シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第五十一沼 『ぼっち!沼』

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2019.7.18

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「welcome to THE沼!」

沼。

皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?

私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。

一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れること

という言葉で比喩される。

底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。

これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。

毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。

第五十一沼(だいごじゅういっしょう) 『ぼっち!沼』

いま思い返してみると、子供の頃から集団行動の出来ないガキだった。

一人っ子のせいか、競争心が全く無いのでスポーツなんてやらないから、少年野球で友達ができるとか…そもそも野球のルールすら知らない。

まだ子供の数が多くて自治会が活発な頃、よく「なんとか大会」という子供会のイベントがある度、私は頭を痛めていた。

ある日、私の自治会が開催する「カレー大会」という考えるだけでおぞましいイベントが開催された。

もちろん、いやいやながら参加させられたが、その時の写真がこちらだ。

 

周りは友達や兄弟で楽しそうにカレーを食っているわけだが、私はひとりぼっちでソロカレーを楽しんで…いや、楽しくない。

嫌嫌食っている。

 

 

物凄い哀愁ただよう横顔だが、「寂しい」わけでは無いのだ。

ただ嫌なだけなのだ。

早く終わって欲しい…。

それだけを考えて食っているのだ。

自分でも変わっていると思うが子供の頃、人様にメシを食うところを見られるのを異常に恥ずかしがっていた。

知り合いは多い。

学校中の全員と知り合いだと言っても過言ではないほど社交的ではあった。

ただ、それは気をつかいながらつきあう上辺だけのものだった。

近所のオジチャン、オバチャンも知らない人はいないほど、可愛がられていた。

なぜなら私の愛想がいいからだ。

そのため、私は外から帰ってくるといつも憔悴しきっていたものだ。

気を遣いすぎるのだ。

もちろん、修学旅行なんてとんでもない。

予定通り修学旅行に行かなかった私を親が可哀想に思ったらしく、その後みんなが行った旅行先にソロで連れて行ってくれた。

そんなぼっちの私にも、小学5年生になって初めての友達が出来た。

彼は度々このコラムにも登場する柏原譲くん(ポラリス/フィッシュマンズ)だ。

彼のおかげで脳の中に宿っていた音楽の回路が全開に開いた。同時に少しずつだけれど、人に心を開く事ができるようになってきた。

もし、あの時 彼に出会っていなかったら、最近話題の「5080」問題の渦中の人になっていたかもしれない。

いや、まてよ、実は既に当事者ではないか。

現在、私が50歳。母が80歳。

極端に出不精な私は、引きこもりといわれても近所の人たちは何の疑いもしないだろう。

なにせ昼間ほとんど家にいるのだから。

ただ、いわゆるホンモノの引きこもりと少々違う点は、こんな私にも少なからず友達がいるという事だ。

友達は本当に少ない。

ビックリするほど少ない。

知り合いは多い。

異常に多い。

けれど、友達と言える人が何人いるか。

片手に収まる程度しか居ない。

それでも、私は数少ないその人たちに支えられている。

今日は、その極端に少ない友達の一人を紹介しよう。

篠木健良(43)
職業:アパレル
特技 :酔っ払ってふらふらになりクダを巻く。そうとう面倒くさい。
癖 :飲みすぎるとタチが悪くなり、たまにやらかす。
弱点 :白面の時はメンタルが弱い

私がその男と初めてあったのは、数年前の深夜。

知り合いに呼ばれ、あるクラブに足を運ぶため、恵比寿から明治通りを一人で歩いていた時だ。

リキッドルームを通り過ぎてしばらく歩いていると、少し前から話題に上っていたDJ BARが道沿いに見えたので、外から少しだけ中を覗いてみた。

すると、ある一人の男と目が合った。

その男は、一目散に私のところに小走りでやってきて、「兄さん!寄っていきませんか!?ここ、最高のBARで今イベントやってるんですよ」という。

私は、「ゴメン、今から先約があって行かなくちゃいけないだけど、前から気になってた噂のBARを発見したので、ちょっと覗いただけなんだよ」

すると彼は立て続けに「そんなクソつまんないイベントはキャンセルして!オレが一杯おごりますから!ね!ね!いいでしょ?一杯のんだら、お兄さんの約束の場所にオレもいきますから」と。

そいつが篠木健良(43)との初対面だった。

嫌がる私を無理やり店内に引きずり込み、一杯奢ってもらいながらカウンターの中を見てビックリした。

そこに居たオーナーは10年ぶりに会う私の友達K氏だったのだ!

歓迎ムードの中、話は弾んだが、次の約束があったのでK氏にはまた近々くると約束して店をでようとしたら、篠木も「約束だからオレもいきます!」とか言って図々しく付いてきた。

そして、次のイベント会場に篠木と向かう最中、篠木はこう言った。

「おそらく、ぜんぜんつまんないパーティーだから5分と持たないでしょう!またBARに戻って呑みなおしましょうね!」とか言ってる。

そして、目的の場所に到着。

店内では既にイベントが始まっていた…が……

何故だか篠木の言った通りクソつまらなく、5分後には二人で店を出て最初に篠木に出会ったBARに戻っていた。

数日後、篠木から連絡があった。

「久師さん!DJお願いします!森田潤さんが是非呼んでほしいって!」

篠木は私が何をやっている人間か全く知らなかったようだ。

その後、そのBARの定期イベントに森田潤氏、小林径氏など錚々たるメンバーの中でレギュラーとしてDJをやらせていただいた。

人の出会いっていつどんな時に始まるかわからない。

どう見ても不審人物の私に声をかけてきた篠木はGJだ。

こうして私はなんとか生きてる。

渡世人には渡世人なりの出会いがある。

ひとりぼっちが好きな私も「人って、意外と悪くないかも」と思う。

履歴書も必要無ければ、経歴も関係ない。

そんな世界でこれからも生きていく。

篠木ありがとう、「5080問題」から救ってくれて。

そして私はなんとか「ぼっち沼」から這い上がることができた。

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