中村獅童×赤堀雅秋インタビュー オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』に懸ける熱い想いとは
(左から)赤堀雅秋、中村獅童
オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』(おんなごろし あぶらのじごく)が5月11日(土)から17日(金)まで東京・天王洲の寺田倉庫G1-5Fにて、その後22日(水)から29日(水)まで東京・歌舞伎町の新宿FACEにて上演される。
『女殺油地獄』は近松門左衛門原作の世話浄瑠璃で、複雑な家庭環境からわがままに育てられ放蕩三昧の青年・与兵衛が、幼なじみの妻・お吉を油屋で惨殺し金を奪って逃げるという殺人を題材にした物語。本作で与兵衛を演じる中村獅童と、脚本・演出を手がける赤堀雅秋が、絶賛稽古中である『女殺油地獄』に懸ける熱い想いを語ってくれた。
ーーオフシアター歌舞伎という事で新しい挑戦になるかと思いますが、企画はどういった思いから始まったのでしょうか?
中村:今から、13年前初役で女殺油地獄の与兵衛を三越劇場でさせていただいた時に、小さい空間でやるのもなかなか面白いなと思いました。それと若いときにニューヨークで獅子の毛をつけて踊らせていただいた時に、向こうではオフブロードウェイの倉庫で演劇をやっていたり、劇場の天井裏で役者さんが生活しているのを目の当たりにして、今にも起こりそうなダークな題材の歌舞伎をアンダーグラウンドな空間でやりたいなと思ったんです。赤堀さんとは、串田さん(串田和美)のコクーン歌舞伎の四谷怪談で演出助手としてご一緒させていただきました。決定打は映画の葛城事件を見た時に『女殺油地獄』の世界観を表現出来るのは赤堀さんしかいないと思って今回お願いしました。
中村獅童
ーーお話を聞いた時の心境は?
赤堀:正直怖いなって思いました。そりゃもう未知の世界ですから。ただ串田さんのもとで演出助手をさせて貰って、目の前で歌舞伎役者さんたちがいろいろお芝居を創っていく様をみて、僕らも歌舞伎役者さんも、ものを創るという面においては、根本的には何も変わらないんだなと感じました。人間を表現する上では、シェイクスピアであろうが現代劇だろうが、基本的には何も変わらないと思っているので、今回の歌舞伎においても現代のお客様が見に来て、単純に劇を楽しむものとして心を揺るがすようなものにしたいなと思ってやっています。
ーーコメントで「生々しい芝居を」とおっしゃっていましたが、『女殺油地獄』で生々しさや生臭さをどう表現したいと思っていますか?
赤堀:気持ちがそこにあるか、リアリティをもってそこに人物が佇んでいるかというだけです。語弊のある言い方かもしれないですけど、どうしても何回も演じると形骸化している部分もきっとあると思うんです。そこを改めて、どうして凄惨な殺人事件が起こってしまったのかという根本的なところを考えていくのも大切なことだと思います。
(左から)赤堀雅秋、中村獅童
中村:僕は歌舞伎の持っているリアリズムを追求していきたいなと。油地獄は今起きてもおかしくない事件ですので、現代のお客様が観たときにこれ今もあるよねっていうのを感じていただきたい。赤堀さんの演劇ってなんにも無いんですよ。映画もそうだけど、淡々と日常が流れていく中で犯罪者になっていたりだとか、他愛もない会話がなんか妙に悲しかったりだとか。そういう日常を切り抜くのが非常に上手だなと思っていて。これも殺しは殺しなんだけど、どこか日常というか、気づいたら、殺人鬼になっていたというのを赤堀さんの演出で淡々と見せていければなと思います。
赤堀:映画でも演劇でも、僕はただ人間を原始的に見つめたいと思っています。どの現場に行ってもやることは一緒です。例えば凄惨な殺人事件が題材であっても、それは対岸の火事ではなく我々の地続きに確かに存在して、明日は我が身で自分もそうなる可能性があるかもしれないという。上から目線で他人事のように何かを作ると言うよりは、同等の目線で作りたいなとは思っています。
中村:歌舞伎的な見せ方で、大劇場でやると、与兵衛が人を殺してそのあとの花道を去っていくときに拍手が起こる。でも今回は拍手は来ないんじゃないかな。
赤堀:目標としては「目撃してしまった」と言った感じで凍り付いて欲しいですね。
ーー思わずはっとしてしまうような?
