさに、また劇場に足を運んでしまいそうだ。
『クラッシャー女中』左:中村倫也、中央:佐藤真弓、右:麻生久美子 撮影:宮川舞子
取材・文=こむらさき 撮影=宮川舞子
公演情報
■出演:麻生久美子、中村倫也、趣里、佐藤真弓、根本宗子、田村健太郎、西田尚美
■日時・会場:
【東京公演】3月22日(金)~4月14日(日)本多劇場
【名古屋公演】4月17日(水)日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
【大阪公演】4月19日(金)~21日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【島根公演】4月23日(火)島根県民会館 大ホール
【広島公演】4月25日(木)JMSアステールプラザ 大ホール