英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19、『ドン・キホーテ』高田茜のキトリは必見!舞台に漲る熱き庶民パワー
Akane Takada and Alexander Campbell in The Royal Ballet's Don Quixote (c) RO 2019. Photo by Andrei Upenski
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19のバレエ4作目は『ドン・キホーテ』だ。2013年、英国ロイヤルバレエ団の元プリンシパルであるカルロス・アコスタが初の全幕作品に取り組み初演時には自らも主演した、ほかにはない、ロイヤルバレエ団だけのプロダクションだ。主演キトリは日本人プリンシパルの高田茜。キレッキレのテクニックと役作りでキュートなエネルギー弾ける町娘を踊る。バジル役のパートナー、アレクサンダー・キャンベルやキトリの友人の崔由姫とベアトリス・スティクス=ブルネル、ドリアードの女王の金子扶生、ドン・キホーテ役のクリストファー・サウンダース、キトリの父親ロレンツォのギャリー・エイヴィスなどロイヤルバレエ団の名ダンサー達も勢揃い。舞台上の登場人物全てが一丸となった「オール・ロイヤル」ともいえる熱くエネルギッシュで、文句なく楽しい世界が繰り広げられる。
■より濃厚に! アコスタ版「ドン・キ」はバレエの醍醐味が満載
とにかく、作品世界が実に濃厚だ。このプロダクションは2013年の初演時にも映画上映されているが、その後ダンサー達も作品を踊り込み、理解も深まったのだろうか。初演時よりも格段に素晴らしい舞台となっている。
DON QUIXOTE. Artists of The Royal Ballet in Don Quixote (c) ROH Johan Persson (2013)
バレエ『ドン・キホーテ』こと「ドン・キ」は、ボリショイ劇場にて1869年に初演された、スペインのセルバンテスの同名の小説を原作とする古典バレエだ。しかし主人公はバルセロナの町娘キトリと床屋のバジルという、いわゆる王子と姫のおとぎ話とは一線を画した、庶民のドタバタコメディである。小難しいことは一切ない痛快な娯楽ストーリーで、町の人々のほか闘牛士に踊り子、ジプシーたちなど、スペインらしい異国情緒もたっぷり加わっている。さらにバレエならではの難しいリフトや回転技といった超絶技巧も目白押しである一方、チュチュを纏ったコールドバレエによる幻想的なシーンもあり、バレエの醍醐味がぎゅっと詰まっているのである。
Akane Takada in The Royal Ballet's Don Quixote (c) ROH 2019. Photo by Andrei Upenski
アコスタ版「ドン・キ」は、この古典をベースに、舞台上の人々がさらにエネルギッシュに感じられるような演出であるのが特徴のひとつだ。キトリの友人たちやストリートボーイたち、商人や闘牛士たちなどが、掛け声をかけながら陽気に歌い、踊る。一方2幕のジプシーの野営地では実際にギターが演奏され、リアリティを高める。全体を通してどこか土臭さも漂う演出は、中米キューバの熱とスペインの文化が融合したハバナにオリジンを持つアコスタならではだとしみじみ納得する。
■高田茜のキトリが見事! ドリアードの女王・金子扶生にも注目
Akane Takada as Kitri ©ROH 2014. Photo by Bill Cooper
無論、今回のライヴビューイングの最大の見どころの一つはキトリ役の高田茜だ。このエネルギッシュな物語の中心となるはつらつとした町娘を、茶目っ気たっぷりに表情豊かに演じ、物語を引っ張る姿はもちろんのこと、アコスタ版ならではの複雑なステップも流暢にこなすそのテクニックには感嘆するばかりだ。幕間に往年の名ダンサー、ダーシー・バッセルとのリハーサルの様子も見られるのも興味深い。バジル役のキャンベルも、陽気で気さくな雰囲気がバジルにぴったりだ。2幕のドン・キホーテの夢のシーンに登場する金子扶生のドリアードの女王も華やかな空気をまとい品格があり、ハッと目を引き付けられる
Don Quixote. Artists of The Royal Ballet (c) ROH, Johan Persson, 2013.
ぜひ音楽にも耳を傾けていただきたい。このアコスタ版「ドン・キ」は指揮者のマーティン・イェーツの編曲によるもので、マエストロはミンクスの音楽に敬意を払いながら、リズムや音調にスペインのテイストを滲ませつつ、世界を創り上げている。「アコスタと話し合いを重ねながら作った」という音楽が舞台に醸す愛情たっぷりの音色は、マエストロの人柄も滲み出るよう。今作の功労者の一人であることは間違いないだろう。
Don Quixote. Artists of The Royal Ballet. (c) ROH, Johan Persson, 2013.
ドン・キホーテの登場時には町さえもが道を開けるような動くセットもユニークで、この作品はひょっとしたら生で見ると一層面白いかもしれないと思わせられる。まさに今年、2019年6月に英国ロイヤルバレエ団が来日し、この『ドン・キホーテ』を上演する(下記「公演情報」参照)。来るべき公演の予習にもぴったりだ。
文=西原朋未
上映情報
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=don-quixote
公演情報
■日程:2019年6月21日(金)~6月26日(水)
■会場:東京文化会館(上野)
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■主な配役:
6/21(金)18:30 主演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
6/22(土)13:00 主演:ヤスミン・ナグディ、アレクサンダー・キャンベル
6/22(土)18:00 主演:高田茜、スティーヴン・マックレー
6/23(日)13:00 主演:ローレン・カスバートソン、マシュー・ボール
6/25(火)18:30 主演:高田茜、スティーヴン・マックレー
6/26(水)18:30 主演:ナターリヤ・オシポワ、ワディム・ムンタギロフ
*主演はキトリ役とバジル役
■日程:2019年6月29日(土)、6月30日(日)
■会場:神奈川県民ホール(横浜)
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■予定演目:
「シンフォニー・イン・C」(ジョージ・バランシン振付)
〈マーゴ・フォンテインに捧ぐ〉より「眠れる森の美女」“ローズ・アダージオ”(マリウス・プティパ振付)
「マノン」より三つのパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
「白鳥の湖」よりパ・ド・ドゥ(プティパ/イワノフ振付)
「三人姉妹」(ケネス・マクミラン振付)
ほか、アシュトン、ウィールドン、マクレガー、スカーレットの作品を予定
6/29(土)14:00
「シンフォニー・イン・C」
ローレン・カスバートソン-ワディム・ムンタギロフ、マリアネラ・ヌニェス-平野亮一、高田茜-アレクサンダー・キャンベル、ヤスミン・ナグディ-ヴァレンティノ・ズッケッティ
6/30(日)14:00
「シンフォニー・イン・C」
ナターリヤ・オシポワ-スティーヴン・マックレー、サラ・ラム-リース・クラーク、崔 由姫-マルセリーノ・サンベ、フランチェスカ・ヘイワード-アクリ瑠嘉
*その他の演目の配役は決まり次第NBSホームページ等で告知。来日プリンシパルは各日とも総出演予定。