RADWIMPS×Spitz 「愛」を教えてくれた大先輩との夢の舞台でうたわれた「I」
RADWIMPS
『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤』 2015.11.23 横浜アリーナ
「運命の人」で幕を開けた、横浜アリーナで行われる3夜連続対バンライブの1日目。『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤』はZeppシリーズを終え、ここRADWIMPSの地元・横浜に帰ってきた。
草野マサムネ(Vo/G)の柔らかな歌声と、抜群の安定感とみずみずしさを両立したバンドサウンドがアリーナを満たし、冒頭からステージに釘付けとなる満員の観衆たち。田村明浩(B)のベースが唸りを上げて突入した「けもの道」では自然と合唱が起きるほど、RADのファンにもSpitzの楽曲はよく知られており、親和性は非常に高い。スクリーンに映る草野は、まるで軽く歌っているかのように表情をほとんど変えずに伸びのあるハイトーンを響かせていき、ナチュラルなビブラートが心地よい。
「どうもこんばんは、僕たち、スピッツというバンドです」という草野の第一声に、何を今さら、というリアクションで笑いと拍手が起きる中、もう一度
「はじめましての方も多くいらっしゃると思いますんで。あらためましてスピッツといいます! 『胎盤』というタイトルなので、ちょっと懐かしい気持ちになって。昔ライブハウスで対バン形式でやってた時は「俺らスピッツっていいます」って毎回必ず言ってたんで、今日もそれで行こうと思って。初心に帰ってね……ってなんか選挙演説みたいになっちゃいましたけど(笑)。いつも通りにやりますんで、最後まで楽しんでいってもらえたらすごく嬉しいです。よろしくお願いします!」
と、なんとも初々しい挨拶。ひさしく対バンなんてしていなかったであろう彼らが、20年以上前の新鮮な気持ちを思い出すなんて、レアな対バンが続く『胎盤』シリーズならではの光景、魅力と言っていいだろう。
Spitz
初心に帰った彼らが次に演奏したのは「空も飛べるはず」。名曲中の名曲に会場全体が歓喜しながらその音に身を任せ、思い思いに体を揺らす。クリーントーンのギターサウンドとともに歌い出した瞬間、ちょっと驚き交じりの歓声が上がった「スターゲイザー」、心音のようなあたたかみを持った﨑山龍男(Dr)のバスドラムがビートを刻み、歪んだサウンドと美しいメロディが彩る「夢追い虫」と、いずれも10年以上前の懐かしい楽曲を披露。いずれもまったく色褪せないどころか、いま10代~20代前半のオーディエンスを沸かせ、しっかり染み入っていく。次の10年を迎える頃にはRADWIMPSもそんな存在になっているだろうか。
「今日は本当にこの『胎盤』に選んでもらえて本当に嬉しく思っています。ありがとうございます。RADのリハも見れちゃったからね、良いだろ? 羨ましいだろ? いやぁ、でもね。俺らも負けてられないね、RADWIMPSに」
という、感謝と決意を込めたMCに続いては、なんと「叫べ」を投下! 一瞬「あれ、これSpitzの曲だっけ?」と錯覚するほどの完成度とハマり具合。三輪テツヤ(G)によるアレンジされたギターソロや、普段あまり聴けない草野の低音ボーカルも堪能することができ、曲の終わりには拍手が鳴りやまないほどの盛り上がりをみせる。
後半は「メモリーズ・カスタム」などロック色の強い楽曲も繰り出し、ラストは「魔法のコトバ」。ミドルテンポに乗せた4人のシンプルなアンサンブルが、これほど色鮮やかな情景を描き出すものだろうか。ほかの楽曲にもいえることだが、あくまでタイトに、それでいて盤石のグルーヴだ。当たり前のように普通な顔をして、実はすごいことをやっている、そんなSpitzの真髄をみせたステージだった。
Spitz
「今日はSpitzさんとの対バンということで。本当にすげえライブをありがとうございます。語り出すと多分半端なくなるんですけど……ちょっと語っていいすか? デビュー10周年のこの日にSpitzと もう小学生から聴いてる俺としては「Spitz」と呼ばせてもらいますけど 小5くらいで初めて日本に戻ってきて、ずっと聴いてました。女の子のこととか、好きとか、愛してるとかいう気持ちが一個も分かんないときに、「愛してるよ」なんて一度も言ったことがないときに、Spitzの歌を聴いて、その言葉を歌ってました。それで何年も経った後に心の中でジワジワと「あ、Spitzはこういうこと歌ってたんだ」って。だから僕にとっての「愛してる」とか「好き」って言葉の中には、どうしたってSpitzが何割か居て、僕の言葉をどこか作ってる部分があって。だから余計に今日は一緒のステージに立てて、RADの曲まで歌ってくれて、こんな幸せなことはないです。本当にありがとうございます。……まさか思わないじゃん、小5のときの自分にさ。「お前、日本に帰ってきてなんか苛められたりとかしてるけど、そんとき歌ってたSpitzと一緒にステージ立ってるよ」なんて。人生悪くないな」
