松尾スズキ×安藤玉恵インタビュー 新たな境地でスタートする、東京成人演劇部 vol.1『命、ギガ長ス』
(左から)松尾スズキ、安藤玉恵 (C)大橋仁
2019年7月、松尾スズキは安藤玉恵と初タッグを組む。松尾自ら企画プロデュースする公演で、その名も「東京成人演劇部」。新作『命、ギガ長ス』という二人芝居をひっさげ、東京は下北沢ザ・スズナリから、全国6都市を回るという。チャレンジングな要素がたくさんつまっていそうな本企画。いまの心境を語ってもらった。
——「東京成人演劇部」とは、そもそも何ですか?
松尾:僕が新しく立ち上げる「演劇部」です。部員は僕1人(笑)。去年、大人計画は30周年を迎えて、年末から今年にかけて東京や福岡でイベント「30祭」を開催した。この30年、劇団を大きくしていかなければいけないという、ビジネスとしてのプレッシャーは常にありました。その反動じゃないですけど、もっと小さな劇場で、ビジネス臭の薄い----といってもビジネスなんですが(笑)----楽しいこと最優先で、予算を気にせずに舞台を作ってみたい。劇団を立ち上げたころの感覚を思い出したいと思ったんです。
——安藤さんは、いつごろオファーを受けたのですか?
安藤:最初にお話を聞いたのは6年くらい前だったと思います。「何か一緒にやらない?」と松尾さんに言われて、もちろん嬉しかったですが、驚きのほうが大きかったですね。3年くらい前に具体的なことが決まっていって、少しずつ覚悟を決めていった感じです(笑)。
松尾:今回は、美術やセットを使わずに、ほぼ役者の肉体だけで見せる、というようなことをやってみたいんですよね。
安藤:ベニヤ板1枚、みたいなシンプルな舞台をやってみたいと、だいぶ前からおっしゃっていましたね。
松尾:呼ばれたらどこでも上演できるような、ポータブルな舞台を考えています。これまでにも、二人芝居はやってきたけれど、コントっぽい要素が入っていたので、今回は1本の物語でいきたい。どちらかというと小説に近い感覚です。小説って、「フランス」と書けば、すぐさまフランスの設定になるじゃないですか(笑)。場面転換や衣装替えの時間を考えずに、観客の想像力に委ねる究極の芝居をやってみたいんですよね。
安藤:私は松尾さんの小説が大好きなので、いま、さらに興奮しました! 松尾さんの小説って、コチョコチョと体を始終くすぐられているような感じがあります。(体をよじらせながら)ずーっとクスクス笑って「うん、わかるわかる」と思いながら、たまに大きなくすぐりがあって、声に出して笑っちゃうんです。わかります? この感覚……!
松尾:わからない(笑)。酔っ払ってるの?
安藤:いえ、シラフです!(笑)
——『命、ギガ長ス』はどんなお話に?
松尾:母親の年金を当てにしながら、生活をしているニートでアル中の50代の男。しかも母親は認知症という共依存関係の親子と、その親子のドキュメンタリーを撮っている女子大生と、彼女を指導する大学教授という4人の物語を考えています。安藤さんには母親と女子大生をやってもらおうかと。
安藤:面白そうです! おばあちゃん役ははじめてなので、嬉しい。高齢者も出てくる物語なので、年配の方にもぜひ観ていただきたいなと、親戚のおばさんにチラシを見せたら、「メイ、ギガチョウス」って読んだんです(笑)。
松尾:フリガナを振っておけばよかった……。
安藤:「ギガ」がわからないから、そう読んでしまったみたいです。私は、すごく文学的なタイトルだなと思ったんですけど。
——俳優としての安藤さんに、松尾さんはどんな印象をお持ちですか?
松尾:最初に観たのは『松ヶ根乱射事件』(2007年 山下敦弘監督)で、衝撃でした。本当にバカに見えると思った(笑)。それで早稲田卒っていうのが、ギャップがすごかった。ポツドールも観ていたんだけど、どこに出ていたのかが覚えてなくて。
安藤:群像劇だからよくわからないんですよね。「出てた?」とよく言われます(笑)。
——安藤さんは、早稲田大学演劇倶楽部でお芝居を始める前は、上智大学で外交官を目指していらっしゃったんですよね?
松尾:ええっ? 超インテリじゃないですか。
安藤:勉強ばかりしていたんです。恥ずかしい……。その時間、歌や踊りをやっておけばよかったです (笑)。
松尾:今回は、歌ってもらおうかなと思っています。
安藤:練習しとかなきゃ。
松尾:僕は踊ろうかな。声と体で、表現できることをいろいろ試してみたいんですよね。
——俳優おふたりの演技に魅せられる、濃密な舞台になりそうですね。
安藤:稽古場では早々に追い込まれる気がしています。
松尾:追い込まれるかもしれないけれど、究極の舞台になると思いますよ。問題はワタシのセリフ覚え……。
安藤:私、セリフ覚えははやいので、2人分全部覚えます!
松尾:そんな(笑)。安藤さんは勉強好きだから、きっと暗記が得意なんだね。これからホンを書くのに、安藤さんの喋り方を体に入れたいなと思っています。ぜひ、隙を縫っておしゃべりしましょう。
安藤:はい! まずはカラオケですかね(笑)。
——では、最後に意気込みをお聞かせください。
安藤:今年は「東京成人演劇部」にかけて、燃え尽きてもいいとすら思っています(笑)。そのくらい楽しみにしています。
松尾:『命、ギガ長ス』は、繰り返し、いろんな人が演じられるような、汎用性のあるコンテンツにしたいと思っているんですよね。将来的には海外の人が上演してもいいだろうし。この作品のことは5年くらいかけて、ずっと考えていますが、新作ってこの熟成期間が大事なんです。年月をかけて、無意識に脳の底に物語が溜まっていきますから。「東京成人演劇部」をやることで、僕自身が何か変わるんじゃないかという期待もしています。
取材・文=黒瀬朋子
公演情報
『命、ギガ長ス』
出演:安藤玉恵 松尾スズキ
2019年7月4日(木)~21日(日) ザ・スズナリ(下北沢)
<大阪公演>
2019年7月27日(土)~29日(月) 読売テレビ 新社屋 10hall
<札幌公演>
2019年8月6日(火)・7日(水) 生活支援型文化施設コンカリーニョ
※その他、富山・北九州・宮城公演あり。
イープラス
先着先行受付期間:4月16日(火)12:00~19日(金)18:00
一般発売:4月20日(土)10:00~