中村:そうですね。赤堀さんの芝居を観ていると、その人達の生活をのぞき見している気持ちになるんです。今回は座席も360度だからまさにのぞき見という感じだし、会場作りでマッピングを使うって言うのは、お客様がその空間に足を踏み入れたときにデジタルの世界観からふとした瞬間、ぽんっと油地獄のアナログな世界に移行して、デジタルに溢れている我々がその時代にタイムスリップしてその場を目撃してしまった。殺しの場を見てしまったというようなリアリティを見せる狙いがあります。
ーー荒川良々さんとは念願の共演ということですが、荒川さんと歌舞伎の相性はどうですか?
中村:めちゃくちゃいいんじゃないですかね。浮いた感じが全くない。
赤堀:荒川君は今回二役なんですけど、今までこうしてきたからそれを踏襲してやろうとかではなくて、荒川君という存在があって、どうしたら単純に面白くなるか、ただそれだけです。もちろんそれは歌舞伎という土壌のもとでの話ですが。
(左から)赤堀雅秋、中村獅童
中村:歌舞伎役者と現代劇の役者って言うジャンルで分けたら、ひとり違うはずなのに、全く違和感がないんだよね。歌舞伎役者なんじゃないかと思います。
一同:(笑)
中村:演じる法印という役も、長い間で型が出来ているんだけど、彼が自分なりの捉え方で演じた時にくるインパクトがものすごくて。でも古典ってそうだと思うんです。コクーンの時に勘三郎(十八代・中村勘三郎)兄さんもおっしゃっていたけど、ただ型をやるのと、いろいろやった上でどうしてその型が残っているのか理解した上でやるのとでは全然違うと。自分は現代的な感覚で捉えて、でも一応教わったままの格好でするんだけど、自分の考え方と型がパチッとハマる瞬間、「あ、だからこの格好するんだ」と分かった時にものすごい嬉しさがありました。でも型があるからこそ型を破ることが出来る。ただ型をしていたら人の感動が呼べる訳ではないと言うことは勘三郎兄さんに教えていただきました。だから2006年に与兵衛をやらせていただいてからすぐに新しい事は出来なかったと思います。これだけの時間がかかるって言うことは、それだけ僕なりに外でも色々な演劇に挑戦させていただいたり、いろいろなものを観たりだとか経験させていただいたっていうのがあったからだと。
稽古場の様子 オフィシャル提供
稽古場の様子 オフィシャル提供
稽古場の様子 オフィシャル提供
ーー最後に本作への意気込みをお願いします。
赤堀:「大人計画」大好きだけど、赤堀の映画とか現代劇は見たことあるけど、映画やテレビでの中村獅童は知ってるけど、歌舞伎はなんだか敷居が高いなと敬遠してきた方々にもぜひ観に来て欲しいです。結果として、歌舞伎ってこんなに面白いものなんだ、奥が深いものなんだって言うのを知っていただけたらと生意気にも思うんです。こんな至近距離で500人っていう座席数の少なさの中で四方から歌舞伎を目撃出来るっていうのなかなかない事だと思いますし。絶対面白くなります。今稽古していて、死ぬほど大変ですけど、でも我ながらものすごく面白いものになるんじゃないかなって言う予感はしています。だから、ぜひ観に来て欲しい。
中村:歌舞伎を観たことない人達を振り向かせるって言うのは僕自身の使命だと思っているし、それが中村獅童の生き方だと思っています。人生46年間生きてきて何を創るべきか何をするべきかって言うのはずっと考えています。だからここ数年、「あらしのよるに」を歌舞伎にしたり、初音ミクさんとやるデジタル歌舞伎であったり、スタイルは違うけど今回は歌舞伎においてのストレートプレイという、自分が歩んできた人生観だったりというものを作品として一つひとつ形にしていきたいと思っています。
(左から)赤堀雅秋、中村獅童
取材・文=一ノ瀬ふみか 撮影=福岡諒祠 稽古場風景=オフィシャル提供
公演情報
■日時・会場:
2019年5月11日(土)~17日(金)
東京都 寺田倉庫 G1-5F
2019年5月22日(水)~29日(水)
東京都 新宿FACE
■原作:近松門左衛門作「女殺油地獄」
■脚本・演出・出演:赤堀雅秋
■出演:中村獅童、中村壱太郎、上村吉弥、嵐橘三郎、荒川良々
公式サイト:https://www.shochiku.co.jp/engeki/offtheater/