そう溢れる想いを口にした野田洋次郎(Vo/G/Piano)はおもむろに「チェリー」を弾き語る。”想像した以上に騒がしい未来”に立った野田とRADWIMPS。Spitzから教わった「愛」の形は、この10年で大きく変わってきたように思う。目の前の「あなた」へ向けられていた愛は、自分たちを信じてくれる何万の「あなた」へ、さらにはこの世界へと向けられてきた。このまさにデビュー10周年当日に披露されたデビュー曲「25コ目の染色体」にしても、歌詞こそ変わっていないが、違う意味合いを帯びている。愛の意味を知らなかった少年が愛を知り、その意味は常に形を変えてきたのだ。
それを象徴したのが、スクリーン上に映し出された白紙の本に、1行ずつ歌詞が書き加えられていった「‘I’ Novel」。彼らの10年の歩みと、今が、これ以上ないほど真っ直ぐに綴られた名曲だ。「I=自分」であり、「愛」でもあるだろう。おどろくほどの純粋さと、それゆえに同時にどこか捻くれた「I」と「愛」を歌ってきた彼らが、10周年記念日に<誇れるほどのものはまだないが 僕だけに光るものはあんだ><ゼロで生まれた僕なのに 今名前を呼ぶ人がいて 当たり前などない脳に 産み落としてくれて ありがとう>と歌えたこと。なんの無理も嘘もなく、RADWIMPSとしてそう言えるようになっていたこと。もう、これ以上の感動はない。
RADWIMPS
とはいえ、この日が終始そんなセンチメンタルな感傷に浸るライブだったわけでは全くない。冒頭の「DADA」から音だけでなく、アリーナに場所を移したことで段違いの迫力となった照明とスクリーンの映像が一体の視覚効果で攻め立て、オーディエンスたちもそれを受け全力で跳び続ける。2階席で観ていたのだけれど「これ大丈夫か⁉」というくらい揺れる。初日から十分すごかったツインドラムの熟成度も格段に上がってきており、「DARMA GRAND PRIX」や「ふたりごと」では異常なシンクロ度合いで有機的な躍動感を生む。ラストの「君と羊と青」~「会心の一撃」という流れにいたっては、もはや一片の体力すら残させないぞと言わんばかりの破壊力で、フロアは本日の最大震度を更新した。
「アンコール、折角なんですっげえスペシャルなことやりますか。 福袋とか好きでしょ? 宝くじとか好きでしょそういうの? でも当たったことないでしょ!」という野田の呼びかけに、皆「無いー!!」と答えると「今日当たりました!」と返し、狂喜するアリーナのアンコールの舞台にSpitzが登場する。
そしてプレミアムなセッションへ。お互いに「仕切り下手」ということも告白しあったフロントマン2人が歌い上げたのは「スパイダー」! 武田祐介(B)と田村が向かい合ってはしゃいでいたり、野田と草野が一つのマイクでハーモニーを重ねたりと、眼前でまさに夢のようなひとときが展開されていく。
あっという間に曲は終わりに近づき、余韻を楽しむかのような長めのアウトロを終え、野田にハグされ少し照れた草野らSpitzメンバーがステージを去り、次の10周年に向け、最後に演奏されたのは「有心論」。大合唱が沸き起こり、ステージ上に大きく広がって演奏するRADWIMPSの姿に、次の10年も、その先の10年も、少しづつ形を変えたり変わらなかったりする彼らをいつまでも見ていたいと、心から願った。
撮影=上飯坂一 文=風間大洋
RADWIMPS
Spitz
1. 運命の人
2. バニーガール
3. けもの道
4. 空も飛べるはず
5. スターゲイザー
6. 夢追い虫
7. 叫べ
8. 8823
9. メモリーズ・カスタム
10. 魔法のコトバ
RADWIMPS
1. DADA
2. ギミギミック
3. DARMA GRAND PRIX
4. 05410-(ん)
5. 遠恋
6. ヒキコモリロリン
7. アイアンバイブル
[チェリー弾き語り(1コーラス)]
8. ふたりごと
9. 夢見月に何想ふ
10. おしゃかしゃま
11. ます。
12. ‘I’ Novel
13. いいんですか?
14. 25コ目の染色体
15. 君と羊と青
16, 会心の一撃
[ENCORE]
17. スパイダー(RADWIMPS×Spitz)
18. 有心論