「笑えて、テーマ性のある面白い芝居に」 渡辺えり新作音楽劇『私の恋人』への意気込みを語る
渡辺えり
2019年8月に東京・本多劇場をはじめ、兵庫、鹿児島、山口、福岡、岩手、山形で上演される新作音楽劇『私の恋人』。劇作家・演出家・女優の渡辺えりが主宰し、昨年結成40周年を迎えた「オフィス3○○(さんじゅうまる)」が上演する。原作は今年、第160回芥川龍之介賞を受賞した上田岳弘が、2015年に発表した同名小説。上田は、同作で第28回三島由紀夫賞を受賞した。渡辺が脚本・演出を手がける舞台版には、小日向文世、本作が初舞台となるのん、そして、渡辺が出演。3人が、時・性・物理を超えて30の役を演じる。小日向、のんの参加に関し、渡辺は、「一緒に3◯◯の舞台をやりたいと前から言い続けてくれた小日向さん、そして!『あまちゃん』で共演した時から、いつかやろうと誓いあったのんちゃん。やっとその思いが実現します」とコメント。上田の同名原作の世界観はそのままに、渡辺流のアレンジを加えていくという。本作の脚本を執筆中の渡辺に、同作への意気込み、見どころを聞いた。
──上田岳弘氏の『私の恋人』をテーマに、 音楽劇を作ろうと考えたきっかけは?
上田さんが、2015年に私の還暦特別公演として上演した『ガーデン~空の海、 風の国~』(1997年初演)を観に来てくださったんです。『ガーデン~』と、『私の恋人』の世界観が似ていると語っていたインタビューを読まれた上田さんが劇場に足を運んでくれ、メールで感想もくださったんです。私も上田さんのほかの作品を読ませていただいたのですが、筒井康隆と宮沢賢治を合わせたような感覚でとても面白くて。また、自分が演劇を通してやろうとしているテーマが重なるとも感じました。そんなこともあり、「オフィス3◯◯」の40周年記念公演として、昨年、上田さんの『塔と重力』をベースにした 『肉の海』を上演させていただきました。 これがとても評判が良く、次に何をやろうかと考えた時に、やはり最初に読んだ『私の恋人』をやってみたいと。上田さんにお願いしたところ、快諾してくれまして。(『私の恋人』をテーマにしながらも)9割変えてしまいますがいいですかとお伝えしたのですが、どうぞどうぞと。上田さんも楽しみにしてくださっているようです。
──9割変えるというのは、 具体的には?
冒頭から小説にはまったくないシーンで始まります(笑)。でも『私の恋人』の世界観はそのままですし、 小説のせりふも使います。芝居では、(登場人物の)井上由祐と高橋陽平を合わせた役を主人公にしようと思っています。その主人公を3人全員で演じます。小日向さんにもかつらをかぶて、青年の役をやってもらいます(笑)。観ている人はいま何をやっているかわからなくなるかもしれませんが、上田さんの作品は、自分と他人の境がなくなるところがテーマのひとつ。その感覚を、芝居の後半で、誰が誰だかわからなくなってくる感覚とリンクさせたいと思っています。
小説では登場シーンが少なかった、 私のお気に入りのキャラクターである、井上の弟も、よりキャラクターを膨らませて、登場させる予定です。ぜひ私が演じたいですね(笑)。
──出演者の小日向さん、のんさんについて、出演の経緯は?
小日向さんとは古くからの付き合いです。ずっと3◯◯に出たいと言ってくれていて、ようやく実現しました。 のんちゃんは、「あまちゃん」で共演して気が合い、以来、私が出演する舞台は、すべて観に来てくれ、一緒に食事に行ったりすることもあります。 「いつか一緒にやりたいね」と言っていたのですが、ようやく実現できます。
──本作を楽しみにしている方、 観に行こうかどうか悩んでいらっしゃる方に向けてメッセージをお願いします。
いろいろな世代の人たちが元気になる芝居を作りたいと思っています。 まだ芝居を見たことのない、音楽好きの若い人たちにもぜひ足を運んで欲しいです。のんちゃんや小日向さんが汗だくになって、必死にやっている姿を見るだけでも笑えると思いますよ!笑えて、テーマ性のある、いろいろな意味で面白い芝居にしますので、ぜひいらしてください。
渡辺えり
30の役をわずか3人、しかも年齢も個性も異なる3人の俳優が演じる同作は、 「オフィス3○○」の真骨頂といっていいだろう。 「芝居は私にとって、芝居をするために、ほかの仕事をしてきた、といってもいい根っこのようなもの」と語る渡辺は、 「オフィス3○○」で、長い間、作、演出、出演、さらにはプロデュース業務をも担ってきたが、「自分が出演して、演出するのは来年で終わりにしようと思っています」を宣言。 「年齢的にも難しくなってきました(笑)。より丁寧にやるために、来年からは作・演出に徹したいと思っています」と話していた。 「オフィス3○○」が、真実の愛をテーマにした、『私の恋人』をどうアレンジし、舞台の上にのせるのか──。劇作家、 演出家としての渡辺の手腕に注目が集まる。